仕事が忙しく、また短いです……ごめんなさい!
26話 ファントム・サン
「そういえば勇介、ファントム・サンって知ってるか?」
「ファントム・サン?」
「あぁ。川神に来た武芸者たちを次々に破ってるらしい」
昼休み、食堂で合流した大和から説明された勇介は少し驚く。
「何で川神に来た武芸者なんだ?川神にはかなりの人数、質のいい武芸者いると思うけど。モモ先輩とかみたいな規格外な人もいるけど」
「おい、勇介。誰が規格外だって?」
勇介の言葉に不満の声をあげながら何処からともなく現れた百代が勇介の背にまとわりつく。
「モモ先輩が。まさかとは思うけど自分が普通だとか思ってないよな?」
「むぅ。弟ー、勇介がいじわるだー」
拗ねたように言った百代が大和の背に移る。ある意味で慣れている大和は少し苦笑いを浮かべただけである。
「はは……でもそれじゃ、俺やモモ先輩には関係ないんじゃないか?たぶんだけど襲ってこないってことになるよな?」
「だな。でもちょっと気にならないか?」
「興味は沸くな。まぁ相手がこっちを避けるならどうしようもないけどな。……ただ、かなりの実力者ってことなら俺やモモ先輩が気付くはずだ。ヒュームさんも把握してるなら教えてくれるだろうし……」
勇介が考え込むのを見て大和もなにやら考える。
「おーい、弟、勇介ー。ダメだ、こいつら私のこと無視してる」
川神学園廊下。勇介が歩いていると目の前から来た女性とすれ違うときに何か違和感のようなものを感じた。
「ん……?」
振り返った勇介の視界に飛び込んできたのは長い黒髪を揺らして歩き去る女性。
「……なんだ今の感覚」
気が抑え込まれているような、そんな感覚。一瞬ではあったが間違いなく力を抑えている。
「……考え過ぎか?っていうか今の誰だ」
「あれ、勇介くんどうしたの?」
「清楚。あの人、多分先輩なんだけど知らないかな……ってもういないか」
「どんな人?」
勇介が説明するのを聞いて清楚が何かに気付いたように。
「あ、それ多分アキちゃんじゃないかな」
「アキ?」
「そうそう。評議会議長の最上旭ちゃん。ずっと試験で一位をとってる子だよ」
「そりゃすごいな。で、強いの?」
「うーん……弱くはないかもしれないけど……でも大人しくて優しい子だよ?」
清楚の知る限りの情報を聞いて勇介は唸る。
「実際に会って話をしてみないと分からないか」
「……勇介くん、気になるの?」
「少しだけ。まぁそんな重要な話題でもないから気にしないでいいぞ」
少し不満そうな清楚に首をかしげながら勇介が言う。
「ただあまり印象に残らなかったんだよな。不思議と」
「そう?アキちゃん可愛いし頭いいし存在感あると思うけどな」
「……」
清楚がそこまで言う相手があまり意識に残らないというのはやはりおかしな話だ。とはいえ、現時点で何かが出来るわけでもないのだ。とりあえずは少しだけ機嫌が悪くなっている清楚の機嫌を戻すことを先にしようと判断した勇介なのだった。
その日のうちにアキちゃんとやらに会う機会はなく、清楚と一緒に九鬼極東本部へと帰っていった。夜になって大和から電話がかかってきた。
「え、モモ先輩とファントム・サンが対峙したのか!?」
『あぁ。でも姉さんが掴みかかった攻撃は避けられるし、イメージの中で攻撃されたりもしたらしい。正直、そのレベルになってくると俺にはさっぱり分からないんだけどさ』
「……モモ先輩の攻撃を避けるだけなら燕にも可能かもしれないけど、聞いた話の感じだと、少なくとも一芸で燕を上回っているのは確実か。……かなりの腕前かもしれないな」
勇介が来たときに行った気による索敵では見つからなかった相手……驚きは正直隠せない。誰よりも気の扱いには長けている自負もあったから。
「それで、何か正体つかめたのか?」
『いや、結局のところ全く。姉さんも美少女の香りがする、みたいなことしか言ってない』
「それが分かるのもかなり恐ろしい話だけどな」
百代の一撃を避けるどころか、軽い牽制までして立ち去るなど不意を打ったとしても簡単に出来ることではない。
『……勇介?』
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう、大和。何かあるようなら俺のほうでも動くよ」
『お前も無理するなよ』
大和の心配した一言にあぁ、と返事をして勇介は早めに会えるように画策するのだった。
翌日、川神学園の廊下で勇介は最上旭へとコンタクトを取っていた。
「はじめまして、最上先輩」
「あら、貴方は」
微笑みを浮かべた状態の最上
「……やっぱりおかしい。認識阻害みたいな……?」
「確か、転校生の鳴神勇介ね。はじめまして、私は最上旭よ」
「よろしくお願いします、最上先輩」
勇介は挨拶を交わした後に旭をじっと見つめる。
「どうしたの?初対面の女性の顔をそんなにマジマジと見て。恥ずかしいわ」
「それならもう少し恥ずかしそうにしてください。……うん、やっぱりか」
「何が?」
「どうして力を隠しているのかは知らないですけど、是非いつか手合わせをお願いしたいですね」
ニコリと微笑みを返す勇介がそう言うと、旭はすっと目を細める。
「……何のことかしら?」
「大丈夫です、たぶん俺以外には分からないですよ。……こんな至近距離まで近寄ってようやく見えてきたくらいなんですからね」
「勇介は面白いわね。……フフ、まさか私の奥義を看破できる人がいるなんて。学園長先生ですら見抜けなかったのに」
「俺は特殊だからね。まぁ皆に危害を加えようってわけじゃないみたいだし俺からは何も言わないよ。それで最上先輩」
「そんな他人行儀な言い方じゃなくていいわ」
「お言葉に甘えて旭先輩。色々な武芸者と戦ってたのは自分の力を保つため?」
「そんなところね」
「それなら、俺がその相手をしよう。ある程度の準備は整ってるっぽかったからもう腕試しはやめるつもりかもしれないけど」
「いいえ、貴方もかなりの実力者のようだし、私にとってはとてもありがたい話よ。……ただ、父にも確認を取らないといけないわ」
ピッと携帯をいじり始めた旭を勇介は制することはしなかった。
「アキ、よかったね。君の奥義を破られたということは試練ということだ」
旭の父親である幽斎は説明を受けるなりすぐさま学園へと姿を現した。幽斎は、旭にそう言うと人懐っこい笑顔を浮かべて勇介へと手を差し出す。
「はじめまして、鳴神くん。娘がこれからお世話になるね」
「いえ、俺としても利のある話なので」
「君は確かヒューム卿に勝負を挑むのだったね」
「はい」
「君もまた、かなり厳しい試練を自分で課すのだね」
ふふ、と微笑みながら言う幽斎に勇介は少し驚く。
「試練、ですか。否定はしませんよ」
「しかし、本当に娘が何者なのかは知らなくてもいいのかい?」
「構いません。何を隠しているのかは知らないから反応のし様もありませんが」
「貴方もかなり変わっているわね」
「旭先輩こそ」
全員が笑顔であるが、知らない人が見れば何か恐ろしさを感じるものだろう。三人の出会いは何処か歪なものだった。
日は変わって九鬼極東本部内。
「おはよう、勇介くん!」
「おはよう、義経、弁慶……あれ、与一は?」
「電話で大和と話してたよ。後から来るってさ」
「アイツ大和と仲いいなぁ。……まぁ、いずれは追いつくだろ。先に行こう」
「そうそう、勇介くん、最近評議会の最上先輩……だったかな?仲良くしてるって聞いた。義経は感心している」
「仲良くしてもらってるのは俺の方だよ。タイミングがあえば義経たちにも紹介するよ」
「ユウ、そんなことより私を運んで運んで」
甘えるように勇介にしがみつく弁慶。それを背中に背負ったままずんずんと進んでいく。
「ただ、たまに学園にいても気配を感じなくなるんだよな、旭先輩」
「それは凄いね、ユウでも見落とすとか」
「一応俺も人間だからな。……ただ自信がある部分だったから結構悔しかったりもするんだけどな」
夕方、勇介と旭は軽い組み手を行っていた。互いの拳を受け流しあい、かなりの激戦になっている。
「……旭先輩、刀使うのが本気ですよね?」
「どうしてそう思うの?」
「立ち方、動き方。おれ自身も刀を使うから、分かるっていうのが一番の理由だよ。足捌きが違う」
「ふふ、勇介は本当に面白い。……是非、私の正体がわかっても仲良くして欲しいわ」
「自分の正体って……まるで清楚みたいなクローンなのか?」
笑いながら言う勇介。
「どうかしらね?ご想像にお任せするわ」
「面白い。……とはいえ旭先輩、今は目の前の俺との組み手に意識を向けて」
「勿論」
完璧なまでに隠された旭の力の一部は組み手で引き出すことが出来ている。だが、まだまだ旭も本気ではない。
互いにまだまだ底が見えない状態なのだ。
「ふふ、本当に面白いわ」
拳を交えながら旭は呟く。心底楽しそうな笑顔を浮かべて。
半分寝ぼけて書いてました(ぉぃ
後ほど修正などの手直しが入るかもしれません!
あまりいじりすぎるのもアレなので追記と修正程度に抑えてます。