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意志を、言葉を、発するのはとても怖くて。
でも、発した言葉は必ず誰かに届いて。
あらすじという名のプロフ
比企谷 八幡 男 21歳
大学の先輩に美味しいバイトだと唆され付いてった先が346プロだった。逃げようとするが時給の良さとチッヒの甘言に唆され隷属された。ちょろい。丁度、シンデレラプロジェクトによるアイドル部門立ち上げの事務処理などをしている時に武内Pに効率の良さを認められ、引き抜かれる。
最初は何人かいた社員・バイトは激務・諸事情に耐えかねて徐々に消えていき、その度に便乗しようとしてチッヒに(社会的に)殺されかけている。気付けば、プロジェクト初期メンバーとして芸能関係のあらゆる事に精通して普通の社員より働かざる得なくなった。
送迎(バイク&ハイエース)・発注・スケ管理・人員配置など上司二人の補助がメインだったが年数を増すたび丸投げされるようになった。やだ、優秀。
大学1・2年でかなり単位を無理して取ったためゼミ以外は卒業まで週1で出れば間に合う計画だったが最近は346の激務のせいでその貯金も無くなりかけている。前期は教授4人に土下座した。そろそろやばい。
森久保 乃々 女 14歳
”デレプロ”においては非常に稀な親戚の縁故で入ったアイドル。加入当時はそのネガティブな姿勢やキャラクターに接し方が誰も分からず、彼女自身も肩身の狭さに同じ根暗そうな八の机下に引きこもっては引きずりだされていた。しかし、先住民であるキノコや小梅と接するウチに”アイドル”に魅かれ始め、性格も開かれていった。
そのおかげか、ぼっち街道を進んでいた学校生活でも初めての友人ができ、見違えるほどの積極性を出すようになった。しかし、その友人がイギリスに転校することを知り、喧嘩別れをしてしまった様で―――?
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いつもは賑やかでやかましいとすら思える事務所。だが今は、俺の無機質なタイプ音がなる以外はなんの物音もしない。誰もが俯き、口を開こうとしては力なくまた俯いてしまう。そんな事を繰り返してこの静寂は作られている。静かな環境はいつもならば願ってもないことなのだが、今回のソレは陰鬱な空気の重たさに随分と肩が凝ってしまうので素直に喜ぶ事も出来ない。
その原因となった俺の机の下に引きこもる少女はさっきまでの押し殺すような泣き声も消えて、誰よりも頑なに沈黙を守っている。
誰もが彼女を気にかけ、それでも掛ける言葉が見つからずに口をつぐんでしまう。
普段は弱気な彼女が、”森久保 乃々”が叫んだ、あの激情に、言葉に、答える事は簡単な事ではない。
『大切な人に裏切られた気持ちなんて、皆さんには分からないんです!!』
離れゆく初めての親友との喧嘩別れに掛けられた様々な感動的な言葉たちは、その燃える様な怒りと―――誰よりもその事を悔んでいる深い悲しみの前に一瞬で言葉を失ってしまった。
掛けられた安易な説得など、森久保の中で何度だって繰り返されたのだ。
誰よりも深く、繰り返して、それでも許せなかった。
そうした理論を越えた、最後に残った感情に誰よりも立ち尽くしているのは彼女自身なのだから。
ソレは、経験した者にしか分からない。
その地獄は、誰も手を加えることができない。何より――責任を負う事なんて、出来ない。
分かってはいるのだ。
かつて自分は、ソレを経験したのだから。
計算しつくした先にある無慈悲な答えと、その愚かさと無力さを後悔した。だが、自分はその行き止まりでカッコいい先人に問いかけられたのだ。
――――その答えは正解かと?
問いかけるだけで答えを与えてくれない、厳しい問いを。
出た答えを蹴飛ばして、何度でもやり直せと。
そう問いかけられた。
その答えはいまだに掴むことができない。
それでも、あそこで終わらせ無かったことを後悔したことはない。
だから―――俺も問いかけよう。
あの無責任で、更に苦しめる事になるその問いを。
小さく笑って俺はこっそりと隠していた細巻きを取り出して、火を灯す。
喫煙禁止のご法度など知った事か。あの時のあの人と同じ様に精一杯の強がりで言葉を絞り出す。
そんな資格はなくても、俺とは違った結末を彼女が導き出すことを信じて。
「―――森久保、お前はどうしたい?」
「………」
くゆらせた紫煙が消えていくのを眺めながら問いかけるが、彼女の答えはない。それでも俺は言葉を紡いでいく。
「俺は、昔、失敗した。誰よりも傷つけたくなくて、大切な物を遠ざけてもっと深く傷つけた。今でもその答えを、間違っていたとは思えないんだ。”それで消えちまうならその程度だって”言い聞かせて、信じて、進んだ」
「……」
「きっと、そのとき失っても、相手も俺もいつかは別な何かが失った何かを補ってくれたのかも知れん。それでも、傷だらけになって、恨めしく思うほど大きくなったそいつ等に他の誰かがあてがわれるのが心底嫌だったんだ。でも、相手もそう思ってくれているかもしれない押しつけがましい幻想を持っている自分を―――捨てきれなかった。そんな情けないモノが計算式の最後に残った情けない譲れないモノだった」
「…」
「もっと考えろ、森久保。何度だって計算し直せ。それでも、最後に残ったモノならば俺は何にも云わん。だが、後悔無いように答えを―――出せ」
「―――っ」
俺の勝手な独白に、小さな何かが答える。その、苛む様な、絞り出す声に、俺は答えない。
「わかん、無いです。森久保には、もうなにも――分かりません」
「思考を止めるな。何度でもやり直せ」
「なんで、そんな事を、言うんですか。いつもみたいに、引っ張り出して、無理やり、答えを――こんな時だけ、推し出してくれないなんて、酷いです」
掠れて、押し殺したその声を俺は冷たく突き放す。
「誰かの答えに縋るな。その上に組み立てた物は全部、嘘だ。誰でもない――お前自身が答えを出さなきゃ、意味がない。立つのも、座り込むのも、お前がきめろ」
「…ッひぐ、うぐ」
その言葉に、彼女は再びおえつを上げる。それでも、その答えだけは譲れない。誰かに縋った醜い弱さを小町は許してくれたが、その代償は誰よりも俺が知っている。その答えの行く末は、自分で出さなければいけない。
「――――お前は、どうしたい?」
再度繰り返したその言葉に、彼女は―――森久保乃々は、答えを示した。
「―――謝りたいです。”全部、嘘だって”、”ごめん、大好きだ”って、伝えたいで、す」
泣きじゃくり、言葉にならぬその声は確かに、発せられた。―――彼女は、答えを示したのだ。
ならば、その答えは、言葉は―――力を持った。
発せられた彼女の意志は、意味を持った。
ならば、そこからは問いかけた俺が動く事に―――躊躇いはない。
「分かった」
それだけ、短く答えて俺は下らない書類を作る手を止める。
「晶葉」
「なんだよ?」
短く発した言葉に、幼げなツインテール幼女が答える。
「いまから二十分でウチのボロバイクを出来るだけマシな状態にしてくれ」
「―――馬鹿にしてんのか?」
「無理か?」
「マシどころか、最高の機体にしてやんよ」
不敵に笑う彼女に思わず笑ってしまう。まったく頼もしい幼女だ。さて、やるべき事も考える事も急に出来てしまった。忙しい事この上ないが、ぼんやりしている時間はあまりないので次に頼るべき相手に声を掛ける。
「志希、今日だけは特別だ。どんな薬でも飲んでやる。漲るのくれ」
「効果はどれくらいがお望みかにゃー?」
「ぶっとうしで120キロで走っても疲れなくて、意識がはっきりしてるくらい」
「にゃんだ。あんま強くできないね~。コレを呑めば、オリンピックだって余裕だにゃー」
出された瓶を一足に飲み干す。飲み込んで奇妙な味に顔をしかめた瞬間に身体がカッとするのを感じる。わが身をチョットだけ心配したが、まあ、今さらだ。天才様の技術力に期待するしかあるまい。そう思って周りを見渡せば先の沈黙はどこへやら。誰もが忙しなく動き始め、顔を上げている。そんな情景に森久保が、小さく呟く。
「―――あんな、酷い事言ったのに、なんで、みんな」
「ボッチの俺でも、助けてくれる奴はいたからな。お前なら、もっと助けてくれるさ。――お前が、答えを出してくれるならな?」
机の下で呆然としている彼女の頭を荒っぽく撫でて、問いかける。
「で、友達はいつ出るって?」
「ゆ、夕方には出発するっていって、ました」
森久保はそれだけ言って俯いてしまう。きっと、細かい内容を聞く前に感情を爆発させてしまってそれ以上を聞いてはいなかっただろう。だが、まあ、ソレは今さらどうしようもない事だ。ならば専門家に聞いてみるに限る。
「元CAの夏美さん。今からだとどの辺ですかね?」
「んー、 便にもよるけど最速で4時33分発…だったかしら?」
時計を覗けば時刻は三時を回る所だ。経験上、車なら二時間ちょいは覚悟するところなのでバイクなら一時間ちょいでいければいい所か。――ソレもメンテナンスと道が上手く抜けれればの話だ。かなり厳しそうだが、請け負った以上は最善を尽くすべきだろう。そう思って交通情報を携帯で調べていると、拓海が席を立つ。
「里奈、昔のメンツに電話しときな。集まれる奴だけでいい。――アタシは東京で頭張ってる奴に話をつけて来る」
「ぽよっ!!?マジで!!?え、今からだとちょうきついよ?ていうか、もう引退したウチらがそんなん通らなくない!?」
「うっせー。ダチの為に走る花道にケチなんかつけられねえだろ。―――おい、ハチ」
「なんだ」
「道は作ってやっから、必ず届けろ。漢を見せな」
それだけ言って颯爽と去って行く彼女に、肩をすくめて答える。全力を尽くすが、そっから先は保証しかねる。元々がダメ元なのだ。それでも、この少女の計算式の先に残った心の在り様に、自分に無かった後悔を感じさせない様に彼女も動いてくれる。―――それだけ、森久保は愛されているのだ。ソレを、その在り様がチョットだけ眩い。
そんな独白を呑みこんでいる間にも時計は無情にも進んでいく。あんまりぼやっとしているとあっという間に愛しい友達とやらが空の彼方にいってしまうので、頭を撫でていた手を彼女の手を掴んで机の下からヒロインをひっぱり出す。戸惑いつつも自分の足で立ちあがった彼女にチョットだけ笑いかけてその手を駐車上まで引いていく。ゾロゾロと付いてくる部屋にいたアイドル達に会社中の視線が集まるのを感じて思わず苦笑してしまう。
この部署のお騒がせはもはや日常茶飯事なので今さらであるが、今回はちょっと大々的だ。頭に血管を浮かべて怒る常務を想像してチョット笑い、武内さんの悪化するであろう胃痛に頭を下げる。
そんな謎の集団を引き連れて部署専用の駐車場に辿りつけば、聞きなれたエンジン音。ちょっとだけ煙たい排煙の匂い。
ただ、聞きなれたその音は、いつもより力ずよく、心躍っているように聞こえる。
「晶葉、随分と早いな。まだ、15分も立ってないだろ?」
「はは、この私が機械を前に手を出していないとでも?メンテナンス?馬鹿言え。とっくの昔にこの機体はチューニング済みで、むしろ、リミッタ―を掛けていたのさ。ソレを外してちょっと点検するのに時間など10分もいらないよ」
「…勝手に触るなって言ってた筈だが?」
「……まあ、そのおかげで今回は間に合いそうなんだ。良いじゃないか。アクセルをふかして見ろよ、もうこの子をボロだなんて呼ばせないぜ?」
目を逸らす晶葉を睨みつつ、手をアクセルに伸ばし軽く回してみる。
その音に、目をみはる。
一瞬でトップアクセルに等しいほどに昇り上がる回転数は、いつも乗り回している相棒には無い感覚。目を見張って機体に間違いがないかと目を見張るが、ソレは何度見てもいつもの相棒の姿だ。ただ、その磨き上げた黒い鋼板は、いつもよりきらめいた、息する獣の様なあらあらしさを感じさせられる。
「モデルこそ最初期だが”猫足”と呼ばれ、今なお多くの人々に愛される名機。余計なカスタムなどいらない。ソレ単体で完璧な物は余計な物を寄せ付けない。―――美しいもんだろ?」
「――ああ」
そのいつもにない荒っぽさに反して、跨って見ればいつもの様な馴染む感触に、俺は小さく呟くしかできない。それだけ、この機体に見せつけられた。だが、今回の目的を思い出してすぐに森久保をのせよう彼女の方を見やると”佐久間 まゆ”がゆったりと手を握っている。
「大切な、ひと。なんですよねぇ?」
「は、はい」
「なら、間に合わなくても諦めてはダメですよ?そのまま追いかけたらいいだけなんです。国が違っても、時間が掛かっても、心がその人を求めるならば関係なんかないんです。立ち止まらなければ、諦めずに足を進め続けていれば、かならず、追いつけます。だって、赤い糸の先はいつだって心が引かれるさきにあるんですから。―――乃々ちゃんは踏み出せました。だから、大丈夫ですよ?」
そういって、まゆは彼女を軽く抱きしめて、バックシートへと乗せる。そして、乃々の手を赤い柔らかな布で俺と彼女を軽く結ぶ。
「捕まり続けるのも大変ですから。乃々ちゃんにも言いましたけど、間に合わなくても意志があればなんとでもなるんです。だから―――怪我や事故だけは、しないでください」
そう言う彼女の目はいつもの危うさはなく、ただ純粋に心配していることが伝わり、俺は小さくそれでも真摯に頷く。そんな俺に彼女はちょっとだけ困ったように笑って、小さな包みを渡してくる。
「空港に着いたら乃々ちゃんに渡してください。色々と役に立つはずですから」
そう言って彼女が下がると、今度は輝子が近づいてくる。
「…親友。最近の、乃々は本当に輝いていたんだ。新しくできた友達を語るその顔は、眩しくて、辛かったけど、あの顔を見れなくなるのはもっと辛いんだ。―――だから、私の友達を、よろしく頼む」
俯いたその声は、エンジン音にかき消されそうなほど小さかったが、不思議と耳に届く。そして、その声は森久保にも聞こえていたのか結ばれた手がチョットだけ強く俺の腹をしめる。
ソレにつられた様に周りを見渡せば、どいつもコイツも似た様な不安げで、それでも、祈る様な顔を浮かべてやがる。
ココに揃った誰もが、身勝手で酷い言葉を投げかけられた癖にコイツの小さな願いが叶う事を祈っている。
まったくの、お人好しどもだ。
そう思って俺は笑う。
輝子の頭を軽く撫でて、俺は一言”任せろ”とだけ呟いてアクセルを吹かす。
地下に鳴り響く音は、彼女達の祈りと声援を背に――――走り出した。