真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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もうすぐみんな大好き(?)クローン組、合流です!


15話 東西交流戦 前編

 天神館との決戦である、東西交流戦当日。なぜか冬馬は清々しい顔をしていた。

 

「ん、冬馬。何かいいことでもあったのか?」

「いえ、父が怪我をしてしまいましてね」

「いやいや、それにしては何というか……安心したような顔をしてるじゃないか」

 

 勇介が不思議そうに尋ねる。

 

「まぁ、俺の父親も含めてお前ら大丈夫なのかー、ってくらい仕事熱心だったからなぁ……色々と」

「ふふ、そういうことで怪我はしてしまいましたが二人とも療養する機会に恵まれましてね。それにホッとしているんですよ」

「そうか。よくわからんが色々あるんだな」

「えぇ。勇介くんとももっと仲良くできそうでうれしい限りですよ」

「はは、お友達で」

「あー!トーマがユウに抱きつこうとしてるのだー!僕も混ぜてー!」

 

 相変わらずの突進をしてきた小雪を抱きとめる。

 

「だから、急には危ないって」

「えへへー、ユウなら大丈夫でしょ?」

 

 信頼しきった目で見ながら言ってくる小雪に苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、基本的には大丈夫だと思うけど」

「ならいいのだー」

「いやぁ、ユキがあんな感じでなついているのを見ると娘を嫁に出す父親の気持ちになるな」

「では私はお母さんでしょうか」

「……いや、若?」

「冗談ですよ」

「ハゲが父親とかいやなのだ」

「ひどいわっ!?」

 

 いつもと変わらない感じの四人を見て英雄が笑う。

 

「フハハハハ!さすがは我が友トーマや父上も認めた鳴神であるな!大舞台を前にしても動じる様子が全くないわ!」

「いや、あれは何も考えておらんだけじゃろ」

 

 英雄の言葉に心が突っ込みを入れる。

 

「不死川さん、余計なことは言わないでもらえます?」

「にょわー!すぐに刃物を向けるでないわー!」

「うむ!皆元気があってよいな!」

「はは、英雄。それで受けてくれるんだよな?」

「うむ、お前や我が友トーマの願いであるからな。それに……」

 

 若干ぎこちない感じが残るSクラスとFクラスの面々を見て英雄が喝を入れる。

 

「今は、クラス同士で対立している場合ではないぞ!一年生たちの敗北を見ていたであろう。天神館をバラバラに戦って勝てる相手だと侮るなよ!」

 

 そう、英雄の言葉からわかるとおり勇介の予想では勝てると見ていた一年だったが、結果は敗北したのだ。しかも、かなりの余力を残して。

 

「あれは予想外だったな。……まぁ、由紀江一人では仕方ないか」

 

 一年の総大将に名乗り出た武蔵小杉があっという間に取り囲まれ敗退。あれではさすがに、由紀江が本陣強襲をかけるよりも早く決着してしまったのも仕方がないだろう。

 

「その次に行われた三年は、まぁ予想通りだったけどね」

 

 大和が勇介に声をかける。

 

「まぁ、モモ先輩らしい大技だったよな」

「うん。……まぁ、天神館も天神館でとんでもない技だったな。組み体操かよ」

「いや、あれは妙技だぞ。見た目以上に練習してたに違いない」

「……まぁあのサイズのパンチとか姉さんじゃないと受け止められないよなぁ。……あ、勇介も止められるか?」

「ん~まぁなんとかなるとは思うけど、モモ先輩みたいなビームはなぁ。練習してみるかな」

「……練習したらできるのかよ」

「たぶん?」

 

 三年の戦いは川神学園による一方的な制圧で決着を迎えることになった。勇介の言う妙技によって一塊となり、巨人のようになった天神館の生徒を一撃で百代が散らす。そして残った生徒たちを弓道部主将である矢場弓子を中心とした残敵掃討。完膚なきまでの敗北をたたき付けたのだ。その戦いが終わったときに百代が勇介を見てニヤリと笑ったのは挑発なのか、それとも激励なのか。

 

「学舎の名を高めるか!辱めるか!選べ、お前たち!!」

 

 英雄のそんな言葉によって集まった全員の目が変わる。

 

「ほほ、F組と手を組むのは嫌じゃが敗北はもーっと嫌なのじゃ」

「では、私たちは力と身体を合わせて、西と戦いましょう」

「身体は合わせないがわかったぜ!共同戦線だ!」

 

 心が言った言葉に冬馬が続き、一部を大和が否定する。これまでは敵対することしかなかった二年生の二クラス。それが奇跡的な団結をする。とはいえ、これはすでに勇介と冬馬と大和が計画していたことで、それに英雄が賛同したから実現したものであるのだが。

 

「しかし二百人ねぇ。うちとF以外に主力になり得る人はいるのか?」

「正直、きついかな。もちろん運動部のエースとか格闘系の部活とかいるからゼロとは言わないけど十勇士クラスをとめられるのは……」

「結果、ファミリーか。作戦はこの間話した感じでいくんだな?」

「あぁ。……悪い、本当は戦いたいだろうけど」

「いいって。俺も賛成しただろ?それに大丈夫そうになったら参戦するさ」

「一子殿が戦うのであれば、我が守るが道理!」

 

 話をしていた勇介と大和の後ろから英雄のそんな声が聞こえてくる。

 

「道理じゃねぇよ、いいから大将は奥にいろ!」

 

 英雄を止めたのは源忠勝。大和たちと同じ寮に住むクラスメイトでとても優しいお兄さんのような人だとクリスが言っていた。……口はかなり悪いが。

 

「大将に守られては戦士として物笑いだわ!先陣は任せて大将らしくデンと構えててね、九鬼くん!」

 

 一子の言葉に感動したように賛辞を述べるとそのまま近くにあずみが準備していた椅子に座る。

 

「いやぁ、英雄が言うことを聞いてくれるので助かりますよ」

「これも共同戦線だからこそだよな」

「そんじゃ、ご機嫌な指示を頼むぜ!」

 

 数日間姿を消していたはずの翔一は当たり前のように戦いに合わせて帰ってきていた。このような面白そうなイベントを逃す翔一ではないのだ。

 

「それじゃ、今から言う作戦を聞いてくれ」

 

 大和の口から語られる作戦に全員がうなずく。

 

「その作戦で行こう」

 

 勇介の言葉で各自が配置につく。まもなく法螺貝の音が響き、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

「開始ね!たっちゃん、いきましょ!」

「おう、無理すんじゃねぇぞ一子!」

 

 先陣を切ったのは予定通り一子と一子の補佐として動く忠勝だった。

 

「勿論!いくわよーっ!!」

 

 気合を入れた一子の一振りで数人の生徒が宙を飛ぶ。

 

「一番槍は2-F川神一子が貰ったわっ!」

 

 一子の声が両軍の動きを激しくさせていく。

 

 

「……うん、いい一撃だ」

 

 戦闘の始まったときの一子の一撃を高所から見ていた勇介が嬉しそうに声を上げる。

 

「一子は努力の天才か。武の才がないながらも悲観せずに努力を続けることができるのはすごいな。……よし、俺も自分の仕事をやらないとな」

 

 周囲を見渡す勇介。本来であれば英雄の傍にいるはずなのだが。

 

「……よかったの?私のところで」

「あぁ。腕のいい弓兵には腕のいいボディーガードが必要なんだとさ。それに俺ならあの距離ならすぐにいけるからな」

「まぁまぁ距離と高さあるよ?」

「鍛えてるからな」

 

 そういって笑う勇介に京が珍しく苦笑いを浮かべる。

 

「でも、こっちに誰か来るかな?」

「どうだろうな。でも京は俺が守ってやるよ」

「っ!……うん」

 

 少しだけ出会った頃を思い出した京が微笑む。

 

「そうそう、京は笑ってたほうがいいぞ」

 

 勇介にくしゃっと頭をなでられる。大和以外でこんなことをすればすぐさま反撃が飛ぶのだろうが、少し嬉しそうに京は下を向く。

 

「あ、すまん。クリスとかにやってた癖で」

「……いいよ。っていうか、クリスいつも撫でられてるのね」

「なんとなくわかるだろ?」

「まーね」

 

 そういった京が弓をつがえる。

 

「ワン子が強敵と接敵したよ!」

「あれは……大和の言っていた特徴だと……」

 

 

「軟弱な東の連中め!西国武士の気骨を見よ!」

 

 背中に巨大な大筒を背負った少女が仁王立ちで待ち構えていた。西方十勇士の一人、大友焔だ。背中の改造大筒を構えると川神学園の生徒たちに狙いを定める。

 

「大友家秘伝・国崩しぃ!!」

 

 大量の焼夷弾によって夜の工場は真っ赤に染まっていく。それと同時に吹き飛ぶ川神学園の生徒たち。

 

「うむ、大・火・力!これぞ西方十勇士の実力ぞ!」

 

 そう言いながら一瞬の間に次弾の装填を終えている。

 

「うわぁっと!なんて広範囲!何十人脱落したの?というか、ちょっとやりすぎじゃないの!?」

「東西交流戦とはいえ、あくまで戦。やけど程度でわめくな」

 

 そう言って笑う焔に一子が薙刀を頭上に掲げて攻めの姿勢をとる。

 

「まずはこの遠距離を詰めてみるがいい!!」

 

 一子が一呼吸の間に一気に距離を詰める。だが、焔もそれをただ見ているだけではない。

 

「国崩しでりゃあああ!!」

 

 再度放たれるシンプルにして最大の奥義。それに対して一子はすでに銃口の角度から弾道を想定し跳んでいた。

 

「あっぶなーい!」

 

 直撃は免れたものの、全くのノーダメージとはいかない。互いに身動きのとりづらい距離でにらみ合いになる。

 

「一子!俺は別のところに援護にいってくる!直江が誰か寄越すっていってたが……いけるな?」

「勿論!ここは私に任せて!」

「行かせると……」

「あなたの相手は私よっ!」

 

 

「どうする?」

「いや、撃たなくてもいい。すでにあっちに向かって一人動いてる。大和が指示を出してたみたいだな。……とはいえ、東の旗色が少し悪いな。西方十勇士は伊達じゃないってことか」

 

 残存兵力は敵が120ほどで、こちらは50程度。明らかに旗色は悪いが、こちらも強力な戦力は温存している状態だ。特に、大和が期待している最高のジョーカーである勇介は京とともに高所にいることで、時折強い人員の場所を連絡で伝えている。これにより無駄に戦力が削られるのを最低限まで抑えているのだ。

 

「アスレチックみたいな地形はキャップが大暴れ、高低差を活かした策略でゲンさんがかく乱を始めて、狭い通路をガクトが塞いでいる……悪くはないけど、このままじゃ手詰まりだな」

「でも、ワン子のところに誰かいってるんでしょ?」

「あぁ、いってるよ。俺の知る限りじゃ最高レベルの援軍が、ね。で、京。あっちを頼む」

 

 勇介が指したのは一子の戦場からさらに遠方。壁に隠れていた男が姿を現すところだった。

 

 

 場所は戻って一子対焔。焔の攻撃を一子がすべて紙一重で避け続けているのが現状だ。

 

「逃げるしか脳がないのか東の腰抜けはぁっ!」

「くっ……が、我慢っ!!」

 

 大和から受けていた指示を思い、なんとか反撃に出たい気持ちを抑える一子。だが、そんな一子を狙っている弓兵がいた。

 

「東の蛮族。美の化身、毛利の三連矢で仕留めてやろう」

 

 そう一人つぶやく。毛利元親。西方十勇士にして天下五弓であり、そして残念なレベルでのナルシストだ。彼の奥義でもある三連矢は一本の矢を避けたとしても続けて放たれる二本の矢を避けることは不可能……そういった理論のもとに生み出されたものだ。

 

「ましてそれが美しい国崩しを避けた後なら尚更だ」

 

 そんな彼の目に映ったのは焔の国崩しを避けた一子だった。

 

「今だ!エレガントな西方十勇士の技、馳走してやる!」

 

 回避直後の動けない一子に対して三つの魔弾が放たれた。




なんとかPCの復旧が完了しました。
よかったぁ……。

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