デレマス短話集   作:緑茶P

64 / 178
_(:3」∠)_再録はここまで。明日からは新作更新わら

 またみてしゅーこ♡


澄んだ滴は止まらない

 銀盆の中で艶めかしく光沢を放ち、ふわりと立ち上る香りがキッチンを満たす。ゆるゆると心地よい抵抗をするソレをすくって一口。口いっぱいに広がるその甘さに何時もならば思わず頬が緩むのだろうが、今日ばかりはそうはいかない。

 

 なんせコレを食べて貰うのは自分では無いのだから。

 

 頭をよぎったその顔に、自分が今なにをしているのかを思い知ってしまい、なんとも言えない気恥ずかしさに頬が熱くなる。いつもは尻込みして投げ出してしまうような恥ずかしさを呑みこんででも、また、あの人が不器用な笑顔を浮かべてくれるかも知れないと考えればその手は止まらない。

 

 どんな味が好みなのだろうか?

 

 男の人はやっぱり甘いモノが苦手だろうか?

 

 あんまり手が込んでると重いかな?

 

 でも、あんまりそっけないのもなんか寂しいし…。

 

 考えれば考える程どんなモノが喜んでもらえるか分かんなくなってしまう。

 

 眉間に皺を寄せて、必死に考えてみるが答えは一向に見つからない。だけど、これだけ悩み苦しんでいるのに鼓動は高鳴って、感じた事のない興奮を伝えてくる。

 

 ゆるり、ゆるりとその感情を噛みしめるようにソレをかき混ぜる。

 

 気恥ずかしいその感情と、こんなに自分を悩ませているちょっとした抗議がちょっとでも伝われば良いのに、そう思って、そう願って、小さくため息をついてカレンダーに目を向ける。

 

 明日はバレンタインデー。

 

 世間は愛を囁き、隠して来た熱情を伝える事の許されたもう一つの聖なる日。

 

 迷える子羊を導くのは、甘く蕩ける様なこの聖典(チョコ)のみ。まったくもって憎たらしい日だ。

 

 そんな悪態をつきながら”城ヶ崎 美嘉”は作りかけの聖典(チョコ)をもう一口。

 

 浮かべた笑顔はソレの甘さゆえか、渡す想い人を想ってか。それこそ神のみぞ知る事である。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 放課のチャイムと共にざわめくクラスメイトに挨拶もそこそこに颯爽と教室を後にする。その瞬間に背後から男子のさめざめとした溜息や哀愁の声が聞こえてくる事にちょっとだけ苦笑して、小さく心の中で謝る。

 

 去年までには惰性のようにクラス全員に配っていた義理チョコ。何時までも配らないソレに痺れを切らして冗談めかして聞いて来た男子には”事務所に禁止されてるから”の一言でバッサリと断ったにも関わらず、何処かにあった残された期待がたったいま無くなった事を嘆く彼らには申し訳ないが、今年だけはちょっとそんな気分にはなれなかったのだ。

 

 バックの中に潜ませたその小さな箱に籠めた気持ちがちょっとでも薄れるのがどうしても嫌だったのだ。

 

 その気持ちにちょっとでも不実さが混じってしまう事が今年だけは許せなかった。

 

 急ぐ訳でもないのに、足は勝手に弾んで駅へと掛けていく。

 

 正直、朝からずっとこんな感じだ。いつもはあっという間に過ぎていく時間が今日ばかりは意地悪をするかのように遅々として進んでくれない。一刻も早く、この胸に溢れる感情を届けたくて焦る気持ちは早鐘の様に鼓動を高めるのに世界はどうしたって歩みを進めてくれない。

 

 そのもどかしさすら、楽しく感じてしまうのだからいよいよもうお手上げだ。

 

 一周回ってちょっとだけ落ち着いた思考で電車の車内を見回してみれば、いつもよりも仲の睦まじい連れ合いが多い事に気がつく。

 

 初々しく手を握るカップル。

 

 そっけなく座っているのに距離はピッタリと寄り添うカップル。

 

 少し照れくさそうに昔の事を語る若い夫婦。

 

 ゆったりと身を寄せ合って互いを労わる老夫婦。

 

 そんな彼らを見て、素直に”いいな”と思えた。

 

 賢い振りをして傷つかない様に斜に構えていた自分の事を真っ直ぐに見つめ、愚直に信じてくれたあの人。

 

 誰もがチヤホヤしてくれた”そこそこの評価”を真っ向から否定して、引き上げてくれた。

 

 真っすぐ過ぎてたまに心配になるあの人の隣で、ああして支えて上げられたら。そうなりたいと願って目を瞑った。

 

 甘いものは好きだろうか?

 

 普段はどんなモノを食べてるんだろうか?

 

 いっつも働き過ぎで疲れて無いだろうか?

 

 こんなのを渡したら困らせたりしてしまうだろうか?

 

 きっと、そしたら、いつものように首筋を抑えて戸惑う彼を思い浮かべて小さく笑ってしまう。

 

 きっと真面目なあの人はそうして悩む。

 

 傷つけない方法と、真摯な気持ちを曖昧な理由で拒絶する事を。

 

 迷った末にこの気持ちは受け取って貰えないのかもしれない。

 

 アイドルとプロデューサー。当然、そんなあっさり結ばれるような事なんてあるわけがない。でも、それでもいいと思えるのだ。伝えて、聞いてくれるだけで今は、いい。

 

 そこから先は、ゆっくりやって行こう。

 

 あの人もそう思えるくらいにゆっくり時間を掛けて積み重ねて、寄り添っていこう。

 

 雑誌に載ってる恋愛マニュアルとは少しかけ離れているかもしれないけど、彼とはそうがいい。そうでいい。

 

 車内に鳴り響くアナウンスに目を開けば、並び立つ魔天楼から差し込む夕日が眩く周りを照らして行く。

 

 

 あれだけ、重苦しかったこの街の空が、今日は純粋に綺麗だと思えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 レッスン後の挨拶もそこそこに、事務所に用事があると断りメンバーたちに別れを告げる。

 

 高鳴る鼓動に合わせる様に踊ったレッスンは今までに経験がないくらいに上手くいき、その余熱がまだ小さく身体の中に残っていて、スタジオから事務所までのいつものなんてことない廊下を自覚してしまうほど浮足立って歩いてゆく。

 

 そうして、いよいよ彼がいるであろうその部屋の前へと辿りつく。

 

 跳ねる鼓動のすぐそばで何かが締め付けられるように萎む事も感じている。それでも溢れる何かは引き返すことなど考えられないほど氾濫していて、小さく深呼吸をして手鏡で身なりを軽く見直す。

 

 髪や服装に不備がないかを何度も入念に確認した最後に目に着いた自分の顔につい苦笑してしまう。

 

 期待と不安がないまぜになりつつも、その蕩ける様に甘い表情を浮かべた自分。

 

 まるで恋する乙女のようではないか。そんな自嘲をして更に笑ってしまう。

 

 ”まるで”なんて表現はあんまりだ。

 

 どう考えたって、自分は間違いなくいま”恋”をしているのだから。

 

 現金で安直な自分にいつもなら嫌気もさすのだろうが、今日ばかりはそんな所も許してやろうかと思える。そのための”聖なる日”という奴なのだろうから。

 

 そう勝手に言い訳をしてもう一度、深呼吸。

 

 バックに潜ませたその聖典をそっと撫でてから、ドアノブに手を掛ける。

 

 彼は、喜んでくれるだろうか。

 

 そんな想いをのせてその扉を――――――

 

 

 

「ふふ、改めて武内君にチョコを渡すとなると照れますねぇ。…ちょこっとだけ」

 

「…あえてネタについて言及はしませんが、その、ありがとう、ございます。楓さん」

 

 

 

 室内から聞こえて来たその声に、身体が、心臓が、止まった。

 

 彼と、そんな風に、そんな表情でかわしたいと願っていたその光景が、目の前で叶ってしまった。

 

 自分が敵いっこない、最高の女性が、叶えてしまっていた。

 

 溢れるほど自分を満たしていた暖かい何かが、ゾッとするほど冷たい何かに入れ替わった。

 

 それと同時に、何処かに潜んでいた小賢しい自分がしたり声で耳元に呟いた。

 

”それ見た事か”と。

 

 楽しげに響いたその声が、いつまでも耳に響いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 そのあと、どうしたかなんて覚えていない。

 

 際限なくあふれ出る汚い感情でパンクしそうな頭と、霞む景色を振り払うかのように、必死に走った。

 

 止まってしまえば、どうしようもなくなってしまいそうで。浮かれ切っていた自分の滑稽さがあまりにも情けなくて。消えてしまいたくて我武者羅に走り続けた。

 

 足がもつれ、呼吸だって出来なくなるくらいに駆けずり回って辿りついたのは薄暗い非常出口。

 

 こんなところがあったのか、とか、どうやってここまで来たのか、なんて今はどうでもよかった。

 

 限界まで酷使して崩れ落ちた身体を受け止めたコンクリートの冷たさと硬さが。誰もよりつかないであろうこの場所の陰気さが、今は何よりも嬉しかった。

 

「な、んでっ!!私、だって――そん、なの!!―――っ!!」

 

 呼吸を求めて喘ぐ口は、溢れてめちゃくちゃになった激情がこぼれ出てきて更に心臓を責めたてる。だが、そうしたって零れるそれはおさまってくれない。支離滅裂な何かも絞りつくしてしまうと、今度は霞んでいた景色がいよいよ大粒の何かになって零れ始める。

 

 身体も、頭も、心も、何一つ言う事なんて聞いてくれやしない。

 

 何で自分がこんな目に逢わなければならないのか。そんな理不尽に、もうなにも訳が分からなくなってしまう。

 

 そんな自分の脇に転がる、小さな箱。

 

 不器用ながらも、丁寧に、可愛らしく包装されたその、赤い箱。

 

「―――――ッッッツ!!」

 

 激情のまま握りつぶしたその箱を全力で投げ飛ばそうとし―――それすらも、出来なかった。

 

 理由なんて分からない。それでも、何かがそれをすれば本当に惨めになってしまう確信があった。それでも、振り上げた先の分からないこの怒りの行き先に振り回されている現状だって、あまりに惨めだった。

 

 どうする事も出来なくなった私は、その原型も無くなってしまった箱を力いっぱいに握りしめて―――歯を食いしばって、うめくように、みっともない獣のように

 

 涙を流し続けた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 それから、どれだけたったのか。

 

 声が枯れ、零れ続けた滴がそこをついて力なく冷たい鉄製の非常階段にもたれる様に空を仰げば赤く周囲を照らしていたはずの夕日は沈み切り、出口を示す非常灯だけが唯一の光源となっていた。

 

 冷え切った体は吹きこんでくる風によって更に凍えるが、どうしたって動く気にはなれなかった。

 

 空っぽになった頭と心。

 

 溢れる程にこの身を焦がしていたあの激情すら何処かに言ってしまったかの様なその虚無。それに抵抗することなく身を任せて、このまま消えてくれないだろうかとぼんやり考えていると軋んだ何かが開かれる音を耳が拾う。

 

 一瞬だけ期待してしまった心は、続いて聞こえて来た足音は聞きなれたあの革靴の音では無いことに気がつきすぐさま萎んでいく。その浅ましさに我がことながら鼻を鳴らして笑ってしまう。

 

 その期待外れの足音はそんな反応すら気にした方もなく無遠慮にこちらに近づいて来る。

 

 足音が止み、何かを擦る音と共に、緩く風に乗って独特の匂いが鼻を擽った。嗅ぎなれたその匂いに視線を向ければ、暗闇にふわりと浮かんだその光点。日の差す場所では陰気にしか見えないその気だるげな顔。

 

 見慣れたアシスタント”比企谷 八幡”が、そこにいた。

 

 なにを話すでもなく、彼はただただ旨そうにその煙草を味わっている。

 

 その無関心さが楽でもあり、癪にも障った。

 

「…泣きはらした女の子を横に良く平気で煙草吹かせんね」

 

「女子を慰めんのが上手そうな顔にみえるか?」

 

「全然」

 

「そらなにより」

 

 そういって彼は再び細巻きを咥えて喉を鳴らすように笑う。

 

 したり顔で知った口を聞いてきたらそれこそ徹底的にやり込めてやろうと内心思っていただけに肩すかしな反応が少々ツマラナイ。だが、言われてみればこの男にそんなデリカシーを期待していた自分の方がおかしいのだ。八ッ当たりにしたってちょっと相手が悪い。

 

 溜息をついて身体を動かす。

 

 強張った身体がギシギシとウルサイ。でも、その痛みすら今は丁度いい。

 

 目線だけで私を追う彼は、胸ポケットからその細巻きを抜き取られてもなにも言わない。

 

 見よう見まねで着火するが上手くつかない。

 

「…吸いながら火をつけんだ」

 

 どうでもよさげに投げかけられたその声に従ってやってみれば一気に煙たい何かが流れこんできて、盛大にむせてしまう。

 

 枯れたと思っていた視界が涙で滲む。なんだ。まだ全然、枯れてなんかないじゃないかと変に感心した。

 

 吸っては咽る私になにを言うでもなく彼は次の煙草に火をつける。

 

 数度目にしてやっと咽ずにまともに吸う事が出来た私は、ゆっくりと溜息のように煙を吐き出してみる。

 

 苦く、渋い。

 

「…アイドルで未成年が吸ってるのに止めなくていいの?」

 

 だからだろう。悪態の代わりに、余計な事を口走ったのは。

 

「…さあな。わからん」

 

 その言葉にすら彼はこちらに視線を向けずに投げやりに言われた言葉に、息が詰まった。答えを簡単にくれない彼の残酷さが、胸を刺す。

 

 きっと、自分は誰かに怒られたかったのだ。傷をつけて、欲しかった。

 

 そして、自分のこの行いで―――あの人がちょっとでも傷つけば良いと願ってしまった。

 

”お前のせいでこんな非行を行ってしまったぞ”と、プロデューサーが最も苦しむ最良の方法を、無意識に選んでいた。

 

 そんな薄汚い思考を、彼に纏めて押し付つけてしまいたかった。

 

 そして、怒られて、そんな思考ごと否定してほしかった。

 

 でも、なにも知らない彼は、それすらも一つの”正解”だと肯定してしまう。その肯定が、無気力を気どっていた自分の中に潜む汚い部分をむざむざと見せつける。

 

 何処かで、最高の復讐をしてやろうと企んでいた本当におぞましい自分をあっさりとさらけ出された。

 

「…意外と目に染みるだろ、煙草の煙って」

 

「…うん」

 

 自然と零れ頬をぬらすその滴。

 

 獣のように泣きわめいて流したモノよりもずっと汚い感情を何処までも凝縮したソレは、ずっと静かに流れた。声すら震えない、ただただ最愛の人を憎く思う涙はここまで澄んでいるのだと私は初めて知った。

 

「…煙草吸い終わったらシャワー浴びて匂い落としてこい。そのあと送ってやる」

 

 壊れたように静かに泣く私にコートを雑にはおらせ、彼は紫煙をつかれた様に吐きだして、それ以上なにも言わなかった。

 

 

 

 

  ――――じりじりと燻る煙草の火は、まだ、しばらく消えそうにない。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

―――――蛇足――――――

 

 

チッヒ「武内さーん!じゃじゃーん!!今年は気合い入れて作ってきました…よ?」

 

武内・楓「「あっ///」」

 

チッヒ「……へぇ」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 あらすじという名のプロフ

 

 

 城ヶ崎 美嘉     性別 女   年齢  16歳

 

 皆さんご存知、大人気アイドルグループ”シンデレラガールズ”のカリスマJK。全ての女子高生が彼女のファッションを欠片でもモノにしようと心血を注ぐ程に彼女の求心力は強く、彼女が雑誌に載るかどうかが発行部数が変動するほどのカリスマっぷり。

 

 初期に持っていた卑屈さや常識の殻はアイドルとして活動し、メンバーと心を通わせる事によって破られ、誰よりも力強い輝きを放ち、その歌唱力・ダンスセンスから単体ですらそのポテンシャルは計り知れないモノとなっている。

 

 一方、女子高生向けの恋愛コラムでは豊富ながらも一途な経験談が多くの共感を呼び、そちら方面でも幅広い活躍を見せているためメンバー内では[恋愛マスター(笑)]と呼ばれいじらr…からかわr……尊敬を集めている模様。

 

 

 クリスマスに行われた大規模ライブも成功に終わり、彼女達の人気はとどまる事を知らない。

 

 

 

 




―――――――

 ココに来るまでに力尽きた…ゲフンゲフン、飛ばされた共通イベント&美嘉イベント

―――――――




第30話 [アイドルであるという事]

美嘉「あれだけ有名になったのになんでこんな小さな商店街のライブを外さないんですか?」

楓「ふふ、どれだけ有名になったってここには来続けますよ。だって、ここが私の始まりだもの」




第53話[ちびっこカリスマJC ご降臨!!]

莉嘉「ねぇねぇ、私のおねーちゃん何処にいるか知らない?」

八「は?えーと、どちら様?」

美嘉「莉嘉!?なんであんたがここに!!?」

莉嘉「あ、おねーちゃーん、みっけ!!」

八「へ?」



第88話[ちゃんと、見ててね?]

美嘉「ねぇ、プロデューサー」

武内「はい、何でしょうか?」

美嘉「私、アナタが最初に見たときに比べて、変れたかな?」

武内「私の想像なんて及ばぬほどに、城ヶ崎さんは、輝いています」

美嘉「…そっか。でも、これからも、もっとずっと輝くから―――ちゃんと見ててよね?」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。