Johnny Joestar's Phantom Blood   作:桟橋

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2話

 ジョジョは各地に残る民族伝承を探し求める旅に出ていた。大学を卒業した彼は、講義や単位の事を気にすること無く研究に没頭することが出来るようになり、石仮面の伝承を探しにイタリアに向かっていた。

 

 大学に在籍している四年の間、ジョジョが何も調べていなかったわけでは無く、世俗民俗学の教授と懇意になって研究を手伝う傍ら、大学に所蔵されている貴重な資料を閲覧出来るよう取り計らってもらっていた。

 本として出回っていないような情報が多く載っているそれらの資料には、断片的にではあるが石仮面とそれを人間にもたらした悪魔、それらの強大な力に立ち向かった一族のことなど、多くの興味深い話が記されていた。

 

 より詳しくその内容を聞くためには、現地まで向かうのが一番であるだろう。そう思った彼は、身の回りの世話をする召使いと共に馬車でイタリアのある村へ来ていた。

 大学時代に数年掛けて書き上げた石仮面についての論文、その資料となった調査書には、確かにこの村に石仮面と関わりのある一族が居るとのことだったが……。

 

「石仮面について探しているのかい?」

 

「知っているんですか!?」

 

 村で聞き込みを行っている最中、外れにある家への道中を車椅子で向かっていると、シルクハットにスーツを着込んだ男が話しかけてきた。

 

「知っているとも……私のは常に石仮面を追っている」

 

 塀に腰掛けていた男はそう言うと、座っていた姿勢から突然宙を舞いジョジョの方へ飛んで来る。

 

「なにッ!」

 

 とっさにジョジョは車椅子に仕込んでいたナイフを構える。飛来してくる男に向け、ジョジョが伸ばした手を男はありえない距離で掴んでいた。シュルシュルと縮んでいく彼の手に引かれ、ジョジョは車椅子から起き上がる。

 

「君のことを傷つけるわけではないよ。ただ、君がなぜ石仮面の事を知り、どんな目的でそれを調べているのかを教えてもらおうッ!」

 

 男の腕に吊るされたジョジョは、全身の血液が沸騰するような体の熱さを感じた。感情を爆発させた眼の前の男から、何かが自らの体に流れ込んでくるようであり、全身に波及したそのエネルギーは感覚を持たない足すらも脈打つ程の血潮の流れを起こさせた。

 

 

 

 

 

 

「ディオ……すまないな、付きっきりで看病をしてもらって」

 

「気にしないでください父さん。僕は早く良くなってほしいです」

 

「そうか、本当にありがとう」

 

「これが薬です。飲んで、ゆっくり休んでください」

 

「ああ。そうするよ」

 

 ディオは、ジョジョが使用人を連れ旅に出た為ジョースター卿と2人で生活をしていた。何時も通り歳を重ねたジョースター卿の世話をしていたある日、突然ジョースター卿が病に倒れてしまう。

 

 ジョジョがイタリアで滞在すると言っていたホテルにすぐ手紙を送ったが、ジョジョがその手紙を受け取ってこの屋敷まで帰ってくるのは当分先だろう、そうディオは考えていた。

 

 日に日に弱っていくジョースター卿の様子に、手の尽くしようが無くこのまま衰弱しきり亡くなってしまうというのが医者の診断であった。

 気休めとして出された薬を毒薬にすり替えながら、ディオはジョースター卿が死んだ先の事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

「ジョジョ、君が自身の障害を乗り越えるために石仮面に目をつけたのは分かったよ。確かに石仮面は人の秘められた能力を引き出し、超人的な力を授ける。ただそれは、人間を辞め怪物になるということなのだ」

 

「怪物……それはどういう事ですか?」

 

「君が道を踏み外さぬよう、私の過去の話をしよう……そう、私がかつて石仮面を発掘した時の話……」

 

 ジョジョを自身の小屋に招いた男は、自らをツェペリ男爵と名乗った。そして、彼の悲しい過去を語りだしたのだ。

 

「私は学者の家に生まれ、世界の未知を探求することに限りない興味を持っていた……父の遺跡発掘に参加し、エジプトやインドなど各国を旅して回っていたんだ」

 

「ある時、私達はアステカの地下遺跡を発掘するためメキシコに向かった。そして、その中に石仮面が眠っていたのだ……そう、石仮面を発掘したのは私なのだ」

 

 ツェペリが石仮面と言葉に出すたび、苦痛に顔を歪める様がジョジョには気になっていた。石仮面……伝承によれば、その仮面は永遠の命と超人的な力をもたらすものであるはずだったからだ。

 

「その帰国途中のことだ……大西洋上、船の上で発掘隊の一員である友人の首が、バックリと……断ち切られていた……もう1人の友人、その眼球が船室の天井まで飛び跳ね音を立てて潰れた!!」

 

「発掘隊の内、何者かが仮面を被りその力を発現させたのだ!」

 

「58人居たはずの船内には、私とそいつ以外居なくなっていた……皆殺しだった。そいつは凄まじいパワーで、自分の腕を砕きながら殺戮を続けていた……人間らしい心は欠片すらも残ってなどいない、やつは血に飢えていた!」

 

「1人残った私は命からがら海へ飛び込んだが、やつは私を追ってきていた……すぐに追いつかれ、やつに血を吸われるその瞬間! 夜が明けた! 光が差したのだ……朝日の光で私はソイツの顔を見た……見たんだ……」

 

「ツェペリさん……」

 

 ジョジョはツェペリが仮面の下に誰の顔を見たのか、言いよどむ彼の様子から何となく分かってしまった。

 

「発掘隊の隊長……私の父だった」

 

 俯き、涙を流すツェペリの顔には深い悲しみと激しい憎しみが表れていた。

 

「私の父は船員の血を吸い、当時の私ほどまで若返っていた……しかし、その顔は朝日に当たりボロボロに崩れ気化して消えた。日光に弱いということらしい」

 

「そのまま私は何日も漂流して漁船に助けられた……しかし、私の頭の中にあったのは石仮面を積んだまま沈没した船のことだった。その石仮面が、どこに行ったのかは知れないが私が破壊せねばなるまい……そう考えていたのだよ……」

 

 自らの過去を話し終えたツェペリは、座っていた椅子から立ち上がりジョジョの前に立った。

 

「もし、君がこの話を聞いて石仮面を探すつもりがあるのなら、私に協力して欲しい。私は、また誰かが石仮面を被ることで私のような目に遭うことを無くしたいのだ」

 

 そのツェペリの言葉にジョジョは素直にうなずいたが、自らの馬車に積んである石仮面の事を話そうとはしなかった。さらに、そこに罪悪感も感じてはいなかったのだ。

 むしろジョジョの心には歓喜の感情すら浮かんでいた。なぜなら、石仮面の伝説は真実であることが分かったからだ。

 

 ツェペリの話の通りであれば、石仮面が持つ力さえあればジョジョの足さえ動き出す、そうジョジョは考えていた。もし、彼に石仮面の場所を教えれば彼はその石仮面を粉々に砕いてしまうだろう。

 それではジョジョにとって良くないことだ。ジョジョを突き動かす意思は、ツェペリのように誇り高き心ではなく、純粋に彼自身の為どんなことさえしてみせる漆黒の意思だからだ。

 

 表面上はツェペリ男爵に協力的な態度を見せながら、ジョジョは彼と別れホテルに戻った。

 彼は上機嫌で、浮足立っていた。何によって石仮面の力が発現するのか。それさえ突き止めることが出来れば、もう一度彼は自力で歩くことさえ出来るかも知れないのだから。

 

 上機嫌で滞在先のホテルにたどり着いたジョジョに、フロントが手紙を手渡した。

 差出人はディオ・ブランドー。冷水を浴びせられたかのように気分を落とされたジョジョは、気の進まないままに手紙を読み進める……それは、父の急病を知らせる手紙であった。

 ホテルを飛び出し、急いで馬車を飛ばすジョジョには、石仮面の事を研究する事は二の次であった。

 

 

 

 

 

 

 ジョジョが屋敷に戻り父の部屋に入った時、ジョースター卿はディオから薬を受け取って飲んでいる最中だった。激しく咳き込みながらも何とか水とともに飲み下し、息をつくと少しだけ容態が落ち着いたように見えた。

 

「お父さん、ご気分はいかがですか?」

 

 ディオがジョースター卿にそう問いかけると、ジョースター卿はこちらを落ち着かせるような穏やかな表情をして答えた。

 

「うむ……だいぶ、良くなったようだ……医者は今日にも入院をするよう勧めて来ていたがな……」

 

「入院? それはしないほうが良いです。馴れない環境に行く方が体調に障るでしょう」

 

「そうか……分かったよディオ。家で休むことにしよう……お前やジョジョにも気を遣わせてしまうかもしれないが……」

 

 そういう父の顔が、ジョジョには少し喜んでいるように見えた。病で体力が落ちて弱気になっているのか、入院せず家に居てほしいと言われて穏やかな笑顔を見せた。

 

「僕たちの事は気にしないでいいよ、父さん。多分風邪が悪化しただけだから」

 

 ジョジョは父に優しく声を掛ける。この七年間、ディオ以外とはあまり関わりを持たず一人ぼっちであったジョジョだが、父は勉強に没頭するジョジョを陰ながら支えていた。それは、幼い頃のジョジョの暴走を止められなかった後悔からかも知れない。

 それでもジョジョにはその愛情が嬉しかった。自分に積極的に関わってこなかった父を、初めて父として認められた。彼にはたった1人、本当の家族だったのだ。

 

 このまま死なせるわけにはいかない。必ず原因を突き止めて、自分が直してやる……ジョジョはそう思った。

 

 そして、自分の体を治すための医学知識が役に立つとしたら、これほど嬉しいことはなく、大怪我をして歩くことが出来なくなってから初めて父へ恩返しが出来るような気がした。

 

 

 

 

 

 

「ディオ、父の看病は僕がするよ」

 

 そのジョジョの言葉に、ディオは密かに歯噛みした。ディオには、ジョジョのその反応は計算外だった。

 

 自分が初めてこの屋敷を訪れた時、明らかにジョースター卿とジョジョの間には溝があった。その時は都合がいいとしか思っていなかったが、後々になってジョースター卿から直接ジョジョに対しての後悔の念を聞き、ジョジョのことを頼むとお願いされてこれは使えると思い直したのだ。

 

 自分がジョジョの親友として支えてやれば、ジョースター卿に愛を感じていないジョジョを自らに依存させる事ができ、ジョースター卿もジョジョとの関係を修復できず、引け目を感じたままジョジョに接する事になるだろうと。

 

 現に、ディオの眼の前でジョースター卿とジョジョが親しげに会話をしているところは見たことがなかったのだ。ディオは人付き合いが良く、よく屋敷から出ていた事もあるかも知れないが、2人の様子を見ていて直接的に繋がりを感じるものはなかった。

 

 実際には、ディオが興味をもつことのなかった屋敷の蔵書を、ジョースター卿は頻繁にジョジョのために買い集めていて、さらにジョジョが大学で専攻を選ぶ際に助言をしたのもジョースター卿だった。

 ジョースター卿が本を買い付けている姿を見て、ディオはそれが趣味の一環であると考えていたし、大学の学部を法学部にしたことを伝えたときも、ジョジョの時より喜んでいるように見ていた。

 

 とにかく、ジョジョが彼の父の看病を買って出ることはディオの想定外だったのだ。

 ディオは苦肉の策として交代制で行う事を提案したが、毒薬にすり替える機会は減りジョースター卿の顔色も少しずつ回復しているように見えた。

 さらに、ジョジョは父の容態を医学書と照らし合わせて病因を特定しようとしている。自分が呼んだ医者はヤブ医者だったために毒薬の特有の症状に気づかなかったが、屋敷にある難解な医学書を全て読破したジョジョであれば気がつく可能性があったのだ。

 

 どうにかして、ジョジョが自身の策略に気がつく前に排除しなければ……そう考えながらジョジョがジョースター卿の看病をしている間に彼の部屋に忍び込んでいた。

 何か、何かジョジョを排除する事が出来る機会は無いだろうか……多少怪しくても構わない、自分の障害となるジョジョを排除できれば……焦りを感じながらジョジョの私室を探るディオは、机の上に置かれていたジョジョのトランクを床に落としてしまった。

 閉じられていなかったトランクからは不気味な仮面が転がり出て、ディオの目線に飛び込んでくる。

 ディオにはその仮面……屋敷に飾られていたものをジョジョがやけに真剣に観察しているのを見たことがあった。

 

 仮面と共に床にぶちまけられたノートに急いで目を通すディオは、目的のモノを見つける。ジョジョが数年を掛けて調べ上げた調査記録、その最新のページにはツェペリ男爵という男の話した石仮面の恐ろしさについて書かれていた。

 

 石仮面……被ったものに永遠の若さと超人的な力を与える悪魔の道具。このディオにこそ、その力は相応しい。

 そう考えたディオは、解明されていない石仮面の起動法を見つけてやろうと、拾い上げた石仮面を懐にしまいジョジョの部屋を出た。

 

 ジョースター卿の容態を確認しようと、スラム街で調達した毒薬を盆に載せ部屋へ向かったディオは、丁度青い顔をしながら部屋を出たジョジョとすれ違う……

 

 ――瞬間、ジョジョはディオの腕を掴んだ。

 

「ディオ、その薬。()から手に入れたものなんだ?」

 

ディオを見上げるその視線は、強い疑念の光を放っていた。

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