デレマス短話集   作:緑茶P

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_(:3」∠)_そのまま、全く頭を使わずかきかき


一作30分チャレンジSS!!② 【とある事務所での一幕】

 

「……教育実習?」

 

「ええ、なもんで一月ほど欠勤させてもらうっす」

 

 俺から出された不在時のスケジュールを訝し気に眺めた緑色の上司が俺の一言に目を丸くして驚きをあらわにしている。言いたいことはなんとなく察することが出来るがそこまで驚かなくてもいいようなものだとも思うのだが。

 

「いや、あの激務の中でよく資格と単位が取れたという驚きも勿論ですけど……今更、別の進路を選択肢に入れている事も驚きまして。ここまで来たら普通にウチに入社でよくないですか?」

 

 “面接抜きで顔パス入社ですよ?”なんてホントに不思議そうにそういうのだからこのエビフライおさげにこちらだって顔を顰めるしかない。なんやかんやと大学四年間をココのバイト漬けで終わらせてしまう所ではあるが、この社畜生活が今後も続くと思えば嫌でもぞっとする未来図である。それが例え世間一般ではこれ以上ないくらいの一流企業であっても願い下げだ。―――それに、意図して取った訳でもないが就職課のおばちゃんがお節介で教えてくれたこの申し出にかつての恩師の一言が脳裏をよぎった。

 

 “意外と向いてるかもしれないぞ、教師”

 

 紫煙を燻らせながら誰よりも俺を導いたあの憧れがからかう様に、謳うように言ったあの言葉。

 

 別に教師になりたいわけではないし、なれるとも思ってなんかしていないがかつて彼女が見ていた景色というモノを見学してやるのも面白いかもしれないと思って申し込んだ申請は思いのほかあっさり通って、慌ててスケジュールや代理の人間を整えて今に至る。

 

 自分の前を本当に不思議そうに眺める彼女に肩を竦めて答えれば、しばらく頭を手持ちのペンで書いた彼女は黙考の末に決断をしたらしく―――その隅っこにある枠に印鑑を押してこちらに返してくる。

 

「ま、たまには息抜きも必要…という事にしておきましょう。スケジュール調整もいまの所は慌ただしくないですしね」

 

「いや、別に遊びに行くわけではないんですけどね?」

 

「社会科見学という名の物見遊山以外の何物でもないでしょう、こんなモノ。あと、コレは忠告ですけど―――下手に辞めようなんてすると君、また刺されますよ?」

 

「問題発言と名誉棄損が多すぎてツッコミきれないッス」

 

 実習の方はともかく刺されるってなんだ。現代日本でそんな何回も刺されてたまるか馬鹿野郎。そんな事を抗議しようと思えばまるで邪魔な犬を払うかのように腕を振る彼女が隣に積んである膨大な決済書類を引き寄せたのでお喋りはここまでらしい。普段のサイコパスと笑顔の仮面に騙されがちだが、この人もこの巨大なプロジェクトの計理や出納の全てを一人で受け持っている超仕事廃人。用件が無事に済んだならここに長居をする必要も無かろうと次のもう一個のハンコを貰いに奥にある武内さんの執務室に足を向けた所で思い出したかのように声を掛けられた。

 

「あ、そうそう。そろそろ、そういう入社に関する話が常務や武内さんからも来ると思うんで心の準備はしといてください。――――賢い選択を期待してますよ、比企谷君?」

 

「―――だから、入りませんって」

 

 さらっと、興味もなさそうに零されたその一言。結構に機密事項だったのではとボブこと俺は訝しみながら肩を竦めて彼女に背を向け、歩みを再開する。良くも悪くも、俺の大学生活も選択のタイムリミットも近づいている事だけは嫌でも実感させられるそんな午後の一幕は、いったんこれで幕を閉じたのだとさ まる

 

 

 

――――とある事務員のどうでもいい呟き――――

 

 

 

 

「ほんと、可愛くない部下ですねぇ。というか、彼は総武校でしたっけ?…………ん? あれ、もう一人そんな高校生が―――――」

 

 アイドルのプロフィールが纏められた冊子を引き抜いて流してゆけば、自分の記憶に誤りが無かった事を知って思わず頭を押さえてしまった。

 

 

 

 

「“神谷 奈緒”ちゃんのいる学校じゃない」

 

 

 

 

そんな誰にも聞き遂げられない渾身の運命の悪戯は見なかったことにした緑の悪魔によってめんどくさそうに畳まれた冊子と共に閉じて箪笥の中に閉じられてしまったのであった、とさ。

 

 

 




続きはきっといつか、気分が向いた時に♡

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