真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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21話 だらけ部

 あくる日の昼休み。二年の廊下に声が響き渡る。

 

「ひかえい、ひかえい、ひかえおろーう!」

「紋さまの、おなーりー!」

 

 どこぞの時代劇で聞いたことのあるような台詞に何事かと二年の教室が騒がしくなる。

 

「紋さま、こちらが二年生の廊下になります」

 

 準が紋白に言う。

 

「お前たち、そこまでへりくだらんでもいいのだぞ」

「そんなことを言わずに紋さま……俺を思う存分使ってください!貴方のカリスマは圧倒的だ。自然と頭が下がる」

 

 準を知る者が聞けばさもありなん、と思うだろう。だが、それを知らぬ紋白は素直に受け取る。

 

「フハハ!嬉しいことを言ってくれるわ!」

「いやぁ、紋さまの偉大さは昨日よーく分かりましたので」

 

 そう言っているのは武蔵小杉だ。紋白のクラスメイトであり、一年の覇権を握ろうと紋白に挑み、ヒュームに軽く撃退され隙を狙っているような状態だ。バレていないと思っているのは本人だけであるが。

 

「この武蔵小杉、紋さまの懐刀として誠心誠意頑張ります!」

「懐刀か!だが、我にはすでに候補として一人目をつけているからそのポジションはやれんな」

 

 そんな話をしながらSクラスの教室へと差し掛かる。

 

「紋さま、ここが俺のハウス、2-S組です。着物姿の変なのとか、眼帯姿のおっかないのとかがいますが……悪者ではないので、ご心配なく」

 

 教室の外での会話ではあるが、勇介や勿論、眼帯姿のおっかない人にはしっかりと丸聞こえである。

 

「井上準……後で折檻ですね」

「まぁまぁ。マルさん許してあげて」

 

 静かに怒っているマルギッテを宥める勇介。

 

「フハハハ!紋!学校でも会えて嬉しいぞ!」

「フハハハ!兄上、我も同じ気持ちです!」

 

 並ぶとさらに威圧感のようなものが増す二人。流石は天下の九鬼の跡取りたちということだろうか。圧倒的なカリスマがそこにあった。

 

「学校内で挨拶をしていないと思い、参りました兄上」

「うむ。分からないことがあれば何でも兄に聞け」

「お義兄さん、安心してください。俺がしっかりとサポートします」

「タコを弟に持った覚えはないわ、あずみ!!」

「はーい☆お任せください英雄さまぁっ!」

 

 あずみによる準への折檻が始まる。

 

「おぉ、勇介もここにいたのだったな!フハハ!」

「紋白がここに来るとは思ってもみなかったからびっくりしたよ」

「であるか!だが勇介よ、前にもいったが紋でよいのだぞ?何しろお前と我の仲であるからなー!フハハハ!」

 

 そこまで言って、近くに来た義経たちへと視線を向ける紋白。

 

「義経、弁慶。クラスでうまくやっているか?」

「あぁ、まだまだこれからだが……」

「少なくとも私が飲んでても誰も突っ込まなくなった」

「そりゃ、そうだろ。許可も貰ってて弁慶だしな」

「ユウ、冷たいね。川神水飲む?」

「後でな」

「フハハ、まぁ兄上や勇介のいるクラスだし、心配は無用か!」

「問題は那須与一ぐらいであろうよ。鳴神には懐いているようだが……」

「清楚も図書室か温室だろうしな」

 

 

「しかし与一か……」

 

 考え事をしながら散策をしている勇介。ふと、空き教室のひとつが目に入る。

 

「ん、ここにいるのは……」

 

 覚えのある気配に教室の扉を開ける。そこでは大和と巨人が将棋を打っていた。

 

「げ、オジサンたちの聖地が見つかったぞ」

「って、勇介?」

「やっぱり大和か。あと先生」

「ここは優等生は立ち入り禁止だぞ」

 

 しっしっと手を追い払うように振る巨人に苦笑いを浮かべる勇介と大和。

 

「まぁまぁ。こういうところ融通は利きそうだし一旦お試しってことでいいんじゃない?」

「そう?オジサンの邪魔をしないならいいけどさ」

「あ、先生。そこ悪手」

「何……?」

 

 チラと将棋の盤面を見て勇介が言い、巨人が首を傾げて唸る。

 

「五手先。その駒死ぬよ」

「……ちょっと勇介。それ以上は……」

「はいはい、じゃあのんびり見せてもらうよ」

 

 和室へと入ると盤面が見やすい位置に陣取って座る。パチパチと駒を置く音が響き、巨人が小さくあっ、と声を漏らす。

 

「……オジサン、やっちゃった?」

「だから言ったでしょ」

「ぬぅ……」

 

 それから話題が与一のことになり、武士道プラン組の話になる。

 

「まぁ、あいつらと知り合いみたいな鳴神のいる前で話していいのかはわかんないけど、直江は結構弁慶とか好きそうなタイプだな」

 

 巨人の言葉に大和が少し考える。そしてチラッと勇介を見て。

 

「結構性的だよね、そりゃあ仲良くしたいね」

「っふふ」

 

 大和の言葉に勇介が噴出し、巨人も笑う。

 

「あれだけ美人に囲まれてるのに贅沢者め」

「いやいや、俺なんてまだまだだって。勇介とかもっとやばいから」

「おい、やばいって何だやばいって」

 

 そんな話をしているとスタスタと足音が近づいてくる。

 

「ん、これ」

「おや、誰かくるよヒゲ先生」

「通りすぎるでしょ。こんな空き教室に鳴神に続いてくる奴なんか……」

「ところがどっこい、来ちゃうんだなぁ」

 

 入ってきたのは先ほど話題に上がった弁慶だった。

 

「弁慶、お前決闘あるんじゃなかったっけ?」

 

 勇介が首をかしげながら聞く。

 

「いやー、私は決闘とかだるいから逃げてきた」

 

 ペロッと舌を出して言う弁慶。

 

「で、どこかで落ち着ける場所がないものかと探してたら」

「ここにたどり着いたってわけ。いていいよね?」

「ここはオジサンと直江の聖域だから」

「なんて薄汚ねぇサンクチュアリなんだ……」

「でもユウもいるじゃない」

「まー冗談だって。好きにしろや弁慶」

「好きにするよ」

「……待て待て。何で俺の膝に頭乗っけてる」

「役得でしょ。ほら撫でて撫でて」

 

 催促してくる弁慶の頭を撫でる。

 

「……直江、突然イチャイチャしはじめたんだけど、こいつら」

「はは……ノーコメントで」

「イチャイチャだって、ユウ?」

「で、満足か?その状態だと川神水飲めないだろ?」

「うーん……それは困るよね。飲ませて?」

「清楚呼ぶぞ」

「う、自分で飲めばいいんでしょ」

 

 起き上がって川神水を飲み始める弁慶。

 

「って、将棋しているのか……ふーん直江大和が優勢だな」

「大和でいいよ弁慶」

「ん。……飲む?」

「川神水はノンアルコールだ、頂きます」

 

 まるで誰かに説明するように言った大和が川神水を一気に飲み干す。

 

「いい飲みっぷりだね」

「いいぞ、もっと飲んで頭フラフラになりやがれ」

「もう諦めなって。今回の対局は俺の勝ちだろ」

「まぁ、勝ち筋は見えないな。大和強いみたいだし」

「いや、たぶん勇介よりは弱いと思うぞ。たぶんだけど」

「軍師には勝てないよ。俺は武将タイプだし」

「ところで二人はいつもここでダラッとしているの?」

 

 弁慶が尋ねる。

 

「俺は仕事だけどね。学生とふれあい」

「物はいい様だな」

「ふむ。居心地がよさそうだ……私も時々来よう。どうだ二人とも。だらけ仲間が増えるぞ」

「お前たちに質問。雪山に友達と旅行に行きました。さて何をする」

 

 巨人が勇介と弁慶に質問する。

 

「んー。温泉につかって、おいしい食事をして。そしてまた温泉に入って寝たい……」

「俺は誰と行くかによるな。一人なら修行だろうけど」

「相変わらずユウは修行好きだよね」

「好き……嫌いではないな」

「直江、弁慶は完全にこっち側だけど、鳴神はどうしてここに来たのか分からないんだけど」

「はは、勇介って修行の息抜きとかはしないのか?」

「いや、普通にするぞ。本読むのも好きだし、誰かとただ喋ってるだけっていうのも嫌いじゃない。それにクリスとはよくぬいぐるみで遊んでたぞ」

「ぬ、ぬいぐるみ……!?」

「あぁ。クリスは昔から可愛いものが好きだからな。よく一緒に遊んでた」

 

 恥ずかしげもなく堂々と言い切る勇介。

 

「オジサンの中の鳴神のイメージとぬいぐるみ遊びが繋がらないんだけど」

「それは皆そうでしょ。……勇介と仲のいい弁慶さん、感想をどうぞ」

「妹と遊んであげる優しいお兄ちゃんみたいだね」

「チクショー。やっぱり鳴神は勝ち組か。この場所は相応しくないな。オジサンも小島先生とイチャイチャしてー」

「先生は小島先生が好きなのか。まぁ綺麗な人だよな」

「あれ、ユウってああいう系が好みだっけ?」

「好みかどうかは知らないけど美人だと思うぞ。あの人かなり強いと思う」

「……ちょーっと見てる場所が違うよね、ユウって」

「あ、弁慶。仲間の作法その1。連絡先は教えあいましょう」

「ん……まぁ大和ならいいか。ユウの友達だし節度もありそうだ」

 

 ピッ、と番号を赤外線で交換しあう。

 

「やっぱり簡単には教えちゃいけない決まり?」

「私たちは事情が特殊だからね。まぁ、禁止ってわけじゃないから大丈夫。何かあったらユウが何とかしてくれる」

「信頼なのか、投げっぱなしなのか判断に困るな」

「もぐもぐ……あー、ちくわ美味しい。川神水に合う」

 

 そう言った弁慶を嫌そうな顔で勇介が見る。

 

「……」

「え、勇介もしかして」

「そうなの。ユウってばちくわとかの練り物が本気で苦手なんだよね。こんなにおいしいのに」

「いや、練り物は人の食べ物ではない……食べ物では」

「そんなこと言いながら、おでんとか作ってくれるとき絶対入れるよね」

「入れないと味が変わるんだよ……」

「意外な弱点だな」

「ユウを倒したかったら大量の練り物持ってくるといいよ」

「べ、別に食べられないわけじゃないぞ。頑張れば食べれる」

「ほらほら、川神水に合うよ?」

「つまみ作ってやるから食べさせようとするのはやめろ」

 

 とてつもない速度で勇介の口にちくわをねじ込もうとする弁慶とそれを避ける勇介。最終的には弁慶からちくわを奪い取った勇介が逆に弁慶の口にねじ込むことで勝負は終わった。

 

「もぐもぐ……う~ん、やっぱり美味しい」

「……俺にはたぶん一生わからん」

 

 

「あれ、じゃあ勇介と弁慶たちって一緒に住んでるわけか」

「そうだよ。門限もゆるいし、更にはユウの部屋には行きたい放題」

「放題じゃない。勝手に来て川神水飲んで寝てるだけだろ」

「いつも部屋まで運んでくれるんだよね」

「義経が頑張って運ぼうとするんだけど。最終的には俺が運ぶことが多いな」

「……本当に仲がいいな、勇介と弁慶」

「……お?靴箱に手紙が入ってたなう」

「俺もだ」

「マジか。ラブレターか決闘状か……どっちもありうるね」

「ラブのほうだ。三年生から……年上に興味ないんだよねー」

「俺のは……決闘状か。いや、ある意味ラブレターか」

「プラス思考だな」

「ユウはベース武人みたいな感じのところもあるからねぇ」

 

 そんな話をしながら校庭へと出る。そこでは義経が決闘をしている最中であった。

 

「義経、頑張ってるな」

「って、ワン子か」

 

 竜巻のような勢いで一子の薙刀が義経に繰り出されていく。それを義経が受け、キラキラと火花が飛び散る。

 

「一子、調子がいいな」

「義経も楽しそうだね」

 

 二人の攻防は見ているものを魅了するに足るものだ。周囲もかなり盛り上がっている。

 

「これでっ!」

 

 一子が大振りの一撃を放とうとする。

 

「焦ったか」

 

 勇介がぼそりと呟く。一子の必殺の一撃は大きく空を切り。そしてその隙を逃す義経ではない。振り下ろされると同時に義経は勢いをつけて一子へと突撃した。

 

「うわぁっ!」

 

 完全に隙をつかれた一子にその一撃を避ける手段は今はない。義経の勝利が決まり、ギャラリーから大歓声が沸き起こる。

 義経と一子は互いの健闘を称え合い、友情を確かめ合っていた。




もうちょっと……一月は毎日更新を途切れさせたくないのです……!

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