デレマス短話集   作:緑茶P

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いつも皆様に支えられている作者です。ありがとう!!

ガチャの女神チッヒ様のご慈悲によりまさかの続編。

でも、心√の続きがまた出るかはチッヒ様次第なので期待しないでください(笑)




【邂逅!メイド@ウサミン!!】

 春爛漫に咲き誇った桜が散ってしばらく。暖かくなり始めた季節がちょっとだけ熱さを宿し始めた梅雨入り前の独特の日差しの中で私の鼻歌が室内に響く。

 最近の物とは言えない自分が学生時代だった頃に最も流行ったアイドルソング。それでも、本当にご機嫌な時に自分から零れるのはいつだってその頃のものでいまだに心を掴んで止まない。

 

 そのリズムに乗って仕上げのワンポイントを繋ぎとめる糸を通して、チョッキン。

 

 何度も遠目で確認し、見栄えを想定。

 

 細かく裾や、あしらったフリルに不手際や縫い残しがないかを確認。

 

 それらを入念にチェックして問題がない事を確信して全身の息を抜いてソファーへと倒れ込み、もう一度そっちを見やれば昼下がりの日差しに煌びやかな舞台衣装が風に舞ってその出来栄えを誇ってくれている。その様子にニンマリと笑って―――携帯へと手を伸ばした。

 

 もはや繋ぎなれた番号に、出たくなさそうなオーラを感じさせる長めのコール音。そして、観念したように聞こえてくる陰気な声。

 

 その平常運転な電話先の男に苦笑を噛み殺して、弾む気分そのままに声を張り上げた。

 

 

「おう、ハチ公!! 来月の衣裳仕上がったから引き取りに車まわして来いよ☆」

 

 

 346の“シンデレラプロジェクト” お針子さん 兼 雑務アルバイト。

 

 それが今の私“佐藤 心”の仕事だ。

 

 

――――――――――――――― 

 

 

 あの崖っぷちから早2か月。

 

 あれよあれよとデザインから作成まで乗り付けて無事にこのプロジェクトに拾われた私は何とか浮浪者の憂き目を逃れて職にありつくことが出来た。まあ、服飾に関しても元々大量に仕事があった訳でもないフリーランスの頃に比べれば安定しているし、それ以外の時は雑務系のアルバイト扱いで結構に稼がせて貰っている。

 

 何より、二回目の衣裳作成となるデザインを任された時に事務員の“ちひろ”さんに素直にデザインとの兼ね合いを含めた最安値での原価を提示したら相場より多めのデザイン料を貰えたりしたので―――もしかしたら社会人になってから一番に安定しているかもしれない。

 

 忙しいには忙しいが、結構に順調な生活を送っている事に小さく頷いて――大き目に切ったパンケーキを口に放りこむ。

 

「ん~~、やっぱここのパンケーキは絶品だな☆」

 

「……知らんがな」

 

「なんだよ、辛気臭い顔して~。ほれ、一口やるから」

 

 一仕事終わった後の格別に染み入ってくる糖分に体を震わせていると、ただでさえ澱んだ目玉をさらに曇らせたバイト仲間の“ハチ公”が投げやりな悪態とため息をこれ見よがしに吐いてくるのにフォークに刺した一欠けを口元に差し出すが、それも払われる。

 

 ノリの悪い男だ。

 

「大体―――こんな針の筵でそんなん食っても味なんて分からん」

 

 そんなソイツが目線で促すのに合わせて周りを見れば、珍獣を見る目が半分。あからさまな悪意を向けてくるのが半分。まあ、ぶっちゃけ動物園の方がもう少し居心地はいいような環境なのは確かな気がする。

 

 

 というか、

 

 

「そもそも、所属会社に併設されてるカフェでこんな目を向けられる方が問題っしょ。―――そういった意味でもはぁとには関係ないし~」

 

「なに、お前の心って強化ガラスかなんかで出来てんの? ……そんな服で歩き回ってる人間に聞く方が間違いかぁ」

 

「よっしゃ、ゲームしようぜ。テーブルに広げたお前の指の間を私のフォークが通ってくスリリングなやつ」

 

「ちょ、おまっ!!」

 

 投げやりに返答してから再び至福の甘味に舌鼓を打っていると流れるように喧嘩を売られた―――宜しい戦争だぞ☆彡。

 

 失礼な奴にコブラツイストで制裁を加えつつもまあ、言わんとしている事は遺憾ながら分からんでもない。アラサーを目前に控えた自分が着ているいつもの私服はざっくり言えば結構にフリフリできゃぴきゃぴ系なのである。だが、これは戦闘服だ。

 

 年相応に落ち着いた服なぞ着たらすぐに感性がババ臭くなるし、何よりこういうの好きだし、色彩バランスと体型は維持してるし―――地下ライブ用みたくお腹だしてねぇし。

 

 いいだろ、好きなんだからほっとけ☆彡

 

 色々な苛立ちも含めて小生意気な同僚を締め上げていると、控えめで――戸惑ったような声が掛けられた。

 

「あ、あのー、店内でのコブラツイストや矢郷さんごっこはご遠慮してもらえると~」

 

「あ、すんません。すぐ締め堕とすんで―――って、パイセン?」

 

「―――――あれ、はぁとちゃん?」

 

 

 振り向いた先には可愛らしいメイド服に身を包んだ地下アイドルとしての苦楽を共にした“安部 菜々”パイセンが、目玉を真ん丸にして私を見ていたのだった。

 

 

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 今日も今日とて出勤簿に強制的に〇をつけられ出勤した昼下がり。日に日に増えていく書類やメールは着実に知名度が上がって仕事が増えてきているありがたい話ではあるのだろうけれども、バイトの俺からすれば勤務時間が伸びてゆく嬉しくない比例式。

 

 さらに言えば、今やってる書類だって“出演スケジュール”や“出演報酬”なんていうアルバイトに任せちゃ駄目そうな題目が躍っている。“今のうちに慣れとかないと”とか言って押し付けられてからしれっと普通にその手の書類を回してくるようになった緑の悪魔はホントに頭がどうかしている。

 

 だがしかし、反抗すれば更に仕事が増えることも学習済みなので黙ってポチポチ―――飼いならされ過ぎじゃない? 俺?

 

 ノーギャラステージでも利益のありそうな所や付加価値として近隣でスポンサーになってくれそうな所を精査に連絡・確認。金は貰えるけど、変な要求を絡めてくるところにお断り。“別日、アイドルのみ絶対に懇親会参加”とか書いてるけどもう少し隠せよ。キャバレー呼ぶ時だってもう少し文章考えて送るわ。

 

 そんなウンザリする作業を繰り返していると支給された携帯が無機質な着信を告げ、画面に浮かぶ【♡しゅがーはあと♡】と無理くり登録されたその頭の悪そうな表示に思わず眉をしかめて見なかった事にする。

 

 数か月前に拾ってきてそのまま服飾担当として居座ったこの女。仕事に関しては熱意も腕も確かなのだが、年甲斐もないぶりっ子キャラに目のチカチカする原色過多の私服は色んな意味で頭が痛くなるのだ。

 

 その上、仕事の真面目な連絡に織り交ぜてただの呑みの誘いだったりするのも面倒に思う理由としては大きい。なので―――無視する事2分。いまだ鳴りやまないその着信に諦めのため息をついて携帯を手に取る。経験上、呑みやどうでもいい事に関しては1分弱で切れるが、仕事関係はこちらが切るまで鳴らす迷惑な習性があるっぽい。

 

 それもソレで、無視するわけにはいかない仕事増加のお知らせなので嫌気がさすのはもはやご愛嬌だろう。

 

 

 気だるげに出た電話口から告げられる無駄にハイテンションで予想通りのお仕事の話題は用件だけを告げてぶっつりと切られる。そんな傍若無人ぷりに溜息一つ漏らして席を立つ。―――こんなにため息ついて俺の幸せもはやカウントゼロ間近なのではないかと余計な心配をして社畜アルバイトは今日も席をたったのだ。

 

 

―――――――――――― 

 

 

 ということで、呼び出されたアイツの事務所兼自宅に車を回して衣裳を取りに行き、無事にチッヒの無駄に厳しい納品チェックが終わった帰り道。シュガハ(笑)が甘いもんが食いたいと駄々をこね喫茶店に連行された先の事である。

 

 いつも通りの悪態の応酬にアイツの武力行使がなされた時にこの社内では誰もが避けて通る俺たちに珍しく声を掛けられる。

 

 いや、喫茶店の店内でコブラツイストかけてる男女に声をかけれる人類の総数については置いておくとしても――――それが小柄で大層に可愛らしいメイドさんで、そんな彼女とウチの佐藤が顔見知りだなんてお天道様だって予想がつくまい。

 

「「うわーーーー!!久しぶり!!会いたかった(ですよ)―――!!!」」

 

「え、ええ!? どうしてこんな所にはぁとちゃんいるんです!? ていうか、最近はライブにも来てなかったからみんな心配してたんですよう!!」

 

「いや、ちょーっち仕事でトラブってた時にココに拾われて!!」

 

「えぇ! それこそ相談してくださいよぅ!! 控室の同年代が少なくてもう毎回心が締め付けられるようでぇ……」

 

「パイセン!!」

 

「はぁとちゃん!!」

 

 会って早々にぶつかり稽古並みに体をぶつけ合って揉みくちゃになる二人に唖然とする事しばし。お互いの近況の会話を聞くにどうにもアイドルかなんかのライブ仲間なのだろう。近況の些細なこと一つに姦しく騒ぐ様子に気おされているとメイドさんの方がこちらの視線に気が付いたのか、少しだけ恥ずかしそうに佐藤から一歩離れて自己紹介をしてくれる。

 

「あ、ごめんなさい! 私ははぁとちゃんのアイド――「ルのライブ仲間の!! “安部 菜々”さんだぞ☆彡!!………菜々パイセン、ちょっち集合」―――ほへ? はぁとちゃん?」

 

 可愛らしく彼女が名乗るのを何故か佐藤が急に遮って、少し離れた所に連行していく。………いや、わりかし普段からだが情緒不安定過ぎん?

 

「いやその辺……で、てか……なんで」「えっ! てことは…じゃないですか!?」「いや、そういうあれでも……な訳なんで……」「わ、分かりましたぁ…というか、人に構ってる場合じゃないです!」「…たのんます」

 

 肩を寄せ合ってぼそぼそと何かを打ち合わせてる二人を眺めつつ、仕事はいいのだろうかと周りを見渡せば自分たち以外の客はとっくにいなくなっており非常に申し訳ない気分になってきた―――ほら、オーナーぽい人も切れ気味にこっちに微笑んでるし。

 

 居心地の悪さからそろそろ二人に見切りをつけて席を立とうとした頃合いで戻ってくるので、嫌だなぁと思いつつもう一度だけそちらに顔を向けようとして―――くっつくかと思う程に安部さんの爛々と輝く瞳が目の前にあって心臓が飛び出そうになった…無論、悪い意味でだ。

 

「な、なんすか…」

 

「私、はぁとちゃんのライブ友達の“安部 菜々”です! それと! 実はアイドル目指してライブとかやってるんですけど、ぜひ見に来てください!! あ、これブログとかから今までの―――ああもう、まどろっこしいのでぶっちゃけます! 菜々を雇ってください~!! 他の部署の人にはもう総スカン喰らって相手にもされないんです―――!!」

 

 矢継ぎ早に語られる彼女の溢れるパッションと、怒涛の涙声での泣きつきにドン引きしつつも言いたいことが山とある。

 

 まず、俺はプロデューサーじゃない。あと、この調子で泣きついたのならそりゃ逃げられもするだろう―――何より、ちかいちかいちかい。鼻水と涙もそうだけど見ず知らずの人間の腰に思い切り抱き着くんじゃありません。

 

 いや、マジで絵面がやべー事になってんだわ。ベーんだわ。ほら、こんな時に限ってエントランスから揃ってメンバーが入ってきてこっちガン見してるし。何人かゴミを見る様な目だし…。

 

 

 おいおいと泣き続ける少女に、頭を押さえ苦虫を噛んだような佐藤。肩を怒らせてこっちに進んでくる十時や面白がっているその他。

 

 

 そんなカオスな空間の中心で俺は力なく天井を仰ぎ、どうでもよくなってメイド少女の差し出すチケットをとりあえず受け取ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

ピロン♪ “地下アイドルのチケット” を手に入れました。

 

 

 

 

 

-------------------

 

 

 

 胸の奥が、焼けるように熱かった。

 

 かつて、抱いた焦がれる様な熱ではなく―――へばり付くような不快な感情が体中を巡って最後に心臓にどろりと溜まってゆく。

 

 身勝手な考えだ。

 

 何より、醜い思想だ。

 

 泣いて縋りつく友人は傍から見て誰よりもみっともない。だけれど、彼女は迷いなくソレをできるという事実が―――どうしようもなく私を攻め立てた。

 

 

 夢のために、恥も外聞も捨ててチャンスを取りに行こうとするその姿は―――――――誰よりも、強く見えた。

 

 

 その光が

 

 

 

 今は ただ  憎たらしい。

 

 

 




_(:3」∠)_へへ、旦那。

この哀れな評価乞食に何卒ぽちっとボタンをくれやしませんかね…。

ぽちっとコメントと評価をくれるだけであっし等は明日も分をかけるんでさぁ……。

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