真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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実は過去に私が書いていた作品のセルフアレンジ的なものになります!


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プロローグ


 武の頂点。武を志す者であれば誰もが目指し、そして巨大な壁を前に屈していく。一部の才を持った者だけがその頂に手を伸ばすことが許される。

 

 過去から幾度となく繰り返される話。武の頂点……最強は誰か。ある者は武の総本山と呼ばれる川神院の頂点、川神鉄心を。ある者は天下の九鬼従者部隊の零番ヒューム・ヘルシングを。既にその二人は古い。鉄心の孫である武神、川神百代だ……と。

 

 だが、多くの武人が現れ消えていった中には確かにその者たちと並ぶ者がいた。その者を知るならば必ず名を上げるという。

 

 真の最強は鳴神(なるかみ)天膳(てんぜん)であると。

 

 

 時代は遡る。日本の某所で三人の男たちがぶつかっていた。

 

「ジェノサイド・チェーンソー!!」

顕現の壱(けんげんのいち)摩利支天(まりしてん)!!」

「鳴神流・(ぜつ)!!」

 

 若かりし頃の鉄心、ヒューム、そして天膳である。この戦いや、三人の関係を知るものは少ない。互いに武の頂点を目指していた際に友として、そして最大の敵として幾度となく果し合いを繰り返していた。

 

「ふん、俺の技を易々と受け止めるのは貴様らくらいだぞ」

「ワシの技とて同じことじゃよ」

「……鉄心、そのエセじじい言葉はやめないのですか」

 

 互いに憎まれ口を叩きながらも互いの隙を狙うことをやめない。一瞬でも隙を見せれば必殺の一撃が飛んでくることが分かっているからだ。とはいえ、既に三人は数時間に及ぶ戦いを繰り広げていたのだ。周囲の地形が変化してしまうほどの激戦を。

 

「……とはいえ、もう時間ですね」

 

 一番目に手を止めたのは天膳だ。とはいえ、二人からの攻撃が来ればすぐさま反撃に移れるものではあるが。

 

「ふむ、そうなのか」

「また決着はつかずか」

 

 鉄心とヒュームも軽くため息をつきながら手を止める。

 

「鉄心もヒュームも、早く子を作るといいですよ。本当に可愛いんですから」

「ワシの恋人は武じゃよ」

「俺も同じようなものだ。誰に仕えるわけでもないからな」

「ヒュームの場合は違うでしょう。初恋が……」

「おい、本気の殺し合いがしたいのであれば喜んで受けるぞ」

 

 天膳が何かを言おうとしたのを本気の殺気を放ちとめる。

 

「ふふ、子の成長を見ずに死ぬわけには行きませんからね。やめておきましょう」

 

 肩を竦めながら天膳はそういうと、歩き始める。

 

「行くのか?」

「えぇ。まだ現役を退く気はありませんが、子のため少しでも力を扱う方法を見つけなければいけませんからね」

「……ワシらも手伝うぞ」

「いいえ、これは私の一族の呪いであり、宿命です。貴方たちには迷惑はかけませんよ」

「ふん、つまらんな」

「ですが、もし私の力が暴走することがあれば……」

「ワシらに任せておくといいぞ」

「不本意ではあるがな。そのときは葬ってやろう」

「ありがとうございます。……では、またの機会に会うとしましょう」

 

 

 三人が同じ場所に立つのはこれが最期であった。

 

 

 時は流れ。

 

 

 ドイツ。

 

「本当に行くのかね」

 

 きっちりとした軍服に身を包んだ男性がそう尋ねる。つけられた勲章の数からも高い地位にあるであろうことが分かる。

 

「はい。これまで長い間お世話になりました、フランクさん」

 

 丁寧な礼をした少年は長い黒髪を首の後ろ辺りでまとめていた。

 

「君は私にとって息子も同然だ。いつでも帰ってきたまえ。君の為ならば猟犬部隊も喜んで動いてくれるだろう」

「はは、気持ちは受け取っておきます。……それと、あっちについたら手紙書きます」

「うむ、待っているよ。……さぁ、クリスたちも待っている。挨拶をしていきたまえ」

「はい」

 

 フランクに再度頭を下げると少年は振り返る。涙目で震えている金髪の少女と、それを慰めるように寄り添う紅の髪の女性へと足を進める。

 

「クリス」

 

 少年は金髪の少女……クリスへと近づくとやさしく頭を撫でる。

 

「ユウッ!」

 

 抱きついてきたクリスを受け止めると再び頭を撫でる。

 

「何で自分を置いて行ってしまうんだ……」

「ごめんな、クリス。でもこれは師匠……祖父さんの遺言でもあるんだ。それにクリスも行くんだろ、日本」

「……行く」

「なら、向こうできっと会えるだろう?だから泣くなって。騎士なんだろ?」

「……分かった」

 

 少し落ち着いたクリスに安心したユウと呼ばれた少年は次いで紅髪の女性へと向き直る。

 

「勝ち逃げは許さないと知りなさい」

「はは、勝ち逃げのつもりはないよ。俺だって誰にも負けるつもりはないしね」

「……必ず会いに行きます」

「待ってるよ。あとコジーとテルにはよろしく言っておいて。再会したときに怖そうだ」

「ふ、自分で言いなさい。そこまで私がしてやる道理はありません。……といいたいところですが、彼女たちも貴方のことは心配でしょうから伝えておきます。感謝しなさい」

「あぁ。ありがとう」

 

 そう言うと旅に出るには少ない荷物を背負いなおす。

 

「それじゃ、クリス、マルさん。行ってくるよ」

「あぁ!ユウも元気でな!」

 

 

 こうして旅立った少年。彼の名は鳴神勇介。最強の一角とされた鳴神天膳の孫に当たる少年である。

 

 

 少年が旅立って数年の月日が流れた。

 

「もうすぐ川神だよ、兄ちゃん」

「ありがとうございます、おじさん」

「はは、いいってことよ!しっかしびっくりしたよ。兄ちゃんみたいな可愛い子が一人旅とはねぇ」

「あはは、何度も言われましたよ」

 

 祖父やフランク曰く母親似の勇介は整った目鼻立ちをしていて、海外では幾度となく女と間違われていた。亡き祖父が髪を伸ばしていたということもあって、勇介自身は髪を切るつもりはないようだが。

 

「あそこを渡ったら川神だ。俺はあっちのほうが目的地だからこのあたりまでだが……大丈夫か?」

「はい、本当にありがとうございました」

「ははは、川神は変わった奴と武の志のある奴らの総本山さ。気をつけていきな!」

 

 トラックが走り去るのを見送った勇介は川神へと歩を進める。

 

「へぇ……やばい気が幾つもあるな」

 

 ようこそ、川神へ!と書かれた看板とそばにある白線を越えた勇介はふっ、と笑う。

 

「さて、試すか」

 

 隠していた気を解き放つ。抑え付けられていた気は目視できるほどの力となって勇介の身体から迸る。

 

 

「っ!?なんじゃこの気はっ!?」

「へぇ……面白そうな気だな」

「何者ネ。総代の元へいかねバ」

「ほぅ……面白い。俺を試すか」

「んだよ、こりゃ。化け物か?」

 

 マスタークラス……達人の中でも壁を越えた者たちが反応を示す。

 

「っと、離れるか」

 

 恐ろしい速度で迫り来る複数の気配を感じて気を抑えるとすぐさまその場を離れる。

 

 

「む、隠れおったか」

「鉄心。貴様もこの気配を感じたか」

「ヒュームの関係者でもないのか。九鬼関連でないとすると……ふむ」

「貴様も感じたか。何処か懐かしい気を」

 

 

「さて、何処に行くかな」

 

 気を放って試すようなことをしておきながらその場を離れた勇介は島のような場所へと迷い込んでいた。

 

「おいおい、何だこんなところに迷い込んだのか?今ここは立ち入り禁止だぜ?」

 

 メイド服を着た金髪の女性がそう言って勇介に向けて銃を向けてくる。

 

「……メイドさん?しかも見た感じ本物?」

「ファック!銃を向けられてることよりもそっちのほうが気になるのかよ。ロックだな」

「ステイシー。それどころではありません。……すみませんが、すぐにこの場を離れていただけますか?そうであれば、私たちから手を出すことはありません」

「なにやら手を煩わせたようですみません。すぐにここを離れますから。はは……」

「待て」

 

 静止の言葉とともに空から降りてきた男に勇介は身構える。感じていたやばい気のひとつ。自らが強者であるという自負と圧倒的なまでの暴力の気配を身にまとった男。ヒューム・ヘルシング。九鬼家従者部隊最強の男であった。

 

「ヒューム、ヘルシングさんですね?」

「……赤子、貴様は?」

「俺は……」

 

 ヒュームへと殺気を放つ。それと同時に目を細めたヒュームが常人には見えない速度の蹴りを放つ。パンッ!と空中で弾ける音。

 

「ほぅ……」

「とはいえ、名乗らないのは失礼にあたりますね。はじめまして、ヒュームさん。俺は勇介。鳴神勇介です。祖父の遺言に従いここに来ました」

 

 ヒュームの蹴りを同じく蹴りで相殺した勇介がそう自己紹介する。

 

 

 これが、後にもう一人の師として仰ぐことになるヒュームと勇介の出会いであった。


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