デレマス短話集   作:緑茶P

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チッヒ「以上が第9回総選挙の結果となります」

(゜-゜)「……そうか。文香と奏は、推しは一歩届かなかったか」

チッヒ「先生…残念ですが、契約は契約です。1位の娘を書くという約束は――」

(‘ω’)「分かっているとも。私も、SS書きとしての矜持がある。……だが、推しの鎮魂歌をすましてからでも遅くはないだろう?」

チッヒ「………手早くお願いします。予定はもはや差し迫っておりますので」

(・へ・)「………早く、課金にでも行きたまえよ」

チッヒ「(っち」

―――――バタンッ!!

(ω)y-゜゜゜「ふぅ……。そう、か。だが、私の人生はこんなモノだ一番には永遠に届かぬ星の元に生まれてきた。これが、初めての経験なんかじゃない。だが、この俺を―――誰だと思っていやがる。妄想沼 “暴食”の担当『欲しがりsasakin』だぞ!!

 誰もが星を目指し頂点に票を積み上げるならば! 飽くなき妄想の沼という尽きぬ“飢え”を須らく読者に与えて引きずり落として見せてやる!!

その輝き全てを沼に―――黄泉(読み)の最果てで俺は 推 し を 勝 た せ る!!」


――――――――――――


という、一人茶番をして胃痛とふて寝から回復した作者です(笑)

加蓮おめでとう!! 

(;´・ω・)ネタだからね?ちゃんと他の娘の躍進にもエモってます(笑)


 次は“奏 レクイエム”挟んで 加蓮メモリーエピソード挟んでー 千夜ちゃん√やって~…………やること多くない?

誰か、代わりに書いてもいいんだぜ?



誰かの為でなく――

 何万人もの観衆がこの事務所に所属する数多のアイドルの頂点と、それ以外を決める間に挟まれたドラムロールよりもなお早く胸の鼓動を高めて、暗闇を裂くように踊る光源の行方に息を呑む。

 

 既に、上位10名中8名の名は挙げられた。これより先はそこに名を連ねることも出来なかった者か、夢に一歩届かなかった者。そして―――輝く城に君臨する新たなシンデレラだけが残った。そして、いまだに自分はその中に名は呼ばれておらず、ただその裁定を待つばかりの身である。ただ、不思議と緊張や胸の高鳴りというモノは浮かんでこない。誰もが歯を食いしばり、目を固く閉じ、一縷の望みと願いを託して焦燥に身を焦がしている中で私だけはその会場の全てをゆっくりと見回していました。

 

 見渡せば何処までも続きそうな広大なステージに余すことなく埋められた観客席。その全ての顔が意外とどんなに遠くてもつぶさに見れるという事に気が付けるようになったのはいつだっただろうか。

 

 商店街の木のパレットを組み合わせて作った粗末なお立ち台の上で、誰もいないガラガラの遊園地で、デパートの上の遊技場の隅で、自分に似合いもしないだろうと思っていた“アイドル”なんていう業種に疑問を抱きつつも舞っていたあのステージからずっと支えてくれていたファンの顔が―――そんな観客席の中でもパッと見つけられた事が嬉しくて、当の自分よりずっと真剣に、手を固く握りしめて自分が頂点に至ることを願ってくれている姿に胸が震えて、涙腺がじんわりと痺れてくる。

 

 

 それでも、だからこそ――――申し訳なくなってしまう。

 

 

 小さくなってゆき、絞られてゆく照明がやがて消えゆくその瞬間に誰もが願いを託している中で自分だけはなんとなく―――こうなることは”分かっていた”気がしていたから。

 

 

『シンデレラガールズ総選挙! 二位 “鷺沢 文香”!!! 一位―――――“北条 加蓮”っ!!!!!』

 

 

 高らかに呼び上げられたその二つの名に絶叫と悲嘆。そして、割れんばかりの熱狂がステージの全てを震わせた。新たな頂点の誕生を祝う声と、支え続けて至った歓喜。そして、自分が支えてきたアイドル達の努力が一歩届かなかった事への悔しさ。それら全てがごちゃ混ぜになって、それでも、全ての感情は轟きをあげて会場を揺らします。

 

 ソレを受けて友の躍進を喜ぶ人も、届かなかった無念に唇を噛みしめる人も、儚く散った想いが瞳から零れる人も心の中に浮かんだ様々な感情を飲み込んで全てを掛けて臨み、今この時まで鎬を削って競い合った仲間たちが手を打ち鳴らしその結果を受け止めました。

 

 その大歓声の中でゆっくりと華やかな照明が絞られて自分だけが眩い照明に照らされて暗闇の中で一人立つような感覚を味わいつつ、心の中に浮かんだ言の葉をゆっくりと、素直に吐き出してゆきます。

 

『…私の物語を信じ、共に紡いでくれる方がこんなにも存在する。それは、どんな御伽噺より幸せな筋書きですね』

 

 偽りの無い、心から浮かんだその言葉が会場に響き渡った。でも、決して口には出してはいけない想いを語れない罪悪感から―――――深々と頭を下げる。自分の言葉に喉が枯れんばかりに声を上げ支えてきてくれた人たちの声援と、温かい健闘を称えてくれるその声が心の底から嬉しくて、ちょっとだけ痛い。

 

 やがて、自分を照らしていた眩いばかりの光は無くなり今回の激戦を勝ち上った新たなシンデレラが前に一歩出て力強い信念を宿した瞳が照明なんかよりなお強く観客全ての心を縫い留めて、大歓声が一瞬で静まり返った。その中で語られる言葉はきっとファンの方もそうじゃない方も、すべての心の中で灯を灯す一種の神聖さすら伴って胸に刻まれて行く。

 

 

 これが、これこそが――――頂点。

 

 

 死力を尽くした。全てを出し切った。重ねた想い全てを乗せて今日このソロライブで歌い切った。ここまで自分なんかを信じ支えてくれたファンの為にも、誰よりも輝いて見せると誓ったあの人の為にも、譲るつもりなんてなかった。それでも、今日の彼女の輝きに一瞬でも目を奪われ、息を呑んだ瞬間に―――自分はきっとこの結果を予感していた。

 

 やがて、彼女の最後の覚悟を告げる宣言と共に打ち鳴らされた大音量の伴奏。そして、それぞれのアイドルが自分のファンたちに向かって全てを飲み込んだ笑顔で感謝と“次は、次こそは応えて見せる”と声を大にして残った意地と共に高らかに叫んで手を振ります。

 

 それに応える声援を受け、ゆっくりと幕は閉じてゆきます。

 

 数度と繰り返した熱狂の祭典は――――新たな語り草を残して、ゆっくりと漣のように初夏の残り香と共に消えてゆきました。

 

 

―――――――――――――

 

 

 死力を尽くしたこの祭典が終わった後、舞台裏でステージの上で堪えていた感情をほんの少しだけ溢れされせたメンバー。泣き、笑い、喜び、悔しんで誰もが思い思いの形でソレを発散し、プロデューサーから今回の総括を聞き終わった時には満身創痍で歩くのもやっとな有様になってしまっていました。

 

 毎年、この時ばかりは宴会好きなここの仲間たちも大人しくそれぞれが帰途について行きます。そんな祭りの後のけだるさを誰もが感じる中で、何人かの子達に囲まれて言葉を交わしている彼が目につきました。気だるげで、暗い澱んだ瞳。鴉の様な髪に特徴的に跳ね上がった数本のアホ毛。距離があって何を話しているのかは少ししか聞こえなかったのですが―――“誰に投票したのか”という問いと、普段よりも幾分と柔らかな表情を浮かべているのできっと彼女達にいつもの様に素直じゃない称賛を送っているのでしょう。

 

 それにちょっとだけ逡巡を挟んで、小さく手を振るだけに留めてその場を後にします。

 

 今すぐにでも駆け寄っていきたい思いをゆっくりと飲み込んで、すれ違う仲間たちに労いの声を掛けつつも出口へ向かって一息。バックの中の携帯端末を取り出してそっとその電子の文を届けるボタンを押し込んだ。

 

 

“今夜は、月が綺麗ですよ?”

 

 

 彼との秘密の逢瀬の時にだけ使う特別なメッセージ。

 

 

 これを読んだ時に彼が浮かべる顔を想い浮かべて、少しだけ零れる笑いを飲み込みつつ私は暮れなずむ夕日に手を翳しつつ彼を迎える準備をするために下宿先の小さな古書店へと足を進めた。

 

 

―――――――――――

 

 

「掛ける言葉は――慰めと祝いどっちがいい?」

 

「来て早々に随分と意地悪な事を聞きますね…」

 

 随分と夜も更けた頃、煌々と差し込む月明かりだけが照らす馴染の一室に彼がのっそりと襖を開けた時に放った無遠慮な一言に思わず笑いが漏れてしまった。それでも、零れる笑いを飲み込みつつも彼に軽口を返しつつ部屋に招き入れた。

 

「ちなみに、それぞれの回答を先にお聞きしても?」

 

「慰めの場合は“惜しかったな”で、祝いの場合は“2位、おめでとう”だ」

 

「……どっちもどっちですね」

 

 彼に用意していたグラスにお気に入りのワインを注ぎつつ問いかけた言葉は彼らしい不器用さが溢れる答えで苦笑を零していると彼が憮然と“ボッチのボキャブラリーは貧困なんだよ”なんて負け惜しみの様な事を呟くのでそれがおかしくてもっと笑ってしまう。それに肩を竦めるだけで答えた彼がボトルを取って今度は私のグラスに注いでくれます。並々と注がれた赤い甘露は月を反射して、透き通るような煌めきの奥に随分と長く深い付き合いになった“想い人”を映し出す。

 

 私達、アイドルに負けず劣らずに連日連夜をそれこそ休む間もなく段取りと調整に追われた事務方の彼もその目の下に現れる隈や、いつもより気だるげなその姿に自然と浮かんだ言葉を乾杯の音頭として選んだ。

 

「とりあえずは運営、お疲れさまでした。比企谷さん」

 

「……こっちが労われたら立つ瀬がないんだよなぁ」

 

 そんな気の抜けて締まらないいつものやり取りを経て鳴らされた澄んだ音色に――――ようやく私“鷺沢 文香”は詰めていた息を吐き出したのでした。

 

 

――――――――― 

 

 

 あれだけの熱狂の中で必死になっていた事が嘘のように古ぼけた和室の中は静かで、初夏の夜の訪れを告げる様に鈴虫の恋歌だけが響きます。

 

 馴染のちゃぶ台を挟んで、何を話すべきかも判然としないまま、たまにカーテンを揺らす心地いい風とその奥で微笑む月を肴に二人で杯を重ねた。柔らかな甘みと渋みを含む酒精が体に残っていた緊張を徐々に解し、心地よい微睡と―――夜風に冷やされた火照りが人肌を恋しく感じさせる。

 

「せっかくなので、さっきの言葉は両方とも頂いてもいいですか?」

 

「……それはいいんだけど、にじり寄る必要ある?」

 

 酔ってるからと、今日は特別な日だからと言い訳を重ねて欲求の赴くままに膝を擦って彼ににじり寄り窓際まで逃げて観念した彼の胸板に頭を載せる。なんとも言えない微妙な顔を浮かべた彼に微笑むだけで応えて、深く息を吸えば彼独特の紫煙と紅茶の香水が鼻孔を満たして心の緊張と理性はもう少しだけ緩くなっていき、彼の手を取って無理くり頭に添えさせる。

 

 呆れたような視線と溜息を漏らす彼にクスクスと笑いが零れるのを堪えつつ、ねだるように頭を軽くゆすって催促すれば彼も観念したのかゆっくりとその手で壊れ物を扱うかのように丁寧に髪を梳いて、言葉を紡ぐ。

 

「2位、おめでとう。本当にどっちが勝つか、分からんかった。……惜しかったな」

 

 髪を梳く以上に慎重に言葉を選ぶその彼らしさが愛おしい。入ってきた時に述べた彼の言葉は照れ隠しでもなく、本当に真剣に考え抜いてそれしか選べなかったのだろう。

 

彼の言葉はいつも重く、まっすぐな本質が詰まっている。それは日常で交わすには重たすぎる故に彼は言葉を弄して、性根すら曲げて軽口のように嘯く。だけど、こういう時に彼が絞り出す言葉はその分だけ億万の言葉で彩られた美辞麗句よりも直接、胸に響く。――――黙っていようと、思っていた想いすら揺すぶるほどに。

 

「惜しくなんか……なかったです。加蓮さんの歌を聞いた時、一瞬だけ、あの迫力に呑まれてしまいました」

 

「…………」

 

 心に秘めていた想いは、抜けた楔をきっかけにポロポロと零れ出ていきます。

 

「他の誰にも負けていないと、思っていました。貴方やファンと重ねた日々で誰にも恥じる事のない“輝き”になると自分自身に誓った最高のパフォーマンスだったはずだったのに―――――あの瞬間、確かに私は負けを認めてしまったんです」

 

 やがて、その言葉を皮切りに見て見ぬふりをしてきた暗く、醜い感情が一気に溢れてきて自分の心と頭を真っ赤に染め上げ、瞳から今まで感じた事のない感情が溢れて雫となってゆきます。

 

「くや、しいです。―――悔しいんです。 “誰かのため”にとか“みんなの笑顔の為に”とかそんな綺麗事なんて全部、ぜんぶ嘘だったんです…。あの時に私は他の誰かの為の想いなんて欠片も思いませんでした。ただ、加蓮さんに自分の全てを掛けて臨んだライブで負けを自分で認めてしまった事が――――悔しくてたまらなかった」

 

 アイドルになって、知らない自分をたくさん見つけてこれた。挑戦への高鳴り、支えられる温かさ、憧れ、立ち向かう勇気、受け止める柔らかさ、決意。本当に色んなものを手に入れてきた中で見つけたくないものまで、見つけてしまった。

 

 荒れ狂う感情の中で、纏まらない言葉を脈絡もなく並べ立てた。溢れる涙が止めどなく溢れ、目の前のぬくもりに感情を我儘な子供の癇癪のようにぶつけていく。真っ赤に染まった頭と心が全てを吐き出して空っぽになり、声はやがて意味のなさない荒い呼吸だけになった時に囁くような声が聞こえた。

 

「なら、もう諦めるか?」

 

 聞きなれた、意地の悪い声。

 

 決して素直になんてならない、いつもの曳かれ者の子守唄。

 

 答えが分かってるときにだけ零す、彼の言祝ぎ。

 

 かつて、私は学びました。“怒り”とは大切なモノを守る“決意”を与える感情だと。恐れて震え、動けなくなる情けない心を奮い立たせる“勇気”の原動力だと。そして、私はまた学びました。この醜い“嫉妬”と呼ばれる怒りだって―――人ではなく自分に相対するための“決意”を与えるのだと。

 

 ならば、答えは決まっています。

 

「今度は―――今度こそ、誓います。他の誰でもなく、“鷺沢 文香”自身が 願い 想い 求める事を。あの頂点からの景色と物語を誰にも譲らないという、覚悟を」

 

 涙と悔しさで見れた有様ではないのでしょうけれども、それでも私は彼の顔をまっすぐと睨むように見据えて宣言します。

 

 案の定、困ったように眩しそうに眼を眇めた彼が苦笑を零しつつ―――小さく呟きます。

 

 

「次こそなれよ、シンデレラに」

 

 

「当たり前です」

 

 

 月夜に照らされ鈴虫の恋歌の中、その小さく交わされた短い言の葉。それは、私の胸の中に“執念”と呼ばれる焦げ付くほどの熱を小さく胸に灯した。でも、意地悪されっぱなしというのも癪なので―――少しだけ私もやり返させて頂きましょう。

 

 

「だから、―――そのポケットの中の投票権は次回のシンデレラ用に大切にとって置いてください?」

 

 

 その一言に、固まる彼の顔を見て留飲を下げ私は愉快な気分のままグラスのワインを飲み干した。

 

 

 




(゜-゜)らいねんこそは……

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