バトスピでTUEEEEEEしたかった人生だった 作:ルーニー
「……え~。いや、え~?」
さて。キッズたちが目的である炎組のもとに向かうらしかったため後を追ったのだが、建物めっちゃ立派でびっくりだ。びっくりするぐらい公共施設と言われたら納得できるぐらいには立派な建物だこれ。
え。これを占領してるの?炎組何してるの?え?普通に文句出てくるレベルじゃすまないでしょこれ。
「炎利家!尋常に勝負勝負!」
そんな立派な施設の中から聞こえてくる少年の大声。言ってること的にこの子がケンカを売りに行った子なんだろう。
う~ん。結構離れていても聞こえるこの声のボリュームよ。試合を申し込むにしてももうちょっと民度上げていこうぜ少年よ……。
「炎利家?」
この世界のプレイヤーの民度にちょっと頭抱えている俺だが周りはそうでもないらしい。ため息交じりに息を吐いていると、炎利家という名前を呟いた少年の声が耳に入る。
炎組のことについて考えていたから耳に入ってきたんだろう。俺と同じで炎利家が目的なんだろう声のもとをたどっていくと、そこには先ほど同じ方向に走っていった少年少女が施設を前に立っていた。
「利家といえば、ムサシにこの人ありとうたわれた赤属性の使い手。緑属性の宝緑院兼続とこのムサシを二分する強豪でごじゃる」
……すげぇなこの子。言われてみればそうだったなと今思い出したもん俺。
一応調べてからムサシに来てるけど、結構忘れてるぞ。メモ見ながらじゃないとS級が誰なのかすら思い出せないからなぁ。これはあれか。もしかしてこの子結構通な感じ?S級プレイヤーのことを結構知ってるオタク的な。
「いやぁ。最近の小さな子もすごいんだなぁ」
というか趣味にこんだけ記憶リソース使ってるのを考えたら結構悲しい子だったりしないか?とも思ったりしたが、まぁそれも個人の人生。悪事を働かなければどう生きようが自由だしあんま考えるのもよそう。ここだとエンターテイメントとしてバトスピが流行ってるから解説とか戦術研究家的な仕事とかももしかしたらあるだろうし。
しかし、炎利家ってそこまで言われてるのか。S級ってのは知ってたけど、そこまで言われていたとはなぁ。
聞こえてくるちびっこの博識さに感心しながら入り口に向かう。まぁ、さすがにいきなり炎利家とやらせろと言ってもやらせてはくれないだろうけど、条件ぐらい聞いていて損はないだろう。こんな立派な施設占拠してる連中に話が通じるのかと言われたら首ひねるけどさ。
まぁそれはそれとしてだ。少年と舎弟くんのやり取り見てて絡まれるのもやだし施設の中にこっそりと入っていこうかなと思ったんだが、入る分にはだれも止めなくてホッとした。占領してるのにそこはおおらかなのか……。いや、もしかして使用料とってるとかか?さすがにそれは犯罪だからやってないとは思うけど……いややってること不法占拠だからもう犯罪やってるわこれ。え。警察ホント何やってるの?
カードゲーム世界の理不尽さに改めて頭を抱えそうになるが、今言ったところでどうしようもないことなので置いておこう。いや置いておいたらいけないけどもう後回しにしよう。俺一人が動いたところで世間が動かせなかったことを動かせるとは思えないし。まぁさすがに目の前でなんかやらかしてたら止めるぐらいはするけどさ。
とりあえず、案内板を見て一番規模の大きいスタジアムへ向かう。廊下とかの造りを見ていると大規模企業か行政が運営しているレベルだろと言いたくなるほどのものだった。これを占拠してるのはダメだろと思いながらスタジアムに到着。しばらくスタジアムを見ているとキッズと歌舞伎っぽいメイクをした少年がバトスピでデュエルを行うための特殊な機械であるバトルマシンに乗った。
「お?始まるか」
特殊なCGで見るカードバトルというのは、どんなデュエルだろうが心が弾むものだ。
先攻は少年で、初ターンからブレイドラを2体、エリマキリザードを1体召喚。エリマキリザードだけLv2:2000にして残りはLv1:1000でターン終了。
キッズは低コストメインのスピリット主体の速攻デッキかな?なるほど。ビートダウンメインの単純だからこそわかりやすいデッキってところかな。
「おぉ!いきなり3体も!」
そして最前列で騒ぐ少年と同じぐらいの少年たち。年齢的に少年のお友達かな?
けど、まさか初心者が赤速攻を握るなんてなぁ。赤速攻はやることが単純な分動き方にかなり注意が必要になってくる。バトルスピリッツの特徴とも言える、ライフを減らせばその分リソースに回るから相手は強いカードを出すことができる。速攻対策も豊富にあるし、初手によっては返しで場のカードが全滅、そのまま負けることだってある。逆にリソースが増えても除去が間に合わずそのまま負けることもあるけど、除去が豊富な環境だとそれも運の要素が強い。まぁ、手札を補充させる手段が豊富にあるのなら速攻デッキは十分に強力なデッキであると断言してもいいな。
そしてキッズのターンが終了し、炎組のターン。少年はオードランをLv2:3000で召喚し、レイニードルもLv2:3000で召喚。そしてオードランでライフを直接殴りに行った。
「いきなりライフかよ……。ブロックだブレイドラっ!」
ここでキッズがライフで受けることを恐れたのかブロックを宣言する。
「ここでブロックするのか……」
スピリットが2体しかいない、かつバーストもセットしていない今、ライフが1点2点削れたところで使えるリソースが増えるだけだからここはスルーが吉のはず。防ぐにしても、返しのターンの攻撃でフラッシュタイミングで何かしらのマジックかアクセルが使われると考えてもやみくもにブロックしてスピリットを減らすのは得策じゃないだろうに。
「……毎回思うんだけど、なんか俺の考えとは違うことされてると俺の考え方がダメなのかねぇって思ってしまうよなぁ」
さすがにもうほとんど抜けているが、当初は当時の環境トップとかの動かし方とか見てたからこれみたいな低コストビートはどうなんだと思っていた。
いや、型に嵌まれば強いのは違いないとは思う。基本的に最序盤で横に並ぶことはまぁまぁないから防御や除去が間に合わないとそのまま殴り殺されることはままあるだろう。
とは言っても、向こうの環境だと某創界神ネクサスだったり某万能バーストスピリットとかその他諸々の除去カードは豊富にあったからまぁ除去は間に合ってただろう。けどこっちはそういった万能カードは限りなく少ない。手の入りやすい低コストをメインにした低コストビートが主になるのはある程度仕方ないことなんだろう。
……というか、この世界低コストから一気にビートダウンしてくる奴らが多くて低コスト除去カードが必須なのホントきついんだよなぁ。そりゃカードプールが違えば環境が違うのは当たり前だけどさ。だけどそれに枠取られてやりたいことがやりにくいのがホントつらいんだよ。
そしてブレイドラ1体だけを残し、少年のターンは終了。次のキッズのターンはブレイドラをLv3:3000で召喚し、残っていたブレイドラをLv2:2000へと上げる。そしてLv3のブレイドラで攻撃。少年はそのままライフで受けてターンエンド。
返しに何のカードも飛んでこないことが分かっているのにわざわざBPが高い方で攻撃をするか。防御の面でいえばBPの低い方でアタックした方がよかったのになぁ。何か考えているのか、何も考えずに攻撃したのか。後者だと痛い目に合うのは目に見えているのになぁ。
少年のターンが回ってきた。まずはレイニードルをLv1:1000で召喚し、レベルの高かったオードランとレイニードルをLv1:1000へと下げる。そして作ったコアでドス・モンキをLv1:3000で召喚。
「BP3000!?」
なにやらキッズはLv1でBP3000なのが嫌なのか驚いたような表情を浮かべたが、個人的にはあそこまでキャラを並べられたのがキツいだろうと思う。
なにしろ、ライフは5点しかないのに少年のフィールドには4体のスピリッツ、一方のキッズは寝ているフレイドラを除いてたったの1体。単純な計算で3点も削られることになる。キッズの手札は2枚だけ、その中か、あるいは次のドローで少なくとも3体を除去できるカードを持ってこなければ負け線濃厚だ。
そして少年はドス・モンキでキッズに対して攻撃。キッズはそのままブレイドラでブロックをしたがBP勝負で負け、ブレイドラが破壊される。
「……ほ~ん。ライフを削られるのが嫌なのね、あの子」
スルーすればいいアタックにもブロックを重ねる。ちょっと考えたらBP勝負で勝てるのに全部が破壊されるような方法でブロックをしていく辺り余裕がなくなっているのがわかる。
まぁ、予想通りというかなんと言うか。この後は特筆する必要もなく、キッズが手札をすべて使って場にスピリットを並べてターンエンド。
ターンエンドせずにこのまま攻撃していれば防御するカードがなければ勝ち、防御札を警戒したうえでのターンエンドだとしても、現時点で少年は手札が2枚しかないのだからその確率は低い。このまま待っていても少年のメインステップで除去カードを使われるかキャラを2体増やされるだけでそのまま負けが確定する。なら、攻撃をした方がまだ勝つ確率は高かったはずだ。
そして少年のターン。スピリッツを2体召喚し、そのまま全キャラで攻撃をしてゲームは終了。初心者らしい負け方をしたもんだと逆に感心したが、どうもそれだけで終わるほどここの民度は高くはなかったようだ。
バトルが終わってキッズと少年が言い争いをはじめ、あろうことか少年がキッズからデッキを取り上げた。まぁ、確かに突然こられて喧嘩売りに来たのが気に入らないのはよく分かる。けど、さすがに物を取るのは傲慢が過ぎる。人の物をとったら泥棒。これ世界の理ね。
さすがにやりすぎだと言おうと思った時に、その声はスタジアムに響いた。
「ちょっと待ったぁ!」
爽快に階段を駆け下りてそのまま策を飛び越え、3m近くはあろう高さを飛び降りた少年は、デッキはバトラーの命、その命を取り上げる行為はバトラー失格だという、もっともなことを口にした。
「そいつの言う通りだ。お前さん、ちょっとそれはやりすぎだ」
物のついで、というか乗り掛かった舟と思い少年に合わせてフィールドに飛び降りる。飛び降りるときちょっと玉ヒュンしたのは内緒にしてほしい。
「あぁ!?うるせぇぞ!部外者は黙ってろ!」
「これ、部外者云々という問題じゃねぇっての。やってること窃盗だぞ。泥棒だぞお前」
「はっ!こいつがよえぇのが悪いんだよ!」
「そういうこと言ってるんじゃなくてだな」
聞く耳もたんと言わんばかりの態度に思わずため息が出る。こういう思考停止的なことがまかり通るのホントカードゲーム世界って感じがするよなぁ(遊◯王並感)。カードゲームが強ければ何してもいいって、弱肉強食的な意味でもあるのか?ホント怖いわカードゲーム世界。
そしてそのままデッキは勝てば返してやるとどこぞのジャイアンが言いそうなことを言う少年。それについてはそうなるんだろうなぁと薄々思っていたから特に思うことはないが、はてさてどっちが行くかねぇ。
「どうする?よかったら俺が行こうか?」
「いや、ここは俺が行く。あんたは下がっててくれ」
「そうかい?」
それでも少年が行くにはどうなんだい?と言いかけたが、腰につけてあるデッキケースをおもむろに取り出し、それを天井へと突きつける。するとどこからともかく飛行物体が飛んできたと思ったらそれはバトルマシンの形へと変わっていった。
「て、テメェ、そいつは……!」
「ほう。S級認定された人しか持たない専用マシンか」
専用バトルマシン。さっきも言ったように、これは協会からS級であると認定されたプレイヤーにのみ使用を許可されるバトルマシンで、これがあればどこでもCGを使ったデュエルができるというかなりの優れものだ。そう考えたらどこでもデュエルできるようにした某遊戯王のデュエルディスクはとんでもないものだったんだなぁとしみじみと思う。
「こ、こいつがトシさんと同じS級バトラー……?」
しかし、少年はよほど自分の尊敬しているプレイヤーだということを認めたくないのか、慌ててバトルマシンへと走っていった。
聞いたことのないS級バトラー、ね。急に仕事が増えるなんてとんでもない交通事故だなチクショウ。