デレマス短話集   作:緑茶P

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みんな大好きシュガハ回


後、チッヒは資本主義の鬼である←new


第13話 【天女に羽衣、アイドルに――?】

 青天の霹靂って言葉がある。

 

 まあ、ざっくりといえば澄み渡った青空にいきなりドンガラと雷様がおっこってきてビックらこくぜ☆彡っていう予期せぬ事に対する言葉。

 

――――まあ、回りくどい言い回しは止めてはっきり言おう。

 

 

「はぁっ!? いまさら注文キャンセルなんざ聞くわけねーだろ!!」

 

 

いわゆる、今の私のような状況の事を言うかっこわらい――――わらえよ☆彡

 

 

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「………どーすんだよぉ。もうほとんど仕上がってんだぞぉ、こっちはよぉ…」

 

 昼下がりの某ドーナツ屋の一角で私は頭を抱えて密かに追い詰められていた。口から洩れる呪詛と陰鬱さに周りにいたご家族様はみな引っ込んでいき、近くにいるのは同じくらい人生に疲れて根暗そうなにーちゃんのみ。

 

 いつもなら不幸なのが移りそうなのでよそに行って欲しい所だが、いまは不幸なのは自分だけでないと思えるので実に癒し度が高い。

 

 そんなどうでもいい事を頭の片隅に浮かべつつもう一度ダメ元で憎しみしか湧かない携帯をコールしてみるがやはり繋がりもしない元発注者の番号に見切りをつけてもう一度頭を掻きむしりスケージュール帳を取り出しても、あるのはまっさらな予定ばかり――――この“佐藤 心”人生最大のピンチ到来の瞬間だ。

 

 

 細々とオーダーメイド衣裳のフリーランスとバイトで食い繋いできたが、ここ最近ある事務所の下請け的な所に滑り込み生活が安定してきたので本職とささやかな趣味一本に絞ろうとバイトを辞めた矢先のことである。

 

 その事務所から“アイドルグループが出来たから”と衣裳を任され意気揚々と潤沢な予算を使って作った自信作10着だが―――“あ、ごめんね。アイドル候補の子達が内輪揉めで辞めちゃったからあれキャンセル” なんて無責任な一言でキレて思いつくままに罵詈雑言をぶつけてたら電話を強制的に切られた。

 

 御免で済むなら警察はいらないんじゃい、とその事務所に乗り込めば担当者は出てこずに怖いおに―さん達とある意味もっと怖い弁護士が出てきてすごすごと金も取れずにしっぽを巻いてこうして蹲っている訳だ

 

 いや、確かに私がサインした契約書もガバガバチェックだったけどさー、どうすんだよ今月の生活費…というか、ほぼない貯金も崩して作ったからマジでどこにも金ねぇよ。

 

 大口契約に有頂天で小さな仕事を断ってしまっていたのもキツイ。

 

 金に目が眩んでいた過去の自分を絞め殺してやりたい気分だ。

 

丹精込めて作った衣裳だって買い手がいなきゃ意味がない。自分とは違い大きな舞台に飛び立つことが出来るだろうこの衣裳にはいつもの倍以上の想いだって込めた。だが、現実って奴は嘲笑う様にして非情を突きつけ―――――弱っていた心がさらに嫌な所にはまっていくのを感じ、振り払う様に顔をあげる。

 

 そういうおセンチに浸って許される年でもない。何より、学生でもない自分がやらねばならないのは今すぐ割のいいバイトを見つけて生活費を稼ぐことだろ☆彡!!

 

 気持ちを切り替えるようにして顔をあげれば―――隣の根暗そうな兄ちゃんと目が合った。

 

「あ、あはは、五月蠅くてすんません。今出てくんでお気に――」

 

「……なぁ、あんた。もしかして、服を縫えたりする人か?」

 

「――――はぁ?」

 

 気まずげに下げた頭と言葉はその予想外の言葉に打ち切られ、改めて彼を見ればその視線は――――自分が作った服に真っ直ぐと向けられていた。

 

 それが――――私の人生史上もっともひねくれた男で 

 

 最も大きな転機をもたらした男との出会いであった。

 

 

 青天の霹靂というには、あまりに暗く澱んだ不吉な天気ではあったけど―――確かに、私の人生はこの時に転がり始めたのだ。

 

 

 

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「……大手の346に連れて来られたから、ぬか喜びしそうになったけど諸手を挙げて万歳とはいかねーよな☆彡」

 

「売れないフリーランスじゃ人生で関わることが無いって意味では同じことだろ?」

 

「お前、ぶっ飛ばすぞ☆彡」

 

 降って湧いた仕事の予感に持ってた自分の事務所のパンフレットやら、過去作の冊子なんかを滂沱のごとく売り込んだ結果――引きつり気味にとりあえず事務所で詳しい話をするとの事で連れて来られたのが天下の346芸能事務所。

 

 でも、豪華絢爛な時計塔に迎えられてすぐさま人通りの少ない地下通路みたいなとこを通った先にあるやたら達筆で手作り感のある看板に書かれる“シンデレラプロジェクト”という文字を読んでがっくり肩を落としたのはここだけの秘密だ。

 

 自分のささやかな趣味である“地下アイドル”の世界でも、服飾の世界でも一時は随分と悪い噂を聞いたそのプロジェクト。

 

 服飾では関われば大手346に睨まれるという噂は零細の自分でも聞いたし、発足時から上層部と揉めていると聞いた事務所に所属したがるアイドルは地下といえども居ない。

 

 その悪評を知っている事を察しているのか皮肉気に笑う背中を蹴飛ばしたくなる。だが、目の前の“比企谷”という男の言う事だって正論である。

 

 どうせ、ここで毒でも皿でも食わねば遠からず飢え死にするか、長野の実家に連れ戻され農場で強制労働の身である。ならば、どんなゲテモノ料理が出てくるかくらいは東京最後の思い出に見物していくのも悪くないと腹をくくった。

 

「さてさて、噂のシンデレラはどんな所で働いてん……ちょっとまて」

 

「なんだよ?」

 

 入って数舜で“あるもの”に目が止まる。

 

 日の入りの悪い半地下だってのはいい。硬そうなソファーも安っぽいローテーブルも構わない。それなりに綺麗に手入れされているし、飾られた花や所属してる子達が工夫を凝らして華やかにしようとしているのも分かった―――でも、そんな事よりも許せないものが部屋の隅に積まれていた。

 

「まさかと思うけど――あんなもんが“衣裳”だとかぬかすつもりじゃないだろうな☆彡」

 

「………お察しの通りで」

 

「安っすいイメクラや、馬鹿大学の学祭じゃねーんだからよぉ……」

 

 あまりに予想通りの返答に怒りを通り越して、泣きたくなる。

 

 仮にも、服飾のプロとして、地下アイドルとして――そこへの妥協だけは出来ない。

 

 アイドルやステージに立つ人間の衣裳というのは輝きや夢、思想ってモノを分かりやすく観客に示す一つの指標だ。それだけでなく、衣食住の頭に来るのは“衣”なのだ。身なりは何よりステータスを示し、信用を得るためのもので他の物は後からついてくる。

 

 

 だから――――女は全力で身なりを整えるのだ。

 

 

 女子の―――基本である。

 

 

 服を生きる道へと選んだ自分の根幹に火が付いたのを、感じた。

 

「おい、そのステージの衣裳予算とメンバープロフィール。後はその曲と、舞台のコンセプト―――ああもう、全部持ってこいよ☆彡。それ読み込んどく間にあのド〇キで買ってきただろうコスプレグッツ全部返品して来といて」

 

「………おい勝手に話を」

 

「元々、これを何とかしたくて呼んだんだろ☆彡? お望み通りに入社試験を受けてやっから―――さっさとしろ」

 

「…………」

 

 憮然とした表情を浮かべた後、大きくため息をついて言われたとおりにするあたり意外と尻に敷かれ慣れている事にちょっと意地悪な笑いを噛み殺しつつ、出された資料に目を通してメモ帳に走り書きを並べ立てる。

 

 メンバーの体系、特徴、顔立ち、音、歌詞、隣との距離感覚、会場の環境、予算を達成するための最小効率。全てを必死に考えて、想って―――息を止めて深く潜っていく。

 

 

 最高のステージを彩る、その一点を目指して。

 

 

――――――――― 

 

 

「随分と凄い方を見つけてきましたね、比企谷君?」

 

 軽そうな見た目に反して、デスクを占領して一心不乱にスケッチと計算を書き連ねるその熱量に呑まれるように立ち尽くしていると、低く呟くような声が掛けられて意識を引き戻される。案の定、振り向いた先にいるのはこの悪名名高い部署のボスである偉丈夫“武内”さんと呆れたようにこっちを見ている“ちひろ”さんだった。

 

「いや、路頭に迷ってたフリーターに俺らの代わりに裁縫でもさせようかと思ったんですけど―――どうやらガチ勢の人だったみたいです」

 

 楓さん一人の時はチッヒが夜なべをするだけで済んでいたのだが、メンバーが増えた今となってはそうもいかずに服飾作成の関係会社を当たってみたが総スカンを見事にくらったのだ。それでも、となると俺のいま抱えているド〇キのコスプレを自分らで改造するとかに行きついた時に見つかったのが―――アイツだ。

 

「また適当な…ただ、まあ、あの仕事量を見る限りは“当たり”とみるべきでしょうか? ギャラについての話はしましたか?」

 

 呆れたように呟くチッヒが目に剣呑な光を宿らせる。その辺は俺が決める話でもないのだろうが、ミスドで呻いてた内容を聞く限りあまり絞ると逃げられそうな雰囲気でもある。

 

「―――今回の出来次第ですが、事務・雑務で比企谷君と同じバイト代。衣裳デザイン・作成は別途でその都度に交渉ってのが妥当でしょうかね」

 

「それくらいなら、今でもなんとか捻出できそうですね」

 

 頷きあう上司達にどうやら合格が決まったらしい事に安堵をつきつつ、もう一度だけデスクに目を向ける。

 

 一心不乱に、脇目も振らずに好きな事に夢中になれるその姿に――自分にはないであろうその情熱がかき消されなかった事に、小さく安堵の息をついた。

 

 

 

……はて、未開封とはいえド〇キは返品を受け入れてくれるだろうか?

 

 

 

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 レッスン終わりに見慣れぬ女がいる事に誰もが訝し気な表情を浮かべていたが、私が出したデッサンと完成予想図を見た途端にその表情は一変して歓喜に代わる現金さに思わず笑ってしまう。

 

「おいおい、はしゃぎすぎだぞ☆彡。―――ほんで、あんま違うと金かかるから無理だけどちょっとした変更ぐらいなら聞くから今のうちに言っとけ?」

 

 

「「「「………!!」」」」 バッ

 

 

 予想外過ぎた一言だったのか誰もが顔を見合わせた後に爛々と輝いた眼で我こそはと挙手をする。急に詰め寄られても参るが、こうも一糸乱れぬ動きをされても気おされてしまい苦笑を浮かべて一人一人の要望を聞いていく。

 

 まあ、揃いの衣裳とは言ってもワンポイントくらいは変えてみたいと思うのが女の子ってもんだ。手間は手間だが、前のように言われるがままに作り無難に収めるよりもこうして目の前で大喜びをしてもらえるってのは随分と職人的な部分が満たされるのを感じた。

 

 それと同時に―――華やかで、明るい彼女たちにちょおっぴりじぇらすー。

 

 噂では未経験だらけの滅茶苦茶な編成と聞いていたのに、誰もが自分が見ても分かるくらいの原石で、同い年やそれ以上の人だって―――地下アイドルの自分なんかはすぐに届かない場所に上っていく事が分かった。

 

 長年、そうやって―――見送ってきた。

 

 そんな感傷に蓋をして、振り切るように目を瞑った。

 

「よっしゃー!無事にココで雇用してもらえるように腕によりをかけてくっからな☆彡!!楽しみにしてろよーー!!」

 

 

 そんな破れかぶれな掛け声に、黄色い歓声が上がる。

 

 

 今は、その声に―――全力で応えることだけを、考えろ。

 

 

 




――本日のチッヒ様――


(∩´∀`)「あらあら、懐かしいメモリアルストーリーですね!ノベルゲーム版だとこの後に【邂逅!メイド@ウサミン!!】と【劇録!地下アイドル会場!!】の二つをクリアして【佐藤 心√】が開設されたのですよね!!

 この高難易度フラグを乗り越えた先にあるENDは多くのファンが泣いたとか(笑)」



(‘ω’)「……続き? あ、ああ!そうですね。サービス終了後ここに行きついた皆さんはご存じないかもしれませんけど、このルートは【有償アイテム:地下アイドルの案内状】という物をご購入いただいて解放されていたんですよ―――――――」







( ∀)「後は―――――分かりますよね?」

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