Johnny Joestar's Phantom Blood 作:桟橋
書き溜めは出来ていませんが、プロットはあるので週に1,2話ずつ投稿できたらなと思います。
1話
ディオがジョースター家の養子になってから七年が経過した。
ジョジョとディオとの水面下での争いはボクシングでの一件以降すっかり鳴りを潜め、2人は一見すれば互いに友情を育んでいるかのように見えた。
七年の歳月は人を変えるには十分すぎるほどの長い期間で、ディオはジョースター卿を父として呼ぶようになり、より一層ジョースター家に馴染んでいった。
ディオは狡猾であった。
親や大人の前では常に紳士であるよう心がけ、行動をする。ジョースター卿はもちろん、街に住んでいる大人まで余すこと無く彼をジョースター家に相応しい紳士と認めるようになった。
しかし、それを見てよく思わないのは思春期の少年だ。自分たちを押さえつける大人に反発をせず、あまつさえ信頼すら抱かれている。彼らはそれを、自分たちに対する裏切り行為であるかのように嫌った。
距離を置かれ、自分から離れていっても、ディオは慌てることはなかった。それは、全てが彼の思い通りになっていたからだ。
ディオには彼らの気持ちが手に取るようにわかる。彼らが抱く周囲への反骨心は、ディオにとって最上の材料だ。手始めに、彼は自作の爆弾を見せ、その作り方を彼らに教えてやることを宣言した。
少年たちにとって、火は麻薬だ。彼らはたちまち夢中になってディオのもとへ通う。日頃から危険だと言われ、所持をしている所を見つかれば取り上げられる。そんなものを、あのディオが教える。
良い子ちゃんなディオが、悪いことをした。彼らと同じ様に。その気持ちが少年たちの心を捉えて離さなかった。
強い結束を持った仲間としてディオを受け入れた彼らは、ディオのその人間性に強い影響を受けることになる。
恵まれた体格のスポーツマン、かつ紳士然とした態度。表向きは健全に、その裏では強いカリスマで人を縛り付け、思うままに人を操る悪であった。
ジョジョには友だちができない。そう裏で仕向けていたのはディオであり、彼は常にジョジョを気遣っているかのように周囲に見せた。親友に対して献身的に接している。
この七年間、常に擬態を解かなかった。
ジョジョの周りに人は集まらない。
それはディオが仕向けたことでもあり、彼自身の性格によるものでもある。
半身不随というハンディキャップは、ジョジョの心を折るどころかより歪な形へ強化し、彼の強固な意思に1つの指向性を持たせていた。
いつかまた、歩けるようになること。それだけが彼の目的だった。
ジョジョはエリナを遠ざけ、エリナもそれを拒むことをしない。ジョジョにはディオが恐ろしかった。彼の預かり知らぬ所でエリナが危害を加えられるかも知れない。そして、自分がこの体ではエリナを守ることが出来ない。
ジョジョが彼の危惧する所を話すと、エリナは身を引くことを告げた。
エリナは聡い少女だった。自分がジョジョの意思を弱める存在になっていることを感じ取っていた。
ジョジョがディオに対して抱える弱み、不安へと自身がなっていること。そして、ジョジョの気持ちが自分ではなく、ジョジョ自身の障害に向いていること。
エリナはいつかまた、ジョジョに会いに来ると告げ、決してジョジョの下へ訪れなかった。
エリナとの離別、それからジョジョは勉強に打ち込んだ。エリナという心の支えでもあり弱み、ある意味でストッパーを失った彼を止めることは出来ない。子供らしさや甘え、それらを失った彼は気が狂ったかのようにのめり込んでいく。
自宅にある蔵書。ほとんどの時間を家で過ごす彼には、ジョースター家が数代掛けて集めた物でさえ物足りない。数千もある分厚い本を数年で読み切ったジョジョは、医学に見切りをつける。
古くから残された本には、信じるに値しない宗教じみた治療が記され、年代が新しくなる度に情報の正確性は上がる――症例とその療法が載るようになった――が、目覚ましい進歩は内科分野に集中していた。
病原菌と、それに対するワクチンは彼の足を動かすことはない。
数年掛けて読み込んだ医学書、それがジョジョにもたらしたものは多少の知識と、絶望だった。知られている限りの医学には、彼の足を動かす手立てがない。
ジョジョは絶望し、諦めの境地に達した。
次第に無気力になるジョジョだが、数年掛けて得た習慣はジョジョの味方をした。
本を読むこと。決して途絶えることのなかったジョジョの習慣が、僅かな希望をもたらした。
回転……!イタリアのある一族に伝わる技術。鉄球の回転を利用し筋肉の反射を引き出す技術であれば、感覚のない足でさえも意思とは別に動かすことが出来るかも知れない。
その本には書かれている。鉄球の秘密、その伝統を守る一族から方法を聞き出すことは出来なかったが、ほぼすべての生き物が無意識に回転を利用していると。
”回転は確かに存在する……使おうとする意志を持つなら、なぜそれを使わない?”
自然界に存在するもの。動物はもちろん、意識を持たない昆虫や植物でさえ利用しているという。
ジョジョは観察をした。かつて、自分が騎手であった時、馬を一日中追いかけそして彼らの呼吸、クセを覚えたように。
回転の動き……久しぶりに家を出て様々な生き物を観察するジョジョの目に、水を飲む為に首を下げ、飲み干して満足気に首を起こす馬の動きが飛び込む。
引き寄せられるように馬に近づくジョジョは、馬までもうあと一漕ぎの所で道にあった石を踏み転倒する。眼の前で倒れたジョジョに向かって、馬が近づいてきた。
自らの顔を舐める為に首を下ろした馬、その顔にしがみつくジョジョ。顔に触れられた馬が、勢いよくその顔を上げるため頭を跳ね起こすと、ジョジョの体は回転し見事な円を描いて馬の背中に着地した。
二度と見ることが出来ないはずの馬上の景色。
手綱など無い馬の上で、すぐに振り落とされたジョジョは地面に倒れ伏しながらも、涙を流していた。
――僕は、まだマイナスだ……足が動かなければ、一歩を踏み出すことさえ出来ない。しかし、この回転……その中に答えがあるッ……僕が、自分の力で歩き出す為の、答えがッ!
回転……ジョジョはその存在に気づき、利用する事を覚えた。そして新たな意思が生まれる。ツェペリの一族、彼らに話を聞くべきだ……と。
ジョジョはそれからヨーロッパ各地を回り、ツェペリの一族の伝承を追いかけた。少しずつ、断片的に集まった情報はわずか。『呼吸法』と『石仮面』についてのみだった。
石仮面! ジョジョの記憶と、初めて鼓膜を揺らすはずのその言葉に奇妙な一致が起きる!
彼はその存在を知っていた!
古代の民族伝承を纏めた本、その物語の一節に、確かに石仮面の記述があった。曰く、その仮面は人間の秘められた能力を引き出し、驚異的な再生能力と、永遠の命を授けると。
そして、なんたる偶然か、ジョースターの屋敷には石仮面がある。
『回転』、『石仮面』、そして『呼吸法』。
ジョジョは、古くから伝わるその3つについて次第にのめり込んでいった。再び乗る事が出来るようになった馬。自ら各地に残る伝承を訪ねる傍ら、自作の研究資料を纏めていく。それは大学へ進学してからも変わらず、彼は考古学の道を選択した。
ジョジョの頭の中には、常に石仮面への疑問があった。
「とったァーッ!」
「我がハドソン校の雄、ディオ・ブランドーが後ろから飛び出しているッ!」
「パスを受け……抜けたァーッ! 押し寄せる後続を、突き放すッ!」
「相変わらず華麗な走りっぷりだッ! 抜ける、躱す、もう追いつくことは出来ないッ!」
「トライだッ! 決めたァーッ!」
ラグビー。ディオが出場する大学最後の試合を、ジョジョは応援に来ていた。卒業を目前に控えたディオは、彼の見事なトライで勝利を決めた。
「JoJo! 見てくれていたかいっ!?」
「もちろんさ、スゴイじゃあないかディオ。君はナンバーワンの選手だよ」
「なにを言うんだJoJo! 君が相手の選手のクセを教えてくれたから抜け出せたんだ! 君あってのトライさ!」
チームに勝利をもたらす決勝点を決めたディオは、真っ先にジョジョの下へ駆け寄り、がっしりと握手を交わす。お互いを称えるディオとジョジョの姿は、周りから見守る観客の目に強固な絆で結ばれた、唯一無二の親友として写っていた。
「ディオ・ブランドーは法律学部において主席の成績で卒業する予定でありますッ! また、チームの参謀であるジョナサン・ジョースターは考古学の分野で見事な論文を発表しました!」
「このラグビーの試合もこの2人あっての勝利と言えるでしょう。2人の友情は我が校の誇りですッ!」
チームメイトと肩を抱き合って喜びを顕にするディオ。彼のもとに学園の広報部の記者が訪れ、インタビューを行った。
「君とジョジョとの友情についてぜひ聞かせてくれ!」
「友情だって? テレるな。そうだな……何から話そうか……」
にこやかにインタビューを受けるディオを見つめるジョジョ。彼の心境は複雑であった。
ジョジョは、ディオに友情を感じていない。
街での人付き合いが殆ど無かったジョジョに、最も献身的に接してくれたのはディオと言えるだろう。
この七年間で、身の回りの世話を多く買って出てくれたディオには感謝の気持ちがある。
しかし、友情は感じてはいない。
その理由は、七年前のエリナを巡るいざこざであろうか。いや、ひょっとしたら、自分とは違って交友関係の広いディオを妬んでいるのかも知れない。
ジョジョには正確な理由がわからなかったが、確かに、心の奥底でディオの事を嫌っていた。
――友情だと!? そんなくだらないものはこのディオには存在しないッ!
インタビューを受けるディオの内心は荒んでいた。卒業を間近に控え、ジョースター卿の援助を必要としなくなるこのタイミング。
ディオはジョースター家の財産を乗っ取ろうと目論んでいた。
ジョジョと表向き仲良くし続けたのはそのためである。ジョジョの警戒心を解き、自らが動きやすい状態でジョースター卿を殺害する。遺書には確実に財産を折半する様に書かれているだろう。お人好しのジョースター卿の考えを予想することはディオにとって朝飯前だった。
ジョースター卿が死に、ジョジョとディオで遺産を分ける。この時にジョジョを事故死に見せかけて始末する。ジョジョ、その余計な知識が邪魔をしないように七年掛けて警戒を解いていた。
加えて、わざわざ殺しまでしなくてもジョジョを社会的に抹殺することさえ出来る。有りもしないデタラメをでっち上げたとしても、世間が信じるのは、人付き合いの無く怪しい考古学者ではなく、評判のいい好青年のディオだ。
自分には法学の知識がある。ジョジョを牢屋にブチ込むこともたやすく出来るだろう。
七年越しの壮大な計画。ジョジョを懐柔し、財産を自由にできる年齢になること。
その次に行う計画として、ジョースター卿の毒殺。病死に見せかける為に、ディオ自らが取り寄せた特製品だ。
ディオは、自身が家長としてジョースター家を乗っ取る事を思い浮かべ、獰猛に笑った。