デレマス短話集   作:緑茶P

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リクエスト消化回

雪乃×雪美です。




お節介な人々

プロフという名のあらすじ

 

 

 雪ノ下 雪乃 女  21歳

 

 雪ノ下家の大人しい方。

 

 色々あったが家族の関係は修復に向かいつつあるため、丁度今頃になって思春期の母子みたいな関係になってる。不器用か。

 

 そんなこんなで自分の夢を叶えるべく家業を継ぐために大学を専攻し、学ぶ度に自分の身内の凄さを実感したために今ではそこそこ大人になったとの評判。美人・絶壁・毒舌を兼ねそろえたパーフェクトウーマンである。

 

 家では姉が家を継ぐ、継がないで大暴れしていて大変らしい。

 

 

 佐城 雪美 女  10歳

 

 京都出身の天才子役として注目を集める少女。言葉が独特で小さいので物静かな印象を与えるが好奇心やチャレンジ精神は旺盛であり意外とやんちゃでやらかす。

 

 飼い猫と常に傍にいてよく話しかけている。そのせいか猫も随分と人間らしい感情表現をしてくるのでそのうち宅配する魔女の怪猫みたいになるかもしれない。

 

 関西から全国区へとステップアップするため上京することとなり、単身東京へと向かったが――――?

 

 

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新幹線に流れるアナウンスにうとうとしていた眠気を払われて、慌てて窓を覗けばそこは既に目的地で慌てて身の回りのモノを確認して降りる準備をする。その時のチョットだけ乱雑な扱いに手元の相棒から抗議の声が上がるのに小さく謝り、流されるようにして進む通路の列へと体をすべり込ませる。

 

 生まれ故郷が世界的にも有名な古都であるため人ごみにも慣れているつもりではあったが、それでもこっちの勝手の違いに戸惑い、押し出される様になんとか下車をして小さく息をつく。そうして、なんだか色々とすり減った様な気がする疲れを呑みこんで視界を上げてみる。

 

 人、人、人。

 

 溢れださんばかりの人が、へしあう様にして行きかうその光景に、圧倒される。

 

「……やっぱり、素直に…迎えに来てもらうん…だったかな?」

 

 身動きも碌に取れないその騒がしさに、忙しい両親に自分が張った”一人で大丈夫”という小さな意地を後悔して小さな友人に声を掛けるが、無情にも彼は『にゃー』と呆れた嘆息の様な声と、視線を向けて来るばかり。励ましてはくれないらしい事に私”佐城 雪美”は小さくうなだれた。

 

 唯一の友人にすらそんな釣れない態度を取られ落ち込むが、何時までも落ち込んで肩を落としている訳にもいかず、約束の時間と待ち合わせ相手の書かれた紙を取り出して確認する。時間だって余裕があるわけでもなく、いつまでもここでぼさっとしている訳にはいかない。そうして、中身を確認しようとしていると何かが背中にぶつかり、思わずよろけてしまう。

 

「っ!!」

 

 支えきれなかった体は簡単に傾いでいき、硬い地面との接触を想像して身を強張らせる。数瞬後に襲ってくるであろう痛みは―――――ついぞ訪れる事はなかった。

 

 代わりに、自分の体が伝えて来るのは柔らかく暖かな感触。そして、爽やかで甘い心地よい匂い。

 

「まったく、こんな小さな子にぶつかってそのまま立ち去るなんて見下げ果てたモノね」

 

 少しだけ怒った様なその凛とした声に釣られる様にして顔を上げれば、とても綺麗な女の人が私を支えてくれていた。絹の様に滑らかなその黒い長髪に、白磁の様な肌。その顔は何処か冷たげな風貌なのに、こちらに向けてくれた目は柔らかい。もし、雪の妖精がいるのならばこんな人なのだろうと感じさせる。

 

「怪我はないかしら?見たところ一人の様だけど、ご両親は?」

 

「あ、その…ありがとう、ございました。一人で…来ました」

 

「一人なの?」

 

 私の体を検めてくれていた彼女が少し怪訝そうな表情を浮かべ、ちょっとだけ何かを考える仕草をして口を開く。

 

「…一応、聞いておくけれどもお迎えは来ているの?」

 

「はい…。”中央口”に…来てくれる……はず」

 

 さっきの衝撃で連絡先も書かれた紙が何処かに行ってしまったので、覚えている時間と集合場所を当てにしてそこまで向かわなければいけないのだけれども、この人混みと思った以上の複雑な建物の構造に現在地すらあいまいな状態に途方に暮れてしまう。せめて看板や表札があればとも思うのだが、自分の身長ではソレも見難い。

 

 手元に握った携帯に思わず目が行き、小さく唇を噛んでしまう。普通に考えれば両親に連絡をするべきだ。怒られるのが嫌な訳ではない。だが、忙しい両親に迷惑を掛けたくなくて一人で来たのにそれすらできない自分の無力に情けなくなって俯いてしまう。

 

「……もし、迷惑でなければ出口まで一緒に行きましょう」

 

「えっ」

 

 掛けられたその声に思わず彼女を見上げれば彼女は苦笑したようにこちらを微笑んで言葉を紡ぐ。

 

「折角、遠くから来たのにいきなり嫌な思い出を関東にもって欲しくないモノ。それに―――千葉県民は猫好きでお節介なのよ?」

 

 茶目っ気を含んだその言葉と共に彼女は私の手を取り、柔らかく引いてくれる。

 

「ああ、自己紹介がまだだったわね。私は”雪ノ下 雪乃”というの。貴方は?」

 

「……私、は”佐城 雪美”。こっちは……ペロ。………ありがとう」

 

 その温もりと見惚れてしまうくらいに美しいその笑顔に、私は自然とそう答え、ペロも小さく鳴き声を上げる。それに彼女は小さく頷き人ごみの中を超えていく。さっきの息苦しさが嘘のように、滑らかに進んでいくその歩みのなかで、私はずっとその横顔を見つめていた。

 

--------------

 

 

「思っていたより、手ごわいわね。東京駅」

 

「………正に迷宮」

 

 順調に改札を抜けて意気揚々と歩いていたのだが、そこから地下通路だのなんだのとを巡るうちにどうにも道に迷ってしまったようだ。あまりに自信ありげに先導してくれるので彼女は慣れているものだと思っていたがそうではないらしい。だが、彼女を責める事は出来まい。標識も、駅員の説明もあまりに難解で地方人にやさしくない造りであるココが悪い。

 

 そんな感じで二人と一匹でいまは道の端によって東京銘菓を片手に作戦会議中だ。ペロが呆れた様な目でこちらを見て来るのが少々気まずい。

 

「…約束の時間まではあとどれくらい?」

 

「あと、…二十分、くらい」

 

 バナナの形をしたお菓子を食べきった彼女が申し訳なさそうに聞いてくるのに答えると、彼女は悩むように顎に手を当てて考える。もしかしたら、責めている様に聞こえてしまったのかと思い慌てて言葉を重ねようとするが、彼女はその前に何かを決意したような顔を上げて携帯に手を伸ばした。

 

「お、おねえ…さん?」

 

「この手だけは使いたくなかったのだけれど、背に腹は代えられないわね」

 

悪態の様な言葉を吐きながら彼女は何処か楽しそうに携帯を操作して、何処かに電話をかける。数度の呼び出し音が響いた後に、彼女の求める相手が電話を取った事が分かる。

 

『ああ、おひさしぶりね。無駄に電話に出る前に間を取る癖いい加減にやめたらいいと思うのだけれど…。

 

 と、そんなこと話している場合でもなくてね。突然で悪いのだけれどちょっと手助けしてほしいのよ。

 

 ……バイト中?うるさいわね。”あの約束”を反故にするつもり?――期限も回数も指定しないまま承諾したそっちの落ち度よ?

 ふふ、これから何度だって叶えて貰う予定なのだからそんな声を出しても無駄よ?

 なにより、”かわいい女の子”と”猫”を助けるためなのだから安売りなんかじゃないわよ。

 

 それで――――――』

 

 そんな楽しげで優しい顔をして通話をする彼女は、現状と周りの標識を相手に伝えていきちょっとした間を空けて、私に目配せをして手を取ってくれた。その手は、さっきよりも暖かく、優しい。

 

『え、貴方も東京駅にいるの?―――いや、迎えには来なくていいわ。

 

 なにより、連れ合いの子の時間が迫っているらしいから待ってる暇もなさそうなの。だから、めんどくさがらずキリキリ案内して頂戴』

 

 話すその声も、さっきよりもチョットだけ幼げで、柔らかく楽しげだ。

 

 そんな彼女に、なんとなく分かってしまう。

 

 きっと、電話の向こうのその人は、きっと彼女がこの世の誰よりも大切にしていて、誰よりも素直に甘えられる”愛しい人”なのだと。そして、そんな人を持つとこんなに人は魅力的になるのだと私は初めて知った。眩い程のその光に見惚れていると狭い構内は一気に開けていき、目を見張るほど大きなホールへと辿りつく。大きく掲げられたその看板には”中央口”と大きく書かれていた。

 

 チョットだけ安堵の息を洩らして、ゆっくりと離れていく温もりに心の何処かで落胆した。

 

「何とか間に合ったわね…。ここまで来たら一人でも大丈夫かしら?」

 

「…ん。本当に、ありがとう、ございました」

 

 電話を切った彼女がしゃがみこんで私に目線を合わせて微笑んでくれるのに頭を深く下げて答える。ペロも鳴き声を上げて答えるのに彼女は”どういたしまして”と小さく笑って答える。この人と離れてしまう事への名残惜しさが膨らむのをグッと抑える。

 

「迷ってしまった私が言うのもなんだけれど、次があるなら駅まで迎えに来てもらう様にした方がいいわ。貴方は可愛らしいから悪い人に襲われてしまうかもしれないのだから、もっと周りを頼りなさい?」

 

「…はい」

 

 心配そうに掛けられた言葉に、頷くしかできない私に彼女は何を感じたのか小さく頭を撫でて立ち上がる。

 

「それじゃ、困ったちゃんの姉が実家で暴れてるらしいから、私はもういくわね。――――ああ、言い忘れてたわ」

 

「?」

 

 立ち去ろうとした彼女が何かを思い出した様にこちらを小さく微笑んで振り向く。

 

「ようこそ関東へ。どうか楽しんで行ってくれると嬉しいわ」

 

 そう言って今度こそ彼女は人ゴミの中へと消えてゆく。その背が見えなくなっても私はその目をしばらく離す事が出来なかった。そうしているウチにペロが鳴き声をあげて、約束までの時間がない事を思い出して改札へと足を向ける。

 

「いつか……私もあんな綺麗に……なれるかな?」

 

 その問いに答える鳴き声は笑ったのか、励ましたのか、チョットだけ愉快そうだった。

 

 

 

 

 

――――本日の蛇足――――

 

八「あー、よかった。一人でここまで来れるか心配してたんだが、大したもんだ」

 

雪美「…んん、実は…まよった。でも、親切な…人が送ってくれた。千葉県民は…優しくて、猫好きだからって」

 

八「マジか。やっぱ千葉は一味ちげ―な。猫好きってのもポイントが高い。…でも、次からは構内まで迎えに行くことにするわ。最近は物騒だからな」

 

雪美「ん、お願い…します。……お兄さんは、何県民?」

 

八「安心の千葉県民だ」

 

雪美「なら…安心」

 

八「ああ、任せておけ。んじゃ、車に”ピリリ”―――すまん、電話だ」

 

雪美「どう…ぞ」

 

 

『今度はなんだよ―――千葉行きの電車が分からない?いや、だから、…あぁ、もういいそこにいろ。こっちも一段落したからそっちに行く。お前、ホントに次からは都筑さんに付いてきてもらえよ。

 

 動くなよ?絶対だぞ?―――振りじゃねえよ!お前、最近、変な知識に感化され過ぎだろ!!』

 

”ピッ”

 

八「…あー、スマン。知り合いが道に迷ってるらしくてな。ちょっと助けて来るからここで待っててくれるか?」

 

 

 

 頷く私に彼は申し訳なさそうに改札を超えていくその背を見て私は思わず笑ってしまう。

 

 どうやら彼女の言った言葉は真実のようだ。”千葉県民はお節介で猫好き”。

 

 そんな彼がいる事務所なのだ。きっといい所に違いない。

 

 初めての東京は、豪華絢爛なこの建物よりも、素朴な彼らの優しさの方がずっと深く心に残った。

 

 

 


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