真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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9話 学園への道

 川神学園への編入試験を無事突破した勇介。編入するクラスはFクラスと決定した。

 

「フハハハハ!勇介よ!無事編入を果たしたようだな!」

 

 声をかけてきたのは英雄である。傍には専属従者である忍足(おしたり)あずみが控えている。あずみは従者部隊のNo1であり、名実共に若手従者のトップでもある。

 

「英雄。お蔭様で無事合格したよ。学園でもよろしく頼む」

「おう!紋のお気に入りでもあるからな。何か困ったことがあれば我に言うがいい!あずみ、お前も気にかけてやれ」

「かしこまりましたっ!英雄さまぁっ☆」

「うむ!ではな、鳴神。学園でもよろしく頼むぞ!フハハハハ!」

 

 高笑いを響かせながら英雄は立ち去る。

 

「いい奴だな、英雄」

「はい、立派なお方ですよ」

 

 そう言うのは完璧執事クラウディオだ。普段はステイシーと李が付くのだが、なぜか今日はクラウディオが直々についていた。

 

「クラウディオさん、大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。李に別の仕事を任せておりますので、代わりに上司である私がついているだけですので」

 

 微笑みながら言うクラウディオに雄介も笑う。

 

「ありがとうございます。というか、俺こんなVIPな待遇でいいんですかね?」

「いまさらですね。帝さまが気に入っておられますし、何れ九鬼にとって有益な存在となる可能性が高いということも理由のひとつですからお気になさらず」

「はは、そこまで評価されると少しプレッシャーですけど」

「たやすいことでしょう、貴方であれば」

 

 そんな話をしながらクラウディオと本部内を歩く。

 

「それで、明日から学園行くんですけど何か準備しておいたほうがいいものってありますかね?」

「一通りこちらで準備しておりますので大丈夫だと思いますよ」

 

 流石は完璧執事、と勇介は内心で感心する。

 

「そういえば、クラウディオさん。一度お手合わせ願いたいと思っていたんです」

「私とですか?私ごときで勇介の手合わせ相手が務まるのであれば喜んで」

「はは、ご謙遜を。クラウディオさんなら大丈夫ですよ。強い糸使いと一度手合わせしておきたくて」

「かしこまりました」

 

 勇介からの頼みで呼び捨てにしてはいるものの、慇懃な態度は崩さないクラウディオ。二人はその後みっちりと手合わせをした。

 

 

「本当に強い糸使いはヤバイな……あれは結界って言われるレベルだな」

 

 クラウディオとの訓練の後、勇介は一人で考えていた。単純な強さでもクラウディオはかなりのものだろうが、糸を使った戦いの強さは勇介の想像を超えていた。

 

「あの相手の動きを先読みするのは流石といったところだろうな……あのレベルの糸使いと実戦を経験できたのは大きいな」

 

 攻撃、防御、拘束……汎用性も高く、扱いづらいことを除けば確かにクラウディオのような存在にはうってつけだろう。

 

「ああ見えて李さんよりも強いんだもんなぁ。李さんも決して弱くはないのに」

 

 元暗殺者である李を捕らえたのはクラウディオだと聞いた。つまり、少なくとも過去においては李よりも格上ということだ。

 

「本当に死角がない」

 

 ふぅ、とため息をついて目を閉じる。脳裏をよぎったのは学園ですれ違った少女のことを思い出す。戦いに飢えた瞳。自信に満ち溢れ、肉体から漏れ出るほどの莫大な気。恐らくは、いや確実にあの少女が川神百代だろう。気の雰囲気は何処か川神鉄心に似ていた。だが、身に秘めた力は暴力的なオーラを放っていた。

 

「あの気の量は反則だよなぁ。単純な力技だと押し負けるかもしれない」

 

 同年代であそこまでの強者がいるというのは驚きだった。単純な才能だけで見れば鉄心をも上回っているだろう。

 

「……」

 

 相手をどう倒すか。対策を立てなければならないことはたくさんある。その最たるものが瞬間回復だろう。

 

「まぁ、なんとなく対策は思いつくんだけどな」

 

 勇介は目を閉じ、気を高める。身体を青白いオーラが纏う。川神百代と同じ瞬間回復だ。

 

「っ!やっぱり実戦向きじゃないよなぁ」

 

 単純に使うことなら出来る。莫大な気を消費するが、数回程度なら現時点での勇介でも可能だ。だが、これを戦いの最中に使うとなれば話は違う。

 

「瞬間回復を防ぐことは出来ても、最後は単純な力での勝負か。直接、戦う姿を見れば対策も立つかな?ま、今は修行あるのみだな」

 

 

「……今日の修行は終わり、と」

 

 川神院。川神百代は今日の鍛錬を終え、軽く息をつく。特別疲れたような様子は見えないが、常人には不可能なレベルの鍛錬をしていたのだ。

 

「珍しく気合が入っとるのぉ、モモ」

「ジジイか。……なぁ、ジジイ。昔話してた鳴神流について教えてくれ」

「むぅ?何じゃ藪から棒に。……まさかとは思うが、何か感じたのかの?」

「いや、なんとなくな。私の勘……ちょっと気になっただけだから」

「ふむ……まぁいいじゃろ。実はワシも気になることがあったんじゃ」

 

 鉄心は語る。自身が天膳から聞いた、鳴神流とその宿命について。

 

 

 鳴神流の起源は古く、平安時代まで遡る。元は陰陽師を生業をする一族で、かの阿部晴明と同じく陰陽道で有名だったという。だが、あるとき鳴神の一族は力を得るために儀式にて血の呪いを受けることとなる。

 

「龍。天膳は、自身の肉体には龍が宿っていると言っておった。事実、本気になったときの天膳の目は黄金に輝き、暴力的な気を纏う。気をワシらの中で最も扱うのが得意であったにもかかわらず、持て余すほどのな」

「……ただ気が多いだけじゃないんだよな?それだとあまりにリスクが少なすぎる」

「うむ。龍の力は自らを喰らうと言っておった。故に鳴神流は一子相伝に近い形で進化を続けておった。自らの気を扱う術や、龍を抑えるだけの力を得るためにな」

「それでか。私もジジイから聞いただけで知らなかったのは。で、天膳っていう奴はまだ生きてるのか?」

「わからぬ。じゃが生きてはおらぬじゃろう。生きておるとしたら子か、孫か……」

「孫、ね。もし孫がいるとすれば私と同じくらいってことになるのか?」

「あ奴はワシより先に子を成しておったからの。もしかすると上かもしれんが」

「居るものなら是非会って見たいものだな」

 

 ニヤリと笑う百代。

 

「……(やはり危険な兆候が見えておるの。何処かで発散……もしくは精神鍛錬を増やすかせねばの)」

 

 武の世界において、百代は孤独だ。鉄心にはヒュームや天膳が居たが、百代にはそのような存在はいない。最もソレに近かった九鬼揚羽は既に現役を引退してしまったこともあり、尚更だろう。更には敗北を知らない。そのこともまた、彼女を孤独にしていた。

 

「(直江たちの存在で少しは抑えが効いとるようじゃが……それも限界かもしれんのぉ)」

 

 軽く頭を振りながら鉄心は悩む。本気でやり合っても百代を倒すことは難しい。鉄心自身も負けることはないだろうが。

 

 なんだかんだで可愛い孫娘なのだ。出来ることなら何とかしてやりたいのだが……。

 

「本当に、天膳に孫がおればのぉ……」

 

 学園に試験を受けに来た鳴神勇介。名前にもしや、と思ったが雰囲気は天膳とは違った。何かしらの武術はやっている身のこなしではあったが。

 

「一応聞いてみるかの」

 

 

 翌日。勇介は英雄の誘いを断り一人で通学していた。流石に人力車で運んでもらうのは遠慮した形だ。

 

「もうすぐあの橋か」

 

 千花が襲われていた変態橋、多馬大橋である。そこへと差し掛かったときに勇介の視界に人だかりが見える。

 

「ん?」

 

 周囲の人の視線の先。そこでは先日すれ違った少女が不敵な笑みを浮かべてなにやら格闘家のような男と対峙していた。

 

「我が名は……」

「御託はいいからかかってこい!通学中なんだ」

「!……参るっ!」

 

 なかなかにいい動きで少女との距離をつめる。だが。

 

「……悪手……いや、相手が悪すぎるな」

 

 目にも留まらぬ正拳突き。川神流無双正拳突きで男は吹き飛び、川へと落ちる。それと同時に周囲から歓声が沸きあがる。特に女生徒のものが多いような気がする。

 

「モモ先輩ー!素敵ですー!」

 

 そんな声に微笑んで手を振り返す百代。更に歓声は黄色くなる。

 

「……あれが、川神百代」

 

 無双正拳突きとは言っていたが、突き詰めれば鍛え上げたただのパンチだ。にも関わらずソレすらも必殺の一撃としてしまっているのだ。

 

「相手にとって不足はなし、ってことか」

 

 そんなことを考えながら見ていると、百代と視線が交差する。何処か一瞬驚いたような表情を浮かべた百代と勇介だったが、次の瞬間勇介は視線をはずすことになる。

 

「あれ、鳴神?」

「ん?」

 

 背後からかけられた声。直江大和である。

 

「おお、直江……」

 

 そこまで口に出して勇介が固まる。それは、大和の背後に居る人、いや人たちを見たからだ。

 

「クリスに、由紀江?」

「あれ?クリスとまゆっち知り合いなの?」

 

 一子が首を傾げてそう尋ねると同時にクリスが駆け出す。

 

「っと」

 

 飛びついてきたクリスを優しく抱きとめる勇介。

 

「「えっ!?」」

「ユウ!!会いたかったぞ!!」

「久しぶりだな、クリス。まさか川神学園に通ってたのか」

「む、日本に行くと約束したじゃないか!いつまで経っても連絡がないから自分、心配したんだぞ!?」

「はは、ごめんごめん」

「……えっと、鳴神?」

「あぁ、すまん。直江おはよう」

「うん、おはよう。……じゃなくて、もしかしなくてもクリスの友達?」

「そうだぞ!自分とユウは家族みたいなものだ!」

「何だ、じゃあ俺たちと一緒か!」

 

 そう言って現れたバンダナの少年。彼ら風間ファミリーのリーダーでもある風間翔一である。仲間うちではキャップと呼ばれている。

 

「マルさんもこっちに来てるんだ!早く学園に行って伝えないと!」

「何だ何だ。面白そうなことになってるじゃないか」

 

 こちらの様子を見て百代が一瞬で近寄ってくる。

 

「姉さん。……っていうか、まゆっち大丈夫か?」

『まゆっちは今衝撃を受けてるんだぜ』

「松風も相変わらずのようだな」

「は、はい!勇介さんもお元気そうで!」

「あ、もしかしてまゆっちが言ってた家族以外の唯一の人って言ってたの」

「そうなんです!こちらの勇介さんです!」

「クリ吉とまゆっちの知り合いなのか。なら俺も自己紹介だ!俺は風間翔一だ!」

「知ってるかもしれないが、私は川神百代だ」

「私は川神一子よ」

「島津岳人だ!」

「師岡卓也です」

「で、直江京と」

「そのとおり」

 

 GOOD!と書かれたプレートをどこかからか取り出すと立てる京。

 

「そのとおり、じゃない!っていうか鳴神もそういう冗談やめてくれ……冗談じゃなくなってしまう」

「ククク、いつかは本当になる」

「はは、本当に仲がいいな」

「……いや、クリスに抱きつかれてる状態で言われても、な?」

 

 嬉しさのあまり飛びついたクリスはいまだに勇介から離れていなかった。

 

「あぁ、そうだった。クリス、俺も学園に通うことになったから落ち着け」

 

 そう言って易しくクリスの頭を撫でる。少し落ち着いたのか、嬉しそうな顔になったクリスが離れる。

 

「あー、俺も自己紹介を。俺は鳴神勇介。今日から川神学園に転入することになった。よろしく頼む」




ここからルート分岐のような状態になります。
一発目はどういうルートにいくでしょうか?

次回をお楽しみに!(明日予定ですが。
分岐なので、ちゃんと?希望のあったヒロインで可能な子たちはプロット作成中です。
現時点では半数ほどは流れは完成してます!


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