シスターコンプレックスとは、女姉妹に対して強い愛着・執着を持つ状態をいう。俗に「シスコン」と略され、この場合は、女姉妹に対して強い愛着・執着を持つ兄弟姉妹自体についても使われる。(wiki調べ)
妹に強い愛着?無いな。もちろん全くないわけではない。一般的な愛着があるだけだ。
妹に強い執着?これはないと断言できる。だって執着があったら妹の元を離れて一人暮らしなんてできないだろう。もちろん毎日ラインはしているが。つまり……
「俺はシスコンじゃないってことだ!」
大学の食堂で声高らかに宣言する。周りの人は何事かとこちらに視線を向ける。
「聞いてんのか新田ぁ」
「き、聞いてますから座ってください先輩。恥ずかしいです」
顔を真っ赤にして慌てる後輩。赤面している姿も可愛いなとか近くに座っている男達が言っている。だが、そんなことはどうでもいい。
「俺といるのが恥ずかしい?お前、俺のこと嫌いだったのか」
「そんな事言ってません!注目を浴びているから恥ずかしいんです」
「ふむ、たしかにそうだな。取り乱してすまなかった」
後輩が言う通りかなり視線を集めていた。さすがの俺でもちょっと恥ずかしい。
「まったく、先輩のこと嫌いなわけないじゃないですか。むしろ……」
「ん?何か言ったか?」
「な、何でもありません!」
俺が座って周りの視線が無くなったというのに先程よりも顔を赤くする後輩。
「変な奴だな」
「先輩には言われたくありません!」
え?俺って後輩に変人だと思われてたの?結構ショックなんだけど。これからは後輩の前ではふざけるのは控えよう。
「こほん、それで妹さんの話でしたっけ?」
「そうそう。俺には高2の双子の妹がいるんだけど、そいつらが今日の朝俺んちに転がり込んできたんだよ。まぁ、用事があるって言ってすぐにどっかに行ったんだけど」
「妹さんのことは先輩がよく話しているので知っていますけど、どうして急に?」
そんなに俺って妹のこと話しているのか?いや、別に家族の話をするのは普通だな。話のネタにしやすいからな。うん、俺はシスコンじゃない。
「それなんだよ。急に俺んちに来た理由が問題なんだ」
「まさか、ご両親と喧嘩して家出とかですか?」
「いや、もっと深刻なんだ」
俺の醸し出すシリアスな雰囲気に後輩はゴクリと唾をのむ。そして俺は水を一口飲んでから口を開く。
「あいつらな……アイドルになるためにこっちに来たんだ!」
「えっと……どういうことですか?」
後輩はポカンとした顔でこちらを見る。再び席を立って視線を集めた俺は後輩に、取り敢えず座ってくださいと冷たく言われたので大人しく座った。
「詳しく説明すると、妹たちはアイドルになりたくて俺に内緒でアイドルプロダクションのオーデションを受けたらしいんだ。俺に内緒で!」
「先輩に内緒だったのはどうでもいいですけど」
「よくないだろ妹は兄に相談する義務がある」
「はいはい、それでどうしたんですか」
後輩に軽く流された。解せぬ。
「それでオーデションは二人とも受かったらしいんだわ」
「良かったじゃないですか」
「良くない!」
「え?何でですか」
「俺は認めてないからだ」
妹たちがアイドルになるなんて俺は認めない。別に何の相談も無かったから拗ねているわけではない。
「でも何で先輩の家に?オーデションに受かったなら事務所の寮に住めばいいんじゃ」
「ああそれな。母さんと父さんがアイドルをやることを認める条件を俺と一緒に住むことにしたんだよ」
「先輩と?」
「うちの親は放任主義だけど、娘二人で都会に住まわせるのは渋ったんだ」
「それで先輩の家ですか」
うちの親は基本的には自由に生きればいいというスタンスだ。俺が一人暮らしを始めると言っても全く反対しなかった。妹たちにはめちゃくちゃ反対されたが。だがそんな親でも未成年の娘が二人だけで都会に住むのは心配に思ったのだ。それで同じ都会にある俺の家に一緒に住むなら安心だと条件をだした。
「もし先輩が認めなかったら二人はどうなるんですか?」
「富山の実家に強制送還だな。アイドルも諦めてもらう」
「……先輩はアイドルが嫌いなんですか?」
「いや、そんなことはない。頑張って人を笑顔にしている姿は好感が持てるからな。どちらかと言えば好きだ」
「あ、ありがとうございます」
後輩はまた顔を赤くする。何でこいつがお礼を言うんだ?アイドルじゃあるまいし。
「そ、それなら認めてあげても……」
「それとこれとは話が別だ」
「ええー」
「俺は絶対に認めん」
「何か理由があるんですか?」
「それはだな……おっともうこんな時間か」
ふと時計を見ると妹たちが帰ると言っていた時間だった。合鍵は渡してあるが、あれだ。俺がいないと部屋の中の勝手が分からないだろう。お茶飲みたくてもどうすればいいか分からないかもしれないし。何回も俺の家に来てはいるがそんなことは関係ない。
「んじゃ俺は帰るわ。また明日な」
「え?ちょっと先輩!?」
後輩を置いて食堂を後にする。後輩も追いかけようとしていたが食べていたサンドイッチがまだ残っていたので諦めていた。食べ物を粗末にしない良い奴だ。偶に真面目過ぎるところもあるけど。
ちなみに帰るときに会った友達に聞いた話だが、新田は人気急上昇中のアイドルなんだって。知らなかった。俺が好きな炭酸のCMにも出てた。あいつ凄いやつだったんだな。あれ?あいつがアイドルだってことは、俺ってかなり恥ずかしいこと言ったんじゃないか?……よし、忘れよう。自分の中でなかったことにして家に帰ることにした。
「ただいまー」
借りているアパートに着くと、元気よくドアを開ける。すると二人の天使ではなく、二人の妹が玄関まで駆けてきた。
「お兄ちゃんおっかえりー」
「おかえり、なさい……かーくん」
俺のことを『お兄ちゃん』と呼ぶ元気なギャル系の女の子が次女の
そして、俺のことを『かーくん』と呼ぶ大人しい女の子が長女の
ちなみに俺の名前が『
「おう、ただいま」
「にへへ、くすぐったいよー」
甜花の頭を撫でてやると、へにゃと笑う。くすぐったいと言いながらも手をどけようとはしない。うん、癒される。
「いいないいなー!甘奈も!」
「しょうがないな。こっちこい」
「やったー」
甘奈もまだまだ子供だな。別に俺はシスコンじゃないが、妹が頭を撫でてほしいと言ってるんだから仕方がない。
「なでなでしてあげるね、甜花ちゃーん」
「あう……な、なーちゃん……急に抱き着くと危ないよ」
「あ、俺じゃないのね」
撫でる気満々だった俺の右手を甘奈はスルーして甜花に抱き着いた。べ、別に寂しくなんてないんだからな。
「さて、甜花、甘奈、今朝の話の続きをしようか」
部屋に入り、部屋着に着替えた俺は、真剣な表情で二人に声をかける。それが伝わったのか、二人も真剣な表情で俺の前に座る。
「朝に話した通り、甘奈と甜花ちゃんはアイドルになりたいの!だから認めて!」
「甜花からも……なーちゃんと一緒に……アイドルになりたい。だから……お願い」
二人が頭を下げる。意外だったのは甜花も真剣にお願いをしてきたことだ。甜花の性格的にアイドルになりたいなんて言う訳ないと思っていたからだ。だけど……
「アイドルなんてお兄ちゃんは認めません」
「っ!お兄ちゃんどうして!?」
「アイドルなんてそんな簡単になれるもんじゃないんだぞ」
「そんなの分かってるよ!」
「いや、お前は分かってない。いつも思い付きで行動するのは悪い癖だ。今回だってテレビか何かに影響されたんだろ」
「違うもん!甘奈も甜花ちゃんも本気だもん!」
「ふ、二人とも……落ち着いて」
ヒートアップする俺たちを甜花は止めようとするが、止まるわけにはいかない。二人にはアイドルをここで諦めてもらう。それが二人のためだ。
「分かった、お兄ちゃん甘奈たちが内緒でオーデション受けに行ったから拗ねてるんでしょ?」
「そ、そそ、そんなことないわい!」
「やっぱりそうじゃん!それで反対してるんだ」
「違う!確かに相談してほしかったとは思っているが、それは別の話だ。俺はお前たちのためを思って……」
「ああもう!お兄ちゃんなんて大っ嫌い!」
「ぐはぁ!」
甘奈のその言葉は俺にクリティカルヒットした。余りの衝撃に意識を失う。失う直前に見えたのは俺を心配する甜花と、そっぽを向く甘奈の姿だった。妹に嫌いって言われたら意識くらい失うよな?だから俺はシスコンじゃない。