真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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お待たせしました!
新しいPCですので誤字がいつもより増えそうで怖いですが……。


31話 曹一族と梁山泊 後編

 史文恭と勇介の戦いはすでにはじまって数分経っていた。

 

「ふふふ……その若さでそれだけの腕を身に着けるとは……かなりの努力を重ねたのだろうな!」

 

 史文恭との攻防に勇介は刀を持ち出していた。いや、出さなければ間違いなく殺られる(・・・・)。巨大な金棒を振り回す強力な一撃一撃をいなしながら勇介も攻撃を放つがそれを軽々と史文恭は受け止める。

 

「しかも、私たちと違い日の光を浴びた世界でそれほどとはな!」

「俺も、あなたみたいな実力者が裏家業にいるのは逆に驚きですけど、ねっ!」

 

 一瞬史文恭が見せた隙。明らかに故意に作られたそれに勇介は敢えて攻撃を加えていく。

まるですべての攻撃が読まれているような回避や防御を繰り返される。

 

「まさか……動きが読まれてる?」

「勇介!史文恭の眼は全ての動作を読み取る!」

 

 究極の動体視力と、経験から生み出される史文恭の動きは裏の世界でも有名だ。

 

「それは俺も」

 

 勇介の龍眼は龍の力が溢れ出るもの。気の流れを読むことが出来るそれも史文恭のものと似通っている。ただし。

 

「気を使った戦いであれば、負けるつもりはない!」

 

 闘気を漲らせた勇介が先ほどまでよりさらに加速する。激しい連撃。それに応戦する史文恭の顔には笑みが浮かぶ。

 

「リン!援護に……って勇介がやりあってるのかよ!」

 

 史進たちが到着するなり驚きの声を上げる。

 

「うわぁ……アレやばいんじゃない。援護もできないよ」

 

 楊志も見るなり同じような反応をする。勇介の刀と史文恭の金棒、二つの攻撃がぶつかり衝撃や風圧が周囲に吹き荒れる。

 

「おいおい、勇介も住宅街ってこと忘れてるんじゃないのかー?」

「いや、あれはちゃんと意識して戦っている。ああ見えて周囲の建物などに傷一つつけていない」

 

 公孫勝の言葉に答えた武松。武松の言う通り、周囲の木々などが揺れたりはしているが地形などにはダメージはない。

 

「少しばかり時間をかけすぎたな」

 

 勇介の刀と金棒をぶつけ、距離をとった史文恭がつぶやく。その言葉を聞いた林冲がはっとする。

 

「史進、楊志!」

「おうよ!」

「あいよ」

 

 林冲の声にすぐさま意味を理解したのだろう、史進と楊志は動きだす。

 

「だが、遅い!」

 

 これまでより一際強く振るわれた金棒によって起きた風はもはや暴風。その風に紛れてあっという間に遠方へと逃げていく史文恭。

 

「待ちやがれっ!」

 

 史進と楊志が追いかけていく。勇介はそれを見送って大和に近づく。

 

「大丈夫か、大和」

「……」

 

 何も言わない大和を見て勇介は史文恭に何かやられたと気づく。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 大和に触れると乱れた気を整える。

 

「っは!?」

「治ったな」

「あ、あぁ。ありがと……っていうか、何が起こってるんだよ!?勇介もそうだけど、林冲まで……」

「事情はリンから説明がある。俺はちょっと武松と話がしたい」

「……私?」

 

 

 林冲が大和の部屋へと説明をするために離れている間に勇介と武松は寮の傍の公園の椅子に座っていた。

 

「ほら、これでいいか?」

 

 コンビニで買ってきたプリンを武松に渡す。そこまで表情には出ていないが、かなり喜んでいる武松に軽く微笑む勇介。

 

「さて、武松。聞きたいのは史文恭についてだ。あの人が曹一族からの刺客だっていうのは分かった。で、」

「史文恭。曹一族で武術師範している。私たちと幾度となくぶつかっているけど一度として勝ちを拾えたことはない」

「……とにかくヤバイってことはわかったよ。で、あの龍眼っていうのは相手の小さな予備動作なんかを見極めている……っていうのであってるか?」

「うん、おそらく。正確な情報は少ない相手だから」

 

 武松の言葉を聞いて勇介は少し考える。

 

「その能力に加えて歴戦の傭兵だと。出来れば味方にしておきたいな」

「……それは難しい。曹一族の長の命に従って動いているはずだから」

「とりあえず、俺は寮母の麗子さんにお願いして寮に一時住ませてもらえないか確認するよ」

「わかった。リンも多分その手段が取れないか確認すると思うけど」

 

 

「あぁ、いいよ」

 

 翌日、麗子さんに菓子折を持ってたずねて行ったところ、全くためらうこともなく許可が下りた。

 

「いいんですか?」

「勿論さ。あんたみたいな礼儀正しいイケメンなら大歓迎さ。それに、京ちゃんのことも聞いてるよ。いいことしたね」

 

 バンバンと勇介の背中を叩く麗子。

 

「……俺はそんな。結果として救ってあげたのは大和たちですし」

「でも、あんたもきっかけを作ったのは事実さ。自分のやったことで人が救われたんだ。胸を張りな!」

 

 そう優しい言葉をかけてくる麗子をじっと勇介が見つめる。

 

「なんだい?」

「いや……母親って、いたらこんな感じなのかなって」

「あっはっはっ!うれしいこと言ってくれるねぇ。あんたの母親は知らないけど、アタシみたいな感じじゃないと思うけどねぇ。でも、あんたが望むのなら母親と思ってくれてもかまわないよ!」

「ありがとうございます、麗子さん」

「ゆ、勇介先輩!もしかして島津寮に泊まるんですか!」

 

 そう言って台所のほうからこっそりと顔を出したのは由紀江だ。どうやら麗子が淹れてくれたお茶がなくなっていることを知ってお茶の準備をこっそりとしていたようだ。なぜこっそりなのかはわからないが。

 

「由紀江ちゃんもそういえば知り合いだったんだね。世間が狭いのか、勇介ちゃんが顔が広いのか……由紀江ちゃん、こういう縁は大事にするんだよ」

「えぇっ!?は、はいっ!もちろん私はそのつもりですが、その、勇介先輩がどう思われているのかが大事でして……」

 

 ちらちらと勇介を見ながらどんどん小声になっていく由紀江。

 

「ん、俺は由紀江のことを大事な友達と思ってるぞ。でもなぁ、最近由紀江は俺のことを先輩って呼んで他人行儀なんだよな」

「えぇ!?そ、その……学園の先輩に対してさん付けというのは失礼かと思って……」

「ほら、大和たちのこともさん付けだろ。ってことは俺との距離があるってことじゃないか?」

「そうだねぇ。由紀江ちゃん、恥ずかしいのはわかるけどちゃんと言いな!」

「は、はいっ!え、えっと……勇介……さん」

「これからもよろしくな、由紀江」

 

 微笑んだ勇介に顔を真っ赤にした由紀江がお茶を差し出して走り去る。

 

「あらあら。勇介ちゃんは罪作りな男だねぇ」

「?よくわかりませんが」

 

 

「勇介も島津寮に来てくれたんだな」

 

 林冲も無事麗子さんとクリス、京からの許可を貰ったらしく、部屋を間借りする形で島津寮にいることになったらしい。ただし、クリスは勇介が島津寮に寝泊まりすると聞いて帰ると騒いでちょっとした騒動になったという出来事があったのだが。

 

「一時は大和の傍についていたほうがいいだろう?説明はしたんだよな?」

「あぁ。その上で私たちが傍にいることを認めてもらった」

 

 林冲の言葉に勇介がうなずく。

 

「それならいい。それで、史文恭の対策とかはできるのか?」

「一対一で止めることが出来るのは私くらいだ。私以外が直江大和の護衛をするときにはある程度の距離で二人以上で行動することになる」

「……少し物々しい気もするけど仕方ないな。俺も朝一とかを除いてできるだけ傍にいることにするよ。だから、できるだけ大和に自由な時間を上げてくれ」

 

 勇介が言ったことに林冲も納得したようで、共有しておくという。

 

「何はともあれ、狙われないことが一番だな。史文恭か曹一族にコンタクトが取れれば可能性はあるか……?」

「それは危険だ!いくら勇介とはいえ、曹一族、特に史文恭は別格だ。実際に戦ったんだからわかるだろう?」

「わかる。だからこそ、俺としては味方にしたいんだよな。できればあの戦闘センスを俺のものにしたい」

「強さに貪欲なのはいいことだが、さすがにそれは……」

 

 林冲が苦言を呈するが、次の日に勇介の願いは成就されることになる。

 

 

 翌日、大和には林冲がついていた為、勇介は一人で散策していた。

 

「……ん、あれって」

 

 まさか、と思った光景。図書館の中で優雅に読書をしている女性が目に入る。忘れもしない、史文恭である。警戒を解かずに勇介は図書館へと入り史文恭に接近する。

 

「自分から私のところに来るとは、変わったやつだな」

 

 本から目をそらさずにそう言う史文恭。勇介は自然な形でそんな史文恭の隣に座る。

 

「それはお互い様……ってわけでもないか。まさかこんなところで堂々と本を読んでるとは思わなかったよ」

「私は本を読むのが好きなのでな。特に図書館のような場所は私にとって至高の場所だ」

「それは同意するよ。……それで、ちょっと話したいことがあるんだけど。依頼として」

 

 勇介の言葉にぴくりと少し反応した史文恭は、読んでいた本を閉じると勇介へと視線を向ける。

 

「ほう?冗談で言っているというわけではないようだな。それで?私たちは安くはないぞ?」

「それはわかってるよ。……大和から手を引け」

 

 勇介から純然たる殺気が史文恭にたたきつけられる。それを受けた史文恭はニヤリと笑う。

 

「直江大和か。ふふ、気づいているのかいないのか。お前自身も私の捕獲対象だぞ?」

「知ってる。そのうえで言ってる。更に言うなら、俺が武の道を生きていく中で、アンタの力は役に立ちそうだから雇いたいって言ってる」

 

 挑戦的な物言いを敢えてしていることに気付いているのか、史文恭は愉快そうな顔で勇介を見ている。

 

「それで?私を雇いたいということか?」

「あぁ。それに、俺や大和を狙ってるんなら上のやつとも話がしたい」

「……ふむ」

 

 少し考え込む史文恭。

 

「……いいだろう、少し待て」

 

 

 図書館から出て外。史文恭が自分のスマホで連絡を取る。

 

「……意外と現代的なんだな」

「私たちをなんだと思っている。これでも傭兵だぞ。……当主。話がある」

 

 勇介からの話を軽く掻い摘んで話した史文恭。電話越しに笑う老人の声が聞こえる。

 

「……当主が話をするとのことだ」

 

 そう言って史文恭がスマホを渡して来る。

 

『お前が鳴神勇介か』

「そうだ」

『史文恭から話は聞いたぞ。本来ならば直接連れてくるように史文恭に言っていたのだが、まさかそちらから話がしたいとは驚いたぞ』

「単刀直入に言う。直江大和から手を引け。話があるなら俺が相手になる。もし拒否するのなら」

『するのなら?』

「お前ら全員を完膚なきまでに叩き潰す。……俺の持てる全ての力と人を使って」

『……ははははは!!それは恐ろしいな。ドイツ軍に九鬼従者部隊あたりか?もしかすると川上院も動くかもしれんな。ククク……やはり面白いな』

 

 笑いがこらえきれないといった様子で曹一族の当主は笑う。

 

『いいだろう。直江大和からは手を引いても構わぬ。ただしお前は必ずワシの元に来るのだ。日時は問わん。ワシが生きている間に来るのであればな』

「約束しよう。それとお前たちを雇いたい。というか、史文恭だけだけど」

『そやつは曹一族の武術師範だぞ?史文恭と渡り合ったお前に護衛が必要だとは思えんが』

「俺が欲しいのは史文恭の腕前だ。俺の修行相手としてほしい」

 

 一瞬、スマホの向こうが固まる。

 

『はははは!本当に長く生きてみるものよな。まさかワシに対してそのようなことをいうやつがいるとはな!おい、史文恭にかわれ』

 

 そう言われて史文恭にスマホを返す。

 

「どうした当主。……あぁ。あぁ。……いいのか?わかった」

 

 ピッと電話を切った史文恭が勇介に視線を向ける。

 

「当主からの指示と許可が出た。お前を必ず連れ帰ること。ただし、その時期についてはお前の自由だそうだ。そして、それまで私はお前の護衛兼鍛錬相手として過ごすように、と。依頼料は私がこちらで過ごす場所だけで構わないそうだ」

「……破格だな。それで、お前どこに住んでるんだ?」

「適当なところで野宿か、その気になれば適当な山にでも籠るが」

「いやいやいや、普通にホテルくらいとれよ」

 

 あきれる勇介。

 

「仕方ない。猟犬部隊のみんなのホテル、確か空きがあったと思うからうまいことそこに入れるようにしてもらうか……フィーネさんに」

「ふふ、よろしく頼むぞ。主」

「……いや、別に俺はお前の主じゃないぞ」

「依頼主にあたるだろう?今だけはある意味主だ」

「……お前がそれでいいなら構わないけど」

 

 こうして川神に史文恭が滞在することになる。この話をしたことで梁山泊側と史文恭の間で衝突があったりしたのだが、それはまた別の話である。




PCも復活したので、できるだけ再び更新速度を上げていきます!
あとは天衣さんの登場シナリオで出会っていない


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