忙しいですが失踪はしてませんよ!
「ユウ、おはよ!」
「……」
朝目を覚ました勇介にのしかかるようにして小雪が顔を覗き込んでいた。
「ユキ、何してるんだ?」
「えへへ、ユウが早く起きるの知ってたからそれよりも早くに起きて寝顔を見てたのだー」
満面の笑みで言われては勇介も返す言葉がない。というよりは、薄いブランケット越しに感じる小雪の身体にどぎまぎしていたりするのだが。
「ねぇねぇユウ。今日はどこで遊ぶ~?」
「ユキはどこか行きたい場所あるのか?」
勇介の言葉にうーんと首を傾げる。
「僕はユウと一緒ならどこでもいいかなぁ」
「そうか。……ユキ、そろそろどいてくれるか?」
「はーい」
小雪の重さがなくなりホッとする勇介だったが、起き上がろうとしたときソレは起こった。
―――ドクン―――
「っ!」
背筋が凍るような感覚。自分が何かに塗り替えられていく。
「ぐっ……」
「ユウ!?」
「ユキ、全員に逃げろと伝えてくれ……!」
「で、でも」
「早くっ!!」
勇介の言葉に小雪が部屋から駆け出す。
「まさか……これが……っ!!」
『コワセ』
次の瞬間、誰も感じたことがないほどの莫大な気がはじけた。
九鬼極東本部。珍しく帰ってきていた帝の傍に立っていたヒュームが帝に一礼をする。
「帝様。申し訳ありませんが、有休をいただきたく」
「今さっきのなんかヤバイ感じのやつか?もしかしなくてもあの鳴神の力が関係してんだろ?いいぜ、いくらでも休み取るといいさ。それと、まだ開園前でよかったなぁ、あの施設。最悪更地にしてもあいつを九鬼に入れられるならおつりがくるだろ。好きにやりな」
あっけらかんと言い放つ帝に再度礼をするヒューム。
「では、帝様。馬鹿弟子を止めて参ります」
そう言って姿を消すヒューム。
「頼むぜ、ヒューム。あいつがいれば九鬼はもっとでかくなる。それに何より面白そうだしな!」
ドーン、と響く爆音。立ち上がる土煙の中から吹き飛ばされるように飛び出してきたのは義経と弁慶。
「くっ……」
「やばいね、こりゃ」
小雪が泣きそうな表情で駆け込んでくるよりも早く、異変を感じ取った二人は準備を終え、勇介の元へと向かっていた。二人の到着した場所にいたのは、勇介であり勇介ではない、異質なものだった。
「これが、勇介くんが抑えていた龍の力……!」
「話には聞いてたけど、いやぁ想像以上だね」
軽口を叩くように言う弁慶の表情には余裕はない。それはそうだろう、今まで抑えていた気や喰らってきた気を放つ今の勇介は百代をも超えるほどの力を放っているのだ。
「弁慶、もう一度合わせてくれ!」
「あいよっ!」
「川神流」
拳を力強く握りしめる勇介に向かって駆け出す義経と弁慶。
「はぁっ!!」
「そぉい!!」
「無双正拳突き」
拳と錫杖、刀がぶつかる。押されているのは義経たちだった。
「義経、姉御!そのままで押し続けろ!」
その声と同時に一本の矢が飛来する。片手で義経たちを、もう片手で邪魔だというように矢を弾き飛ばす。だが、意識が矢を放った与一へと向けられた瞬間の隙をついて義経と弁慶が少しだけ勇介を押し返すことに成功する。
「ちょっと、これは一体どういうことだっ!?」
「ユキに言われてきてみれば……ただ事じゃないようだね」
駆けつけた風間ファミリー女性陣も雰囲気で状況をつかむとすぐさま戦闘態勢に入る。
「義経さん、弁慶さん、援護しますっ!!」
一番目に駆け出したのは由紀江だ。二人の攻撃で少し押し返されていた勇介を吹き飛ばす。だが、すぐさま体制を整えた勇介を追撃する姿勢を整える。
「まゆっちに遅れたけど二番手、川神一子いきますっ!」
その敏捷性を生かして瞬時に勇介へと飛び掛かる一子。
「川神流・
軽快な動きで勇介を翻弄するように飛び回った一子が一点を狙った一撃を繰り出す。その一子に対して勇介が気を放とうとする。
「させない」
針の穴を抜くような一矢が気をためていた腕を弾き、気弾の向きを変える。それによって勇介に直撃した薙刀。すぐさま、勇介の身体を淡い光が包む。
「まさか……瞬間回復!?」
驚きの声を上げたのは遅れて駆け付けた大和だ。
「ちぃ、俺様も手伝いたいが、アレに混ざると無理な気がする」
「クリス!いけるか!?」
大和の声に頷くクリス。
「……勿論だ。ユウの……友であり、自分の兄のような存在であるユウが困っているんだ。自分が……止めるっ!」
裂帛の気迫と共にクリスが一陣の風となり駆ける。
「はああああああっ!!」
迷いのないクリスの一撃に勇介はゆらりと手を翳すとくるりと回転させる。
「鳴神流・流転」
「っ!」
放たれた一撃を全く同じ威力で跳ね返す技。クリスにとっては既知の技であったため、すぐさま受けの体制をとる。
「おいおい、大和!追い込まれてるんじゃないか!?ご機嫌な作戦はないのか!?」
「俺様たちも流石に見てるだけじゃやばいだろ!」
「……姉さんがいてくれれば……」
「大和くん、微力ながら手伝いましょう。準が」
そう言って現れたのは冬馬と小雪だ。小雪が今にも勇介の元へと行こうとしているのを冬馬が抑えているようだ。
「ユキが勇介くんの元へ行こうとして聞かないので私もあまり動けません」
「うー!トーマ、ユウのところに行かせてよ!」
「ダメです。今の勇介くんは危険です」
「そんな危険なところに俺は送るんだよなぁ、若は」
肩をぐるぐると回しながら勇介のほうへと歩いていく準。
「おいおい!井上のやつ大丈夫かよ!?」
ガクトが驚いて言う。
「勿論、風間ファミリーの女性陣には勝てないでしょうが、それでも時間稼ぎくらいはしてくれるでしょう」
「よぉ、勇介。俺はな、お前にならユキを任せてもいいって思ってんだよ。だからな」
ギン、と目つきの変わった準が勇介に接近すると大きくアッパーを放つ。
「芯竜拳!!」
なぜか受けることも避けることもせずに直撃した勇介は大きく上空へと吹き飛ばされる。だが、空中で一瞬とまった勇介が全員に向けて莫大な気を放つ。再び、人工島を巨大な爆発が襲った。
どれだけの時間が経っただろうか。戦うことのできるものは総力を挙げ、九鬼の従者も、風間ファミリーも戦いを続けていた。だがすでに全員が満身創痍といっても過言ではない状態に追い込まれていた。
「はぁ……はぁ……っ!」
「義経、大丈夫?」
「ちっ、さすが兄貴だな」
義経をかばうように立つ弁慶と与一。
「知ってたけど強いね」
「勇介さんの腕前ですと本気を出されては私たちは一瞬でやられてしまっているはずです。あれでもおそらく……勇介さんが抑えてくれているかと」
「ユウも戦っているってことだな。自分もまだまだ頑張れるぞ……!」
「そうね!いつもの鍛錬の成果を見せるときよ!」
全員が武器を杖に立ち上がる。対する勇介の気は衰えるどころか更に勢いを増し、気を扱わないものも身体から立ち上るのが目視できるほどだ。
再び勇介に向けて攻撃を仕掛けようと武器を構えたその時だった。
恐ろしい速度で飛来するジェット機が遠方に見えてきたのだ。
「フハハハハ!恐ろしいまでの気であるな!」
「揚羽さん、結構喜んでません?」
「そういう百代も楽しそうではないか」
笑いながら言葉を交わす百代と揚羽。まだ距離はあるというのに恐ろしいほどの気を感じていた。
「……私に勇介に恩を返すチャンスを与えてくれることを感謝する」
「天衣さんと共闘するのは初めてですね。それに……」
もう一人。百代はこれまでに直接面識のなかった最後の旧四天王。
「レオの友人の為だと来てみれば……まさかこのような面子がそろっているとはな。予想外ではあるが、四天王になるかもしれない後輩の為でもあるからな」
「ご協力、感謝します。鉄さん」
「乙女でいい」
鉄乙女。揚羽と時を同じくして四天王を退いた一人である。
「なんか、こんな豪華メンバーの中に入れられちゃうとスワローちゃんはちょっと肩身が狭いかも……」
「何言ってるんだ、燕。お前も立派な四天王候補だろ?」
「いやぁ、モモちゃん。四天王だとしても新入り候補程度の私にはすこーし荷が重いよ」
「でも、迷わず来るんだな」
「そりゃ、私にとっても勇介くんは大事な人だからね。おかんとおとんをくっつけるお手伝いしてもらわないと」
「燕らしいな」
そんな会話を交わしているうちに目的地上空へと到着する。
「さぁ、勇介。ジジイたちが来るまで存分に楽しませてもらうぞ!」
「来たっ!」
空を見上げてそう言ったのは大和だ。空から飛び降りた百代が拳を構えるのが見える。
「川神流・無双正拳突き!!」
「九鬼決戦奥義・九鬼雷神金剛拳!!」
「鉄流奥義・閻魔地獄!!」
「えぇっ!?なんかみんな必殺技撃ってる!えっと……スワローパンチ!」
「大丈夫だ、私も特にないっ!」
新旧四天王の攻撃を受け止めた勇介だったが、地面に大きく罅が入りダメージを与える。
「よく耐えたな。ここからは私たちに任せて少し休憩してろ」
百代はそう言って勇介に向かっていく。
「どうした、勇介。確かに面白い力だが……普段のお前のほうがもっと面白いぞ!」
激しい百代の攻撃をさばきながら勇介が攻撃を繰り出そうとする。それを防ぐように揚羽と乙女が動き、簡単には反撃に移させない。更には燕と天衣の攻撃も隙を抜くように撃ち込まれ、じわじわと勇介は追い込まれていく。
『があああああっ!!』
獣のような咆哮を上げ、勇介の身体から暴力的な気が吹き荒れる。かなり距離を置いている大和たちの場所まで感じるほどの風圧。
『鳴神流』
「っ!百代、離れろっ!」
揚羽の言葉に反射的に飛びのく百代。
『星喰』
放たれた気の直撃こそ免れた百代だったが、掠めるようなものであっても気が大きく削り取られるのを体感する。
「本当に……面白い力じゃないかっ!」
「待て百代!不用意に飛び出すな!」
「二人とも離れろ!」
飛び掛かろうとする百代と制する揚羽。その二人を押しのけ防御の姿勢を取る乙女。
『鳴神流・龍哮』
放たれた気が乙女を飲み込む。
「くっ……」
大きく吹き飛ばされ、壁に激突する乙女。すぐに立ち上がろうとするが。
「力が……!?」
『ぐおおおおお!!』
響く咆哮は何処か悲しさが混じったものだった。
あと1話はバトルがちょっとだけ続いてその後ちゃんと?ヒロインとの話になっていきます。