真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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ヒロインたちとの絡み以外は超駆け足で進みます(ぉぃ


1話 武士道プランの申し子たち 前編

 九鬼財閥極東本部。巨大なAの形をした建物である。そこの一角にあるヒュームの部屋に勇介は招かれていた。

 ヒューム手ずから入れた紅茶を飲みながら祖父のことを話す。

 

「……あいつは死んだか」

「はい。それでその後、祖父の友人にお世話になっていたんです」

「それで、俺を訪ねてきた理由を聞こうか」

「簡単なことですよ。……貴方を超えるためです」

「……ほう?力の差が分からん赤子だったか?」

「いえ、勿論今はまだ勝つのは難しいですよ。だから川神に来たんです」

 

 勇介の言葉に目を細めるヒューム。

 

「……これからどうするつもりだ」

「正直なところ、何も考えてなかったんですよ。最悪お金はあるからホテルでも泊まるかな~、くらいで」

「本当にあの天膳の孫か?……いや、あいつの孫らしいといえばらしいのか。少し待て」

 

 そう言って部屋を出るヒューム。残された勇介は周囲を見渡す。

 

「……おお、標本か。動物の剥製も標本の一種だっけ。……絶対これ自分でとってるよなぁ」

「何だ、俺のコレクションに興味が沸いたか?」

「いや、普通にすごいなぁって見てただけです」

「興味があるのならもっと見せてやっても構わんぞ」

「ヒューム、こちらの方が?」

「あぁ」

 

 ヒュームの後ろから入ってきた老紳士といった男性が勇介を見る。

 

「これはこれは……とてもよい気をお持ちのようですね」

 

 ヒュームとは違い、やさしい微笑みを浮かべる。

 

「ふん、まだ赤子だがな。それでクラウディオ、この赤子を帝さまに会わせても問題ないレベルまで育てる」

「既に、お会いしても問題ないレベルとは思いますが」

「俺が武を、クラウディオが礼儀作法を、マープルが智を叩き込む。そうすれば才があれば一月もあれば十分まともな赤子になるだろう」

「……はい?」

「……私は構いませんが、ヒュームは紋さまについていなければならないでしょう?」

「大丈夫だ。合間に見ることくらいできるだろう」

 

 進む話に首をかしげる勇介。

 

「それは決定事項みたいな?」

「住む場所の世話もしてやる。文句はないだろう?」

「うーん……ありがたい話ですけど」

 

マープルという聞いたことのない名前にも少し疑問が浮かんでいたりするのだが、ヒュームがそれに構うことはない。

 

「なら決定だな。移動するぞ」

「あ、はい。……って、何処に?」

「ついてくれば分かる」

 

 部屋を出て更に上の階へと進んでいく。

 

「……あのー、ヒュームさん」

「何だ」

「これ、ヘリですよね?しかも軍事用の」

「よく知っているな」

 

 気付くと勇介は九鬼財閥極東本部の屋上ヘリポートにつれてこられていた。

 

「今から何処に行くんです?」

「九鬼家の所有する島のひとつだ」

 

 

「甘いぞ!ジェノサイド・チェーンソー!!」

「くっ!!」

 

 朝5時。ヒュームと実戦形式での修行を行っていた。

 

「鳴神の技に頼らずに俺とやり合えるようになれ。お前の眼であればそれも可能だろう?」

「眼のことも知っているんだ。……まぁ、教えを請う身だし全力でやらせてもらう!」

 

 

「クラウディオさんの立ち居振る舞いは凄いと思います」

「簡単なことでございます。勇介も執事学校へ入り学べばこの程度であればすぐにできるようになるでしょう。現時点でもそのあたりの執事であれば負けないほどの作法は身についていますよ」

「はは、クラウディオさんにそういわれると嬉しいな」

 

 昼過ぎの13時頃。クラウディオから礼儀作法や執事としての作法などを。

 

 

「素質はあると思っていたが……いやはや、アンタには驚かされるねぇ」

「いえ、ミス・マープルの教え方がいいからですよ。ドイツにいた頃に勉強は教わっていたのも助かりました」

「あのフランクのところだったかい。猟犬の小娘どもは出来がいいとは聞いていたが……想像以上のようだねぇ」

 

 夜に差し掛かる頃にはミス・マープルから勉学や歴史、帝王学などを。

 

 

 そんな生活が幾月か流れて。

 

 

「どう思う、マープル」

「あたしゃ賛成だね。あの子であれば清楚たちにもいい影響を与えられるだろうて」

「私も賛成です。最近では与一様の様子がおかしいとも聞きますし、何かしらの結果をもたらしてくれるでしょう」

「決まりだな。明日早速連れて行くとしよう」

 

 ヒュームたちがそんな話を交わした翌日。

 

「ヒュームさん、ヘリで移動ってもしかして帰る感じです?」

「いや、お前には会ってほしい相手がいる」

「会ってほしい?」

「まだまだ赤子ではあるが、英雄の力を秘めた者たちだ。詳しいことは言わんが、お前の目で見て相手をしてやれ」

「え、それ流石に説明……」

「いけ」

 

 突如ヘリの扉を開けると勇介を突き落とす。

 

「……ちょ!」

 

 

「~♪」

 

 一人の少女が鼻歌を口ずさみながら花の手入れをしている。美しい黒髪を腰よりも長く伸ばしている。優しい微笑みを湛えたその姿は少女自身も可憐な花であるかのように感じさせていた。

 

「ふぅ、与一くんのこと、何とかしないと。悩んでいるなら相談してくれたらいいのに」

 

 そうつぶやきながらも、男の子の悩みだとしたら自分が相談に乗るのは難しいだろう、とも思う。

 

「こんなときに頼れる男の子とかいたら……」

 

 読書も好きな少女が好んで読む小説の中に出てくる登場人物を思い浮かべる。そんな人物はいないと思いながらも空想してしまうのは仕方のないことだ。

 

「えっ?」

 

 何かの違和感を感じて少女は空を見上げる。豆粒のような黒い影が少しずつ近づいてくる。恐ろしいほどの速度で。

 

「ええっ!?」

 

 常人よりは圧倒的にいい少女の目に映ったのは自分とそこまで年齢の変わらないであろう男の子が空から降ってくる姿だ。……普通の人間があの速度で落ちてくれば、地面はもう文字にできないほどの地獄絵図になるだろう。かといって、少女に受け止める手段はない。

 上空から降りるのではなく落下していた勇介の目にも少女が映る。力技で着地するつもりだったのだが、目の前にいる少女を巻き込んでしまう可能性がある以上、丁寧に着地しなければならない。しかも花壇のような場所も避けたほうがいいだろうと考える程度の余裕は勇介にはあった。

 身体を捻り、花壇から地点を少しずらし地面への衝撃を気で抑える。それでもかなりの風圧が周囲に巻き起こる。

 

「きゃっ!」

 

 それに巻き込まれた少女が少し体勢を崩す。

 

「危ない!」

 

 着地した勇介が少女の腕を引き寄せる。勢いのまま、少女が勇介の胸に納まる形になる。

 

「「あっ……」」

 

 こういう形になるのは二人とも予想していなかったのだろう、固まってしまう。

 

 

 葉桜清楚(はざくらせいそ)。九鬼が極秘裏に進めている武士道プランのメンバーの一人であり、まとめ役とされた少女との出会いはまるで物語のようなものであった。

 

 

 武士道プランで生み出された英雄たち。源義経、武蔵坊弁慶、那須与一。名前もはっきりとしている三人とは違い、正体も名前も伏せられている葉桜清楚を含めた四人がこのプランの申し子たちである。生真面目で何事にも一直線で素直な義経、義経を敬愛―可愛がっているだけのようにも見えるが―しながらも、基本的には面倒くさがりでのんびり屋の弁慶、昔は素直だったらしいが、大人たちの陰口などで反抗期となってしまい、ニヒルなものにかぶれてしまった与一。そして本や花や動物を愛する名は体を表している清楚。

 そんな四人との日々は勇介にとっても心安らぐものであった。

 

「ユウ」

 

 背後からしなだれるように抱きついてきたのは弁慶だ。

 

「どうした、弁慶。まだ寝る時間には早いぞ」

「流石の私もまだ寝ないよ。でも動くのが面倒だから連れてって」

「何処に」

「二人で一緒にだらけられるところ」

「う~む……なかなかに魅力的な誘いではあるな」

「ふふ、そういうところ素直だよね、ユウって」

「自分から身体を押し付けておいてよく言うな」

 

 軽口をたたきながらも勇介は少しドキドキしていたりもする。異性との関わりは少なくはなかったが姉のような相手や妹のような相手ばかりだった(本人的には)から仕方がない話だ。

 

「おーい、勇介くーん、弁慶ー!」

 

 遠くから聞こえてくる義経が二人を探す声。

 

「ほら、弁慶。義経が探してる」

「う~……戻ったら畑仕事をさせられる。面倒だ。……あぁ、でも義経が呼んでいるから仕方ないか」

 

 なんだかんだ言って義経至上主義の弁慶だ。基本的にはちゃんとやるのだ。やる気があるかは別として。

 

「いた!勇介くんも弁慶も、義経と一緒に畑仕事に行こう!もうすぐ収穫だから、最後までちゃんと育てるぞ!」

「ああ、そうだな。義経はちゃんと育てて偉いな」

 

 勇介はそういいながら優しく頭を撫でる。

 

「う、うん!義経はちゃんと成長を記録もしているぞ!」

 

 頭を撫でられて嬉しそうにそういう。

 

「おや、義経嬉しそう」

「そ、そんなことはない!あ、頭を撫でられるのが嫌だというわけではなくて」

「はは、大丈夫だよ。で、与一は?」

「またどこかに行ってしまったんだ。義経が誘っても与一はなかなか一緒に来てくれない」

「へぇ、まだおしおきが足りないかな?」

 

 弁慶が目をすっと細めて少し殺気を放つ。

 

「弁慶、ちょっと落ち着け。一旦俺が探してくるから先行ってて」

「分かった。義経が情けない主ですまない、勇介くん」

「気にしなくていいよ。義経は立派にやってるから」

「ユウ、頼んだよ」

 

 

「あ、やっぱここにいたか」

「ん、兄貴か」

 

 与一が好んでいく場所は基本的に高いところだ。狙われてもすぐに分かる、とか風を感じる、とかよく言っているのを勇介は聞いていて知っていた。

 

「弁慶怒ってるぞ」

「う……姉御のことはうまく誤魔化してくれないか、頼む!」

「はは、既にやったよ」

「流石は兄貴!」

「それはいいから。まぁ、お前が今みたいになった原因はそれとなく聞いたけどさ」

「う……」

 

 あまり触れてほしくない話題だったのだろう、与一の顔が引きつる。

 

「正直言って、俺はお前でよかったと思ってるしむしろお前以外は知らんぞ」

「……は?」

「いや、四天王とかいたような気はするけど、やっぱり義経の従者として有名なのは弁慶と与一だろ。静御前とかは従者とかとは違うだろうしなぁ」

 

 真面目な顔でそういう勇介に一瞬きょとんとした顔になった与一が笑う。

 

「はっはっはっ!そんなことを言うのは兄貴くらいだろ」

「そうか?ま、今のお前しか俺は知らないからなんともいえないけど、義経を泣かせるようなことだけはするなよ。言うまでもないと思うけど」

「……分かってるさ」

「後は、弁慶を怒らせることもな」

「……善処する」

「さ、畑いじりにいくぞ。義経がせっせと育ててる野菜ももうすぐ収穫らしいからな」

「面倒だが、兄貴がいくんなら俺も行くとするか」




クローン組との出会い編はもう少し続きます!

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