講義が終わり、いつも通り食堂に向かう。私にとってこの時間が何よりも楽しみなのだ。少し小走りで食堂に着くと、すぐさま目当ての人物を見つける。だが、今日はいつもの元気はなく、負のオーラがにじみ出ている。そのせいか、生徒で賑わっている食堂なのにその人物の周りだけぽっかりと席が空いている。誰もが近づこうとは思わない。触らぬ神に祟りなし。でも私はその人物に近づく。私にとっては触れたい人物だから。
「こんにちは、先輩」
「おー新田かーハロハロ」
机に突っ伏した先輩は顔だけ上げて変な挨拶を返すと、すぐさま大きな溜息を吐く。とりあえずいつも通り先輩の前の席に座る。
「妹さんと何かあったんですか?」
「新田、お前はエスパーか?」
「先輩がそれ以外で落ち込んでるところを見たことないだけです」
先輩がこうなってるのは妹さんと何かあったときだけ。最初の方は私もどうしたのかと焦ってしまったが、今ではなれたものですね。先輩の話を聞く限り、妹さんがアイドルになるのを反対したら嫌われたらしい。シスコンの先輩にとっては大ダメージに違いありません。
「何でアイドルになるのを反対しているんですか?」
「アイドルなんてそう簡単になれるもんじゃないだろ?あいつらには悲しい思いをしてほしくないんだ」
確かに今やアイドル業界は大きな賑わいを見せている。多くの人がアイドルになるために奮闘するも成功するのはほんの一握りの人だけ。先輩もそれを分かって反対しているのだ。いいお兄さんですね。
「本音は?」
「俺の可愛い妹たちが有象無象の豚どもに視姦されるのが我慢ならん」
人が少し見直したらこれである。この人は重度のシスコンであるということを忘れていました。
「甜花たちがアイドルになったら絶対売れるじゃん?そうなると衆人の目に触れるわけで」
「売れることは前提なんですね」
「当たり前だろ新田ぁ!俺の妹たちがアイドルなんてやったら大変なことになるに決まってんだろ。常識的に考えてくれ」
いつも通り先輩の沸点はよく分からない。少なくとも先輩の考えが世間一般の常識とはかけ離れていることは私でも分かりますけど。
「でもアイドル業界は何があるか分かりませんよ?」
「何だ新田、自分がちょっと売れてるからって調子乗ってんのか?ああん?」
「別に乗ってませんよ。……先輩、私がアイドルだって知ってたんですか!?」
「ああ、昨日聞いた」
自分で言うのもなんですけど、最近私は結構メディア露出が多くなってきている。CMにでたり雑誌の表紙を飾ったりしている。それでも先輩は私がアイドルだと全く気付いていなかったので、いざ知られると少し恥ずかしい。
「俺がよく飲んでる炭酸のCM出てたろ?あれ結構可愛かったぞ」
「か、かわっ!?」
私は慌てて立ち上がってしまった。急に立ち上がったため、周囲から何事かと見られてしまう。だけど、先輩に可愛いと言われた私はそれどころじゃない。今の私は顔が真っ赤に違いない。
「どうした新田?トイレか?我慢はよくないぞ」
「ち、違います!」
この人は本当にデリカシーがない。可愛いって言ったのも先輩にとっては特に他意は無いのでしょう。分かっていながらも胸がドキドキするあたり、私はもう手遅れなのだと改めて認識する。
「あ、もうそろそろ時間か」
「何かあるんですか?」
「これから甜花達のプロデューサーとやらに会うことになってるんだ」
「そうなんですね。ちゃんと話を聞いてあげてくださいね」
「ああもちろんだ。ちゃんと化けの皮を剥いでやる」
またこの人は変なことを言っています。妹さんのこととなると手が付けられません。今日も先輩はシスコンです。