デレマス短話集   作:緑茶P

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('ω')美嘉ねぇを幸せにする――――このルートを書き始めた時に僕は誓ったんだ ←ひーろー感



【カリスマのおしごと】

 珍しい物を見た。

 

 いつもは勝気に微笑んで、背筋をまっすぐ伸ばしている“カリスマ”様が随分と苦し気に眉間に皺を寄せて白紙のルーズリーフを前にシャーペンで頭をコリコリ。なにか思いついたようにペンを走らせてはピタリと止まって乱暴に書いていたものを消しゴムで消していくその姿。

 

 そのまましばらく唸ったあと、ついには力尽きたかのようにデスクに倒れ込んだ彼女を見てついには笑ってしまい、ちょっとだけ逡巡して彼女の正面に座ることを俺は選んだ。

 

「また珍妙な動きをしてんな。埼玉特有の儀式か?」

 

「そろそろアンタの口いっぱいに深谷ネギ突っ込んでやろうかな?」

 

 お馴染みの埼玉ネタでからかいつつ手に持っていたコーヒーを置いてやれば、相手も手慣れたもので飄々と悪態をつきつつソレを受け取った。カリスマJKこと“城ヶ崎 美嘉”としがないアルバイト“比企谷 八幡”のなんてことないいつものやり取りにお互い小さく笑って、俺は皮肉を返しながら手元のソレを覗き込む。

 

「生で食っても甘いらしいな……で、今度はどんな見栄を張ってきたんだ?」

 

「あれを食べたら他のネギは辛くて受け付けられないね。って、なんで私が見栄を張ってる前提だし。……んー、コラムの内容が決まんなくてねぇ」

 

 流れる様なノリツッコみをかました後に彼女が言った言葉に得心が言ってつい笑ってしまう。

 

 彼女達“シンデレラプロジェクト”はささやかながらSNSのアカウントがあり、月に3、4回の頻度でコラムを載せることになっている。その掲載者は毎回くじ引きで決まっているのだが大体は好き勝手に好みの事を書いている無法地帯である。

 

 お酒に美容健康法、野花の写真におにぎりや心霊写真。マジでやりたい放題だ。なので、手慣れてきた最近は更新に困ることも無くなってきたのだが一部のメンバーには限っては少しだけ事情が異なる。

 

 まあ、ざっくり言えば他にもコラムを大量に抱えている奴らだ。

 

 その筆頭たるのはカリスマJKとして多くの雑誌に引っ張りだこな彼女だろう。

 

 意外な事に文才自体は結構あるらしく、メイクに流行や日常の事を取り入れながら若年層の心に響く記事を書く彼女のコラムはかなりの人気で武内さんがストップをかけるまでは依頼が止まないくらいには求められている。

 

 だが、人気文筆家だって無尽蔵にネタが零れてくるわけではない。

 

 何より、小説などと違って“雰囲気が似てるだけ”なんて言い訳を使って類似作品を送り出すわけにはいかないのでさらにシビアだ。そりゃ頭を悩ませもするだろう。

 

「ファッションも映画も遊びも、アプリも、家族の事も結構なペースで書き続けたからどうにも目新しいものはないしー、あんまり適当で面白くない事を書くのもわざわざ買ってくれた人にもうしわけないしねぇ…」

 

「お前も変な所で生真面目だよな。……タピオカとかは?」

 

「アンタはJKを舐めてんの? もはや、時代はだし巻き卵ドックとかフルーツティーに移りつつあんのよ」

 

「えぇ…最近のJKが分からな過ぎてもう怖いまである……」

 

 気軽にJKが好きそうな単語を並べてみたが俺だってこんなバイトをしているのだ。“ばえる”物に無知という訳ではない。タピオカの次にタロイモが流行ったということまでは知っていたが、“卵焼き”ってどういうことなのだろうか。もはやソレは映えも何もしないグルメだろ。しかも、それをパンに挟んじゃうって――――もうこれわっかんねぇな。

 

 それでもあきらめずに一応、仕事として彼女の記事を斜め読みした記憶を辿ってみるとある部分がすっぽりと抜け落ちている事に気が付く。それは、かつて彼女のコラムが人気を博した要因となったもので―――どんな若年層だって悩む永遠のテーマ。

 

 だけど、“ある時期”からピタリと見ることのない話題。

 

 うっかりとソレを口に出しかけ、その原因となる事件をなんとなく察している自分が口にするのも憚られて飲み込んだ―――のだが。

 

「ふーむ、こりゃいよいよ“恋愛”についてでも書くしかないかなぁ?」

 

 能天気に頭の後ろで手を組んで、なんでもない事のようにそう嘯く彼女にその気遣いは徒労へと変わってしまった。飲み込みかけた言葉が変な所で詰まって何とも言えないような顔を浮かべる自分を面白そうに眺める目が一対。その厭らし気に吊り上げられた唇に確信犯であることを悟って、小さくため息を漏らす。

 

「人の気遣いが台無しだな」

 

「まぁ、あんな醜態を見せた側がすることでもないと思うけど……いつまでもお互い引っ張っても息が詰まるでしょ?」

 

 そういって照れたように苦笑を零した彼女はコーヒーで口を湿らせ、ゆっくりと丁寧に言葉を紡いでいく。

 

「まだ、引きずってないっていうのは嘘だけどさ。あの二人をあれからずっと見続けて、支え合って、信頼し合う姿は自分が目指してた理想形だって心から思った。

 きっと、私が想いを遂げてもあんな風にはなれてなかっただろうし、幸せそうな二人を見ているとあれでよかったんだって素直に思える様になってきた。

 

 そう納得出来ちゃえる様になった時点で―――私の初恋は終わってたんだよ」

 

 ほんの少しの感傷と諦観。そして―――儚げに、華やかに笑ってそう告げる彼女は“少女”という殻を少しだけ破って“女性”へとなりつつあることを予感させる美しさを秘めていた。

 

 だが、それに目を奪われつつも思うのだ。

 

 大人へ、成人へ至るために彼女は強くなったけれども、その代償に彼女は深い傷を負った。

 

 あれだけの慟哭を零した感情を、自分のように深く記憶の奥底に沈めてたまに疼くソレが齎す苦しみに一人で静かに微笑むのだろう。だからどうか―――ソレが土に還り、いつか彼女の笑顔を咲かせる花の元となるまでの間くらいはその痛みをかつて感じた事のあるものとして隣で佇んでいてやろう。

 

 せめて、彼女が新たな輝きに無垢に微笑むことが出来る様になるくらいまでは、見守ろうと身勝手な想いを俺は胸に秘めていつもの様に軽口を口ずさむ。

 

「そんじゃいっそのこと“カリスマ失恋神社! 貴方の失恋引き受けます”とか書いとけよ。多分、ばずる、はず」

 

「デリカシーって言葉を知らないのかアンタは!! というか、ソレは“バズる”んじゃなくて“炎上”してるだけだから!!」

 

「似たようなもんだろ?」

 

「SNSなめんな!!」

 

 愚者の画は、“始まり”と“希望”も意味するそうな。だから、道化は今日も戯言を口ずさんで星々の気を紛らわしてやる。

 

 それだけしかできないのだから、それだけはやり切るべきだ。

 

 デレプロの事務所は、今日もほんのり切なく―――騒がしい。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 後日、カリスマJK“城ヶ崎 美嘉”が記した“初恋”を題材にした十代の恋の繊細さをリアルに掴み取ったコラムは多くの反響を呼び、その女子高生だけに留まらず若年層全ての心を捉えたそうな。

 

 その影響から月9のゴールデンタイムのドラマの脚本原作依頼や、執筆業務の依頼がさらに舞い込み彼女が目の下に隈を抱える程に文豪として多忙になっていくのはまた別のお話。

 

 

 

 




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