真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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30話 曹一族と梁山泊 中編

 校庭で始まった史進と京の戦いは一方的なものであった。京は弓使いでありながらも、接近戦の腕前もかなりのものだ。だが、相手は梁山泊であり現役の傭兵である。

 

「まだまだ……!」

「弓兵が接近戦は無謀だったってことさ!」

 

 京が得意武器である弓を使わないことに合わせて史進もまた素手で戦っていた。それでも圧倒的なまでの差を見せ付けられていた。

 

「うりゃりゃりゃ!」

 

 史進の連撃の前に、京は押されっぱなしだった。だが、その目は何かを狙っている。そんな京に対して史進が思い切り拳を振り下ろす。

 

「っ!」

 

 京はその大ぶりを待っていたように。

 

「せいやっ!」

 

 拳を受け流しつつ、史進を投げ飛ばした。

 

「!?」

 

 もろに喰らった史進は空中でぐるりと回転して、地面に叩きつけられる。そのまま流れるように史進の関節を極めにかかる。

 

「……みょ~な技持ってるのな。大振りを狙ってたか。やるじゃん!素手勝負を選んだ理由が分かった」

 

 そう言うと史進は笑いながらむくりと起き上がる。しかも、腕を極めた京ごと強引にだ。驚いた京は危険を察知しすぐさま史進から離れる。

 

「でもやっぱ火力不足だわ。次は弓もってこい」

 

 ダン、と片足を前に出し、身体を半回転させる。

 

「ずあっ!」

 

 強烈な史進の体当たり。恐ろしいまでの速度の一撃を京は避けることが出来なかった。

 

「~っ!?」

 

 まるでトラックにでも跳ね飛ばされたかのように京の身体が宙を舞う。そのまま落下してくる京を抱きとめる者がいた。

 

「史進、少し……いや、かなりやりすぎじゃないか?」

「げっ!?勇介が出てきやがった!」

 

 抱えた京を見る。意識を失っているようだがおそらくは大きな問題はないだろう。あれだけの一撃だから骨は折れているだろうが。

 

「それまで!勝者史進!」

 

 梅子がそう宣言する。

 

「史進、前に言ったよな?やりすぎるなって」

「おい、鳴神。今はホームルーム中だぞ」

「こちらでも歓迎の決闘をする予定ですので。……史進」

「ユウ、待ってくれ」

 

 勇介を制したのはクリスだ。静かに闘気を漲らせている。

 

「史進、傷がいえたら自分とも戦ってほしい」

「はははっ、そんなクールなこと言うなよ」

 

 クリスの足元に向かって史進がワッペンを叩きつける。

 

「今やろうや」

「ユウ、自分にやらせてくれ」

「……わかったよ」

「そのほうがわっち的にもありがたい。勇介と川神院と九鬼絡みはわっちの担当じゃないから」

 

 

「おいおい、鳴神ってもっとクールな奴じゃなかったのか。おじさん、まさか急に飛び出していくとは思ってもいなかったんだけど。しかも窓から」

「ユウはいつでも優しいのだ」

「だね。それにユウって結構熱いところあるよね」

「兄貴らしいな」

「……まずいな。勇介が暴れると厄介だ」

 

 ボソリと武松が呟く。

 

 

 結果はクリスの惨敗。必殺の一撃を史進が歯で止めるという離れ技を見せ、そのまま敗れてしまった。京と同じく外傷はそうでもないものの、骨折はしていそうですぐさまマルギッテが現れ保健室へと連れて行った。

 

「……それで、史進。俺とやりあうつもりってことでいいよな?」

 

 珍しく闘気が漏れ出る勇介。

 

「だ・か・ら!わっちはお前担当じゃないっての。勇介の担当は……リーン!」

「……」

 

 ざっと勇介の前に立つ林冲。

 

「リン、お前がやるのか?」

「……あぁ。勇介を止めることが出来るのは私だけだ」

「……まぁ、あの戦いは本人たちの望んだものだからどうこうするつもりはないんだけどな」

 

 すっと闘気を消す。

 

「リン、放課後に詳しい話が聞きたい」

 

 林冲の傍まで近寄った勇介が耳元で囁く。一瞬ぴくっと反応した林冲が静かに頷くのを見て勇介は保健室に向かう。その後ろ姿をじっと見つめる林冲だった。

 

 

 京とクリスは病院に搬送、入院することになった。二人とも骨折であり精密検査を受けたりと大変だったようだ。マルギッテがクリスと京の面倒を見るといっていたので任せてしまっても大丈夫だろう。元々、病院である以上問題はないのだろうが。

 放課後の学園。勇介の前にいるのは林冲と武松だ。

 

「さて、説明してくれるよな?」

「勿論だ。その前に史進のことを許してやってほしい。私たちが梁山泊である以上、仕方のなかったことなんだ」

 

 真剣な顔で言う林冲の頭をポンと叩く。

 

「言っただろ、京たちが望んだことだから仕方ないって。やりすぎだろって言いたかっただけでな」

「言ったろう、リン。勇介ならそのあたりは理解してくれているだろうと」

「あぁ。……それで勇介。今回私が来た理由だが、これはお前と直江大和に直接関係している。そして、場合によっては周囲を巻き込んだ大きなテロになる可能性も秘めている」

 

 そこまで言われて勇介は可能性に気付く。

 

「まさか、曹一族か?」

 

 梁山泊と同じように歴史の裏に存在しながら、梁山泊以上に過激な行動を取ることで有名なのだ。

 

「そうだ。いくつもの状況が重なっていることもあって、この護衛任務の難易度は天……最高難易度に設定された。だから私たちが出てきたんだ」

「川神院、九鬼、猟犬部隊。そこに曹一族まで入ってくるから仕方がない」

 

 目を閉じながら武松が言う。

 

「俺は自衛できるからいい……ってわけにもいかないんだよな?」

「あぁ。確かに勇介は私たちと同等か、それ以上に強い。だが、だからと言って曹一族の刺客を確実に倒せるとは限らない。勿論、基本的な護衛対象は直江大和だ。だから、私が椎名京に挑まれる結果になった」

「……あー、もしかして大和に自然に近づくために興味があるーとかなんとか言ったのか?」

「あぁ。そんなところだ。よく分かったな」

 

 京ならば確かにそんなことを言われれば決闘を挑んでもおかしくはないだろう。

 

「まぁ、事情は分かった。俺は九鬼極東本部まで帰れば大丈夫、と見ているんだな?」

「あぁ。流石の曹一族も、あの場所へ入り込んで勇介を浚うなんて芸当は出来ないだろう」

「……確かに」

 

 仮に勇介を倒せるだけの相手であっても、アレだけの数の強者、しかもそこにヒュームが混ざるのだ。不可能と言っても過言ではないだろう。

 

「……よし、決めた」

「どうした?」

「俺も大和の護衛を手伝おう」

「……え?」

 

 

「おー、勇介も仕事手伝ってくれるのか?楽できそうでいいなー」

 

 林冲に案内されたのはホテルのある階層。どうやらこのホテルの一フロアを貸しきっているようだ。その中のひとつの大部屋に全員集まっている状態だった。ごろごろとしながら勇介に声をかけてきたのは公孫勝だ。

 

「お前は相変わらずだな」

「ふっふっふー。天才の私ならこれでも許される」

「許されねーって。ちゃんと働けまさる」

 

 何故か自慢げに言う公孫勝に史進が呆れ顔で言う。

 

「働いてるって。ほら、ちゃんと学園いったし?」

「まー、まさるならそれでも十分働いてる気がしなくもないねー」

 

 楊志もニヤニヤしながら言う。

 

「私が戦うよりも勇介が戦ったほうが強いだろー。あ、それか勇介が気絶してくれれば私が強くなれる!」

「いやいや、それはお前が強くなったとは言わないんじゃないか?」

 

 勇介が苦笑いを浮かべる。

 

「まー、冗談はさておき、勇介も手伝ってくれるっていうのは楽できそうでいいなー」

「それには同意するよ。勇介が美少女だったらなおよかったんだけど」

「俺が美少女とか……それ既に俺じゃないだろ」

「……あれ、意外と女装したら似合うんじゃない?リンと同じく長い黒髪なんだし」

「そうかぁ?……あれ、わっちも意外とイケる気がするぞ!?」

 

 何故か盛り上がる梁山泊。

 

「いやいや、待て。何で俺を女装させることになる!?必要はないだろ」

「ほら、梁山泊って全員女だし」

「楊志、今思いついただろ。事実とはいえ、俺や大和を護衛しようとしている以上その言葉は通らんぞ」

「わっちは面白そうだから女装に賛成するぜ」

「そんなことをしてる時間はないだろ。今この瞬間に大和が浚われたらどうする」

「大丈夫だ。曹一族は邪魔をしてこなければ基本的に一般人を巻き込まない」

 

 林冲がそう言う。

 

「交代で直江大和を護衛する。出来るだけこちらの……闇の世界を知られないように」

 

 

「なぁリン」

「なんだ、勇介」

 

 時間ごとに大和の監視をするメンバーを交代していたのだが、今は勇介と林冲の時間だった。今日に関しては勇介が全時間待機する予定だったから交代するのは梁山泊側だが。

 

「せっかく学園に通うんだから、任務以外にも楽しんでみたらどうだ?」

「楽しむ?……私たちは任務で来ているんだ。つまりは仕事だから、楽しむなど……」

「硬く考えすぎだ。任務かもしれないけど、今のリンは川神学園の生徒でもあるんだ。学生の本分は勉強と遊ぶことだ」

「そうなのか?学生の本分は勉学というのは知っているが……」

「遊ぶこともだよ。だから、今度武松を連れて甘いものでも食べに行こう」

「ふふ、きっと武松は喜ぶな。見た目では分からないだろうが」

 

 林冲が少し笑う。

 

「うん、お前は笑ってるほうがいいな」

「……」

 

 勇介の言葉に少し俯く林冲。勇介が何かに気付いたようにはっと寮を見る。

 

「侵入したな。強いな、こいつ」

 

 

 一分もしないうちにだらんと手足に力が入らない状態の大和を抱えた史文恭が出てくる。軽く壁を飛び越えて着地したところに林冲が声をかける。

 

「待て」

「豹子頭、林冲。ここで会うとは」

 

 スポーツバッグを放るような感じで大和をどさりと地面に落とす。

 

「その少年を置いていってもらうぞ、史文恭」

「へぇ、この人が史文恭か」

「もう一人の目標か。標的が勝手に来てくれるのは楽だが、状況が悪いな」

 

 史文恭はそういいながらも余裕の様子を崩さない。

 

「しかし、護衛の存在は想定済み。罠を仕掛けてある」

 

 ちょんと勇介と林冲の足元を指差す。

 

「右足を地面から離せば、特殊トラバサミがガチャリ」

 

 林冲が視線を足元へと向ける。その一瞬の隙を史文恭が逃すはずがない。

 

「嘘だよっ!」

「知っている!」

 

 史文恭の一撃を槍で受け流す林冲。始まる二人の攻防。激しい林冲の槍撃を人体の構造的にありえない角度に首を曲げ回避する。

 

「大和、大丈夫か?」

「……」

 

 喋ることも動くことも出来ないようだが無事そうで勇介は少しだけほっとする。

 

「ちょっとだけ待っててくれ」

 

 大和にそう言った勇介の目が黄金に輝く。

 

「ちょっとばかしオシオキがいるみたいだからな」

「ほう……それが私の目と同じ龍と呼ばれるものか」

 

 史文恭の持つ目……龍眼。筋肉の些細な動きなどから次の行動を予測する……圧倒的な動体視力と経験を持つ史文恭だからこそ使いこなせるものである。勇介のものとは種類は違うが圧倒的なものであることは間違いないだろう。

 

「俺の友達に手を出したんだ。覚悟は出来てるんだろうな?」

「ふ、素人の小僧にそのようなことを言われるとはな」

「勇介、気をつけろ。史文恭は私の知る限り曹一族最強だ」

「俺の師は……」

 

 睨むように史文恭を見る。

 

「世界最強だ。そして俺はそれを超えるんだから、簡単には負けてやらないぞ」

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