真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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12話 もう一人の思い出の少女

 目を輝かせた一子が勇介のところへと駆け寄ってくる。

 

「初めて見てあんなに綺麗に技の間を突くなんてすごいわ!」

「はは、ありがとう。でも一子もよかったよ。これまで鍛えてきたっていうのはしっかり分かった」

「えへへ、そう?」

 

 勇介の言葉に照れる一子。

 

「私はお姉さまみたいな才能がないから鍛錬だけは欠かさずにやってるの!ゆ、勇介くんから見てどうだった?」

「そうだね……鍛錬の結果はしっかりと出てると思う。ただ、性格的なものなのか少し攻撃が荒くなる瞬間があるね。それがいい方向に動く人もいるけど、多分一子はそうじゃないから改善点かな?」

「ふむふむ……前にルー師範代からも同じことを言われたわ……」

「なら、精神鍛錬だな。後は……」

 

 一子とのたち合いで感じた点を細かく伝えていく。それを一子はしっかりとメモに書き込んでいく。

 

「鍛錬のメニュー教えてもらえる?」

「勿論!えっとね……」

「……ふむ、一部変更したほうがいいかもね。これはルー師範代と相談してから決めるといいと思うけど」

「うん!ありがとう!」

「ホッホッホッ、一子と仲良くなったようじゃの」

「何だ何だ。妹とばかり遊ばずに私とも遊んでくれよ」

「そんな闘気を漲らせながら言われても困りますよ」

 

 苦笑いの勇介と、言われても闘気を抑えることをしない百代。

 

「全く、すまんのぉ鳴神」

「いえ、構いませんよ。ですが、本気のたち合いは……」

「大丈夫じゃよ。鍛錬の延長戦としてしか認めぬ」

「くっ、何でだジジイ」

「鳴神の力をしっかりと確認していないのにそのような危険なことやらせるわけにはいかんじゃろ」

「むぅ……鳴神の力見抜けなかった癖に」

「……それは言い返せんが……」

「まぁ、とりあえず鍛錬としての組み手なら俺も構いませんよ。しっかりとしたたち合いなんかは川神院としても色々とルールがあるでしょう?」

「そういう気遣いはありがたいのぉ。合同稽古などもこちらで手配はしているのじゃが」

「お世話になります」

 

 丁寧に礼をする勇介に満足げな鉄心。

 

「ですが、今は一度川神先輩に胸をお借りします」

「ふふ、川神先輩じゃなくて下の名前でいいぞ。川神だとジジイやワン子と一緒だろう」

「では、皆と同じようにモモ先輩と呼ばせてもらいますね」

 

 

「では、今回の組み手は私が審判を務めさせてもらうヨ。百代、熱くなりすぎたらすぐに止めるからネ」

「分かってますって。……ふふ、マルギッテとの戦いを見て楽しみにしてたんだ」

「その期待に応えられるように頑張りますよ」

 

 闘気が高まる百代に合わせるように勇介の闘気も跳ね上がっていく。それにルーも驚きの表情を浮かべる。

 

「まさか、これほどとはネ……」

「ルー師範代、早く始めよう!」

 

 我慢できない、と言外に言う百代。ルーもやれやれと少し肩を竦めていたが諦めたようだ。

 

「それでハ、はじめるヨ。……はじめっ!」

 

 先に動いたのは勿論、百代だ。

 

「まずは小手調べだ」

 

 ニヤリと笑いながら拳を繰り出す。

 

「川神流・無双正拳突き!!」

 

 小手調べにして必殺の一撃。ほとんどの者はこの一撃を受けることも避けることも出来ずに敗れ去る。そんな可能性をわずかに感じていた百代は驚くことになる。

 

「川神流」

「「!?」」

「ホッホッホッ」

 

 鉄心以外は衝撃を受ける。

 

「無双正拳突き!!」

 

 パアンッ、とまるで何かが弾けたような音が周囲に響き渡る。完全に同じ威力の拳がぶつかり合い、互いに距離をあける。

 

「……お前……」

「終わりですか?」

「いや……いや!」

 

 獰猛な笑顔を浮かべた百代が再度拳を構える。

 

「まだまだ……本気じゃない!」

 

 再び勇介へと距離をつめる百代。

 

「いくぞ!!」

 

 猛打。拳の嵐が勇介を襲う。しかもその一撃一撃がかなりの威力で既に組み手などのレベルを超えてきている。だが、勇介は特に動揺することなく先ほどまでとは違い、全ての攻撃を受け流す。百代は内心驚きと動揺が隠せない。自分の技がここまで簡単に受け流されるというのは初めての経験だった。

 

「本当にお前は……楽しませてくれるようだな!!」

「(だんだんとギアがあがっていくタイプか!これがまだ全力じゃないってことか)」

 

 実際に戦ってみると分かる、百代の才能の恐ろしさ。切磋琢磨できる相手がいない状態でこの強さだ。百代自身が目標と出来るだけの存在が現れたとすれば……。ただし、百代ほどではないにしろ勇介も最強を目指すものである以上戦うことは嫌いではないのだ。

 

「……!」

「考え事をしている余裕はないぞ!」

 

 一瞬の隙も見逃さない百代の攻撃を受け流し続ける勇介。だが、流石に攻撃に転じるのは難しいようだ。

 

「なら」

 

 ドクン、と何かの鼓動で空気が震える。違和感と共に、野生的な勘で咄嗟に距離を取る百代。その目に映った勇介の瞳が黄金に輝いているのが見える。

 

「お前……その目っ!」

 

 鉄心の言葉を思い出す。

 

「龍……!」

「知っていたか。鳴神の龍の力のひとつ。この目は龍眼って言ってね。少しだけ力を見せるよ。鳴神の……俺の戦い方を」

 

 先ほどまでと違い、攻撃的な雰囲気を放つ勇介。それは、揚羽との戦いのときに見せたのと同じものだ。

 

「鳴神流龍技星喰(ほしばみ)!」

「川神流星殺し!!」

 

 互いに星を冠した技を放つ。百代に向かって掌を向けて突撃する勇介に対して、巨大な気のビームが放たれた。だが、それはまるで掻き消えるように勇介の手に触れた場所から消失していく。

 

「なっ!?」

「ぐっ!」

 

 驚愕に目を見開いた百代と、腕を押さえて動きを止める勇介。はっとしたようにルーが間に入る。

 

「そこまデ!」

「……」

 

 百代が不完全燃焼で文句を言うかと思いきや、むしろ満足したような笑顔で勇介へと手を差し出す。

 

「流石はジジイのライバルの孫だな。久々に楽しい戦いだった」

「はは……どんな気の量してるんですか」

「それを打ち消しておきながら言う台詞じゃないだろ。なんだアレは」

「秘密ですよ。俺の奥の手なんですから」

「そうか。それはそれで知りたくなるな。……ふふ、いつか教えてくれよ?」

「ええ、機会があれば」

「それに聞きたいことが他にも……」

「モモ、落ち着けぃ。鳴神、流石といってよいのかの?」

「ありがとうございます。祖父の跡をついで何れは最強を目指してますから」

「ホホ、若いのぉ。じゃが、その心意気やよし。ルーよ」

「ハイ、総代。鳴神、いつでも川神院に遊びにくるといいヨ。他の若者たちにもいい影響を与えられそうダ」

 

 ルーの言葉に勇介は再度頭を下げる。

 

「どうじゃ、ちょうどいい時間じゃし食事でもどうじゃ?」

 

 

「……それで、クリ吉のところで世話になってたのか」

「はい。とはいえ、そこを拠点にしつつ世界中につれていかれましたがね」

「その中で川神にも来たのか?」

「……多分。俺の記憶に川神に来たというものはないんですけど、ユキと出会ってたってことはそうだと思います」

「凄いわ……運命って奴ね!」

 

 目を輝かせながら一子が言う。

 

「確かに、再会できたしそうかもな。……同じ時期にもう一人会った子がいたんだけど、名前とかを聞いた記憶がなくてね」

「どういう子?」

「ん~……正直、ほとんど覚えてないんだけどな。確か、ユキと何処か似た雰囲気だった気がする。……友達がほしくて必死で頑張ってたよ」

「……どこかで聞いたような話だな」

「そうね、私もそんな気がするわ」

 

 うーんと首を傾げる川神姉妹。

 

「ユキもそうだったんだ、きっと元気にしてるだろとも思う。ただ、正直気になったりもする」

「……そうか。なら、さっきの戦いの礼だ。私たちが探すのを手伝ってやろう」

「そうね!私も協力するわ!」

「いいのか?」

「あぁ。これからもお前とは仲良くしたいしな。ちょうど明日も休みだからファミリーを全員集めよう」

 

 

「話は聞いたぜっ!!」

 

 そう切り出したのは翔一だ。

 

「いいなぁ、そう言うの!お母さん、見つかりました!とかやるんだろ!?」

「キャップ、それちょっと違う。でも、鳴神がこのあたりに来たことあったっていうのもびっくりではあるよな」

「だな。俺様とは会ったことないよな?」

「多分。正直小さいときだから自信はないけど、島津みたいな男なら覚えてるだろ」

「はっはっはー!俺様、イケメンだからな」

「……ガクトのその自信一体何処から来るのか知りたいよ」

 

 呆れたように呟くモロにガクトが近づいてなにやらいいながら肩を組む。

 

「じー……」

「ん、どうした椎名さん」

「……なんでもない。ガクトとモロのカップリング……アリだなって」

「いや、ナシだろ」

「……」

 

 京の言葉を否定する勇介と無言で二人を見るクリス。少しだけ頬を染めているのは気のせいだと思いたい。

 

「勇介先輩、特徴はほとんど覚えていないんですよね?」

『情報少なすぎて神様のオラでも梃子摺りそうだぜ……』

「ごめんな、由紀江、松風。凄く細かったことと、少しぼろぼろの服を着てた……気がするくらいしか覚えてない」

「流石に情報が少ないな……でも、俺たちと同年代の可能性は高いよな」

 

 うーんと唸りながら大和が言う。

 

「……」

 

 やはり京から視線を感じる。

 

「よーし!それじゃ、まずは出会った場所を探すところからスタートだぜ!」

「まぁ、川神案内の一部だと思ってくれたらいいと思う。にしても、キャップノリノリだな」

「まぁ、あいつこういうの好きだからな。弟、話で候補は決まってるのか?」

「まぁ、可能性として幾つかは。そのうちのひとつは俺たちもよく知ってる場所だよ」

「え、大和もうめぼしつけてるの!?流石は軍師ね!」

「ユウ、自分たちに任せてくれ!きっと見つけてやるからな!」

『クリ吉……自分はそこまで川神に詳しくない癖に自信だけ満々だぜ……』

「こら松風。私たちも同じなんですから」

 

 幾つかの場所を回った後、大和が最初に言っていた自分たちもよく知っている場所へと案内される。

 

「ここは……!」

「もしかして」

「ビンゴか!?」

 

 そこは少し変わった部分もあるが、勇介の記憶にある少女との思い出の場所だった。

 

「ここって……」

「俺様たちが遊んでたたまり場の近くじゃねーか」

「おぉ……大和、凄いわ」

「間違いない。俺はここでその女の子と会ったんだ。何か石を投げられていてな」

「……ごめんね」

 

 ボソリと京が呟くと勇介に対して石礫を飛ばしてくる。それに気づいた勇介は京に当たらないようにそれを子供の頃と同じように投げ返した。

 

「まさか」

「……そのまさかみたい」

「「え!?」」




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