デレマス短話集   作:緑茶P

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広がれ、デレマス妄想沼!!



【無垢に報われて】 

 都内から少し離れた通りにひっそりと隠れるように営業しているお好み焼き屋。外見とは裏腹に広くとられた間取りと、客足の少なさ。それに加えて、充実したメニューによって大人から子供まで満足いく隠れた名店であるここはたびたび“デレプロ”が宴会を行うにはまさにうってつけの場所であり、今日も仕事上がりのシンデレラたちは高らかに祝杯をあげていた。

 

 

 

 ただ、そんな宴の途中で――――グラスを叩きつけるように置いたその音が静寂と注目を集めた

 

 

 

「どうして!ハチさんは、まゆのこと!!振り向いてくれないんですか~!!!」

 

 

 目線の先にはロリータ系の服装に身を包んだ可憐な少女。ただ、見慣れた彼女のいつもとの違いがあるとすれば……その目がグルグルと渦を巻き、顔が真っ赤に染まって乱雑にそのグラスを何度も叩きつけているという事であろうか?

 

「……まゆちゃんにお酒飲ませたのだれー?」

 

「さっき、ハチが絡まれている所を凝視しているウチに楓君が彼女のコップを勝手に飲み干したのはみたよ」

 

「は~い?なんか呼びました~?」

 

 そんな常ならぬ状態の彼女を見たシンデレラたちの反応は実に淡白だ。―――というか、もっと酒癖の悪いメンバーを見慣れているせいか何事もなかったかのようにお好み焼きを焼き始める。その間にも荒ぶる彼女の独白は続けられてゆく。

 

「まゆだって、朝はおねむなんです!!それでも、早起きしてお弁当だって、お化粧だってばっちり決めて朝一で頑張ってるんですから!!」バンバン

 

「……だそうよ、色男?」

 

「……まさか、そこまでされて労いの一つもしていないのかい?」

 

 巻き込まれないように隅でチビチビと冷酒を煽っていれば、案の定というべきか彼女の発言を受けて刺さるような視線で年上陣から攻める様な目で見られる。だが、こっちだって言い分はあるので言われるがままというのも癪である。

 

「弁当はそもそも毎回ロケ弁だから不要だって断ってんのに作って、自分で食うかパッション系に食われてますね。あと、誰も毎朝出社するたびに学校をさぼってまで玄関で待ち伏せしてくれとは頼んだ覚えもないですね」

 

 そのせいでただでさえ忙しい朝にコイツを学校に叩き込む無駄な時間だって取られているのでそんな批難がましい目で見られるいわれはない。

 

「あら、そんな本気で怒らなくたっていいじゃない。冗談よ、じょーだん」

 

「そんなんでいちいち腹立てたりしませんけど……時間も時間ですし、未成年が酒を飲んでる状態で続行させるわけにもいかないでしょう?」

 

 そんな理不尽に深くため息をついて俺はジャケットやらをまとめて席を立つのを瑞樹さんが困ったように苦笑してフォローを入れてくるが、肩を竦めて視線を促した先を見つめて彼女はもう一度苦笑いを浮かべる。

 

「まあ、それもそうね。―――それじゃ、お願いするわ?」

 

 そんな彼女に肩を竦めて答え、年少組に号令をかける。

 

「おらー、未成年は帰んぞー。荷物まとめろー」

 

 あちこちから返ってくる不満げな声を雑に相手をしつつ、深いため息と共に問題の少女の元へと足を進める。

 

「あ、ハチさん~。――――んん?なんで三人もいるんですかぁ?」

 

「また典型的な酔い方だな……。帰るぞ、歩けるか?」

 

「ん~、やです~。まゆにはお好み焼きを焼く使命があるんでしゅ~。どうしてもっていうならハチさんが攫ってくだしゃいー」

 

「あらら、完全に酔っちゃてるわね…。もしあれならもう少し寝かせておいて私たちがタクシーで送るわよ?」

 

「……いや、この調子じゃ早めに返したほうがいいでしょ。あんま未成年を単品でこういう所に残すのも抵抗ありますし、寮まで大した距離でもないっすから―――ほれ、掴まれ」

 

「あら、大胆」

 

「うみゅ? えへへー、あったかいですねー」

 

 ちょっと困ったように瑞樹さんが提案してくれるが丁寧に断ることにする。楽には楽な選択肢なのだろうが、これ以上遅い時間となるとあまりよくはない気がする。なので、へべれけになって手を伸ばしていたまゆの腕に首を掴ませ、おぶさるようにすれば酔っているせいか彼女は素直に背中に乗っかってくる。

 

 色々と当たっている気もするが由比ヶ浜に酔っぱらって絡まれた時に比べればささやかなサイズなので意識しなければ……小町サイズだろうか?あ、全然平気になってきたわ。やっぱり妹は最強のソリューションだな。万能すぎる。

 

「忘れもんなけりゃいくぞー。周子。こいつの荷物寮までもってくれ」

 

「りょーかい」

 

 ちびっこ連中がズルいだのなんだのと騒いでるのを蹴散らしながら、一路寮へとぞろぞろと向かう。首元からは花のような甘い匂いに交じってちょっとだけ薫る酒精の匂い。それに少し苦笑を零して、背中の重さを落とさないように背負いなおす。

 

 いつかきっと彼女も自分ではない誰かの背で、或いは腕を取って歩くのだろう。

 

 その遠くはない未来に少しだけ寂しさと、彼女の相手がいい奴であることを祈って俺は月明かりが照らす帰り道を進んでゆく。

 

 

―――――――――― 

 

 

未成年組が帰宅したことによって急に静けさを増した店内にはお好み焼きを焼く音と小さなグラスの氷が揺れる音。それと、潜めるように響く小さな笑い声だけが響く。

 

「ね、あれだけ甘々なら大分報われてると思わない?」

 

「くくっ、随分と意地悪な事をいう物だね。素面の時でなければ意味がないだろう?」

 

「あっはっはっ、でもあれだけ自然体で“お兄ちゃん”やられてるうちはまだまだ道のりは遠そうじゃない?」

 

「わかるわー。ちょっとの気遣いもお互い気恥ずかしくなっちゃうのよねー」

 

「そういう話、Weすきーですよね。なのでウイスキーのボトル行きません?」

 

「楓ちゃんはちょっとは反省しなさいっ!」

 

 小さなさざめきのような馬鹿な会話が他愛もなく交わされ、若者たちの恋の行方に誰もが無邪気に笑いあう。

 

 今日もデレプロの夜は穏やかに更けてゆく。

 

 




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