デレマス短話集   作:緑茶P

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(*'▽')ふれちゃん しゅき


【その温もりを 欲し望む】

 色とりどりの花弁が咲き誇った春の季節は大粒の雨が強かに地面を洗い流すたびに夏に近づいて、力強く猛る新緑へとあっという間に衣替えを行った。そして、赤、青、緑に黄色に白、茶色。世界は見渡すばかりに彩りに溢れていて瞬きをした瞬間には次の表情を浮かべていていつだって私の心をときめきを与える。そんな中でも最近、新しく加わった彩りが私の胸を強く跳ねさせた。

 

 暗く澱んだ黒の奥に見え隠れする優しくて、強い光。

 

 隣で気だるげにハンドルを切りつつ、何度も後ろの疲れて眠ってしまった小さな子供たちを起こさないように気を遣う彼。そんな、人目につかない所でしか出さない不器用な姿が可笑しくて小さく口元が綻んでしまうのを感じる。あの肌寒さを感じる恋の聖夜から私の世界に加わった色彩の名前は“比企谷 八幡”というひねくれた“黒”と―――その中に淡く散りゆく桜のように散らされた“恋”という桃色。

 

 初めて感じるその味わいにいまだ戸惑う事は多いけど、輪郭と奥行きが分からないその感情と興味はゆったりと味わう様に確かめる好奇心と、探求心を擽り今日も私に手を伸ばさせる。

 

「ふふっ、撮影の本番は明日なんだけど――二人ともレッスン張り切り過ぎて疲れちゃったのかな?」

 

「お前も寝てていいぞ。どうせ後は寮に帰るだけだからな」

 

「んふふ、助手席のお役目は運転手がお眠にならないように愉快なトークを提供することだからね~、まずは定番のガールズトークでもしておく?」

 

「まず片方が男の時点で前提崩壊してるんだよなぁ……」

 

 いつもの軽口にげんなりと返してくる彼に小さく笑いを零しつつ何の話題がいいかと今度は本当に思考を巡らせた結果、さっき渡された明日の撮影スケジュールに空いた微妙な空白が脳裏を掠めた。気になってる相手との話題選びで一番に出てくるのが“仕事”というのも味気ないが、とっかかりとしてはガールズトーク以上には定番だ。

 

「そう言えば、明日のスケジュールに帰りの新幹線まで空き時間が結構あったけど何か他にも挨拶周りとかあるの?」

 

 撮影自体が朝一の新幹線に乗り込んで駅から目的地まで向かいながら進めていくというのでリテイクやトラブル対策にして余裕を持つというのは分かるが、それにしても少しばかり時間が空きすぎている。そんな疑問に彼はちょっとだけ後ろを伺って桃華ちゃんや悠貴ちゃんが寝ている事を確認してから声を潜めて、苦笑しつつ答えてくれる。

 

「あっちのスタッフが会場近くのキャンプ場を借りて撮影終わった後にサプライズでバーベキューの準備してくれてるとさ。そこの近くに温泉街もあるし、帰り時間までは息抜きして来いと武内さんからのお達しだ」

 

「わお、粋なことしてくれるね、旦那。………でも、サプライズなら今ネタバレされちゃうのはどーかとフレちゃん思うなぁ?」

 

「どうせ変に勘ぐって撮影に影響が出るくらいなら“共犯者”になって貰おうかと思ってな。お前、騙すのは上手い癖に、そういうの気になればどこまでも身構えるだろ?」

 

 ちょっとだけ非難めいたジト目を向けて睨めば思いのほか自分の事を見られている物だと胸がドキリとさせられるが――“ドッキリ番組の幸子を少しは見習え”なんて軽口を言われて思わずその肩を抓ってしまう。

 

女の子と二人きりで話している時に別の娘の名前を出すとは、なんてデリカシーの無い男だろうか。

 

 だけれども、それとは別に納得と予想外の嬉しい報告にちょっとだけ気分が持ち上がるのも感じる単純な自分に苦笑を小さく噛み殺す。そうなればあの空き時間も丁度良く設定されたものだと分かった。皆でバーベキューを楽しみ、温泉にでもゆっくり浸かって露店を巡れば苦も無く新幹線で帰って来れる時間帯だ。最近の忙しさもあり、休日だって家を出るのが億劫だったことを考えるとソレを見越してくれていたプロデューサーの心配りに小さく感謝をして―――ちょっとだけ下心まで疼いたのを感じた。

 

「ね、明日は帰って来てからハッチ―もそのままお休みだったよね? だったら、」

 

「飲まんし、飲ませんぞ」

 

「………ぶぅ」

 言い切る前ににべもなく切り捨てられた言葉に体全体で不満を表すようにシートに深くもたれて頬を膨らませてみるがいかんせん取り合ってはくれないようだ。

 

「フレちゃんもたまにはパーッと気分をリフレッシュしたいんですど~?」

 

「帰って来てから楓さん達と飲みに行きゃいいだろ」

 

「…………そういう事じゃなくて~」

 

「温泉入る前に酒入れる馬鹿がいるか」

 

 それっぽい正論でツレなく返されるが、そういう事ではないのだ。別に、お酒を飲んで騒ぎたいわけじゃなく―――貴方と、もう一回呑みたいというお誘いだ。それが分かっているくせにはぐらかす彼はこっちも見ないままハンドルを切って、その話は終わりだと言わんばかりに態度で指し示すのに心のモヤモヤはより大きくなっていく。

 

 あの日、酒精に湧き立った感情のまま今までずっと溜め込んでいた澱みを彼にぶつけ、そして、それを彼は怒りも咎めもせずに幼子をあやす様にその弱さを抱きしめて道を示してくれた。憧れた華々しい大人の階段には程遠い情けなくて恥ずかしい思い出だけれども、その日、私“宮本 フレデリカ”は初めて素の自分で世界へと踏み出した。

 

 だけど、だから―――今度はもっと素直にあの味を楽しんで、彼と語らいたいと思うささやかなリベンジはこんな感じでいつもはぐらかされてしまって叶わず仕舞いだ。それでも、諦め難くてもう一度だけ彼に攻勢をかけてみようかと思った頃には無情にも安全運転の車は見慣れたオンボロ寮の目の前に止まって、その緩やかな感覚に後ろで眠っていた年下の仲間達が意識を取り戻したことを知らせる様に微かに息を漏らしたのが聞こえた。

 

 どうにも、今日の楽しいお喋りの時間はこれで御仕舞の様でちょっとだけ歯噛みしつつも切り替えて目をこする二人に柔らかく声を掛けて帰宅を促す。

 

「ほーい、帰ってきたよー? あとはゆっくりお布団の中で休んで明日に備えよ~」

 

 悠貴ちゃんが何とか意識を取り戻して小さくお礼を残して車を降りるが、桃華ちゃんはこっくりこっくりとまだ夢うつつの様で立ち上がれないようだ。小さくともシャンといつでも背中を伸ばした少女のそんな年相応な姿にクスリと笑いが零れて彼女を迎える様に抱っこしてあげるとそのまま素直に抱き着いて体重を預けて、耳元で小さくお母さんの名を呼ぶその無邪気さが可愛らしい。

 

 自分も幼い頃はこんな風に抱っこしてもらったのか思い出そうとして見たが遠い記憶すぎてちょっと思い出せない。今更、両親に抱っこをねだる訳にもいかないだろうから――今度、どっかの誰かさんにでも甘えてその温もりでも思い出させて貰うとしよう。

 

 そんな事を考えてほくそ笑みながら、後ろでドアを代わりに閉めてくれた彼の“悪いが、頼むわ”なんて短い労いに振り返っていつもの様にちょっとだけおチャラけて答える。

 

「うふふっ、こうしてると髪色も相まって親子みたいじゃな~い?」

 

「よくて姉貴って所だろ―――んじゃ、明日は6時頃迎えに来るから頼むわ」

 

「うい、むっしゅ。ハッチ―も残業のしすぎで遅刻のないよーに」

 

「……最悪、駅集合で」

 

 いつもの軽口の応酬に悠貴ちゃんに苦笑いを浮かべられながらも彼は見慣れたバンに乗り込んで走り去っていく。さっきまでの二人きりの時の会話を思えばあまりにあっさりしすぎてるような気もするけれども、ベタベタ睦言を去り際に残していく彼を想像すれば似合わな過ぎて吹き出してしまったので今くらいが丁度のかもしれない。

 

 私の笑ってしまった振動に桃華ちゃんがぐずるように身を寄せてきたので深呼吸一つで気持ちを切り替えて彼女が風邪を引く前に寮に送り届けるために歩を進めた。その道すがら、持ち物や収録の内容の事にあれこれ考えを回しつつも―――宮本フレデリカはあの日に感じた温もりを恋しく思って少女を抱く手にちょっとだけ力を込めた。

 

 

-------------

 

 

 紅葉に染まる山も美しいと思うけれども、梅雨時期を少し抜けた新緑の翠というのも透けるような輝きと、草木の匂いをはらんで吹き抜ける風を感じられて実に見応えがあると思う。それに特有の滑りと温さを伝えてくる温泉も相まっているとなれば、楓さん達じゃなくたって深く息を吐いて蕩けてしまうだろう。でも、私は同時に思うのだ――――何事にも限度ってモノはあるだろう、と。

 

「いい湯ですねぇ~。このままずっと入っていられそうなくらいですっ!」

 

「……そうだねぇ、と、溶けちゃいそうだよ~」

 

 スレンダーな体を肩までお湯につける悠貴ちゃんがのびのびと、元気に笑顔を浮かべるのにこちらも気さくに答える。最初の内は素直に同意も出来たのだが……40分はちょっと、入りすぎなんじゃないかなぁ、と思う訳ですよ。

 

「ふぇ~、とてもよい湯質でお肌がスベスベになっていくのを感じますわ」

 

「 わお、 ココまでスベスベになったら十分だと、フレちゃん思うなぁ」

 

 体に何度もお湯を塗り込む桃華ちゃんがうっとりとしつつもご機嫌な声を上げるが、それだけツルツルの肌の何処をこれ以上磨くというのかフレちゃんには理解不能の域に達している。というか――――熱い。どうか、どっちでもいいから私が言葉に含めているささやかな提案にそろそろ気が付いて欲しい。切実に、あつい。

 

 くらくらとし始めた頭と、体中から熱が湧き上がり始めて抜けなくなってきたこの釜茹で状態も最初はこんな状態ではなかったのだ。

 

無事に到着した私たちは順調に撮影と各地のルポをこなしていき予定よりもずっと上出来にお仕事のノルマを達成した。そして、スケジュールが余った事に憂慮する二人を誘導し、香ばしいバーベキューサプライズで驚かせて、スタッフ全員で大いに盛り上がった楽しい思い出を作ることが出来た。

 

 それから、少しだけ街に下って評判の温泉というここに行きついたまでは良かったのだが―――ここまで長期戦になるとは露とも思わず軽いノリで“我慢比べ”なんて提案したのが運のツキ。言い出した手前と年上のプライドが邪魔をして言い出せなかったし、入ってから思い出したけど………フレちゃん、熱いの苦手だったわ。ぴえん。

 

 いや、別に罰ゲームのジュースが嫌な訳じゃなくてね、プライドがね。というか、あちゅい。やばいやばい矢場い、え、二人とも強すぎでしょ。熱耐性高くない?キュートは炎タイプだった?マジかー。でも、温泉ってことは水タイプ?え、あれ、二つあわさって最強に――

 

「そろそろ八ちゃまも待ちくたびれてるでしょうから上がりましょうか?」

 

―――桃華ちゃん、グッジョブ、天使かよ。君ならそう言ってくれると信じてたっ!! 大人な幼女憧れちゃうよ!!―――もう無理。

 

「うむっ! 諸君らの我慢強さには恐れ入った! なので、それに敬意を評してジュースをおねーさんから進呈しちゃう!!」

 

 勢いよく、いの一番に釜の中から飛び出して全身に山から吹き抜ける風の涼しさを受け開放感を味わった。嗚呼、こんなに大自然の風の恩恵をありがたく感じる日が来るとわ……ん、強風ボタン何処かなぁ? もっと風ぷりーず。

 

 ネタのようにお道化て偉ぶる私に二人は笑顔で“ワザと負けてくれるなんて大人だなぁ”みたいな尊敬の眼差しを混ぜて寄越してくれるけどゴメン、多分だけどこの中で一番ガキっぽい私にその視線は刺さります。勘弁してください。

 

「さぁ! これだけポカポカになった体にキンキンに冷やしたジュースで乾杯だよ!!」

 

 その視線から逃げる様にゆっくりと上がってきた二人の背中を追いやってそそくさと女湯を後にする私達を咲きかけの藤の花が呆れたように風に揺れて見送った。

 

 

――――――― 

 

 

 

 茹だった頭と火照って燃えるような体を抱えた私はそのあと、外で待ちぼうけしていたアシスタント君に合流した瞬間に――――ぶっ倒れましたとさ。

 

 

 どうにも、カッコがつかないなぁ……。

 

 

 

―――――――

 

 

 山間部の夕暮れというのは日が長くなってきた最近でも随分と早くやってくる。山合に沈む夕日を群青色の夜空が追いかけ、鴉も七つの子のお守りをしに山へと帰ってゆく風景を膝元で唸る金髪少女に団扇で風を送りつつ眺めながら紫煙をその空に溶かす。それに伴って薄手の浴衣では少し肌寒くなってきた事もあって窓を閉めようかと伸びた手は、いまだにホカホカと熱を発して寝込んでいる少女にはこれくらいが丁度よかろうと思い直してそのまま引っ込め事の顛末を思い返せばため息も漏れようというモノ。

 

 随分と長く浸かっているものだと思って旅館に置かれている古びた漫画を読んで時間を潰していたのだが、ようやく上がってきたと思った彼女は一目で分かるくらい茹だっているくせに顔だけは楚々と澄ましているのだから驚かされた。楽し気に我慢比べをしていた事を話す少女達の会話からなんとなくこの馬鹿の状況を悟った俺は適当な理由をあげて二人だけを街に送り出したのだが―――ソレを見送った瞬間にこの馬鹿“宮本 フレデリカ”がぶっ倒れやがったのだ。

 

 どうでもいい意地をここまで張った事に呆れるべきか、叱るべきかは悩みどころだがそのまま一室を借りて彼女を寝かしつけたのが20分ほど前。一応、水分は風呂上がりに取ったらしい事と様子を見てくれた女将さんからも“涼しくして安静に”という事だったのでこうしている。

 

 どうにも世の中、順調に進んだ仕事の分は代わりの波乱が巻き起こるように出来ているようでままならない。そういったやるせなさに苦笑を漏らして細巻きを静かに揉み消していると―――微かに身じろぎする感触が膝から届いた。

 

「ん――――、あれ、ここって……?  っって! 新幹線っ!! 時間は!!?」

 

「まだ20分位しか経ってないから心配すんな、ばかやろう」

 

 しばしの間ぼんやりと天井を眺めていた彼女は窓の外の夕焼けを見た瞬間に真っ青な顔で飛び上がり――俺の一言に何がどうなったかを聡い彼女は悟ったらしく、萎むように項垂れていってしまう。そんな殊勝な姿に普段からこれくらいおしとやかなら仕事も楽だろうと思いつつ―――面白さは半減だろうなと考えてしまう自分に苦笑が漏れてしまう。

 

 だが、いつまでもこんな顔されているのは実に厄介なので早々にお立直り頂くことにしよう。

 

「あのー、その、―――あうっ!!」

 

「“我慢比べ”って小学生じゃないんだから勘弁してくれ――― 一応、飲んどけ」

 

「うぅぅぅ、ハッチ―の優しさが沁みる様に痛いよぅ……」

 

「そうだろうと思ってやってるからな」

 

「………いじわる」

 

 なんと申し開きするか言いあぐねて縮こまる彼女の首元にキンキンに冷えたポカリと小さな嫌味ををくっつけてやれば彼女はその冷気に飛び上がったあと、ちょっとだけ恨めし気な目を向けてくるのに苦笑してしまう。

 

 柳に風、暖簾に腕押しなんて言葉を体現しているようなコイツではあるが、存外に自分の非があるときには素直に反省するし、何ならいっそのこと思い切り怒られるのを望んでいる節があったりする。まぁ、その気持ちも分からんではない。

叱られたり、怒られたりするというのは一種の許しを与える行為なのだ。だから、ソレを受けずに触られないというのは心の疚しさを抱えた座りの悪い気分になる不思議な情緒が人にはある。―――なので、あえて俺は軽い嫌みに留めて後は何も言わない。

 

 そんな意地の悪さに気が付いて、頬を膨らませて睨んでいるであろう彼女の一言に小さく笑いを飲み込んで俺も自分の分のお茶を開けた。

 

「心配しなくてもあの二人を見送るまでは堪えてたよ―――覚えてるかは知らんが」

 

「うーん、努力が実った事を喜べばいいのか、迷惑かけて落ち込むべきかおぷすきゅーるな気分だよ」

 

「どっちも反省案件待ったなしだろ、大人しく反省しろ。……ま、年下の前でカッコつけたい気分はなんとなく分かるけどな」

 

「…おねーさんとしては、つい我慢しちゃうんだよね~。いやー参った参った」

 

「そんで、年上に茹でダコでで倒れてくるとかマジで勘弁して欲しいんですけど?」

 

「妹分3号としてはついつい甘えちゃうんだよねぇ~。いやぁ、参った参ったドーン」

 

「誰が3号だ。というか、どさくさに紛れて膝に戻ってくるな」

 

 良いではないか~、とか嘯きながらまた人の腿の上に戻って来やがった馬鹿に微かに抵抗してみるが意地でも動く気はないのか浴衣にがっちりしがみついて離さない。これを振り払ってもまた辛気臭い顔をされる事を天秤にかけてしばし。考えるのも面倒になって俺はもう一度ため息を吐いて、肩を落として好きにさせる。それに機嫌を良くしたのか寝やすいポジションを探り当てて深く息をついた彼女。その体はいまだに驚くくらい熱を発していて、その熱気に乗って薫ってくる花のような香りに気勢はもっと削がれていく。

 

「……いいから余計な体力使わず、帰るまでに体調戻せ」

 

「ん、きもちいい~」

 

 結局は、この問題児に風を送ってやるくらいには自分も手のかかる妹分として認めているのかもしれない。そんなどうでもいい独白を重ねて俺は心地よさそうに目を細める彼女に苦笑を零した。

 

 

 孤独から人の温もりを求め、渇望した周子。

 

 憧れと理想を追いかけ、熱望した奏。

 

 鬱屈した世界を払う事を求め、希望した美嘉。

 

 徹底的な理論と方程式に圧し掛かられ、絶望した志希。

 

 勝手に人の妹分を名乗る5人の問題児たちはあらゆる葛藤や苦悩を抱えた先に“望み”というモノを宿して当てなき道を駆け出した。だが、この少女は、“宮本 フレデリカ”だけは何を求めているのかは未だに分からない。

 

 かつて、聖なる恋の日に彼女が発した激情。それは不器用で怖がりな少女が初めて望みという感情を宿した記念すべき日で、奇しくも新たな彼女の生誕を祝うのにうってつけだった日でもあった。その日以来、こうして一歩だけ近くなった距離で華やかで無邪気に“甘える”ようになってきた。

 それが今までの我慢を取り返すべくしている行動なのか、単に“甘える練習”とやらを重ねているのかは分からないが―――いつか彼女もアイツ等のように夢中になれる“望み”とやらを手に入れられればいいと、初夏の夜風に揺れる風鈴に小さく願いを託した。

 

 

--------------

 

 

「撮影が終わったばかりだというのに、直ぐ別の打ち合わせを始めるなんてハチちゃまは本当に乙女心が分かっていませんわ!」

 

「あはは…。まあ、一緒に回れなかったのは残念だったけどお仕事じゃしょうがありませんよね?」

 

「 ぁ、…ん~、ほんとにそれは残念なんだけど―――個人的にはのんびりリフレッシュも出来たから大満足かな!!」

 

 プリプリ怒る桃華ちゃんと、気遣う様に微笑む悠貴ちゃんの言葉に一瞬だけ素で疑問符が浮かび、何とか取り繕うことが出来た。あれから温泉街の観光を終えた二人が旅館に戻ってくるまで彼の膝を存分に堪能していて忘れかけていたが、この二人には別件の打ち合わせという事になっていた事を失念してボロを出してしまう所だった。ちょっとだけ弛んだ頬と気持ちを引き締め直して、いつもの調子で相槌を打てば二人は素直にソレを受け入れてくれる。

 

 寮までの短い道ではあるが、今日の現場でのあれこれを話しているウチに最初の話題はあっという間に流れていってくれた。でも、いまだに微かにこの頬を染めるのは温泉の熱でも楽しい思い出でもなく―――この胸に宿って離れない桜色の感情のせいだろう。

 

 年上や年下どころが、家族にも意地ばっかり張って踏み込まない私がようやく見つけた素直に飛び込んでいけるその場所。あの夜から、その熱が引くことはない。

 

 味わえば味わう程に嵌っていくその泥濘に私はいつの間にかどっぷりと浸かって抜け出せなくなっていく。今日の温泉のように最初は温く、段々と、じわじわとその熱は体の芯に溜まって、ついには焦がれるほどに焼き付き始めている。こんな甘さを味わった人間は―――少なくとも、親友と呼べるあの4人は他のモノで代えようなんて思えなくなっているだろうな、だなんて一人小さく笑いを噛み殺す。

 

 「突然ですが、フレちゃんくーいずっ!! “近づけば薄れ、離れれば焦がれていくもの”ってなーんだ?」

 

 唐突なその謎々にも素直な二人は首を傾げてあーでもない、こーでもないと頭をひねってくれる微笑ましい光景に笑いを零しつつ、一人心の中で正解を呟く。

 

 

 

 答えは  “欲望”  。

 

 

 欲しいと望んで、焦がれてしまうそんな業の深い感情。

 

 二人には――――ちょっと早かったかな?

 

 そんな意地悪な事を私は考えつつ、他の4人を出し抜きつつ明日オフであろう彼をどうやって連れ出そうか思考を巡らせ、携帯のメール機能を開いたのでした、とさ

 

 




_(:3」∠)_評価を恵んで、くだしゃぁ・・・・
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