真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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20話 板垣姉弟

「勇介、今から出る。支度をしろ」

 

 ある日の朝、部屋に突然やってきたヒュームにそう言われる勇介。何事かは分からないが、修行の一環なのだろうと思った勇介はすぐさま出かける準備を整える。

 

「行くぞ」

 

 若手の従者が運転する車に乗ったヒュームと勇介は走り出した車の外を見る。

 

「それで、急に何処に行くんです?」

「くれば分かる。……俺が才能があると認めても、腐ってしまえばどうなるのか。それをお前にも見せてやろうと思ってな」

 

 車が止まったのは多馬川のやや上流の辺りの河原だった。そこでは飯の準備をしている一団がいた。

 

「あれは……」

 

 その中の一人……いや、二人を見て勇介が目を細める。

 

「フ……あのうちの一人は元は川神院の師範代だ。にもかかわらず、才能を腐らせてしまい、武士道プランへの妨げになる可能性があると判断された」

「師範代ってことは、ルー師範代と同じ立場ってことか」

「今のアイツであればお前にも敗れるだろうな。だが今回は俺がやる、お前は見ていろ」

 

 勇介の返答を聞くよりも早く動き始めるヒューム。その姿に気づいた男……釈迦堂刑部やその場にいる面々……板垣三姉妹の長女である亜巳、次女の辰子、末妹の天使(エンジェル)、そして長男の竜兵……が、威嚇するようにヒュームと勇介をにらみつける。

 

「もし邪魔をしてくるようならお前が相手になってやれ。俺が手を出すよりはいい躾になるだろう」

「ヒュームさんの一撃よりはそっちのほうがいいか」

「フン……嘆かわしいな。なぜ貴様はそんなことをしている」

 

 ヒュームに対して攻撃を仕掛けようと動こうとした天使との間に勇介が割り込む。だが、勇介を見た亜巳がとめる。

 

「やめな、天!そいつ強いぞ!」

「そっちが何もしなかったら俺は何もしないよ」

「てめぇ……確か、昔川神院で見たヒュームとか言う……」

 

 ヒュームのほうへと進み出てくる釈迦堂と勇介の視線が一瞬だけ交差する。釈迦堂の目には色々な感情が入り混じっているようであった。

 

「……」

「そうだ。お前は才能の塊だったのに……腐ってしまったとは鉄心は何をしているのだ」

 

 呆れと少しの怒りがこめられたヒュームの言葉。

 

「何の用だ?これから楽しい朝飯なんだけどよ」

 

 ヒュームを警戒するように釈迦堂が尋ねる。

 

「この街は九鬼財閥にとって重要な人間が多く住むようになった。だから街を少しだけ掃除している。そして、その中でお前のような野獣が野放しになっているのは危険だろう。そこでだ。俺が就職口を斡旋してやる。カタギになるんだな」

「はっ、それが用件かよ?俺に就職しろと?」

「九鬼財閥なぞどうだ?優良企業だぞ」

 

 本気か冗談か分からない口調でヒュームが言う。

 

「その窮屈そうな服着て朝9時に出社しろってか、けっ」

「では川神らしく腕ずくだ。俺が勝ったら就職しろ」

「俺が勝ったら俺やこいつらには干渉するなよ」

「ほぅ、お前の弟子か」

 

 釈迦堂が守ろうとしているのはこの四人であることは間違いないだろう。……次女の辰子だけは悠々と寝ているのだが。

 

「くそっ、俺良いこと言ってるのに寝てるし」

「お前は俺を見て、実力が分からんのか?」

「分かるさ。強ぇよ。だが……昔感じたほどじゃねぇわな!」

 

 そう言った釈迦堂が暴力的な気を開放しヒュームを殴りつける。

 

「やったー!さすが師匠だぜー!」

 

 喜びの声を上げる天使だったが、勇介は動じることはなかった。それは当たり前だ。ヒュームはわざと(・・・)一撃を受けたのだから。

 

 

「ハンデで一発打たせてやってもこの程度か」

「ぐぅ……実際は昔より強くなってるじゃねぇか……ごほっ」

 

 地に倒れ力が入らないのだろう、立ち上がろうと腕に力を入れるが崩れ落ちる。

 

「長期戦は苦手になったがな。瞬間の鋭さは増すばかり。俺から見れば今のお前なんぞ、赤子のような存在だ」

「師匠が全く歯が立たないなんて……こいつ……!」

 

 亜巳が警戒し、妹たちを庇うように前に立つ。

 

「……なんだか騒がしいなぁ……」

 

 まだウトウトしている辰子が呟くのを聞いて亜巳がなにやら考える。

 

「そこの寝ている女は相当強そうだが……悪いことは言わん、やめておけ」

「!」

「鍛えていないのであれば、勇介には勝てん。ただの赤子ではな」

 

 ヒュームの言葉に竜兵が三姉妹を庇うように前に出た。

 

「それで。てめぇらは次にどうする気だ」

「フ。別に何も。……だが、お前らもそれで気がすまないのであれば勇介、相手をしてやれ」

「ほぅ……?」

 

 竜兵が好色な笑みを浮かべる。

 

「……相手をするのは構わないんですけど、どうするんです」

「言ったはずだ、職業を斡旋してやるとな」

「げ、ウチまで働くのは簡便だって。リュウやっちまえ!」

「言われるまでも!」

 

 先ほどまでと変わって攻撃的な笑みを浮かべた竜兵がつかみかかってくる。スクラムを組むように真正面からつかみ合う。

 

「ぐっ!?」

 

 気の使い方もしっかりとしていない相手だ。余力を残した状態で竜兵を圧倒的な力で地面に膝をつかせる。

 

「何だ、お前っ!?そんなナリして……俺よりっ!」

「鍛えているんだよ。最強を目指しているからな」

「チッ!リュウ!!」

 

 天使がゴルフクラブを掴むと勇介へと殴りかかってくる。

 

「天っ!」

 

 亜巳がとめるよりもクラブが勇介へと振り下ろされるほうが早い。振り下ろされたクラブは勇介の脚が跳ね上げる。

 

「っ!」

「動かないで。下手に動くと怪我するよ」

 

 いつの間にか片手で竜兵を、もう片方で天使を地面に押し倒した状態になっている。

 

「ぐ!離せ!」

「暴れないなら離すよ」

「リュウ、天!抵抗するんじゃないよ!」

「だがよ……」

「いつ、アンタたちは私にはむかえるようになったんだい?」

「……」

 

 二人が静かになったのを見て勇介が手を離す。

 

「どうだ、勇介」

「どう、とは?」

「こいつらはおまけだ。放置するか、川神院に預けるか、それともお前が面倒を見るか。好きにしろ」

「……」

 

 三姉妹は別としても、竜兵は確実に暴れるだろう。それを放置するわけにはいかない。とはいえ、抑えてまで面倒を見る必要があるのだろうかとも思う。

 

「うーん……あれー?アミ姉、この子だれー?」

 

 間延びした声をあげながら辰子が勇介を見ている。

 

「タツ、やっと起きたのかい」

「キミ誰~?可愛いねー」

 

 マイペースというよりはまるで周囲の状況が分かっていなさそうな辰子に勇介は笑いが隠せなかった。

 

「ふふ、面白いと思いますよ、ヒュームさん。川神院に預かってもらって、俺が定期的に面倒を見る……とか駄目ですかね」

「お前が決めるのなら俺は構わん。鉄心に話は通してやる」

 

 

 帰りの車の中。

 

「あれが、お前と同じように俺が才能があると認めた男の末路だ。己の鍛錬をやめ、力に溺れた……そのような、な」

「……俺は何があったか知らないですけど、きっと理由はあったんだと思う。ただ、あの人……釈迦堂さんだっけ?一度戦ってみたくはあったよ」

「……そうか。好きにすればいい。何かしら学ぶことはあるかもしれんからな」

 

 二人の言葉が途切れ、車内を沈黙が包む。

 

「……勇介。お前は俺を失望させるなよ」

「勿論。俺は、貴方を越えるんですから」

 

 

 数日後。

 

「あっ!テメーは!」

「こら、天。口の利き方は直せっていってるだろ」

「ウルセー!何でウチが言うこと聞かないといかねーんだよ!」

「ほう?小遣いはいらないと」

「じゃあ辰子と一緒に使ってくるか」

「ま、待てっ!待ってください!」

 

 勇介の言葉に焦る天使。

 

「なんだ、アンタまたきたのかい。意外とマメだねぇ」

「お前たちのことは俺が世話するって言ったからな」

 

 川神院の鍛錬を受けた後なのだろう、亜巳も寄ってくる。

 

「やぁ、勇介。調子はどうだイ?」

「いつも通り良い感じですよ。それで、皆はどんな感じです?」

「そうだネ。亜巳は基本的には筋がいい。このまま鍛えていけばある程度のところまではいけるかもしれないネ。天使は……」

「天使言うなっ!」

「……天は何より体力不足だネ。薬はもう使わせないヨ」

「うぅ……アレがねぇと力でねぇのに」

「まぁ、一番の問題は辰子だガ……勇介が来てくれるのであれば大丈夫かナ」

「あー、勇介くんだー」

 

 ゆらりと近づいてきた辰子が勇介へと抱きつく。

 

「辰子、修行はどんな感じ?」

「大変だよ~。ルー師匠、手加減してくれないしお昼寝の時間も短くなって」

「お昼寝はほどほどにね。休みで暇だったらまた一緒にのんびりしてあげるから」

「分かったー。楽しみだなぁ」

「おい!ウチの金は!」

「天」

「……わ・た・し・の!お・こ・づ・か・い!」

「ふふ、はい」

「やりぃ!もう貰ったかんな!返さないぜ!」

「渡したものを返せとは言わないさ。ただあまりにひどい場合はこれ以降の小遣いなくなるけど」

「ちょ、待てやぁっ!金を人質にするのは……人質?金質?」

 

 どうでもいいところで首をかしげる天使。

 

「天!……私らがとりあえずのところ無事だったのはこいつのおかげでもあるんだ。恩を仇で返すのは許さないよ」

「……わぁったよ」

「良い子にしてればいいんだ」

 

 ポンポンと頭を撫でる勇介。

 

「ガキ扱いすんじゃねぇ!」

 

 口ではそう言いながらもなぜか手を払わない天使。

 

「はいはい。……で、辰子も」

「撫でてくれるの~?」

「違う違う。そっちじゃなくてはい」

「何これ~?」

「お小遣い。と、生活費の一部と思ってくれていいよ。ほら、服とか買うのにもお金かかるだろ?まぁ、俺の金じゃなくて九鬼からのでもあるから気にしないで受け取ってくれ」

「うん、わかったー。ありがとー」

 

 そう言いながら辰子は勇介の頭を撫でる。

 

「……人から撫でられるってこんな感じなのか」

「あれ、嫌だったー?」

「いや、くすぐったいというか少し恥ずかしいというか」

「ウチの気持ちわかったか」

「まぁ、嫌ではないけどな」

「えへへー、勇介くんの頭撫でてるだけで元気がでてくるよー」

「タツは本当に勇介のことが気に入ったみたいだね」

「あ、亜巳さんにも一応受け取ってるから渡しておくな」

「私もあるのかい。……ま、感謝しておくよ」

 

 

「……」

「どうしたのじゃ、モモ」

「ジジイ、最近勇介が相手にしてくれないんだ」

「まさかモモ……」

「うぅ~、勇介と戦いたい……」

「……やっぱりそうなんじゃな、おぬしは」




お仕事も忙しくなっているのですが、もう少しは毎日更新頑張りたいです……!

お気に入り1000件記念はすこしずつ書き上げていってますのでお待ちください♪

感想等お待ちしております!
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