はたらく魔王さま!~IN EDO~    作:ジャンヌ

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第一章 魔王と勇者とダメ侍
第一話 勇者、侍に出会う。


ここは江戸中で最も危険といわれる、かぶき町。

往来には既に人も見当たらず、寂しげな空気をかもし出す真夜中の路地。

「・・・あー気持ちわりー、ちょっと飲み過ぎたか、こりゃ・・・」

一人で夜道を歩くこの男、名は坂田銀時。

着物を半身着崩し、黒のインナーという奇妙な出で立ち、腰に“洞爺湖”と彫られた木刀を引っさげる個性あふれるその者は、電柱に片腕ついて立ち止まり、

「オボロロロゲシャ・・・ちくショー、何で物語しょっぱなからこんな調子なんだよ、マジ自分に聞きてェよ・・・ウプ・・・ゲエエ・・・長谷川もすぐつぶれたモンな・・・」

口元をだらしなく拭き、また歩き出す。

「あー神楽のやつ大丈夫だよな、メシ勝手に食ってねーよな、新八に留守頼んだから心配ねーだろ・・・二日酔い決定だな、こりゃ」

 頭をボリボリかき、面倒そうにため息をつく。

「たく・・・そーいや今朝の結野アナ、『今夜は空気が綺麗ですので是非親子で空を見上げてみてください』とかいってたな・・・どーせ寝てんだろーし銀さん一人で星数えよっかなーっと、ホレ一、二、三、」

 わざわざ指さしながら数えていく銀時。何気に手際よく、楽しそうにやっている。

「・・・六十、六十一、六十二ん?あそこ何か光ったか?おいおいもしや、流れ星か!?やべーよ願い事何にしよ、パフェ、大福、チョコ、アイス・・・」

 全部糖分。指折り指折り糖分ばかり唱える。他にないのか、せめてお金欲しいとか。

「饅頭、ソフトクリーム、ワラビもち、エクレア、タルト、団子」

「―AAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

「シュークリーム、モンブラン、心太、キャンディー、かるめ焼き、ケーキぶふぉあァ!?」

 銀時の背中に、豪速球で何かがぶつかった。

 

「いってーな、何だよオレの願い事まるまる不意にする気か!?・・・え?なに、これ?」

 衝撃に酔いも醒めた銀時が、目を開けて飛び込んできたのは、なんというのか、その・・・男にとって神秘な部分だった。

「えーとこれって、空から人が降ってきたってこと?それでいーんだよねー」

 現実逃避に走る銀時。乗っていた人物も目を覚ましたらしく、ビクン、と体を震わせたあと、数秒後、

「・・・~!」

 バッと後ずさる。ようやく見えたその顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。

「・・・*~|¥*#$&!!」

「・・・は?何言ってんのおまえ?」

 恐らく女性と思われるその人物は、銀時の全く聞いたことも無い言語で騒ぎ始めた。

「#&%$・・・*#$&+>@!!!」

 激しい語尾で言い放ったあと、彼女は右手を前にかざす。その瞬間―どこからともなく、一振りの剣が握られているではないか。思わず目を疑う銀時。

「え、ええ~~!?なにお前、空から来たからてっきり天女とか女神とかToloveるのあいつとか思ったけど、違うの!?地獄の処刑人なのおまえ!?」

 銀時の言葉を意にも介さず、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「・・・!ちっ、しゃーねえか!!」

 観念し、木刀の柄に手をかける。真剣相手にはやや頼りないと思われるが、銀時には勝算があった。

 まずはじめに、銀時は真剣相手の勝負は何回も、何回も場数を踏んでいること。次に、やや根拠として弱いが、相手がゴリラではなく女性であること。そして、いざとなれば逃げて暗い路地に入ればいい。地元住人として、こちらに地の利があるのだから。

 内心返り討ちにしてくれる、と彼女をあざわらう銀時。相手はというと、軽くふりかぶって地面に剣を叩きつける。

 爆裂音とともに、盛大にクレーターが形成された。

「・・・は、はああああああ!?」

 これで驚かない者などいるだろうか。こんな光景、信じろというほうが無理だ。

(やべーよ銀さん絶体絶命のピンチだってばよ・・・勝てるわけねぇぇぇ!!!無茶苦茶すぎる!!こうなったら、洞爺湖仙人直伝の“あの”奥義で・・・ちとしゃくだが)

 ふう、と息を吐き、木刀を正眼に構える。相手もそれをみて、剣を後方に引いた構えをとる。

 両者、相対すること、数秒。

 ぐっと重心が移動し・・・

「まっことすみませんでしたあァァッッ!!!」

 必殺・DOGEZA発動。(この技は木刀とか得物をすべて放り投げ、ひざを折り、地に頭つけてひたすら命乞いをする、効果抜群の奥義だよ☆てへっ☆)

 相手はというと、あっけにとられたような表情をうかべ、構えもとけて腕をダラリと下げていた。

「いやほんとアレは事故だったんです銀さん全く存在に気づかなくてスミマセンいや別にパンツが汚いとかそういうことではないんですが乙女ですよね乙女ですもんねゴリラのバカ力だけどホントに以後気をつけるから許してくださいいいい!!」

 もはや支離滅裂である。しかし彼女は怒るわけでも泣くわけでもなく、ただボーっと立っていた。

「許して許して許して・・・あれ、どうかしたか?」

 流石に異変に気づき、顔を上げる。彼女は、グラリ、と揺れたあと、糸が切れたかのように倒れ落ちる。

「!危ねえ!!」

 間一髪で支える銀時。もはや彼女の意識はとんでしまったようだった。

「クソッ、なんなんだよマッタク・・・」

 

***

 

 この世には、空間も概念も全く異なる世界が存在する。

 エンテ・イスラも、ある一つの世界の一部であった。一部、というのは、他に天界と魔界という空間上異なる場所もあるからだが、今はおいておこう。

 エンテ・イスラは、中央大陸を囲む東西南北の大陸、あわせて5つの大陸からなる。それぞれの大陸で言語も文化も支配者も違う。ややこしいことではあるが。

 だが、それをあざ笑うかのように、すべての大陸を等しく侵略せんとする者がいた。

 

魔王サタン・ジャコブ。悪魔の王にして、絶大な魔力と軍をもつ、エンテ・イスラにとってまさに災厄といっても過言ではない存在。

 

突如として中央大陸に巨大な城、通称・魔王城を建設。そして彼は、四人の悪魔大元帥を東西南北の大陸に派遣し、本格的にエンテ・イスラを魔の手で染め上げんとする。人間なんぞに悪魔が負けるはずもなく、戦況は絶望的に人間側の不利が続いていた。

 しかし、一気にそれは覆される。たった一人の人間によって。

 

勇者エミリア・ユスティーナ。聖剣を手にし、魔の殲滅を天命として生を受けし者。

 

彼女は、西大陸の軍を指揮していた悪魔大元帥が一人ルシフェルを撃破、一躍名声を高める。

 あとはまあ、お約束のように他に三人の仲間ができ、北・南も奪還、中央大陸の魔王城へ攻め入ったというわけだ。

 戦況は、最終決戦へと突入する。

~~~

 

「なめるな、この・・・人間風情がっ!!」

 人間と悪魔の決戦の場、魔王城の塔上で激しく打ち合う悪魔と人間。悪魔大元帥アルシエルは魔力を最大限に発揮し、相手の人間―アルバートをふきとばす。

「ぐっ・・・」

「・・・」

 ただ無感動に見下ろすアルシエル。場を去ろうと足を動かす。

『・・・神よ、我らに魔を滅する光を・・・』

「!!!しまった!!!」

 時既に遅し。宙に浮かぶ女性―エメラダ・テューダの展開した魔方陣が、アルシエルに無慈悲な光線を浴びせる。

「・・・こ、の」

 言葉にならず、石化し倒れ落ちる。しかし流石というべきか、すぐに術を破り、よろよろと立ち上がる。

「・・・魔王様の・・・もとへ・・・!」

~~~

「覚悟魔王!!」

 魔王城の最奥部。エミリアが、閃光の如きスピードで魔王に肉迫する。

(とった!!)

 だが、切り裂くと同時に魔王、いやその残像は掻き消え、

「甘い」

 背後をとったサタンは、瞬時にバカでかい魔力弾を叩き込む。

 爆発をモロに食らうエミリア。ガードは間に合ったものの、やはり相殺は難しかった。

「ぐはっ・・・この・・・!」

「終わりだ、勇者よ。あっけない幕切れだが」

 前より膨大な魔力を収束する魔王、食らえばどんな生命体でもひとたまりもない。不快な響き、しかし王としての威厳をもった声で、冷酷に勝利を宣言する。

 だが、誰しも誤算というものを、とかく忘れがちだ。

「はああああ!!」

 突如、法術の光にふきとばされる魔王。勇者の頭上を通り抜け、壁に思い切りめり込む。

「大丈夫か、エミリア!?」

「ありがとう、オルバ・・・助かったわ」

「いや、お礼なぞいい。それよりも」

「ええ・・・」

 ゆっくりと起き上がる魔王。その目にはもはや余裕など無く、怒りだけがうつしだされている。

 なんの前振りも無く、駆ける魔王と勇者。剣と爪、あまりにも強大なエネルギーをぶつけ合う。

 そして、

 勇者の聖剣が、魔王の片方の角を斬った。

 くるくると宙を舞い、角は地面と衝突して砕け散る。

「・・・もうすぐ決着がつきますね~」

「ああ、そうだな」

 いつの間にかオルバの横に来ていたエメラダとアルバートが真剣に彼らの戦いを見つめる。

「魔王さまっ!!」

 窓を蹴破って転がり込む影―アルシエル。

「!ちくしょう、まだ生きていやがったか」

「さすが、悪魔大元帥です~」

 エメラダの発言がちょっとズれているのはともかく、アルシエルは魔王のもとにひざまずき、

「ご無礼をお許しください、このままでは、人間どもに押し切られ、エンテ・イスラ征服の夢叶うことなりません。一度ゲートをつかって撤退し、力を蓄えて再度征服しましょう」

「・・・だが」

「口惜しいのは分かります、しかしここは耐えて」

「アルシエル、みなまで言うな」

 手でアルシエルを押さえるサタン。ギッと唇をかむ。

「これも、勇者をただの」

 懐に飛び込むエミリアを、紙一重でよけ、アルシエルの襟首を掴む。

「人間と見たのが、失敗か・・・」

 刹那、姿が消えた。アルシエルも、サタンも。

 急いで外に出てみれば、漆黒の翼を広げたサタン。右手をさっと振り、巨大なゲートを出現させる。

「人間どもよ!!今はお前たちにこのエンテ・イスラを預けよう!!しかし・・・俺は必ず、ここに戻り今一度征服する!!待っているがいい!!」

 そういい残し、ゲートへ飛び込むサタン。

 ゲートはあっけなく、閉じられた。

「・・・なによ預けるって・・・ふざけないで・・・」

 わなわなと唇をふるわせ、聖剣を握り締めるエミリア。

「!そうよ・・・オルバ!!」

「ああ、分かっている!!」

 オルバは言うが早いが、手で印を組み、ブツブツと何事かを呟く。

 そして、サタンの漆黒のゲートとは違う、まばゆいばかりの光に包まれたゲートが現れた。

「みんな・・・あとは、よろしく。私は、絶対に魔王をこの手で倒すから・・・!」

 三人に微笑みかけるエミリア。彼らも励ましか、同じように笑う。

「急げエミリア、もう持たない!!」

「わかったわ!!」

 ゲートに手をかけ、するりと入り込む。同じように、ゲートは閉じられた。

 

 

***

 

お父さん、いかないで・・・

ずーっといっしょって約束したよね・・・?

お父さん・・・おとうさん!!

 

「はっっ!?・・・えっと、ここは・・・?」

 気づけば、見知らぬ天井が視界を占めている。記憶をたどれば、変態をバッサリ斬ろうと決意したところで途切れているのだが・・・。

 ゆっくりと起き上がる。途端に体のあちこちがきしむ。

「・・・!いっ・・・」

「・・・あ、気がついたんですね!銀さーん、起きましたよー」

 ビクッと後ずさる。がそれは、別に悪魔でも何でもなく、メガネをかけた普通の人間だった。

「お、やっとかよ、かれこれ二時間以上たってんぞ・・・お目覚めですか、コノヤロー」

 銀髪天然パーマの男が、部屋の奥からぼさっとやってくる。

(あ!!さっきの変態・・・!)

 思わず剣を出しそうになるが、冷静に考えてみれば、自分をここに運んだのは彼ということは容易に推測でき、それはつまり、

「やっぱり、このゲス・・・!!」

「あれ、今ケンカ売るのやめようみてーな空気だったよね?地の文からしてそうだったよね?なんでそんな物騒なオーラだしてんの!?銀さん泣いちゃうよ?」

「うっさい!問答無用!!」

迷い無く剣を顕現しようとするも、

「・・・?」

 でない。さっきはあれほど簡単に出せたのに、柄も刃も出てこない。

「まー落ち着けよ、お前、いきなり夜道でぶっ倒れたんだからな?見捨てるわけにもいかねーだろ?少しは感謝しろよ、感謝感謝!」

「銀さん、連呼しなくていいですよ」

「・・・そうね、取り乱しすぎたわ、ごめんなさい」

「わかりゃいーんだよ、分かれば・・・そういやお前、いつの間にか日本語しゃべれたのな?」

 ふと気づく。確かに、もし最初から意思疎通できていれば、もう少し穏便にことは済ませられたかもしれない。後の祭りだが。

「ああ・・・これは“概念送受《イデアリンク》”よ、法術の基本。それで貴方たちの言葉を理解したのよ・・・ほんとに、ここはエンテ・イスラじゃないのね・・・」

「?なんだぁ、法術?エンテ・イスラ?おいおい勘弁してくれよ、通り魔かと思えば実は厨二病でしたみたいな?」

「銀さん失礼ですよ」

 眼鏡の青年がたしなめるが、そういう彼も、彼女の言葉を信じる以前に理解できないようだった。

「ま、それはおいといて聞きてぇことがあるんだけど」

「ふわぁ、銀ちゃんなんか騒々しいアルな・・・!?誰アルかその女!?まさか銀ちゃんの愛人!?」

「チゲーよ神楽、そもそも彼女いねえし、そうそうそれでさ」

 起きだしてきたチャイナ服の少女―神楽につっこみ、またぼろぼろの服を着た女性に向き直る。

「おまえ・・・一体なんなの?天から落ちてくるわ、手からブレード出すわ、しまいにはエンテ・イスラだぁ?ファンタジー要素ありすぎで羨ましいんだよコンチクショー」

「銀さん、本音出てますよ」

 脱線する銀時を制するメガネこと志村新八。

「いやにあっさりだなおい!僕ってなんでいつもこう投げやりなの!?」

「新八、お前だけじゃないアル、私もチャイナ服で済ませられたネ。恨むならジャンヌを恨むヨロシ?」

「はいはい肩叩きあいながら作者ディスってんじゃねーよ。話が進まねぇから黙ってろ、今回は真面目にやっからよ・・・んじゃ、まずは名前から。そんぐらいは言えんだろ?」

「・・・名前は・・・」

 うつむき、逡巡しはじめる。しばらく沈黙が続き、銀時が足をゆすって苛立ちを見せ始めた頃。思い切ったのか、強い光を目に宿し、名乗る。

 

「・・・エミリア・ユスティーナ。人間と天使のハーフで、勇者よ」

 

***

 

 質問と回答の応酬が続くこと、三十分。

「・・・なるほどな、つまりお前は異世界で勇者やってて、打ち漏らした魔王を追ってここに来たと、そういいてーんだな?」

「まあ、だいたいそんなところよ・・・覚悟はしていたけど、まさか聖法気の概念がないなんてね・・・」

「そういえば、その聖法気ってなんなんですか?」

 会話にまざる新八。

「えーっと、分かりやすくいえば、私たち人間が法術とかの能力を使うときに必要なエネルギーのことね。悪魔の場合は魔力と呼ばれているわ。どちらもこの世界には存在しないみたいだけど・・・」

「んじゃ、あの物騒な剣もそのセーホーケーってやつでだしたのか?」

「聖剣のこと?それと聖法気ね・・・そうよ。あの時はまだ残量があったから使えたんでしょうけど、今は無理ね・・・こうしている間にも僅かながらもれ出ているみたいだし」

 はあ、と息をつくエミリア。このままでは、魔王を見つけたとしても倒すだけの余力を残せるか、確証はない。まあ、それは相手にもいえるが。

「で、これで私に話せることは大体話したけど、信じる?信じないの?」

 強めの語気で三人を問い詰める。しばらく黙っていたが、銀時が頭をかきながら、

「正直、信じらんねぇ・・・だけどよ、お前、今困ってんだろ?それは伝わってきたからよ・・・そういうことにしておいてやるよ」

「僕もです、見捨てるような真似は侍として失格ですから」

「私も同じネ!姉御なら信用できる気がするアル!」

 好反応を示す、三人。神楽は特に、何か感じることがあったのかニコっと笑っている。その清清しいまでの笑みをみていると、嘘もなにも感じられない。

「・・・ありがと」

 安堵したのか、ふうと胸をなでおろすエミリア。異世界においてファーストコンタクトをとった人物は非常に重要である。どんな人となりかで180度運命が変わってしまう。

 少しでも理解を示し、笑ってくれるというのは、大きな収穫に他ならない。

「そうそう侍って言っていたけど、ここの世界について聞いていなかったわね。簡単にでいいから教えてくれるかしら?」

「えーと、説明なら僕がしますね」

 新八が身を乗り出し、語り始める。

「箇条書きにしますけど、

・ここは“江戸”という場所で、

・昔は侍の国と呼ばれていた。

・しかし、宇宙から“天人”が襲来、それを退けようと攘夷志士が攘夷戦争をおこす。

・だけど、幕府が彼らの意向を無視して降伏、廃刀令公布により侍は絶滅の一途を辿った。

 こんな感じですかね」

「はいはいどーもお疲れぱっつぁん、誰もが聞き飽きた設定をのっぺり話してくれて」

「仕方が無いでしょ誰もやらないんだからああ!?のっぺりってなんだよ!?」

「新八のその坊ちゃんカットのことネ」

「・・・喧嘩売ってる?」

 また内輪で騒ぐ新八たちを尻目に、内容を復唱するエミリア。

(“天人”・・・どこかしら悪魔と似ている・・・もしかして・・・)

 銀時の声が、エミリアの思考を遮る。

「そーいや、おまえ、これからどうするわけ?勇者つっても、ここの通貨持っているわけじゃねえんだろ?」

「・・・あ」

 言われてみれば、である。何の準備もしていないため、今のところ金を得る手段は皆無に等しい。非合法ならばいくらでも稼げる自信はある(窃盗とか)が、そんな宿敵と同じようなことをしては、本末転倒もいいとこだ。

 覚悟、はしていた。彼らに名乗ったときから。自分の事情に、赤の他人を巻き込むことを。

 躊躇など、してられない。

「・・・あの、できたら」

「あーいっとくけど、うちは無理な。ただでさえ依頼こねーし、万事屋自転車操業なんだよ。万事屋だけに。まったく、穀潰しがいなけりゃ」

「誰が穀潰しね、銀ちゃあん?な、定春?」

「ワン!」

「・・・あーそうだね、穀潰しじゃなくて“極”潰しだったね、いっぱいヤクザの方々ヤってきたもんねー」

 ・・・はあ、とため息をつく。なんで自分はこんな美少女に首を絞められ、犬に頭をかじられている残念変態野郎に決死の頼みごとをしようとしていたのだろう。

 ソファから腰を上げる。

「わかったわよ、ここには迷惑かけないわ。ちゃんと自分で生活するから。それでいいんでしょ?今まで話したことも全部わす」

「おい、最後まで話しきけ」

 玄関へ向いた足を思わず止める。振り返れば、

「だからよ、雇いはできなくても、依頼人なら受け付けるってんだよ。ほらそこ座れ、契約内容確認すっから。せっかちな女は嫌われっぞ?」

 頭から血を流し、机から書類を出す万事屋の主人が、そこにいた。見れば三人とも、口角を思い切り上げて、ニヤリと笑っている。

 気づかないうちに、クスリ、と笑ってしまう。

「・・・せっかちは、余計よ」

 聞くや否や、かしこまって腰を折り、大声を張り上げる。笑みを浮かべながら。

「ようこそ、万事屋へ!!」

 

 

「・・・いまさらだけど、万事屋って、なに?」

「あ、説明すんの忘れてた」

「ほんとにいまさらですね・・・」

 




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