大崎柑那はシスコンじゃない   作:かわらまち

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前回のあらすじ プロデューサーの化けの皮を剥がしに向かう柑那君


否定できる要素ないですやん!!

 

 

 大学を後にして俺は甜花から送られてきた地図を片手に目的地へと向かっていた。向かうは敵の本拠地283プロダクション。そこには甜花と甘奈をたぶらかしたクソ野郎が待ち構えている。どうせろくでもない男に決まっている。待ってろよ妹たち。お兄ちゃんが必ず化けの皮を剥いでやるからな!

 

 

「女性ですやん」

 

 余りの衝撃に思わず関西弁が出てしまった。脂ぎっとぎとのブ男を想像していたのに、出てきたのは人が良さそうな女性だった。年齢は俺の二つ上らしい。

 

「初めましてお兄さん!私、甜花さんと甘奈さんの担当プロデューサーの若月茜と申します。よろしくお願いいたします」

 

「これはご丁寧にどうも。兄の大崎柑奈です」

 

 若月さんは勢いよくお辞儀をして名刺を俺に渡して来た。何この人、めっちゃいい人そうじゃん。いや、騙されるな柑那。こいつは甜花と甘奈を食い物にしようとしている敵だ。

 

 事務所の応接室に通され、お茶をもらう。あらやだこのお茶おいしい。まぁ、甘奈の入れたお茶には敵わんが。もちろん甜花がペットボトルからコップに注いでくれたお茶もおいしい。当たり前だな。

 

「あ、かーくん。来てくれて……ありがと」

 

「甜花に言われたらお兄ちゃんは地球の裏でも来てやるさ」

 

「にへへ」

 

 応接室に若月さんと共にやってきた甜花の頭を撫でてやると気持ちよさそうに頬を緩める。俺はこのときのために生きているのではないだろうか。そうに違いない。

 

「甜花ちゃんに触んないで」

 

 甜花を撫でていた手が甘奈によってはじかれた。甘奈を見るとプイっと顔を逸らされた。泣きそうになるのをぐっと我慢する。

 

「ダメだよ、なーちゃん……かーくんに謝って」

 

「いや!お兄ちゃんなんて嫌いだもん!」

 

 俺は膝から崩れ落ちた。意識を失いかけたが寸の所で耐えた俺を褒めてほしい。妹に嫌い何て言われたら卒倒してしまうのは当たり前だろ。

 

 

 

 何とか立ち上がった俺は応接室のソファーに座る。テーブルを挟んで反対側に若月さんと妹たちが座った。

 

「ではまずは契約内容から説明させていただきますね」

 

 少し出鼻をくじかれたが本題はここからだ。この契約には何かしらの罠が仕掛けられているに違いない。この俺を騙せると思うなよ。

 

「以上がお二人との契約内容となります」

 

「ご丁寧にどうも」

 

 普通だった。小さい字で契約内容が書いてあったり、契約内容が複雑だったりすることも無く、普通だった。むしろ学生である二人のことをよく考えた契約内容だった。若月さんの説明もすごく丁寧で分かりやすかった。

 

「次にお二人を合格とした理由ですが」

 

 ここだ。どうせ顔が可愛いからとか、天使のようだとか、いやむしろ女神の領域だよねとかそんな理由に決まっている。もちろん間違ってはいないが、それだけでは二人の本質を見抜けてはいないぞ。 

 

「キラキラしたい、そう言ったんです」

 

「キラキラ?それだけですか?」

 

「はい。それだけと思うかもしれませんが、私にはその言葉だけで甘奈さんと甜花さんのアイドルになりたいって気持ちが伝わってきました」

 

「気持ちですか」

 

「キラキラしたい。今の自分を変えたい。今を全力で楽しみたい。そういう気持ちがアイドルにとって一番大切なことだと私は思います。私はまだまだ駆け出しで経験も浅いですが、二人なら立派なアイドルになれるって信じています。だからお願いします。お二人の成長を見守ってあげていただけないでしょうか」

 

 若月さんはそう言って頭を下げた。それもテーブルに頭が付きそうなほどに。

 

「甘奈、いつもの思い付きじゃないんだな?」

 

「違うよ。甘奈は本気。やるからには全力でやるよ」

 

 先程までそらしていた目を俺に真っ直ぐにむける。それだけで甘奈の真剣さが伝わってくる。

 

「甜花も本気なのか?甘奈に流されてやろうとしてるんじゃないのか?」

 

「ううん。最初は、なーちゃんがやろうって言ったから……だけど、今は、違う。少しでも、自分を変えたい……そう思ってる」

 

 いつもだらけているいる甜花が真剣な顔で変わりたいと言った。

 

「お兄ちゃんお願いっ!絶対に迷惑かけないから!」

 

「甜花も……頑張って、身の回りのこと自分でする……だから……」

 

 若月さんに続いて二人も頭を下げる。俺はそれを見て軽く息を吐き出した。そして、大きく息を吸い込む。

 

「否定できる要素ないですやん!!何これ、何のドラマ?お兄ちゃんが想像してたものと全然違う!こんなヒューマンドラマみたいな展開お兄ちゃん対応できへんよ!これ否定できないじゃん!否定したらお兄ちゃん失格やんな?むしろ人間失格やんな?お兄ちゃん、そんな業を背負うことはできまへんで!」

 

「お、おにいちゃん?なんで関西弁?」

 

「かーくん、落ち着いて」

 

 妹二人に宥められ何とか落ち着く。危ない危ない。俺の中に眠る関西の血が暴れるところだったぜ。ちなみにおじいちゃんが関西人だ。もちろん関西には住んだことはないし、行ったこともない。

 

「甘奈、迷惑はかけないって言ったが、それは違う。迷惑はかけていいんだ。その借りはアイドルになって売れて返してくれればいい」

 

「おにいちゃん……それって」

 

「ああ、認めるよ。ただしやるからにはトップを目指せよ」

 

「うん!おにいちゃん、ありがとっ!甘奈ね、お兄ちゃんの事嫌いって言ったけど全部嘘だよ。言っててすごくつらかった。ホントはお兄ちゃんの事大好き!」

 

「分かってるよ。おにいちゃんも甘奈の事大好きだぞ」

 

 抱き着いてきた甘奈を強く抱きしめてやる。えへへと嬉しそうに笑っている甘奈を見てほっこりする。

 

「じー」

 

「ほら、甜花もおいで。ぎゅーしてあげる」

 

「うん!……にへへ」

 

 寂しそうにこちらを見ていた甜花も俺の胸に飛び込んでくる。そうか、ここが桃源郷だったのか。

 

「良かったです。ホントに良かったですよー。えーん」

 

 若月さんは俺たちを見て唐突に泣き出した。この人滅茶苦茶いいひとだ。

 

「若月君、大崎姉妹の保護者の方が来ていると聞いたのだが……どういう状況だい?」

 

 俺が来ているのを聞いた283プロダクションの社長さんが挨拶に来てくれたのだが、今の状況を理解できないらしい。もっとヒューマンドラマを見ることをおすすめしよう。

 

 

 

 

 

 

 その後、社長さんに挨拶をした俺たちは三人で帰路についていた。俺を挟んで両隣に妹が並んで手を繋いで歩いていた。兄妹なんだから手を繋ぐのは普通だろう。

 

「おにいちゃんっ」

 

「ん?なんだよ」

 

「えへへー呼んでみただけっ」

 

 何この生き物可愛い。頭を撫でてやりたいところだが残念ながら両手はふさがっている。クッソ、なぜ俺の腕は2本しかないんだ。そんなことを考えていると、甜花が僕の肩をつつく。そして小声で話し出す。

 

「なーちゃんね、かーくんに嫌いって言ったこと……すごい後悔して、落ち込んでたんだよ」

 

「そうなのか」

 

「うん……だから、その反動で……甘えてるんだよ」

 

「ははは、愛い奴め」

 

 まったく、これだから兄離れしてない妹は困る。少しは兄離れしてほしいものだ。全く必要はないが。

 

「あ、甜花一つ言い忘れてた」

 

「な、なに?」

 

「さっき身の回りのことは自分でするって言ってたけど、それはやめなさい」

 

「えっと……なんで?」

 

 甜花は俺が言っていることが理解できずに首を傾げる。

 

「甜花のお世話は俺と甘奈の仕事だ。もはやライフワークだ。そうだろ甘奈」

 

「もち!甜花ちゃんは何もしなくていいんだから」

 

「うん……いいのかな?」

 

「いいんだよ。じゃないとお兄ちゃんたちが死んじゃう」

 

「そ、それはいや……」

 

「それじゃあ甜花の身の回りのことはお兄ちゃんたちがするということで」

 

「わかった……今まで通り、なにもしない」

 

 甜花の懐柔に成功。そこだけは譲れないのだ。妹の世話を兄がするのは当然のことだろ?だから俺はシスコンじゃない。

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