デレマス短話集   作:緑茶P

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('ω')いつもコメント・評価・誤字報告ありがとうございます。

今回は”やめるってよシリーズ”のヒロイン確定分岐イベントです。

基本的にココのヒロインが正ヒロインになりますね(笑)

今回は渋の投票で決まった”文香”がヒロインとなりました。

どうかお楽しみください(笑)


【清冽に 星よ瞬け chapter①】

「……文香。お前、スーツって詳しいか?」

 

「―――はい?」

 

 現場からの帰り道。夕暮れが群青を溶かしこむように世界を包み、星の砂金をまき散らす光景にひっそりと目を奪われていると隣からの予想外な言葉に意識を現実に引き戻された。

 

 釣られるようにそちらに目を向けると気まずそうに頭を掻く彼“比企谷”さんがやっぱりいいだなんて話題を打ち切るように一歩前に出たのを咄嗟に手を取って引き留めます。そのまま驚きに見開く彼のくすんだ瞳をまっすぐと見つめて問うこと少々。

 

 小さく息を吐いた彼が、やっぱり嫌々の様子で言葉を紡ぎます。

 

「……今度の事務所の創立記念式典に参加させられる事になったんだが―――リクルートスーツしか持ってねぇんだわ」

 

 彼が言う“創立記念”とは私たちが所属する346事務所が主催する大々的な50周年記念パーティーの事でしょう。もちろん、私たち“デレプロ”のメンバーも常務によって強制的な参加となっていたのですが彼だけは頑なに『社員ではないから』と参加を拒否していました。ですが、この様子を見るに――――どうやら無駄な抵抗だったようです。

 

 そこまで聞けば察しの悪い私でもなんとなく彼の言葉の意味が分かってきました。

 

 そのあまりに歪曲な言い回しに彼らしさを感じて思わず笑ってしまったのですが、どうにもソレが彼の斜めな機嫌を更に損ねたようで捕まえていた手を払って更に先に行こうとします。

 

「いや、やっぱいい。適当に店の人に見繕って貰う」

 

「くくっ、いえ、すみません。……えぇ、ちょうど私も小物を新調しようと思ってましたので宜しければ――――ご一緒してもよろしいですか?」

 

「………すまん。頼む」

 

 “悪いなぁ”なんて微塵も思ってないまま不機嫌に前を歩く彼の手をもう一度取って引き留めた。それでもコロコロと零れた笑いに彼が更に眉を顰めるのを抑え込むように彼の伝えたいと思われるであろう言葉をこっちが譲った様に言えば彼は拗ねたように、それでも、小さく感謝を呟くので心の隅っこを擽られ嬉しくて、可愛らしくて――そのまま腕を絡めてゆったりと夕焼けを歩く。

 

 何かを訴えるように腕を引っ込めようとする彼に抵抗して更に強く引き寄せる。

 

「近い。歩きづらい」

 

「変装はしてますから大丈夫ですよ。歩幅を合わせると歩きやすいと本で読んだことがあります」

 

 端的な言葉にワザと論点をずらして返せば呆れたように彼はため息をついて――ちょっとだけ歩調を緩めてくれた。

 

 暖かな春風が宵闇に従って冷えをもたらす。ただ、それは――今は隣の不器用な彼の熱を強調するだけだ。

 

 

 本当なら、きっと―――自分ではなくても良かったはずだ。

 

 詳しい人も、センスが良い人も、手慣れた人だって彼の周りにはたくさんいる。

 

 知識や、スキルだけならば誰だって良かった。

 

 それでも―――こうして自分にだけは不器用でも“頼って”くれる事が嬉しかった。

 

 誰よりも、人への距離感に敏感な彼の隣に寄り添えた事を伝えるこの熱が何よりも誇らしくて―――――“鷺沢 文香”は小さく微笑んだ。

 

 

------------------

 

 

 週末。普段ならば絶対に入ることなどない百貨店の高級な雰囲気を醸しだすフロアにて、俺は眩暈がするような気分に追い込まれていた。

 

最初からして雰囲気に押されていたのだが、数少ない休日に無理を言って引っ張り出した人気アイドルを脇に置いて地蔵を決め込むわけにもいかず意を決して入り口でうずうずとしていた店員を呼んで『式典用で…あんまり派手で無い物を、一式』なんて言ったが最後である。

 

 てっきり出来合いの物が並んでいる棚に案内されるかと思いきや、少し広めのスペースに連れられて引き出してきた棚と鏡が設置されたのだ。ソレに唖然としているウチに店員がお勧めとかいうセットを持ってきてシングルだの、ブレストだの良く分からない単語やこだわりを伝えてきて次々と体に当てていく。

 

 正直、大学の入学式用に選んだものと高級店のココで勧められている物の違いすらよく分からない人間には何をこの店員を求めてるのかも分からず“あ、あぁ”とか“う、うぅ”だの“へぇ”としか返せないのである。―――ゾンビの方がもうちょっとマトモな返答するまである。

 

 そんな俺にいよいよセールストークも品切れとなったのか店員さんもこれには思わず苦笑い。――――いや、マジですんません。

 

 そんな困り果てた俺と店員に“クスリ”、と小さな鈴のなるような笑い声が聞こえた。

 

「あ―――彼女さんの方は今まで見た中ではどれが良かったでしょうか?」

 

 その声に連れ合いがいた事を二人して気づき、店員はソレが蜘蛛の糸と言わんばかりに飛びついた。それには全くの同意見なのだが、呼び方にだけは承服しかねて訂正を挟もうとし――――。

 

「そうですね…色はあまり目立ちたくないそうなので無地のチャコールグレー系統でいいかと。あとは、それだけだと少し寂しい気もするのでスリーピースの物はありますか?―――あぁ、いいと思います。それと、シャツとネクタイは―――」

 

 一拍挟んだ文香が目を向くほどに紡いだ言葉に一気に押し流された。

 

 店員は我が意を得たりといわんばかりに店中から彼女の要望に沿いそうなものを引っ張り出してきて次々と俺に当てて組み替えてゆく。そんな中で彼女が呟くように聞いてくる好みや選択肢に何とか答えることしかできない俺は最終的に見事にマネキンへと化したのであった。

 

 そんな役立たずのマネキンである俺は勧められるがままに頷き―――ちらりと覗いた値札に小さく息を呑んだのだった。

 

 まぁ、トップアイドルに選んでもらったというプレミア感を考えればこれでも安いのであろう。こちとらバイト漬けの社畜生活。貯金なら唸るほどあるんじゃい。がはは、かったな――――――――はぁ。

 

 

―――― 

 

 

 着せ替え人形“ハーチー”(定価:プライスレス)の試着タイムが終わったのは、俺の精も根も尽き果てた頃である。額に汗を滴らせた二人が満足げに頷いた時に着ていた格好はそれなりで、冴えない容貌のゾンビがグールくらいには見えた。

 

 もう途中から他の店を回って値段を引き下げる元気も無くなっていたので靴からカフスまで一式揃えて貰った。当初の最低限でいいと思った予算は軽くぶっ飛んでいたが別に払えない金額でもないので一括カードで払った。

 

 まあ、そもそも一生物というのがココの店の売りらしいので。そう思えば高くはないのだろう―――と思うことにした。

 

「……なので、そろそろ頭をあげて貰えると助かるんですけど」

 

「い、いえ、しかし―――気分が乗ってしまったとはいえあんな金額になるとは露も思ってなくて……は、半分でも出させてください!!」

 

「いや、付き合って貰ったのはこっちだしな。むしろ、決めて貰えなかったら諦めてたくらいだから助かった」

 

「し、しかし、ですね……」

 

 会計から真っ青に頭を下げ続ける彼女に苦笑を漏らしつつ、コーヒーを口に運んだ。まあ、実際問題として本気で助かったのだ。こういった事で頼りにしていた小町には“みんなに恨まれたくないから…”とか意味の分からない拒否によって途方に暮れていた所で、ああして決めて貰えるというのは値段以上に楽でいい。

 

 それに、仕上がりだって自分の要望を最大限に引き出してくれた。これで文句なんて漏らせば罰が当たる。

 

「ほんとに助かった。これでこの話はおしまいだ。―――ところで、お前らの衣裳ってもうできたの?」

 

「むぅぅ……はい。この間、紗枝さんにそれぞれのドレスを着させて貰いました」

 

「値段で言えばそっちの方が莫大だろ?」

 

「…本当に、あれがタダで配給されていいんでしょうか?」

 

 話題を切り替えるために話題を適当に切り替えてみたが、実際はもっとヤバい例が身近にあって自分の奮発のインパクトなんか簡単に吹き飛んでしまった。

 

 今回の式典は当たり前のごとくメンバー全員も常務に招待されている。当然にそうなるとあの大人数のドレスの手配が問題となった時に我らが“小早川コーポレーション”の代理人が待ったをかけたのだ。

 

 曰く、全てのドレスをオーダーメイドで提供するとの事。

 

 ただでさえ目玉が飛び出る金額の紗枝の会社の服。ソレが無料提供なんて気がくるっている提案に流石に武内さんも苦い顔をしたが、最大手のスポンサーの意向に押し切られてそうなってしまった。

 

「本人曰く“新規事業の広告費としては破格の安さ”だとさ。―――まあ、普段から客寄せに使われてるんだからいいんじゃねぇの?」

 

「事業主には、お互いなれそうもありませんね」

 

 紗枝の悪い顔を思い浮かべながら運ばれてきたチョコレートケーキに口をつけ、適当に答えればようやく彼女も困ったように笑ってチーズケーキに手を付けて肩の力を抜いてくれる。それによってようやく弛緩した空気に乗じて、黙っておこうと思っていた余計な軽口が口から零れ出た。

 

「というか、仮にも“アイドル”が“彼女”って呼ばれて反応すんなよ。思わず笑いそうになったぞ?」

 

「――――――ふふ、ちょっと驚きましたけど無理に否定するのもおかしいじゃないですか」

 

 一瞬だけ、目を丸くした彼女がもっともらしい事を紡いで苦笑を浮かべ、そのまま、前髪で表情を隠すかのようにケーキを口に運ぶ姿はまさに平常運転。

 

 

 

 だから、

 

 

 せっかくならば、

 

 

 そこまで隠し通すならば―――

 

 

 

 その真っ赤に染まる耳と   

 

 

 

“それに―――悪くない気分でしたから”

 

 

 

なんて小さく零した呟きまで完璧に隠して欲しかったと思うのは贅沢な悩みだろうか?

 

 

 

 その甘く、優し気な声を聴かなかった振りをするため、俺は最後に大口でチョコレートケーキを飲み込んだ。

 

 

 

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