デレマス短話集   作:緑茶P

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紹介文という名のあらすじ

比企谷 八幡 男 21歳

 大学の先輩に美味しいバイトだと唆され着いてった先が346プロだった。逃げようとするが時給の良さとチッヒの甘言に唆され隷属された。ちょろい。丁度、シンデレラプロジェクトによるアイドル部門立ち上げの事務処理などをしている時に武内Pに効率の良さを認められ、引き抜かれる。
 最初は何人かいた社員・バイトは激務に耐えかねて徐々に消えていき、その度に便乗しようとしてチッヒに(社会的に)殺されかけている。気付けば、プロジェクト初期メンバーとして芸能関係のあらゆる事に精通して普通の社員より働かざる得なくなった。

 たまに都合が合えばロケなんかで美味しい思いをしている。


 川島 瑞樹 女 29歳

 デレプロの最年長組で実質的な調整役。元々、関西地方局のアナウンサ―であったが年齢を理由を退職を迫られた時に武内にスカウトされた。性格は世話焼きでおおらかな理想のおばちゃ……お姉さんである。荒ぶる年長を纏め、悩める後輩に寄り添って励ますその姿は生粋のお姉ちゃん。

 そんな彼女にだって語りたくなるような過去はあるようで――――?




夢の残り香 前編

  近年では稀にみる暖冬。いつもなら北国の温泉街であるここは厚めの雪化粧に染まっているのだろうけれども今年ばかりは控えめなナチュラルメイク。寒いには寒いが凍える程でもないと西の生まれの自分が思うのだからよっぽどだ。

 

 それに―――気温以外にも随分と熱を感じさせる目の前の光景も関係がないわけではないだろうけど。

 

 うっすらとした雪が残る公園の片隅のベンチ。

 

 語る言葉は甘く、握りしめた手は放すまいと固く優しく。

 

 燃える様な情熱に蕩けた蜂蜜のように絡み合う視線は徐々に近づき――ついには混ざり合う。

 

 漏らす吐息は混ざり合ってさらに熱く湿り気を帯び、ついには―――

 

 

「いつまでガッツリと覗く気ですか、“瑞樹”さん」

 

「あんっ……“ハチ”君、ここからがいい所じゃない?」

 

 燃え上がる若い二人の顛末を見届けようという崇高な任務は呆れたような胡乱気な声と小脇を肘でつかれた事によって中断されてしまう。不満を示すため小声での抗議をあげると今度は責める様なジト目が突き刺さり思わず息を呑んでしまう。

 

6も年下のはずの彼だが、日々やんちゃな子たちに振り回されているせいかこういった時の頑固さと圧力は結構なもの。その視線の圧力と好奇心に何度も視線を行き来させ、最後には力なく肩を落として降参する。

 

「わかったわよぅ……はぁ、大人しく旅館に帰って飲みなおしましょう……はぁぁ」

 

「どんだけ未練たらたらなんすか……というか、知り合いのああいうのよく見ようと思えますよね?」

 

「逆に知り合いだから面白んじゃないの」

「悪趣味すぎる…」

 

 肩を落としつつも熱愛中のカップルに気づかれないように公園の木陰から離れ、二人が視界から完全に見えなくなった頃に彼が呆れたように溜息と苦言を漏らすのに軽口で答える。返答は悪態と手荷物の酒瓶が擦れる音だけ。そんな彼にケラケラと笑いを転がしながら歩を進める。

 

 そう、ただの地元民だったなら自分だって素知らぬ顔で微笑んでやり過ごす。だが、その男女が“デレプロ”が業界から毛嫌いされていた時代から付き合ってくれているスタッフチームの若手二人組だというのだから元テレビキャスターとしては見逃すことはできない。高卒で入社した“ジリー(沼尻)”君と、カメラ担当の“エマ”ちゃんの年の差ペア。くっつきそうでくっつかないこの二人の恋模様はチーム内でも悶々させられる激アツなニュース。この顛末を事細かく皆に伝える義務が私にはあったと思う―――と伝えたら今度こそ本気で怒られそうなので頑張って飲み込む。

 

 みじゅき、できる子だもん!!

 

 なんてことを脳内で考えて鼻歌を歌っていればあっという間に旅館に到着。元々が往復10分程度のコンビニまでの道のり。それでも、さっきの興奮のせいでさらに短く感じるのだから人の感覚というのは不思議なものだなぁと思う。

 

「んじゃ、あまり深酒はしないでください」

 

「何言ってるのよ。今から呑みなおすわよ?」

 

「…明日、運転なんすよ」

 

「いっつも深酒したって翌日にはケロッとしてるじゃない。たまには飲み会を纏めてるおねーさんにお酌しても罰は当たらないわよ」

 

「……日を超える前にはお開きの方向で」

 

「よろしい!」

 

 ついた瞬間に解散しようとする彼の腕を掴み、手早く丸め込みグイグイと部屋へと連行する。もっともらしい理由をつけて帰ろうとする現代の若者っぽく振舞うが駄々をこねれば折れるというのは織り込み済みだし、たまには私だってお世話する側からされる側になりたいのである。ソレに―――こんな面白い事を語らずに寝ちゃうなんて乙女が廃っちゃうわ!!

 

 

 

----------------

 

 

「~~っ!美味しいっ!!」

 

 かしゅっと小気味のいい音を響かせ、乾杯もそこそこに豪快に喉を鳴らしオッサンぽく歓声を上げるのはどうしたって止められない。その上、ちょっとお高めの地ビールは発泡酒なんかよりずっと味が濃いので一口の満足度が凄まじさに体の震えが収まるのを待って深々とため息と言葉を紡ぐ。

 

「ロケとはいえ、高級な旅館で温泉に美味しいごはん。その上に若者の恋模様をツマミに地ビール・地酒で晩酌だなんて“アイドル”やってて良かったと思う瞬間よね~」

 

「…後半の悪趣味な部分がなけりゃ素直に同意できるんですがねぇ」

 

「相も変わらず恋バナ関係には消極的よねぇ……君にだってあんな甘酸っぱい季節があったでしょうに」

 

「ラブストーリーは滅多にないから書店で取り扱ってるんですよ」

 

 のんびりと月景色を眺めながら呟いた言葉に苦笑いを浮かべるハチ君がいつもの様に皮肉気に答えるのに思わず笑ってしまうと付き合ってられないとばかりに明日のスケジュールの確認をする彼を横目でしげしげと眺める。

 

 鴉のように黒い髪を乱雑に纏め、仄かに濁った瞳と気だるげな視線がその間から覗く。頬杖で軽く顎をさするその仕草は年齢以上に落ち着いていて随分と色気がある。その上、張りはなくとも何故か耳に届くその声。

 

 これだけ見ているといつだか李衣菜ちゃんが彼の出自は“夢破れた若手俳優か歌手”なのではないかと騒いで若い子の間で大騒ぎしていた気持ちは分からないでもない。

 

 それに―――――書店でも取り扱っていない物珍しい恋物語の当事者がこんな事を言ってるのだから彼にお熱な子達も随分と厄介なのに捕まったものだ。

 

「…だいたい、瑞樹さんくらいになればこんな事珍しくもないでしょう?」

 

 彼を狙ってる可愛い後輩たちの苦労に苦笑をかみ殺して杯を重ねていると予想外の言葉が耳を擽った。ソレが聞き間違いでないか彼を見て確認すれば肩を竦めて手元の端末を脇へと放り投げ、ポケットから引き出した煙草を差し出してくる。

 

 まさか彼がこの話題を続けてくれるとも思っていなかったが乗ってくれるのならば是非もない。――――それに、昔の恋愛なんて酒精と紫煙がなければ語れないということも心得ているのは大分高ポイントである。

 

「んー、残念ながら“ご期待に沿えず”って所ね。昔の私ってアナウンサーとして潔癖だったし、そういうのってキャリアの一番の障壁だと思ってたから」

 

 そんな簡素な一言に彼は一瞬だけ瞬きをして、唇で揺らして催促した煙草に恭しく火を灯してくれる。そんな年相応な反応をする彼にクスリと微笑んで紫煙と共に言葉を思い出すように紡いでいく。

 

「というか、私がアナウンサーになったのは初恋が原因だから。それ以来、そういうのには目を向けてこなかったってのが正解かしら?」

 

「――――これまた随分なカミングアウトですね」

 

 小さく目を見開いた彼が誤魔化すように煙草に火をつけつつ零した言葉に思わず笑ってしまう。ソレに付随して自分の頬が赤くなっているのは酒精のせいだけでない事が分かって少しだけ気恥ずかしい。それでも、いまだに胸の奥底に根付くこのむずかゆい感情はどうしたっていまだ自分の芯を作っているのだから困ったものだ。

 

 その複雑な思いを一つずつ噛みしめて、小さく吐き出す。

 

 

 始まりは――そう、中学生2年の頃だった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 進級したことに微かな興奮と春休みの終わりを嘆いていた何処にでもいる大阪の中学生。そこそこ真面目で、そこそこお茶目。人望も学業も何にも不安のない短い人生に転機が訪れたのはそんな春の事だった。

 

 整然と並んだ始業式で誰もが眠気と不満を噛み殺していた中で、自分だけがその一点をひたすら見据えていた事を覚えている。別に新学期のせいで気分を新たに校長の危ない頭皮を眺めていた訳ではない。体育館の隅に並べられた教師陣の席。その最後尾に緊張も隠さずまっすぐ背筋を伸ばした見慣れない男性教員。

 

 さっぱりとした風貌に、生真面目そうなその顔。

 

 その人が誰なのか、なんなのか、どの科目担当なのか、どんな人なのか―――――とにかく頭がいっぱいだった。それが明らかになるこの後の就任式が待ち遠しくて長々と語る校長が随分と恨めしく思えたものだ。

 

 ようやく、ようやくも思いでやってきた就任式の彼の挨拶。

 

 椅子から立ち上がる瞬間から登壇するまでの仕草にすら息を呑み見送る。余談ではあるがこの時初めてアイドルに絶叫をあげる友人の気持ちを私は理解した。

 

 そんな彼が小さく息を呑み、全校生徒に目を配って―――声を紡いだ。

 

 

 

「初めまして!今年度からこの学校の仲間となります――――」

 

 

 

 それは、国が認めた一般的で綺麗な共通語で―――生粋の大阪人には随分と耳に馴染まない言葉であった事に当時の自分は足元が崩れるという感覚を初めて味わったのだった。

 

 

 

 それからひと月で分かった事といえば彼は社会科の担当で、東京生まれで今年が初めての赴任になるという事ぐらい。新任で爽やかな彼は当然のように生徒に囲まれているが、どうしたって自分のコテコテの関西弁を彼に聞かせる勇気は出なかった。

 

 普通に交流している同級生を恨めし気に見やりながら必死に考えた。彼と関われるだけの理由。だが、そんなうまい事は見つかる訳もなく、今日も母親のご飯をやけ気味に食べているときに父が勝手にチャンネルを変えて流れたニュース。

 

 母と父の小さな口論を横目に―――天啓を得た。

 

 そう。ニュースキャスターだ。

 

 誰よりも言葉が厳しく、入念に確認されるその職業。

 

 本来ならもっと崇高な理念のもとに行われてるその職業も恋する乙女の前では完全に都合のいい理由づけ以外の意味合いはなかっし、思い立ったら即行動。今では考えられないくらいの突貫精神であるが、その次の日には憧れの彼の前に立って付け焼刃の標準語で語り掛けた。

 

『う、ち、やのうて…私。ニュースキャスターになりたいんです!放課後、標準語の練習に付き合ってく……っと、ください!!』

 

 ちぐはぐで今思えばあまりに無鉄砲で非常識なお願い。

 

 それでも、彼は丸くした目を優しく細めて頷いてくれたのだ。

 

 それから始まる、週二回の二人きりの逢瀬。

 

 会う時に、練習の成果を彼に見せるその時間は――――どんな娯楽なんかより心を昂らせた。

 

 

 




('ω')へへ、旦那。今回のお話いかがでしたかね。

気が向いたら下にある評価ボタンをぽちっと押して貰えるとあっちの承認欲求がビンビンでさあ。

pixivでも投稿してるのでよかったら遊びに来てくだしゃあ(笑)

https://www.pixiv.net/users/3364757/novels


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