デレマス短話集   作:緑茶P

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(/・ω・)/あーやんなっちゃうよ、あーおどろいった。

という訳でいつも皆様に助けられてる作者です。

給付が貰えないかと頑張ってたら総支給になりそうで一人泣きながらポット植えしてました(笑)

世知辛いのぉ。渋のリクエストの周子を妄想して乗り切りました。

やっぱ沼は偉大。はっきり分かんだね(笑)

今日も元気に健康に気を付けてがんばりってきまっしょい。


春一番

 既に見慣れつつある首都の国道。いつもは平日の夕暮れ時なんて車道も歩道も混雑の一番激しい時間帯であるはずなのだが今日に限って言うならば人っ子一人見当たらないし、道行く車の数は気持ち少なめである。

 

 そんな不気味にも感じる街並みに小さくため息を吐こうとした瞬間に―――ソレは来た。

 

 自分の意志に反して車体が流されるほどの暴風。

 

 右に、左にと勝手に切られそうになるハンドルを無理くり力を込めて制御して、徐行でなんとかやり過ごしきった頃に吐きかけだった息を改めて吐き出して胸を撫でおろすと、隣から関西の訛りが入った独特で呑気な声が耳朶を叩いた。

 

「ぅおぉぉ、ニュースで台風並みの暴風とはいっとったけどここまで強いとは思わんかった。こりゃ、寮の台風対策と買出しをおにーさんに来てもらったんは正解やったかもしれへんねぇ」

 

「急に武内さんから“今日の業務は寮の整備です”なんてメールが来たときは何なんだと思ったけど、“春一番”ってのも案外に馬鹿に出来ないもんだな…」

 

隣の狐目の少女“塩見 周子”がしみじみとそんな事を答えるのを適当に答えながらも、朝の一幕を思い出す。謎のメールに従って送迎用の愛車“バン君”で寮に向かえばいつもの見慣れたおんぼろな寮が佇んでいた。その玄関先では併設された物置から鎧戸やら工具を引っ張り出そうとしている管理人見習の周子がいて、そのまま何故かあっちこっちの補修を二人して主たる“チヨ婆”に言われるがままこなして最後の業務である買出しからの帰り道なのである。

 

だが、この大荒れの様子を見るにその判断は苦労の甲斐があったと思ってもいいくらいの成果はあったようだ。“春一番”がホントは怖いってこの間、永遠の五歳児が言ってたのも納得である。

 

 という訳で、その商店街からの帰り道。この狐目少女を隣に乗せて最後の業務に勤しんでいる最中にその春の嵐はやってきたのだ。芸能事務所のアルバイトなのに最近は何でも屋の様な扱いになってきている自分の職務に疑問を感じつつハンドルを慎重に操作していると隣の周子が買物袋の中から何かをごそごそしているのが目に付いた。

 

「……なにしてんの、お前?」

 

「んー? 今日は頑張ってくれたおにーさんの為に“お心づけ”をご用意してるん、よっと!」

 

 器用に助手席から後ろの買い物袋に手を伸ばした彼女が戻って来て引き出したのは、香ばしいソースと鰹節が薫る“たこ焼き”であった。その食欲を誘う匂いに肉体労働に勤しんでいた若い体は素直にグウなんて腹をなかせる俺に彼女は楽しそうに苦笑を零してその封を開けた。

 

「どうしたんだ、それ?」

 

「この前、お好み焼き屋のおっちゃんの子供と遊んであげとったお礼ゆうておにーさんが車取りに行ってる間に渡しに来てくれてなぁ。せっかくのご好意やし、半分こしよう?」

 

 “アイドルのみんなの前やとこういうのも気ぃ使うしなぁ”なんてカラカラ笑う彼女に苦笑しつつも、あの死んだ魚の様な目をした少女が今はこんな無邪気に笑うようになったことにちょっとだけ胸の奥にあった重しが軽くなることを感じる。

 

 一歩間違えれば事案としてお縄を喰らっていたのだろうけども……まあ、結果として問題は起きていないのだから良しとしてココは素直に“お心づけ”とやらを頂くことにしておこう。―――と考えた時に思わず眉をしかめた。

 

 変わらず吹き荒れる暴風。普段ならば運転中にインスタント味噌汁だって作って見せるが、この状況で片手間運転するのは少々ためらわれる。そんな俺の思考を読んだのか分からないが――――周子が何てことの無いように爪楊枝に刺したソレを差し出してきた。

 

「――――――なんだ?」

 

「この嵐で片手は危ないやろ? 口あけぇや」

 

「………」

 

「もうそんな熱ないから猫舌のおにーさんでも平気やで?……ほれ、フーフーもしたったさかい」

 

 いつもの悪ふざけかと思いきや、普通に不思議がっている彼女にまた漏れそうになるため息を何とか飲み込んで―――――ソレを口に含んだ。

 

 こういうのは、照れた方が恥ずかしくなるのだ。なので何事もなかったかのように口に含んだソレを楽しむのが吉なのである。口いっぱいに広がるスパイシーなソースに柔らかな鰹節の味わい。その先にある外はカリっと、なかはトロッとする味わいは流石我らがデレプロ御用達のお好み焼き店の店主の貫禄を感じさせる味わいである。

 

 その味わいが適度にすいた小腹を満たし、不覚にもちょっとだけ幸せな気分に満たされたまま隣で美味そうにたこ焼きに舌堤を打つ彼女を見やって小さくため息を零した。こっちの気も知らずに呑気にまた、たこ焼きを差し出してくる頭の足りない妹分。

 

 だが、まあ――――少なくとも。

 

 こんな阿保みたいな日常を悪くはないと思っている自分がいるのも、確かな事なのだ。

 

 それが、いい事か悪い事か。進化か退化かは――分らないけれども。

 

 せん無き事を考えつつ、大荒れの天気の中で今日も俺は愛車を走らせた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「うい。到着だ」

 

「おつかれさーん」

 

 そんなこんなと独白を重ねつつも車はつつがなく進んでいき目的の寮へとたどり着いた。ドアを開けた瞬間にも風は吹き荒れ、微かに小雨も混ざり始めていたが大荒れになる前にたどり着けたのは僥倖だろう。他のアイドル達も電車等が止まる前に無事に帰れたとの連絡が携帯に入っていたので今日の業務は無事に終了である。

 

「んじゃ、俺はこれで帰るから。後は宜しくやってくれ」

 

「どうせ帰るだけならご飯も食べていけばええやん。というか、こんな嵐ん中かえったら危ないやろうし管理人寮に泊まっていった方がええんちゃう?」

 

 気の抜けた声で返事を返した周子も風の強さに眉を顰めつつも後部座席から荷物を手早く取り出して、こちらを振りかえりながら風に負けないように声を張りつつ答える。言われた言葉に微かに揺れるのを感じてしまった。

 

 確かに、ろくに食材のない我が家に帰ってもカップラーメンくらいしかない。その上に、この嵐である。流石に泊まるほど迷惑をかける気にもならないが素直に飯くらいは甘えてもいいのではないかと思って思案している時に―――――目端に移ったそれに反射的に体が動いた。

 

「周子っ!!」

 

「へ? て、うきゃあ!!」

 

 普段からは考えられないくらいに女の子っぽい声や、思ってたよりもずっと細くて軽く柔らかなその体を思い切り引き寄せて抱き込む。

 

 混乱と羞恥。その他雑多な文句に真っ赤に染まった彼女の罵詈雑言を聞き遂げると同時くらいに―――俺の頭に“かこーん”なんて小気味のいい乾いた音と共に風で吹っ飛んできたであろう木製のタライが強打していった。

 

 そんなコントや漫画みたいな衝撃に薄れゆく意識と頭の痛みに苦笑を零しつつも、腕の中で“んな、あほな”みたいな顔をする間抜けな少女に怪我がない事を確認して俺は意識を手放した。

 

 

-------------------------

 

 

 目を開ければ、金に近い目の前に透き通るような髪の毛と小豆色の瞳が俺を心配そうにのぞき込んでいるのとかち合った。

 

「……ハチさん、頭大丈夫?」

 

「寝起きから散々な言われようだな」

 

「あ、ちが、そういう意味じゃなくて……」

 

 苦笑と共に皮肉を返せば可愛らしくどもる霊感少女“小梅”に分かってると言わんばかりに頭を撫でてやれば少しだけいじけたように頬を膨らませるのが可愛らしくてまた笑ってしまう。

 

「……ここは、管理人寮か。どれくらい寝てた?」

 

「んと、3時間くらいかな? あと1時間目が覚めなければ救急車を呼ぼうってお話になってたよ」

 

「そりゃ面倒が少なく済んで何よりだ。というか、タライが頭にぶつかって意識不明とか説明されるのも恥ずかしいわ」

 

「ふふふ、前一緒に見たコントみたいだね。ん、周子ちゃんも心配してたよ?―――みんなが駆け付けた時なんて涙目で凄くてんぱ「よけーな事は言わなくて宜しい」――モガモガ」

 

 俺の軽口にクスクスと笑いを零しながら当時の事を教えてくれようとした小梅の小さな口は後ろから忍び寄った影、というか、周子によって塞がれてしまった。

 

「………ほんま、新喜劇でもないんやから死因がタライとか勘弁してや?」

 

「なるほど、確かにテンパってるみたいだな。誤魔化し方がいつもより雑だ」

 

 俺の軽口に頬を赤くしつつ無言の肩パンで抗議した彼女は手元に抱き込んだ小梅を送り出した後に小さくため息を吐いてこちらに戻って来る。俺の寝ていたソファの背後に回り込んで頭を覗き込む。

 

「ん、たんこぶはあるけど……血はでとらんね。痛くない?」

 

「まぁ、多少は痛むが気にはならんな」

 

 入念にぶつかったであろう場所をさすりながら具合を聞いてくる彼女の声はわりかし真剣で、本気で心配してくれていた事が分かってこそばゆい。なので、端的に答えてみるがさすっていた頭にあった手はなぜか後ろから抱きすくめる様に回され―――小さな囁きが耳元に滑り込んできた。

 

 

 

「助けてくれたご褒美に特別やで?―――“いたいのとんでいき”」

 

 

 

 甘く、包むような慈愛に満ちた声と共に感じた柔らかな感触と背筋に電流が走ったような得も言えぬ快感に驚いて慌てて振り返れば――――既に彼女は振り返ってわざとらしい大声を張り上げて部屋を出ていくところであった。

 

「さっ! ご飯温めなおしてくるからちょっとまっとき。今日のから揚げは絶品やで~」

 

 軽快な関西弁にいつも通りの声。

 

 ただ、それでも耳だけは真っ赤に染まっていて。

 

 

「照れるくらいなら、やんなきゃいいものを」

 

 

 なんて悪態で俺は自分の頬の熱も誤魔化した。

 

 窓の外はがたぴしゃと窓を打ち据える暴風が暴れていて―――――もうちょっとだけ嵐は続きそうだと予感させた。

 




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