「ユウ~♪一緒に遊ぶのだー!」
放課後になるや否や笑顔で小雪が駆け寄ってくる。
「いいぞ、何して遊ぶ?」
「ん~、ユウと一緒なら何でもいいよー」
何でもいいといわれても勇介も困る。苦笑いでゆっくりと近づいてきている冬馬と準に視線を向ける。
「何がいいかな?」
「そうですね……川神か学園の案内が妥当でしょうか?」
「それとも俺と一緒に帰宅する女神を見守るか?」
「コラーハゲー!ユウを悪の道に引き込むなー!」
勇介を守るように頭を抱きしめる小雪。
「……ユキ、あたってるあたってる」
「?何がー?」
「あー、ユキは基本的にそういうのに無頓着でな。こら、勇介困ってるから離しなさい」
「やだー!」
柔らかく甘い香りに包まれた勇介は払うわけにもいかず少し困ったような様子だ。
「む!ユウ、何してるんだ!」
そう言ったのはクラスへと入ってきていたクリスだ。
「あれ、大和ー」
「ユキも知り合いだったのか?」
「うんー!ほら、僕が話してたマシュマロくれたのがユウなんだー!」
「……それで、ユキは何で抱きしめてるの」
京が不思議そうに質問する。
「ハゲがユウを悪の道に引き入れようとしているのだ!だから、ユウは僕が守るの!」
「でも、少し困ってない?」
苦笑いで言うのは大和だ。小雪は少し首を傾げると勇介を解放する。
「苦しかった?」
「いや、大丈夫大丈夫。で、クリスは何拗ねてるんだ」
「拗ねてない!」
明らかに拗ねている。周囲の全員がそう思っているがクリスは認めないだろう。
「マルさんとはやりあったけど、今度クリスともやらないとな。ちゃんと鍛えてたんだろ?」
「勿論だ!自分も立派な騎士として鍛えているんだからな!」
一気に機嫌が戻るクリス。
「クリス、相変わらずチョロいね。大和付き合って」
「まぁ、ああいうところもクリスのいいところだよな、お友達で」
「お嬢様、ユウは今九鬼に世話になっているそうです」
マルギッテがクリスに報告する。
「む、そうなのか?ユウも島津寮に来ればいいのに。あ、なんだったら自分の部屋に遊びに来てもいいぞ!京とまゆっちの許可があれば入れる!」
そう言ってクリスは京を見る。
「……別に好きにするといい」
「あれ、京拒否しないんだ?」
少し驚いたようにいったのはモロだ。
「私も成長しているの。大和のために。チラッ」
「そういう成長はいいことだな、お友達で」
「……直江はモテモテなんだな」
「ちょっと待て!」
なぜか慌てる大和。そんなワイワイとした状況に飛び込んでくる人が一人。
「おお、弟もここにいたのか。ちょうどいい、鳴神。私とも手合わせしてくれ」
「俺じゃ一撃で吹き飛ばされて終わりそうですけど」
笑いながらそう言う勇介に百代は拳を突き出す。それを避けることもせずに見つめる。
「ふ……今の拳を避けもしない時点でお前の力はある程度分かるぞ?」
「もしかしたら反応できていないだけかもしれないですよ?」
「冗談を。マルギッテとあれだけの戦いが出来て今の拳に全く反応できないなんてことはありえないだろう。ふふ、面白くなりそうだ!」
心底嬉しそうにそう言う百代。
「……まぁ、正式なたち合いは後々として……一応鉄心さんに合同稽古なんかの話もしようと思っているからその程度なら」
「本当か!……それは楽しみだ!」
「おぉ、お姉さまが燃えてるわ……!」
百代の闘気が高まるのを見て一子が目を輝かせる。
「俺様、近くにいるだけでもちょっと怖いんだが」
「鳴神、怪我には気をつけろよ?」
「おい弟、どういう意味だ」
大和の言葉に反応して後ろから抱きつく百代。
「あははー!たのしそー!」
百代の真似をするように小雪も勇介の後ろから抱きつく。
「む!ユウ、私も!」
「いやいや、どういう状況だよ」
「……絶対俺よりお前のほうがモテモテだよな」
「南無阿弥陀仏」
そんな状況の大和を見て突然お経を上げる準。
「……何してるんだ?」
疑問に思った勇介が尋ねる。
「武神にとりつかれた哀れな直江の菩提を弔っている」
「余計なことするな、このロリコン」
手加減したパンチの風圧で吹き飛ばされる準。倒れ臥した彼に勇介から離れた小雪は近づくと、シャーペンでつつきだす。
「おーい、生きてるー?ハゲー」
「……」
「姉さん……」
「手加減してるからすぐに復活するだろ。それで鳴神。いつ来るんだ?」
「川神先輩は気が早いようで。まぁ、週末にでも顔を出そうと思っていたので、よかったら伝えておいて貰えます?」
「勿論だ!」
そんな話の後、復活した準も含めて勇介、小雪、冬馬、準の四人で仲見世通りに来ていた。
「そうそう、あの店の久寿餅、めちゃくちゃうまいんだぞ!」
「知っています。Fクラスの小笠原さんのご実家ですね」
「そうそう。多馬大橋だっけ。あそこの橋で変態に絡まれてるのを助けて奢ってもらったんだけど気に入っちゃってさ」
「マシュマロもおいしいよ。はい!」
勇介の口元にマシュマロを差し出す小雪。勇介が口をあけるとその中に放り込む。
「……ん、おいしいな。ありがとな、ユキ」
「えへへー」
「いや、しかし、本当にユキは懐いてるな。久々に会ったとは思えん」
「そうですね。ですが、勇介くんであれば私としては信頼して任せられると思いますよ」
「俺も、ユキを助けてくれたのが直江やお前たちでよかったって思ってるよ。特に、二人のことは家族のように大事に思ってるみたいだしな」
「そう、ですね」
その言葉に少し悲しそうな表情を浮かべたのを勇介は見逃さない。
「何か心配事があるのか?」
「……いえ、まだ確定しているわけではありませんので。それに、勇介くんがいれば、ユキを守る手段は多数用意できそうですし」
「だな。もしものときはユキを頼めるか?」
冬馬と準がそう言う。小雪を見るが良く分かっていないらしく首をかしげている。
「そうだな……断る!」
「は!?おいおい、今の流れは受けてくれるところだろ?」
「何があるのか、何が心配なのか俺にはわからないけど、お前たち二人をユキが見限ることはないと思うんだけどな」
「……」
「なら、俺に出来るのはただ一つだな」
「それは?」
「全員含めて俺が助ける。まぁ、俺にできるならだけどな」
「ユウ~!バイバーイ!」
手を振る小雪に手を振り返しながら勇介は立ち去る。それを見送りながら。
「……準、どう思います?」
「どうもこうも、俺たちと同じようにユキのことを大切に思ってくれてるっていうのは間違いないんじゃないか?どうしてあそこまで気にしてくれてるのかは分からんが」
「ですね。ただまさか、私たちも含めて助けるなんて言ってくれるとは思いもしませんでしたね」
「だな。……で、どうするよ若」
「どうするもこうするも、私たちではどうにもなりませんよ。……ただ、少しは抗って見ますか」
「若がそうしたいなら俺は付き合うだけだ。……確かにユキを巻き込むのは俺たちも嫌だしな」
週末。勇介はいつもと違う服装で川神院を訪れていた。
「おお、鳴神か。気合入ってるな」
嬉しそうな声で話しかけてきたのは胴着を着た百代だ。傍には一子もいる。
「鳴神くん、いらっしゃい!」
「お邪魔します」
「ジジイに伝えてくる。ちょっと待ってろ」
そう言うと百代はすぐに奥のほうへと歩いていく。その間は一子が相手をしてくれるようだ。
「ねぇねぇ、鳴神くんってお姉さまに勝てる?」
「どうだろうね。ただ、負けようと思って戦ったことはないよ。それは川神さんもそうでしょ?」
「その川神さんってやめない?お姉さまも川神さんだし。私のことは一子でいいわ」
「そう?なら俺も勇介でいいよ」
「分かったわ、よろしくね勇介くん!」
「改めてよろしく、一子」
再度挨拶を交わした後に勇介は一子を見る。……しっかりと鍛錬を重ねてきているのが見て取れた。だが。
「……(才能はない、か。いや、努力も才能だからないわけではない。でも、壁を越えることは難しい、か)」
「ど、どうしたの?」
「ううん、一子は何を目的に鍛錬をしてるんだ?」
「私はいつか、お姉さまと並び立ちたいの!お姉さま、一緒に戦えるだけの相手がいなくて寂しそうだし、私が強くなってお姉さまと戦えるようになって……そして、ゆくゆくはお姉さまが総代に、私が師範代になるのが目標よ!」
胸を張って言う一子を勇介は好ましく思う。ただ、その反面夢を叶える難易度の高さは異常なものだろう。……恐らくは一子自身も気づいた上で諦めないという選択をしたのだろうが。
「……そっか。それじゃ、少しだけ俺と組み手してみる?」
「いいの!?」
「うん。少しくらいなら怒られないでしょ」
そう言って拳を構える勇介。それに対して一子は薙刀を構える。
「あ、でも勇介くん、素手で大丈夫なの?」
「はは、鳴神流は自分自身が武器なんだ。勿論、刀を使ったりもするけど、決して手を抜いてるわけでもないから気にしないで。それに」
少しだけ闘気を放つ。
「これは軽い組み手だから。互いの弱点をアドバイスできるように、くらいの軽い気持ちで大丈夫だよ」
「……分かったわ!」
言葉に反した勇介の闘気を見て何かを悟ったのか、一子も真剣な顔で向かい合う。止めるものも、開始を宣言するものもいない二人の間に動きが現れるまでに時間はかからなかった。
「っ!」
器用に薙刀を振り回しながら勇介へと接近する一子。リーチを生かした連撃に触れることなく避けていく。守りに徹している勇介に一子は川神の技を繰り出す。
「山崩し!!」
頭上で大きく旋回させた薙刀を斜めに振り下ろす。脛を狙った一撃は勇介が跳躍することで回避される。だが、跳躍によって見えた隙を見逃す一子ではない。
「たぁっ!!」
宙にとんだ勇介を逃がさないように降ろした薙刀を返すように切り上げる。
「いい反応だ!」
空中に居るにも関わらず、一子の一撃を勇介は次は手を使って受け流す。それに驚いたのは一子だ。受けるでもなく受け流すというのはかなりの高度な技が要求されるからだ。
「勇介くん、本当に強い……!」
「ありがとう。俺も鍛えてるからね」
ゴクリと息を飲む一子。正直、底が見えない。ルー師範代などに鍛錬をつけてもらっているときと同じ、圧倒的格上を相手にしているような感じだ。それは、常にそういった修行を繰り返している一子だからこそ敏感に感じ取れたのだろう。
「うん、そろそろ鉄心さんたちも来そう出し、得意の一撃でも打ってくるといいよ」
「!分かったわ!!」
クルクルと薙刀を勢いよくまわし始める一子。闘気と共に速度を増す薙刀。
「川神流・奥義!!」
その言葉と共にタン、と地面を蹴る一子。合わせる様に勇介は一子の間合いへと進み出る。
「大車輪!!」
スピードに乗った一子の薙刀は左右上下あらゆる方向から勇介を襲う。勇介は感心する、一子の才能でここまでの技を身につけるためにどれほどの苦労を重ねたのだろう、と。だが。
「ふっ!」
勇介の右手が頭上から振り下ろされた一撃を抑え、左の拳が一子の面前へと突きつけられる。
「いい一撃だったよ」
勇介の言葉に一瞬何が起こったのかわからなかった一子ははっとする。
「す、すごい!!」
目を輝かせる一子がそこにいた。
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