失踪はしませんのでお待ちください!
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33話 ある休日のひととき
「ねーねー、ユウ。今度みんなで泊りがけで遊びにいこーよ!」
授業が終わったところで小雪が遊びに誘ってくる。
「泊りがけ?別に構わないけど突然だな。他は冬馬と準か?」
「そうだよー。あとねー、大和たちも誘っておいたのだ。あとー、義経たちとマルギッテも」
小雪にしてはいろいろと呼んだようで勇介は軽く驚く。
「そんなに誘って大丈夫なのか?」
「いいんですよ、勇介くん」
そう言ってきたのは冬馬だ。
「九鬼が新たに運営することになる巨大テーマパークの先行入場のようなものですから。英雄からチケットはたくさん貰ってます」
「開店前ってことは俺が見守る対象がいないだろう?だからあまり乗り気じゃないんだけどな」
準が相変わらずの発言をする。
「紋白が来たりしてな」
「何っ!?紋さまがっ!?」
思った以上の……いや、予想通りの反応を返す準に苦笑いを浮かべる勇介。
「やらかしてヒュームさんとかあずみさんとかに狩られないようにな」
「何を言う。俺にとって紋さまは神にも近しい存在。仕えたい対象だ」
キリッとした顔で言う準はスルーして小雪に向き直る。
「それじゃ、俺も行くのはいいけどいつ行くんだ?」
「予定では次の休みが三連休ですから、その日にしています。風間ファミリーと義経さんたちには許可は得ています」
「わかった。俺も準備しておくよ」
「わーい!ユウとお泊りなのだー!」
「ふふ、ユキは本当にうれしそうですね」
大喜びの小雪を優しい目で見る冬馬と準。週末に向かうことになるプールがそんなに楽しみなのか、と思っていたのは勇介だけだろうが。
「はー……でかいな」
九鬼レジャーランド。大扇島のように、人工で作られた島に建てられた総合施設である。そのサイズは大扇島と同じかそれ以上。そんな島が丸々レジャー施設となっているのだ。それを九鬼が準備してくれた自家用ジェットの中から見下ろす一行。
「しかも、入園……であってるのかな。特にお金は取らないらしいよ。その時点ですでにヤバイ気がするけど」
大和がスマホをいじりながらそう言う。どうやら前情報などを確認していたようだ。
「アトラクションとか建物とかに入場料的なのがかかる感じかな。で、その入場とかのフリーパスが島の入り口とか建物の場所で販売されてるみたいだね」
モロも情報を伝えてくる。
「でも開園前で人いないんじゃ俺様の魅力を伝える相手がいねーってことだよな」
ガクトがそう呟くのを女性陣が冷たい目で見る。
「でもガクト、どうせ失敗するんでしょ」
そう言ったのは京だ。ちゃっかりと大和の隣の席を確保していた京は本を読みながら視線を向けることなくそう言う。
「いやいや、今回はキャップに加えて葵冬馬、そして勇介もいるんだぞ。成功率はほぼ100%だろ!」
「……なぁ京。それってユウたちによって来るだけでガクトには関係なくないか?」
首を傾げながらクリスが京に尋ねる。
「そだね。気づいてるけど気づいてないふりしてるんだから言っちゃダメだよ」
「ねーねー大和。ガクトってばいっつもあんなこと言ってるけど成功したことないの?」
「いや、成功もしてるけどがっつきすぎなんだよなぁ」
一子の疑問に大和が答える。ガクト自身も決して不細工というわけではないのだ。むしろ自ら誇るだけはあり、いい身体をしている。年下から好意を寄せられても、本人は年上が好きで興味がない。非常に勿体ないところがあったりもするのだ。
「ガクト、俺はナンパとかしたことないぞ?」
「大丈夫だよ!俺様がアシストするから!」
「なんだよ、ナンパとかつまんねーな!俺と一緒に冒険しようぜガクト!」
「かーっ!キャップはお子様だからわかんねぇんだよ!」
そんな話をしている風間ファミリーと勇介をじーっと見つめる小雪。
「どうした、ユキ?」
「……んーん。ユウも女の人ナンパするのかなぁって」
「したことないって言ってたししないんじゃないか?まぁ、俺からすれば賞味期限の切れた女の何がいいのかわからんが」
「ふふ、ユキは勇介くんがナンパするかどうか気になるんですか?」
冬馬が優しい笑顔を浮かべて小雪に尋ねる。
「んー、分かんない。でも、そうするかもって思うとちょっともやもやするのだ。トーマ、これなんだろ?」
「そうですね……それはユキ自身が気付かないといけないことですから、私から何も言えません」
「あ、そういうことか」
冬馬の言葉に納得したように準もぽんと手を打つ。
「えー!トーマも準も二人だけわかってずるいのだー!」
「何の話してるんだ?」
風間ファミリーから離れて勇介が近づいてくる。
「ふふ、勇介くんともっと私たちも交流を深めないとと思いまして。どうです、一緒にお風呂でも」
「風呂は別に構わないけど、その場合は準も一緒にだぞ」
「おや、ふられてしまいました。まぁ私が勇介くんに手を出すことはありませんよ」
「……そう願いたい」
「ついたのだー!」
自家用ジェットから降りた小雪がぴょんと地面に着地しながら叫ぶ。
「弁慶、与一!すごいぞ!」
義経が目を輝かせながら周囲を見渡す。弁慶はそんな義経を見ながら川神水をくいっと飲んでいる。
「落ち着け義経。恥ずかしいだろうが!」
「与一、余計なことを言って主のテンションを下げるなよ」
「まぁ、たまには息抜きも大事だろ、与一」
弁慶に続いて勇介も声をかけることで与一は頷く。
「……まぁ、ここであれば組織の連中からも狙われないだろうからな」
「?相変わらずよくわからんが、俺とかモモ先輩もいるんだから大丈夫だろ」
独り言をぶつぶつと言いながらも義経に声をかけられたら返事をしている与一を横目に勇介は小雪の傍へと歩み寄る。
「ほら、ユキ。あまりはしゃぐと転ぶぞ」
「大丈夫だよー!転びそうになったらユウが助けてくれるでしょ?」
「まぁ、助けるけど。転ばないに越したことはないだろ?」
そんな話をしている勇介たちを見ながら準が遠い目をしていた。
「どうしたんです、準?」
「いやぁ、ユキと勇介を見ていたらなんだかな。これが娘を嫁に出す父親の気持ちなのかね」
「それでは私が母親ですか」
「……若、冗談だとは思うがその例えはどうなんだ」
肩を竦めてそう言った準に微笑みかける冬馬。
「トーマー!ハゲー!早くいくのだー!」
「やれやれ。行くか、若」
「そうしましょう」
「……ねぇねぇ大和」
「なんだ?」
プールサイドのベンチで横になり、携帯をポチポチとしている大和の隣に座った京が勇介と小雪を見ながら声をかけてくる。
「ユキって、勇介のこと好きなのかな?」
「ん~、それは恋愛感情としてってことだよな?」
よっと声を出しながら大和が起き上がる。京の視線を追うように勇介たちを見ると言葉を続ける。
「どうだろうな?ユキが恋愛感情持ってるのかは本人しかわからないだろうし。ただ、そうだな……葵や井上のことを慕っているように、勇介にも懐いてるっていうことは確かだな。これからどう変化していくか……あとは勇介がどう思っているかが大事なんじゃないかな」
「……そだね」
「それにしても珍しいな。京がユキや勇介のこと、そんなに気にするなんて」
「ユキは他人とは思えないところもあるからね。それに、私は大和に、ユキは勇介に助けられたんでしょ?ほら、私たちも先輩として結婚しないと」
「はは、お友達で。でも、何かきっかけがあれば一気にくっつきそうではあるよな」
「私と大和みたいに?」
「……そうだな」
「えっ?」
「勇介くん!」
小雪たちと遊んでいた勇介に声をかけたのは義経だ。
「どうした、義経。お前も混ざるか?」
「う、うん。混ざらせてもらおうと思う」
チラチラと上目遣いで勇介を見る義経に首を傾げる勇介。
「あ、義経。遅くなったがその水着にあってるぞ」
「!そうか!ふふ、それならよかった!」
「うんうん、今日も主で酒がうまい」
「酒じゃなくて川神水な」
黒のビキニで堂々と川神水を飲む弁慶に勇介が突っ込みを入れる。遠目で見ているガクトが何やら騒いでいるのはいつものことなのでスルーする。
「義経たちも一緒ならビーチバレー?」
「それなら源氏チームと冬馬ファミリーか?」
「冬馬ファミリーですか。ふふ、初めて言われましたがなかなか悪くはありませんね。どうです、勇介くん。お父さんポジションなど」
「遠慮しとくよ。そこは準に任せる。最初は俺が審判するよ」
そんな話をしていると混ざってくるのは勿論キャップだ。
「なんだなんだ!楽しそうな話してるじゃないか!俺たちも混ぜろ!」
「こう来ると思った。んじゃチームで別れて交代でやるか」
「ねぇねぇ、ユウ」
夕方まで遊び続けた勇介たちがホテルへと向かっているときに小雪が勇介の羽織ったブラウスの裾をくいくいと引っ張る。
「どうした?」
「……あのね、僕たちずっと一緒にいられるよね?」
「ずっと、っていうのがどこまでのことをいっているか分からないけど……そうだな」
ぽん、と小雪の頭を優しくなでる。
「小雪が一緒にいたいって言うならできる限りは一緒にいるよ。せっかく再会したんだしな」
「うん!……えへへ」
はにかむように笑う小雪に一瞬どきっとする勇介。
「むむ……主、強敵だよ」
「えっ?なんだ弁慶」
勇介と小雪の様子を見てそう言った弁慶の言葉を理解できていない義経が首を傾げて尋ねなおす。
「むぅ……うちの主にはまだ早かったか。無念」
同じように勇介の様子を伺っていたクリスがむむむと唸る。
「どうしたの、クリス」
「いや、ユウと榊原小雪を見ていたらなんか……む~」
自分の感覚がわからずに唸り続けるクリスに京が呆れた顔をする。
「クリスさん、お兄さんのような勇介さんがとられるみたいで寂しいんでしょうか」
「そういうまゆっちはいいの?」
「えぇっ!?わ、わ、私に勇介さんは勿体ないといいますか、いえ勿論求められて嫌というわけではありませんがっ!?」
「まゆっちてんぱってるよ」
京がそう言ってため息をつく。そのあと、少しだけ口元に笑みを浮かべた京が静かにつぶやく。
「……頑張ってね、ユキ」
メッセージやらで色々言われたりもしますがまだまだ続けます!
数回に分けて書いたため誤字脱字などあったらごめんなさい!