デレマス短話集   作:緑茶P

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('◇')ゞいつも皆様に支えられている作者です。

_(:3」∠)_最近、ウチのナスビ様があちこちでボロクソに言われてるのでイメージ改善のために綺麗な茄子様をあげておきます。ちょっとね、欲望に正直なだけでいい子なんですよ? うちの子。

これで物足りないと感じる方は重症ですので、どうぞ沼の中に緊急搬送・入沼される事をお勧めします(笑)

広い心と空っぽの頭で今日もおたのしみくだしゃれ。





その瞳に映った感情は

「最近の私の扱いがちょっと雑過ぎるとは思いませんか、比企谷さん?」

 

「……あん?」

 

 新規の月9ドラマの監督や共演者の顔合わせを含めた懇親会の帰り道。その主役に見事選ばれた我らがデレプロ所属の幸運の女神こと“鷹富士 茄子”がいかにも怒ってますという様な表情でいつもの様に意味が分からない事を口ずさんだ。

 

 今日は珍しく送迎役としての召喚ではなく今後の調整役として(嬉しんでいいか分からないが)のお呼ばれだったので普通に呑んでいる。なので、徒歩にての帰宅途中であるなか、そよぐ梅雨の近づきを感じる湿った空気が酔いのほてりを心地よく覚ましている時に投げかけられたその言葉はどうにも要領を得ない。

 

 デレプロに入ってデビューしてから彼女の躍進は留まるところを知らない。歌もダンスもすぐさま多くのファンが付き、テレビにラジオ、雑誌など清楚でおっとりしつつも意外に多芸でノリのいい彼女は今や一躍有名人の仲間入りである。嘘か誠か年末年始番組に彼女が出るか出ないかでそのテレビ局の趨勢が決まるという馬鹿げた話まであるくらいだ。そんな彼女なので当たり前のように多忙である反面、手厚く支援されているのも当然のことであった。というか、こっちから人を出さなくても番組側が様々に配慮してくれているので至れりつくせりなはずなのである。

 

 彼女の扱いが雑に入るなら俺の扱いは何なのだ。―――社畜だね。読んで字のごとく会社の畜生だ。どおりで扱いが雑な訳だぜ。

 

「そっちは確かに恵まれすぎてるくらいだと思いますけどぉ―――私が言ってるのは“貴方”の事です、よっと! って、なんで避けるんですか!?」

 

「…いや、俺は日本人としての慎みを忘れたくないから」

 

「思ったよりも慎ましい!? けど、今日は逃がしません!!」

 

「げっ」

 

 拗ねたように呟く彼女の眼が怪しく光ったのを見越して腕に飛びついてきた瞬間に華麗に避けるが、結局、憤慨した彼女に無理くり腕を捉えられ強制的に腕を組まされる。女性特有の柔らかい触感と、華やかな匂いが微かに思考を揺らすがどちらかというと今日の彼女がめんどくさい状態で酔っている事を考えて憂鬱になったりする億劫さの方が上回っている。

 

「……で、一応は聞いとくけど、なんなんだ。雑も何も当初からこんな感じだろうが」

 

「ちーがーいーまーす!! だって、前はもっと送迎とか付き添いとか打ち合わせにだってついてきてくれたじゃないですか! それが最近じゃめっきり顔も出さなくなって、終いには事務所でもプライベートでも構ってくれないじゃないですか!!」

 

 プリプリと不満を漏らす彼女が組んだ腕から肩にヘッドバットをガツガツ繰り返しかましてくるのを面倒に思いつつ細巻きに火を着け、溜息を紫煙に混ぜて吐きつつも歩みと共に愚痴の様な反論を零していく。

 

「ウチのメンバーが何人いると思ってんだ。もう新人じゃないのにそこまで付き添いなんかする余裕があるかよ。………というか、後半のは完璧に仕事無関係じゃん」

 

「なんですか、仕事以外に私と重ねる時間が無駄だとでもいうつもりですか!? あー、私は傷つきました! 百歩譲って仕事の付き添いは勘弁しても、私に構ってくれないのは断固許しませんよ! 徹底抗議です! これはもう何されても文句は言えませんよ!!」

 

「………めんどくさいなぁ」

 

「そういう所ぉ!! 前はもっと構ってくれたじゃないですかぁ!!?」

 

 酔っているせいか言葉や思考を繰るのもめんどくさくなって素直に内心を零せば表情豊かにキャンキャン喚く彼女に苦笑が零れるのを自覚しつつ俺はまた吹き抜けた風に意識を逸らす。

 

 普段のテレビの前でのお澄まし顔は何処へやら、いったん裏に引っ込めばろくでなしな思考を垂れ流す彼女。だが、素直で、欲望に忠実で、欲しいものを素直に“欲しい”と口に出す人間は実を言えば俺の周りには珍しい。みんなその距離に、希望を、要望を口に出すには、一歩を踏み出す事をためらうのに彼女はストレートにソレを行う。

 

 それは全てを望むままに手に入れてきた人間の傲慢なのかもしれない。

 

 でも、彼女は“幸運”という未確定な物だけで生きてきた訳ではない事も俺は知っている。

 

 誰も見ていない場所で努力を重ね、考察を重ね、人から学び続け―――その希望を口にする資格を手に入れ続けている。それを長くはない付き合いでも知れることが出来たから、ほおっておいても“安心”できるのだ。――――あと、単純に事務所で構わないのは下手に構うと付け上がって手に負えなくなるからである。仕事については“信頼”はしていても、人間性が『ブレーキが壊れたブルドーザー』な人間を一々相手なんかしてられないのである。

 

 だが、たまには、ドラマの主演なんて勝ち取った記念の日くらいはこいつの要望に沿ってやってもいいか、なんて柄にもなく考えてしまった。

 

「……ま、今日はもう一軒くらいは付き合ってやらんこともない」

 

「ふえ?―――――あ、じゃあ、あのちょっとお城風のお店でしっぽりもう一杯」

 

「気もしたけど、気のせいだったな。んじゃ、俺はココで」

 

「あぁーーっ! ごめんなさいごめんなさい!! ちょっと魔が差しただけなんです!」

 

 またくだらない事を口走る彼女の腕をスルリと抜け出して自宅方面に足を向けて別れようとすると駄々っ子のように裾を引っ張り、慌てて近くの店を検索し始める彼女の横顔は微かな興奮と下心。それと、単純に嬉しそうなその様子に肩を落として苦笑を漏らす。

 

 こんな根暗な男と飲みに行って何が楽しいのか、今日も分からないまま俺は鼻息荒く見つけた店を指し示してくる“幸運の女神さま”とやらに大雑把に頷きを返した。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「では、改めまして―――乾杯です!」

 

「あいよ。お疲れさん」

 

 雰囲気のいい掘りごたつ式の個室で小さく上げた祝杯の音頭に向いの席から気だるげな声とジョッキの小気味いい音が響きます。それに合わせて流し込む麦酒の喉越しが爽やかに通っていくのを感じて私は思わずオジサンぽいため息が漏れ出てしまうのを止められません。

 

「ぷはぁー、やっぱり可愛らしいカクテルばっかチビチビ呑むより豪快にいく方が爽快感がありますねぇ」

 

「どうでもいいけど、酔いつぶれたら容赦なくゴミ箱にシュートして帰るからな」

 

「むむ、そこは健全な男子としてはお持ち帰りをすべき場面ですよぉ? ほら、据え膳 上げ膳 食べごろナスビ。今なら島根の両親にご挨拶するだけで実質タダ―――って、いたひ」

 

「タダより高い買い物はないって教育されてるもんでな」

 

 吊れない彼“比企谷”さんを挑発するように胸元をはためかせてみれば容赦なく顔におしぼりが投げつけられた。鷹が茄子をしょってきているのですから赤面くらいはして欲しかったですがどうにもこの男、恥というものがないらしいです。……ご両親の教育が行き届いてますなぁ、ちくしょうめぇ。

 

 とはいえ、こうして彼と差し向かいでどうでもいいお話しするのも随分と久しぶりで酒精とは別に体と心がポカポカと浮足立って、気分が向上するのを感じます。

 

 人気が出てきてからお仕事がたくさん貰えるようになって、ソレを上手くこなしていけば行くほどにベテランとして扱われて彼と顔を合わせる機会が無くなるというこのジレンマは実に厄介で歯がゆい思いをさせられている。逆に、実力と人気が上位に食い込めば専属になるのかと思えば別途でマネージャーさんがつけられて更に機会は減ってゆくし、そもそもがここの上位陣は怪物かと思う程の実力者が並んでいるので肩を並べるには、もうしばし時間が必要だ。

 

 いっそのこと毎日の付き添い日程が“くじ引き制”なら目の前の“お気に入りの彼”を独占できるのだろうけど、シンデレラ会議でも武内Pへの直談判は空しくも却下されてしまった。運は良くても、計画と合理性。ついでに言えば影分身が出来ない等の物理の壁は中々に厳しく私の役得を邪魔してくるトホホな日々なのである。

 

 そんな不満を載せて彼をジト目で睨んでみても涼しい顔で焼き鳥を頬張る彼に――――ふっ、と魔が差したとでもいうのでしょうか。

 

 意地の悪い質問が頭の中に閃きます。

 

「ふーんだ、これでも結構なお誘いがきてるんですよ、私。あんまり、そっけなくしてるウチに別の男に食べられても知りませんからね」

 

「………」

 

「へ?」

 

 さっきまで呆れつつも緩く笑っておつまみをつついていた手をピタリと止めて、驚いた様にこちらを真っ直ぐに見つめる目に思わず息を呑んでしまった。

 

 おや、おやおやおや?

 

 目を嫌らしく細めてずずいっと彼の隣へとにじり寄る私に“失敗した”みたいな顔で眉間に皺を寄せる彼に浮き立つ気分と酔いに任せてわざとらしく、しな垂れかかる様に体重を預けて顔を覗き込みます。

 

「うへ、うへへへへへ。じょーだんですよぉ~? じょ、う、だ、ん。そーんな顔して睨まなくたって私は一途なんです。なんたって、初詣で神様の前で宣言した位ですからもはや神前式を済ませたと言っても過言でもありません!」

 

「……過言でしょ。というか、何を勘違いしてるか知らんが自分の事務所のアイドルが他所の俳優とかに誘われてるって知ったら普通の反応だろ。頼むから面倒ごとだけは引き起こすなよ」

 

「ぐふふ、まあ、今日の所はそういう事にしておいてあげましょうかねぇ。あ、グラス空きましたね。今日は特別に気分がいいのでジャンジャン飲んじゃいましょう!」

 

「うわぁ、うぜぇ……」

 

 鬱陶しそうに眉を顰めたままそれっぽい言葉を紡ぐ彼ですが、これでも結構に人の機微を見る目はある方だと自覚している私は誤魔化せません。

 

 あの瞬間に彼の眼に映った素の感情。

 

 いつもの澱みの奥に隠れている微かで彼自身も自覚を得ていないかもしれない“ソレ”は随分と、私の中の独占欲を満たすような色を宿していた。そんな揺るがない事実が最近の会えない寂しさや、不満を溶かして体中が熱くなる位に私を満たします。

 

 

 あの初詣の時に、神様よりもずっと鈍感で朴念仁な彼に向って大声で告げた祝詞。

 

 それ以来、最初の頃に比べれば乱暴で、雑な言葉と扱いにはなったけども。それでも、私が思い切り我儘を言っても、猫を被っていなくても、幸運なんかじゃなくても――――ありのままの私を支えていてくれた。

 

 そんな彼に宿った小さな想いの芽を見れただけでも、今日の成果としては十分でしょう。

 

 

 

 なんでも無条件で与えられる幸福なんかより――――自分で苦労して詰めた小さな心の距離がこんなに嬉しく、満たされるものなのだと私、“鷹富士 茄子”は人生で、初めて知ったのだ。

 




('ω')へへ、旦那。このお話がお気に召して貰えたならポチっと評価してもらえるとあての承認欲求がビンビンでさぁ(笑)

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