真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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本編中では少し実現が難しい方との出会い、そして……。


番外編 可能性の未来編
番外編 ミサゴとの未来


 彼と初めて出会ったのは九鬼からの依頼で受けた護衛の任務のとき。ほかのボディガードとの共同戦線ということもあって、いつも以上に気合を入れていた。

 

「そうそうたる顔ぶれじゃない。有名どころばっかり」

 

 護衛などを生業にしていれば、必ずといっていいほど名前くらいは聞いたことがある相手ばかりが集められているのだ。自分が決して彼らよりも劣っているとは思わないが、それでも緊張感が漂うのは仕方がないことだろう。

 

「あれ、あの子は……」

 

 自分の娘と大して年齢の差がなさそうな、まだ少年と男の間といった雰囲気を放つ存在が目に留まる。不思議と目を離せなくなる感覚。こんなものを抱いたのはいつ以来だろうか。

 

 

 鳴神勇介と、松永ミサゴ。

 

 

 二人にとってこの出会いが運命の出会いと呼べるものになるとは、このときはまだ誰も考えてはいなかった。

 

 

「それでは、今から皆様方にはまず試験を受けていただきます」

 

 九鬼側の執事でも有名なクラウディオが微笑みを浮かべてそう言う。本来であれば依頼を受けてそのようなことを言われればその場で辞退するものも出るだろう。だが、この依頼は天下の九鬼からのものだ。

 

「もし、ここでお帰りになられるのであれば引き止めは致しません。最低限の依頼料はそれでも支払わせていただきます」

 

 ここまで言われて引き下がるわけにはいかない。しかも、試験を合格すれば更なる報酬も約束してくれるというのだから。

 

「それでは、この中で信頼に足る実力者と思う方とペアを組んでください。制限時間は五分です」

 

 元よりペアで行動している者以外も名前を知る者へと声をかけていく。そんな周囲の様子をキョロキョロと見ている少年がミサゴには気になって仕方がなかった。何人かが声をかけてくるが、それには応えずミサゴは少年の元に向かう。

 

「やぁ、少年。ここにいるということは参加者ってことで間違いないよね?」

「えぇ。お姉さんは?」

「あら、お姉さんだなんて。多分キミのお母さんくらいよ、私」

「そうなんですか?全くそうは見えないですね」

「ありがと。それで、物は相談なんだけどよかったら私と組んでみない?」

「……どうして俺に?」

「直感ね。私コレでも自分の勘には自信があるのよ」

「そうですか。お姉さん強そうですしこちらからもお願いします」

 

 

「それじゃ、タッグを組むわけだしお互いに見せられる力は見せ合いましょうか」

 

 そう提案してきたのはミサゴだ。ミサゴ自身、ひとつの技を奥義まで昇華させているだけに、あまり手の内を見せることを是としないのだが今回はそうするべきだと感じたのだ。

 

「分かりました。っと、その前に自己紹介ですね。俺は鳴神勇介っていいます。年齢は……」

「私は松永ミサゴ。キミの一個上の娘がいるわ」

「……え、本当にお母さん世代だったのか」

「あら、信じてなかったの?」

「信じてないというか信じられないというか」

 

 まじまじと見られるミサゴ。

 

「こーら。女性をそんな風に見るのはマナー違反よん」

「すみません。それで、俺の力ですけど……そうですね、多分ですけどここにいる中で五本の指には入るかと」

 

 周囲に聞こえるような声で堂々と勇介が言い放つ。ざわつく周囲などお構いなしだ。

 

「あらあら、自信家なのかそれとも本物なのか。多分後者だとは思うけど……」

 

 

 その後、クラウディオから出されるいくつかの課題をクリアしているうちに残っているのは数組まで減ってしまっていた。

 

「それでは、最後は純粋な戦闘力を確認させていただきます」

 

 クラウディオの言葉で現れたのは一人の従者。武力に関してはヒュームと並び称されるほどの男……ゾズマ・ベルフェゴールだった。

 

「まさか四位が出てくるとは……」

「キミ、詳しいのね。私も噂だけは聞いているけど……」

 

 対峙してみると分かる恐ろしいほどの戦闘力を持っていると分かる。実際に対峙したほかのタッグは一瞬で敗北していた。

 

「悪くはない。だが私たちの求める水準には達していないと言わざるを得ない」

 

 そう断じたゾズマが最後に勇介たちへと向き直る。

 

「最後は君たちだ。是非とも楽しませてくれたまえ」

「ミサゴさん、俺が前に出ます。……得意な距離で本気をぶつけてください」

「気づいてたのね。……分かったわ」

 

 二人が瞬時に陣形を整えるとゾズマは拳を構える。

 

「きたまえ。君たちに先手は譲ろう」

「ならお言葉に甘えてっ!」

 

 ダン、と地面を離れた勇介がゾズマからすれば見覚えのある軌道での蹴りを繰り出す。

 

「ジェノサイド!」

「む!」

「チェーンソー!」

 

 ヒュームのそれと比べれば明らかに質は落ちるが、それでも先ほどまでの者たちと比較すればかなりの威力の一撃だ。それをゾズマは片手で受け止め、脚を掴み取る。

 

「終わりかな?ならば……」

「まだまだ!」

 

 勇介が掴まれた脚を軸に回転するようにゾズマの後頭部を蹴り上げる。衝撃に脚を離したゾズマにミサゴの一撃が飛んでくる。

 

「ふっ!」

「ぬ!?」

 

 パァン、と弾けるような音とともにゾズマの体勢をさらに崩す。

 

「鳴神流!」

 

 勇介の気が激しく波打つと同時に瞳が黄金に輝く。

 

「龍技・星喰!!」

 

 放たれた掌を受け止めようとしたゾズマが咄嗟に動きを変える。無理やり身体を捻り、その一撃をギリギリのところで避ける。

 

「そこっ!」

 

 その隙を見逃すミサゴではない。回避が難しいその状態で流石のゾズマも避けることは出来ずにミサゴの遠当てが直撃し地面を転がる。

 

「ふ……クラウディオ」

「はい。そこまで!松永ミサゴ様、鳴神勇介様、合格です」

 

 

「「乾杯!」」

 

 勇介とミサゴのグラスがカン、と綺麗な音を立てる。

 

「勇介クンは未成年だから川神水だけど」

「好きなんで大丈夫ですよ」

 

 クイッとグラスの中の川神水を一気に飲み干す。

 

「いい飲みっぷりね。飲めるようになったら一緒に飲みたいわね」

「是非。まぁ、本物のアルコールが飲めるかどうかわからないけど」

「勇介クンなら大丈夫でしょ。……はぁ」

 

 小さくため息をついたミサゴ。

 

「どうしたの?」

「いえ、勇介クンを見てると何で一時はあんな奴を好きになったんだか、って思ってね」

「それは分からないですけど、それだけ魅力があったんでしょ?」

「魅力、ねぇ。……発明をしているときの真面目な横顔は確かにいいとは思うけど」

「はは、なんだかんだでまだ好きなんでしょ?久信さん、だっけ?」

「どうかしらねぇ。次に同じことをしたら別れるって言ってるけど」

「そういうはっきりしたところはミサゴさんらしいね。まだ会ったばかりだけど」

「そうね。ふふ、キミはオスとして優秀みたいだから女には困らないでしょうね」

「えぇ!?そんなことはないですよ。姉的な人とか妹的な子とかはいますけど」

「そういうのは自分で自覚しづらいものよ。……でも本当にキミは凄いわね。ゾズマさんに放った最後の技、見事だったわ」

「ミサゴさんの遠当ても凄かったですよ。気を使わない技であそこまで鍛え上げたのは凄いと思います」

「そう?ふふ、自分の鍛えた技を褒められるのは嫌じゃないわね。ただキミの年齢であれほどの腕前っていうのは凄いと思うわ」

「いずれは最強を目指してますから。……それで、ひとつ伝えておきたいんですけど」

 

 

「へぇ、つまりキミは元々修行の一環で参加していたと。九鬼の関係者?」

「関係者……でしょうか。ヒューム・ヘルシングって知ってますよね?あの人の一応は弟子にもなります」

「あの零番の……でもあの人の技とは違ったわよね?」

「元は俺の使っている技は鳴神流……家系に伝わる武術です」

 

 それから自分のことを勇介はミサゴにぽつぽつと語った。

 

「それじゃ、キミはお母さんのことは……」

「知らないですね。物心ついたときには祖父しかいませんでしたし、その後にお世話になった場所でも」

「キミも大変だったのね。どう、私のことをお母さんって呼んでみる?」

「いや、流石にお母さんとはいえないですよ。まず見えないですし、若いんですから」

「ホントに上手ね。娘いなかったら本気になってたかも」

「光栄です」

 

 笑いながらそんな話をしていた二人だった。

 

 

 その後も二人の関係は続いていく。九鬼を経由した依頼だけでなく、あるときは娘である燕を紹介され。

 またあるときは燕を交えた三人で食事をしたり。

 

 

 そして。数年の月日が流れた。

 

 

「はぁ……」

「どうしたんだ、ミサゴさん」

「勇介クンか。……実は、久信クン、次は株じゃなくてFXに手を出してね」

「……マジすか」

「うん。それで、叩きつけてきたの」

「何を?」

「離婚届け」

 

 あっさりと言うミサゴに苦笑いの勇介。

 

「そうですか……」

「自分で叩きつけて置いてなんなんだけど、燕ちゃんには悪いことしたなって思ってね」

「必死に久信さんとよりを戻させようとしてたからなぁ」

「燕ちゃんともこれからどうしていくか話さないといけないし。とはいえ、燕ちゃんも流石にかなり怒ってたのよね」

「そりゃそうでしょ。……で、これからどうするんです?」

「どうしようかしらね。いつまでこの仕事、続けていられるか分からないし。勇介クンが相棒として仕事を始めたときは正直助かったし驚いたけどね」

「ははは、俺もまさかこの仕事に就くとは思わなかったですよ。でも……」

 

 以前とは違い、煽るグラスの中には酒が注がれている。それを以前の川神水と同じようにクイッと飲み干すと。

 

「ミサゴさんがいたから、だと思います」

「私?」

「えぇ。俺は……」

 

 互いに酒が入っており、少し顔が赤く染まっている。勇介がまっすぐにミサゴの目を見ながら。

 

「ミサゴさんのことが好きですから」

「……っ!?わ、私も勿論勇介クンのことは好きよ?」

「相棒として、じゃないです。一人の女性としてです」

 

 真っ直ぐな勇介からの告白に動揺するミサゴ。

 

「私の年齢、知ってるわよね?」

「関係ありません。俺が好きになったんですから」

「私にはキミと同じくらいの歳の娘もいるのよ?」

「知ってます。燕も魅力的だと思いますけど、ミサゴさんには敵いません」

「……本気みたいね」

「はい。久信さんには悪いですけど譲る気はありません」

 

 見詰め合う二人。

 

「……少し時間を置きましょう。お酒が入った勢いではないでしょうけど、私も考える時間が欲しいから」

「いつまでも待ちます。その覚悟は出来てましたから」

 

 

 さらに一年後。

 

「勇介くん……じゃなくておとんって呼んだほうがいいのかな」

「戸籍上はそうなるのか……?」

「あら、勇介クンは燕ちゃんとばかり仲良くしてるんじゃない?」

 

 エプロンをしたミサゴが声をかけてくる。

 

「そんなことはないよ。燕とも仲がいいのは否定しないけど」

「もぅ……妬けるわね」

「おかん、年甲斐もなく……」

「燕ちゃん?何か言った?」

「いえいえ。新婚さんの邪魔をするつもりはありません、って言っただけ。それじゃ、おかんと勇介くん、ごゆっくり~」

「全く、何をしにきたんだか。あの子は」

「心配なんだよ、ミサゴのことが」

「二回目の結婚だから心配することなんてないでしょうに」

 

 キラリと光る指元。勇介が贈った結婚指輪だ。あの後、勇介の告白を受け入れたミサゴはすぐさま現役を引退。それと同時に勇介も以前から打診のあった九鬼従者部隊への就職を決めた。

 

 久信も一時は荒れたようだが、燕がついてサポートを続け今では見返すことを目標に邁進しているようだ。

 

「ま、俺はまたヒュームさんを超えるために修行の日々だよ」

「勇介クンならすぐに超えられるわ」

「ミサゴがサポートしてくれるしな。零番は必ず譲り受けるよ」

 

 二人の影が重なっていく。

 

 

 鳴神勇介とその妻、ミサゴ。その後、二人は雀と雲雀という双子の男女を授かり、幸せな家庭を築いたという。

 

これもまた、ひとつの可能性の話。




賛否両論でしょうが、ミサゴさんをヒロインにするのはこれ以外思い浮かびませんでした(ぉぃ

それか過去にさかのぼって久信さんと奪い合いさせるか……?

こ、これも可能性のひとつとして納得していただけると幸いです……。
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