直江大和は人とのつながりを重視している。それは彼の携帯に入っている人数を見れば一目瞭然だろう。しかも、連絡を取らない相手を除いてもかなりの人数で埋まっているのだ。
「あ、大友さん?久しぶり。元気にしてた?」
川神の駅前を歩きながら以前にあった東西交流戦で知り合った大友焔と連絡を取り合っていた。
「うん、それで前に約束した件なんだけど……」
そんな話をしながら駅へと差し掛かる。そのとき、目に飛び込んできたのは何処かで見覚えのある軍服を着た美女と女の子だった。
「おいでましたよ、ニッポンポーン!」
「やーきてみたかったんだ、生まれた時から」
見た目は明らかに外国人であるのに流暢な日本語で喋る姿もある意味では大和にとっては見慣れたものだ。とはいえ、このような状況になるとは思っても見なかったため唖然としてしまっていた。
「……」
『どうしたんだ?』
「あ、ごめん。ちょっと急用。また連絡するよ」
『うん、待ってる』
大和は電話を切って二人に近づいていく。
「それにしても、やたらめったら目立つな俺たち」
「しょうがない。コジマ、そういう光ってるところあるから。リザは巻き添え食らわせてすまないな」
「お、おう」
何やらコントのような掛け合いをしている二人。
「おぉ?コジマの魅力にひかれて男が釣れてしまったぞ」
「……ある意味すげーな、お前」
「えっと、間違ってたら悪いんですけど……もしかしてクリス……マルギッテの関係者の人かな?」
「おぉ!?リザ、捜す手間が省けたぞ!」
「あぁ。まぁ部隊のメンバーから情報はきてるから会わなくても何とかなるんだけど」
「それは、いってはいけない」
「それで、会いたいのはどっちかな?」
「コジマは、クリスたんとユウたんに会いたいぞ!」
「クリスと……勇介か。そっか、あの二人と幼馴染なんだからそりゃ知ってるか」
「うん。コジマとユウたんは親友なんだ」
うんうん、と腕を組みながら頷くコジマ・ロルバッハ。猟犬部隊の中でも主力に分類される存在の一人である。小柄で部隊のマスコット的な感じであり、末っ子のような可愛がり方をされているという話をクリスから聞いていた。
「ユウ……たん……っ」
笑いを堪える大和を見て苦笑いを浮かべるリザ・ブリンカー。彼女は貧困街の出身であり、一時期はマルギッテとは犬猿の仲に近いときもあったという。美人を見慣れている(?)大和でも美人と感じるほどだ、男からの引く手は数多だろうが残念ながら男嫌いとの話だった。
「許してやってくれ。コジマはお嬢様とユウのことが本気で好きなんだよ」
「それは分かります。ただ、あの勇介がそんな呼ばれ方してると思うと……」
「本人の前で笑っても特に気にしないとは思うけどな」
「っと、とりあえずクリスのいる島津寮に案内するよ。勇介にもそこに来るように伝えておくから」
「コジー!」
「クリスたん!」
「本物のコジーだ!」
「クリスたんも本物だー!」
何やら楽しそうに手を取り合ってくるくると回るクリスとコジマ。
「お久しぶりです、お嬢様」
「リザさんも元気そうだな!」
「はい、フィーネやテル、ジークもこっちに来る予定です」
「そうなのか!?楽しみだなぁ」
「あ、クリスたん!お土産!」
コジマが差し出したのはドイツで有名な店のお菓子である。
「おお!ここのクッキーは絶品なんだ!ありがとうコジー!」
「後で一緒に食べよーな」
「コジマも食べるのかよ……で、ユウは?」
「あぁ、もう少しで来ると……」
そんな話をしていると寮の玄関のほうで寮母であり、ガクトの母でもある島津麗子と勇介が話す声が聞こえてくる。
「お邪魔します、麗子さん。これつまらないものですけど」
「あら、そんなに気にしないでいいんだよ。馬鹿息子も世話になってるんだしね!でも礼儀正しい子はアタシは好きだよ!ドイツからのお客さんはあっちに皆といるから早くいってやんな」
部屋へと入ってきた勇介を見たコジマがさらにぱぁっと笑顔を咲かせる。
「ユウたん!」
抱きつく……というには勢いが強く、もし大和が受け止めようとすれば……待つのは大惨事だろう突進を勇介は軽く受け止める。
「コジー、いつも言ってるけど勢い強すぎるって」
「コジマな、ユウたんなら大丈夫だと思うんだ」
「いや、大丈夫だけど」
苦笑いを浮かべ、コジマの頭を優しく撫でる。
「えへへ、久しぶりだなー」
「そうだなぁ」
「むぅ、ユウ、自分のことを忘れてないか?」
「いや、クリスはほとんど毎日のように会ってるだろ。……で、リザさんも久しぶり」
「や。元気そうで何よりだ。それにまた強くなってるんじゃない?」
勇介を見てリザがそう言うと身体を触り始める。
「うん、やっぱり前より身体つきが更によくなってるね。やるじゃん」
「はは、ありがと。そういえばあずみさんと会ったよ」
「おぉ!本物のニンジャか!俺にも紹介してくれよ!」
「いいよ」
「あずみってあのあずみさん?」
勇介とリザの会話に大和が興味を持ったのか混ざってくる。
「あぁ。あずみさんって昔女王蜂っていう通り名の傭兵だったのは知ってるよな?」
「うん、前に聞いた」
「で、そのあずみさんは元を辿ると風魔の流れを継ぐ凄腕の忍者なんだよ。それが有名で、リザさんは忍者に憧れてるから会ってみたいって話だ」
「忍者ってやっぱり分身とか?」
「あぁ。ホラ!」
しゅっ、とリザが四人に分身する。
「自己流だけどな」
「リザさんは自己流で出来るっていうのが凄いことだって分かるべきだと思うがな」
「リザは私の友であると知りなさい。直江大和」
「マルさん!」
「隊長!」
「マル、急に悪いな」
「別に構いません。休暇という形で来たのでしょう。ならばゆっくりしていくといい」
「なーなー、ユウたん、勝負しよう!」
突然、コジマが勇介にそういい始める。
「勝負……手合わせか?少しなら構わないけど」
「コジマもちゃんと修行していてなー、でも力の勝負は誰もできないからなー」
「テルマは?」
「ユウたんが勝手にどっか行ってから機嫌悪くてなー、相手頼んでないんだ」
「……なんかすまん」
「コジマは構わない!でも、今度いなくなるならちゃんと言ってからいくように!」
「あぁ、分かったよ。それじゃ庭に出るか」
場所は変わって島津寮の庭。そんなに広いわけではないが、普通の寮についているものにしては広い部類だろう。
「コジー、ルールをいくつかつけるぞ。周囲を壊さないこと、あまり大きな音を立てないこと、あと時間は三分まで」
「わかった!」
向かい合って構えを取る二人。それを見て大和は疑問に思う。
「コジマさんって勿論強いんだとは思うけど、どれくらいのものなんだ?」
「コジーは強いぞ。単純な力の勝負なら猟犬部隊でも一番じゃないか?」
「力だけであれば弁慶などと同格であると知りなさい。彼女も猟犬です。ドイツ屈指の部隊は伊達じゃありません」
先手はコジマ。勇介と再会したときの突進よりも更に加速して突撃する。普段であれば回避しそうな攻撃も、周囲への被害を減らすために勇介は真っ向から受けとめざるを得ない。コジマの攻撃は見た目だけであれば単純なパンチだ。だがその一撃の威力は百代の正拳突きにも匹敵するのではないかと大和は感じた。
「コジマはあれでほとんど気を使っていません。彼女のような異質な能力を持った者が猟犬部隊には多くいます。そしてその全ては」
マルギッテが自慢げな様子で言う。
「ユウによって更なる高みへと進んでいるのです。ドイツが誇る猟犬の調教師。一部の軍関係者はユウのことをそう呼んでいるのです」
右、左と次々に繰り出される拳を勇介が受け流す。それも周囲に被害の出ない攻撃のみである。明らかに周囲へとダメージを与えないようにしているのはコジマではなく勇介なのだが、これは仕方のないことである。単純にコジマは手加減が苦手なのだ。
「むー、やっぱりユウたん、当たらない」
「そう簡単に負けてはやらないよ。……さ、俺からも行くぞ」
コジマの拳を掻い潜って勇介の拳がコジマに襲い掛かる。
「ふん!」
拳に対して頭突きをするコジマ。
「むー、ユウたんの拳は硬いと思う」
「いや、これを普通に頭突きでとめるのも大概だと思うぞ」
「まだまだ行くぞー!」
次は拳と拳がぶつかり合う。
「あはははは!」
「前より威力上がったな。後は加減ができるようになれば文句なしだ」
最後に大きく二人の拳がぶつかり合い止まる。
「時間だ」
「やっぱりユウたんは強いなー」
「いや、コジーもよかったぞ」
単純な力だけでは勇介は負けるかもしれない。だからこそ気を纏って通常以上の力を引き出して戦っているのだ。それにほとんど気を使っていないコジマが対抗してるのだから、力の面での異常さは誰にでも分かるだろう。
「うんうん、ユウもコジーも相変わらず凄かったぞ!自分ももっと頑張らないと!」
「そうだな、クリスは立派な騎士になるんだからな」
「あぁ!」
「ふふ、お嬢様は既に立派な騎士ですよ」
「マルさんに言われると照れるな」
相変わらずクリスに甘いマルギッテである。
「俺も後で相手してくれよ、ユウ」
「勿論。とりあえず俺はテルの機嫌をとらないと」
「ユウ、おそらくですがフィーネも内心では怒っていると知りなさい。彼女もユウのことをかなり心配していました」
「……何かビールに合うつまみでも考えとくよ」
「それがいい」
マルギッテはそう言うと頷く。