デレマス短話集   作:緑茶P

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_(:3」∠)_そして、ようやく美嘉√追加小話へといたりましたーん。





水火も辞せず

「まーたやらかしたでしょ、比企谷さん」

 

 豪奢な時計塔を横目に寂れた通路を抜ければ薄暗く、微かに湿気た空気の非常口の喫煙所にたどり着くと目当ての男がプカリと浮かぶ紫煙を眺めつつぼんやりとしているのを見つけ、呆れと怒り半分の声を投げかけてみた。

 

 それに釣られるようにこちらに向けられた視線はいつものごとく無気力で、深く澱んでいる。それに最初の頃は怯んでいたものの、彼のお節介さやお人好し加減を間近で見てきた今となっては親しみ深いもので誰かが“捻デレ”と呼んだせいもあって真っ直ぐとソレを見つめ返せるほどにはなっている。

 

「………心当たりが多すぎるな」

 

「し・ん・にゅ・う・せ・い!!」

 

 しばしの間を取ってどうしようもない事を呟く彼に大きく区切るように怒鳴った言葉で詰め寄ればそれに関連した自分の悪行を思い出したのか小さく“あぁ”なんて呟いて、皮肉気に唇を引き上げて答えてくる。

 

「人を団結させる一番手っ取り早い方法は“共通の敵”を作ることで、女子が一番盛り上がって仲良くなるのは知り合いの悪口だろ?」

 

「アンタは一体どんな人生を歩んだらそこまでひねくれられるの?」

 

 あろうことかこの男。我らがシンデレラプロジェクトの第二期生のしょっぱなの顔合わせの自己紹介で“辞めたきゃいつでも辞めろ”だなんて暴言をぶっ放してきやがったのだ。ソレを反省するどころか、面白げに軽口を叩いてくるのだから本当に性格が捻じ曲がっている。

 

 だが、まあ、言わんとしている事は分かるのが何とも言えないのが口惜しい。

 

 そういった人間関係の厄介さも読者モデル時代にこの目で多く体験しているし、分かりやすく非難する的があると人間というのは“気持ちよく”上に立てたような気分に包まれるのだ。

 

 だから、世の中からイジメは消えないし、悪口は最高の娯楽だ。

 

 みんなが気持ちよく、悪者が仲間内にいない集団というのは固く、素早く纏まってその連携を高めていく。

 

 そんな残酷なほどに合理的な手法がこの世にあることを、あの聖夜に私は思い知った。

 

 そして、私は、“城ヶ崎 美嘉”はその手法を―――――

 

 

 

→ ・理解するわけにはいかない。

 

  ・理解できてしまうのだ。

 

 

―――――――――

 

 

 

「馬鹿にしないでよ」

 

「………馬鹿にはしてないだろ。これで後輩との共通の話題が出来たんだから上手く使って後輩との絆を深めろってだけの話だ」

 

 私の唇から零れた言葉に今度こそ苦笑を漏らして彼はその意図を告げる。

 

 ああ、そうだろう。ただでさえ癖が強い一期メンバーに続く後輩も相当だとは聞いている。ソレが上手くコミュニケーションが取れずに疎遠になる可能性だってないわけじゃない。ならば、共通の憎まれ役の悪口や相談を笑顔で受け止めて――何なら後輩の前で彼を叱ったりなんかすれば簡単に後輩からの信頼は勝ち取れるだろう。

 

 

 ああ、勝ち取れるだろうさ。  本当に何の苦労もなく。

 

 

 だから―――――この案はふざけてるのだ。

 

 

 それは、私たちがあの聖夜に全力で拒否した最低の手法なんだから。

 

 

 だから、私は “城ヶ崎 美嘉”は――――この小悪党のお節介なんて理解してやるわけにはいかないのだ。

 

 

「アンタのそんなお節介が無くたって――――私たちは実力で後輩を納得させられるって証明してあげる」

 

「せっかく御膳立てしてやったんだから素直に乗っかればいいものを……」

 

「どっかの誰かが、そういうのはぶち破れるって教えてくれたからね」

 

 私が真っ直ぐに力を込めて彼に答えれば、彼は一瞬だけ目を呆けたように瞬かせた後に疲れたように紫煙を吐き出しながら愚痴のように言葉を零した。その様子がちょっとだけ可笑しくて私は彼の肩を軽く小突きながら勝気に微笑んで見せる。

 

 きっと、彼の思惑に乗ってあげれば全てが丸く収まる。でも、そんな“当たり前”なんてつまらない。いつだって鼻つまみ者の私達は、そんなのぶち破ってきたからいま最高に笑ってステージに上がれるのだ。

 

 だから、私たちが後輩にしてあげるべきは“優しくなんでも聞き入れてくれる保護者”でいてあげる事なんかじゃない。超えるべき壁として、誰よりも高く聳え立って―――徹底的に後輩を叩きつぶしてやろう。

 

 それは、“ただのアシスタント”の彼が負うべき仕事ではない。

 

 私たちが責任を持って教え込んでやるべき、そういう仕事だ。

 

 馴れ合いなんて糞くらえ。

 

 そこで潰れる様な灰被りがどうして熾烈な“舞踏会”にたどり着けるというのだ。

 

 だからこそ私は、自分でも分かるくらいに獰猛に嗤って――彼へと告げる。

 

 

 

「私たちは―――比企谷さんみたいに優しくないって、教えてあげるよ」

 

 

 そんな私に、困ったように底抜けのお人好しが小さくため息を吐いた。

 

 

 

---------------------------

 

 

 

「――――全員、止まれ。……20分やるから各自動きをもう一度確認しろ」

 

「「「「「「はいっ!!」」」」」」」」

 

 いつものレッスンスタジオにマストレさんの静かな声が鳴り響く。レッスンの最初の頃にはいつもの様な怒声が鳴り響いていたのだが、時間が立つにつれ声は小さく、端的になっていくのに反比例して眉間の皺が深くなっていく。――――ダンスやらレッスンは未経験の俺には分からないが、この光景はあいつらの時に嫌という程見てきたので実に胃が痛い。

 

 これは端的に言えば、マストレさんがブチ切れる一歩手前の症状だ。

 

 まだレッスンを受けて間もない人間が集まっているのだから仕方ない事だとは思うのだが、未経験者は当たり前のように動きがぎこちない。だが、まだ研修だけしか受けていない彼女たちにとっては厳しいレッスンを受けて通しで踊り切れるようになったというだけでも確かな上達なのだ。

 その上、マストレさんの前兆を知らなければ注意が減って自分たちが上手くできているように感じてしまっているというのも大きいかもしれない。

 

 元気な返事の後にそれぞれが集まって交わす会話は明るく、華やかな声。動きの確認というよりはそれぞれの失敗を報告し合って、小さく笑いを交わす談笑。その様子には切迫さも、危機感もない年頃の乙女特有の柔らかさが見て取れる。

 

 それは、決して責められるべきことでは無い。

 

 むしろ、この光景に違和感を覚える俺の方が少々この特殊な状況に慣れてしまっていてまともな感性を失っている自覚がある。そんなアンニュイな気分に支配されつつ彼女たちを見やっていると、新田がこちらの視線に気が付いたのか少しだけ誇らしげに胸を張りながらこちらに駆け寄ってくる。

 

「うふふ、どうですか比企谷さん。まだまだ未完成な部分も多いですけどこの短期間でここまで上達して見せましたよ?」

 

「―――――ああ、そうだな」

 

 煌めく爽やかな汗を額に浮かべながら、その瞳は眩い希望と自信を湛えていて思わず目を眇めそうになる。そんな彼女に偽らざる本心を吐露すれば彼女はよりその表情を輝かせ何か言葉を紡ごうとする。

 

「ええ、きっとすぐにあの言葉を――――「本当に、未完成だな」―――へ?」

 

 それを遮るように呟いた俺の言葉に唖然とした彼女が再起動する前に、レッスン室の扉が開いた。

 

「ゴメン、ゴメン。思ったより前の現場長引いちゃってさ☆」

 

「わぁ…初めまして、かな?」

 

「小梅さんと僕は四国巡りしてましたからねぇ…」

 

「あら、フレッシュなメンバーね」

 

「あわわ、失礼しますっ!」

 

「……なんとなく、呼ばれた理由が分かりました…」

 

「皆さん! 元気ですかーー!!」

 

「うふふ、ハチさん。今日もまゆ頑張りましたよぉ?」

 

「ちょっとこの部屋熱くないですかぁ?」

 

「ちーっこく、遅刻しちゃいましたね」

 

 それは、今や世間では知らない人のいない時の人。まったく期待されていない中で奇跡の快進撃を上げ続け、ついにはこの城の舞踏会の主役とすら登りつめてきた現代のシンデレラその人達であった。

 

 プロジェクトの二期生として入った彼女達からすれば憧れのそのものだろう。それでも、スケジュールが合わず今まで顔を見せることも出来なかった彼女達からすればソレは黄色い歓声を上げるには十分なサプライズだ。――――これから行われることを、知らなければの話であるが。

 

「あー、初めまして、でいいのかな? みんなと顔合わせが大分遅れちゃったけど、少しだけ全員で顔出せる時間が出来たから挨拶に来たよ☆」

 

 興奮のまま駆け寄る二期メンバーにそれぞれが華やかに答えながら、美嘉が代表するかのように言葉を告げ、小さくあたりを見回して頷く。

 

「とは言っても、これからちょっとしたら別の現場でさ。――――ちょっとだけ先輩風吹かせにきたんだ☆」

 

 朗らかで、柔和な顔が  意地悪気に歪んだ。

 

 その唐突な変化に誰もが息を呑み、無意識に一歩だけ後ずさった。

 

 そんな後輩たちに何を言う訳でもなく彼女たちは真っ直ぐにレッスン室の中央に歩みを進めてその場で静かにそれぞれの持ち場へ着き、沈黙を守る。

 

「……おい、城ヶ崎。お前、つぶす気か?」

 

「まさか、先輩として“お手本”を見せるだけだよ☆」

 

 さっきまで深い眉間の皺を刻んで苛立っていたはずのマストレさんが責める様な声音で城ヶ崎に呼びかけるがそれに掛け合いもしない彼女の声に深くため息を吐いて渋々といった様子で音響のリモコンを操作する。

 

 その先達の唐突な行動に誰もが困惑を隠せず見守る中で、城ヶ崎はその深い萱色の瞳で真っ直ぐと彼女たちを見据えて―――謳う様に言葉を紡いだ。

 

 

「これが トップの最低線だよ」

 

 

 その胸の奥を貫くような鋭さを秘めた声は、大音声の伴奏によって溶けていき――――誰もが彼女たちの全てに押しつぶされた。

 

 一糸乱れぬ統制。

 

 指先一つ、視線一つ、微笑みにすら含められた感情。

 

 それを目で、心で理解しようと必死に追いかけた次の瞬間には別の魅力に引き込まれ翻弄されてゆく。

 

 響く歌声には、音程以上に人をかどわす魔力に満ち溢れていて抗う事も出来ずに導かれる。

 

 それはさっきまで自分たちが―――いや、これが“そう”であるなら、自分たちはさっきまで何をしていたのだろうか?

 

 実力や、練習量の問題なんかではない。

 

 例え、これから練習を重ねて完璧にステップや音程を身に着けた所できっとそこには行きつけることはないのは明白だった。だって、まるでソレは――――魂を燃やすような熱があった。

 

 やがて、音楽は鳴りやみ、振り付けはラストを迎えて音は部屋から消えた。

 

 新入生の誰もが息を呑み、あるいは腰を抜かして慄くように彼女たちを見つめることしかできない。

 

 自分たちは―――“コレ”になることを期待されているというのか?

 

 採用通知を受け取り喜びに満ちて溢れ、スカウトによって新しい可能性に心躍らせていた彼女達には今やそんな感情は消え失せていた。

 

 そうだ、ここの二期生として選ばれたという事は“全くの無名から一年でトップに上り詰めた怪物”と同様の活躍をしなければならないのだ。そのあまりに重たい事実に、いまさらながら恐怖が湧き上がる。

 

 そんな彼女たちに―――声が掛けられた。

 

「私たちは、みんなが受けている衝撃をライブバトルで対戦相手から受けたよ。

 

 テレビや小さなライブを重ねて積み上げた自信が、一瞬で叩きつぶされた。ダンスだって、歌だってミスのない最高の出来だったのに、765プロに完敗。

 

 そもそもが、ウチの部署はちょっと特殊でね。負けが続いちゃえば一瞬で御取り潰しの可能性だってあったから―――それ以上、負けられなかったんだよ。それに、負けっぱなしで引き下がってやれる人なんかいなかった」

 

 苦笑と共に語られるその言葉。その当時を知っている自分としては笑える状況でなかったことを嫌という程知っている。だが、笑えない記憶ほど思い返すと笑えてくるとは誰の言葉だったか。

 

 そんな役にも立たない空言を想い浮かべているウチに彼女は、“城ヶ崎 美嘉”は不敵に笑って後輩たちに最後の檄を入れた。

 

「比企谷さんの言う通り、気楽に生きたいだけならさっさと尻尾巻いて逃げた方が―――賢い選択だよ?」

 

 それだけを言い残して、彼女達は何も言わずにレッスン室を後にした。

 

 それこそ――――視線一つ彼女たちに寄越さずに。“相手にするに値しない”とでも言うかのように。

 

 

 無機質な扉が閉まる音が響き、沈黙が場を支配した。

 

 

 誰もが、俯き言葉を発しない。

 

 

 しかし―――――ソレは絶望を湛えたものでは、ない。

 

 

「―――っ」

 

 

 小さく響いたかすれた声。ともすれば、泣き声であると勘違いしそうな程微かな喉鳴り。だが、その小さな声はやがて重なり合って徐々に膨らんでいき大爆発を引き起こした。

 

 

「「「「「「むっかつくうううぅぅぅぅぅっぅぅぅっっ!!!!!!!!」」」」」

 

 

 鼓膜が破けんばかりの怒声が防音のはずのレッスン室に轟き、花も恥じらうどころが鬼も裸足で逃げ出さんばかりの憤怒によって真っ赤に染まった顔で新入生ズは地団駄と苛立ちをぶちまけていく。

 

「なにあのギャル! 急に出てきてしたり顔で!! 頭いかれてんじゃないっ!!」

 

「はぁああっ! いままでファンだったけどもう無理!! アイドルって裏の顔黒いってマジじゃん!! ふざけんな!」

 

「島村 卯月!! ドたまに来ました!!」

 

「灼熱の業火がわが身を包む(ちょうムカつきます)!!」

 

「うっきゃぁぁぁ!! あんな言い方ないにぃ!!」

 

「まじだる。なにさまって感じだよ、ほんと」

 

「あんなやり口全然ロックじゃないよ!!」

 

「猫かぶりにも程があるにゃ!!」

 

「ふふ、ふふふふ、ふふふうふふうふうふうふ」

 

「あんな人達だと思いませんでした!」

 

「むーーー!! 学校で人を見下しちゃ駄目って習ってないのかなぁ!!」

 

「…………お姉ちゃん、きらい」

 

「あんあまぁ、ぶちまわしたろかいねぇ………」

 

「アー、これが“ブッコロ”という奴ですネー。ひとつ、賢くなりました」

 

 年頃の少女から漏れ出てくる言葉とは思えない罵詈雑言を吐き散らしながら、彼女達は抜けていた腰を、気を、意気地を張り直して発散しきれない怒りを仲間同士での指摘へとぶつけてゆく。

 

「大体、りーなちゃんはさっきから最後まで決め切らないで次に行き過ぎだにゃ!」

 

「はあっ!? それを言うならみくだってこだわりすぎてワンテンポ遅れてるし!」

 

「卯月は不安なとこに入ると急に動きが小さくなるよね?」

 

「うっ、そこは苦手意識がどうしてもよぎっちゃって…」

 

「んじゃ、そこだけむしろおっきくさ―――」

 

 やいのやいのと、さっきまでの消沈ぶりは何処へやら。ついでに言えば誰もが牙を剥いて、額を擦り合わせてお互いの駄目な所を遠慮もなく指摘しまくっている。終いにはどっちが正しいかの言い争いになってマストレさんからリモコンを奪って競い合いまでし始める有様だ。

 

 完全にヒートアップして蚊帳の外に置かれた俺は頭を抱えているマストレさんの隣に行くとギロリと睨まれた。―――解せぬ。

 

「貴様、あいつ等がやらかすことを知っていたな?」

 

「馬鹿言わないでください。聞いてたのは“顔を出す”って事だけですよ。あんなドン引きなショック療法をすると知っていれば流石に止めてますよ」

 

 飄々と答える俺に深いため息をマストレさんが吐き出すが、あんなもん誰が予想できるって言うのか。普通に優しく声かけて終わるだけでも十分だったろうに、あんな挑発かまして去っていく意味が分からない。

 

「……結果としては腑抜けた室内犬どもを狼に変える大成果だ。だが、それは本来、私がしごき通して天狗になった鼻を叩き折った後の工程だ。いま、そんな事をすれば9割9分が潰れていた。―――おかげで、スケージュール表を総見直しだ」

 

 それは、あの時のライブバトルで765の美希にやられた時の消えない屈辱の記憶。

 

 それをバネに伸び上がったあいつらと同じ道筋がさらに短いスパンで行われた事を意味する。言ってしまえば始まりの街付近で魔王と出くわして、強制的に経験値を積まされたに等しい。そして、一度あがったレベルは  下がることはないのだ。

 

「「「マストレさん!! どっちが正しいですか!!?」」」

 

「どっちも違うわ、馬鹿もん共!!」

 

 苛立たし気に頭を掻きむしる彼女はその苛立ちを教え子で発散することにしたらしく、自慢のハリセンを高らかに鳴らして彼女たちの指導へと戻って行く。その背中を見送りながら、非常階段の下で勝気に笑った少女を思い出す。

 

 俺のいつものやり方を“お前の仕事じゃない”と軽やかに奪っていったピンク髪のカリスマ少女。かつて同じ場所で無残にも泣き崩れていた弱さなんて微塵も感じさせないその強かさの齎した結果を見て、俺はため息をもう一つ。

 

 そんなやるせない気分と徒労感を噛みしめながら俺は今後、こいつらがしばらく顔を合わせないで済むような予定表作りに取りくみ始めるのであったとさ。

 

 

…………いや、絶対俺が嫌われるだけの方が被害少なかったでしょコレ。

 

 

 

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~ 後日談 というか オチ ~

 

 

 あれから数日。顛末を報告した際に武内さんが頭を抱えたりもしたのだが、なんだかんだとあの事件は新人たちにいい方向に作用したのか見違えるほど野心的にレッスンも仕事も取り組むようになったおかげかメキメキと実力をつけ始めている。

 

 それに、良くも悪くも意欲的なおかげか仕事の量も倍増して俺の負担も随分と多くなったのでいつものベストプレイスにヤニ補給に足を向けた所―――蹲って凹んでいるピンク髪の馬鹿がいた。

 

「うぅー、莉嘉にきらわれたぁ……」

 

「いや、やる前にきづけよ……」

 

 あの時の強かさは何処へやら。あれ以来、家で妹から口を聞いても貰えないらしい彼女は定期的にココでこうやって凹みまくっているのである。というか、下のメンバーに実の妹がいるのだから一番被害甚大だという事になんで気づかないんだよ…。

 

 そんな彼女に呆れつつ、細巻きに火をつけて適当な言葉を投げかけてみる。

 

「だから、変な事せずに俺の案に乗っかとけばよかったものを」

 

「そんなん意味ないじゃん。例え、嫌われたって本当の事を私たちが教えてあげない方がずっと卑怯だし、いつか肩を並べるときに上下なんて気にしてるほど私たちに余裕なんかない――――本気で仲間だと思えば、喧嘩だってするもんでしょ?」

 

 当たり前の事のようにそう返してくる彼女に、正直言えば、驚いた。だが、思えば、彼女はあのクリスマスの時だって、夏のライブの時だって、十時の事件を知った時だって―――誰よりも真っ直ぐな感情を正しく真正面からぶつけてきた。

 

 気づかい屋で、世話焼きで、純情で、優しい癖に―――彼女は真っ直ぐで不器用に心の奥底の灯りを絶やさない。

 

 その熱に自らが焼かれてでも、大切なものを最優先にする。

 

 その彼女のありようが眩しくて、尊いものだと心から思う。

 

 だから、頭をいまだに抱える彼女と妹が仲直りするための案でも少しは考えてやろうと――俺は流れていく紫煙を目で追いながら微かに笑った。

 

 

 




このお話に出てくるような選択肢でハチの好感度を上げ続けると”バレンタイン編”で選択肢が現れて美嘉√のtrueENDへ入っていく事が出来るようになります(笑) まあ、どうでもいい設定ですね。

楽しめた方は評価をぽちっとにゃ♡

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