真剣で鳴神に恋しなさい!S   作:玄猫

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まだまだ導入部ですね!よく考えてみたら。


3話 九鬼と九鬼従者部隊 前編

 義経たちと別れ、勇介は再度九鬼極東本部へと連れて行かれていた。

 

「勇介、お前には今から俺の主の帝さまと会ってもらう。粗相のないようにな」

 

 九鬼帝。元々大きかった九鬼財閥が、世界最大とまで呼ばれるようになったのはこの男の手腕によるものだ。

 ヒュームが大きな扉をノックする。

 

「誰だ?」

「帝さま。以前にお伝えした者をお連れしました」

「おお、お前のライバルの孫とか言ってたやつか。入っていいぞ」

 

 何処か軽い感じで部屋への入室が許可される。通された部屋は九鬼家当主にふさわしい豪華な部屋だった。

 

「お前が鳴神勇介か」

 

 よう、と手をあげながら笑顔で声をかけてくる。

 

「貴方が九鬼帝さん、ですか」

「そうだ。普通のおっさんだろ?」

 

 普通のおっさんがこんな気を放ってたまるか、と内心で思いながらも勇介は愛想笑いで誤魔化す。

 

「しっかし、あのヒュームが紹介してくるとはな。しかもクラウディオとマープルにも師事してんだろ?面白いな、お前」

「はじめまして、鳴神勇介です。……祖父の跡を継いで何れはヒュームさんと川神鉄心さんを超える予定です」

「おお、ヒュームとあの川神院を超えるってか。いいねいいね、そういう若さ!俺はそういうの好きだぜ」

 

 嬉しそうに勇介に近づいてくると肩をポンポンと叩く。

 

「ヒュームたちの弟子っていうんなら俺からしたら信用に値するってもんだ」

「では帝さま」

「あぁ、住む場所とかないんだろ?好きなだけ泊まっていっていいぞ。どうせ部屋は余ってるんだ。あ、そうなるなら局と子供たちと会わせておいたほうがいいか」

「そう仰ると思いまして、既に手配しております」

「流石はクラウだな」

「簡単なことでございます」

「ちょうど英雄とは同じ年齢みたいだし仲良くできるだろ。んじゃ飯にするか」

 

 

「ってなわけで、一時ここに滞在することになると思うからよろしく頼むぜ」

「帝様は相変わらず突然ですね」

「はっはっはっ!そんな俺だからこそ惚れたんだろ?」

「……何を言わせようとしているんですか」

 

 突然イチャイチャし始める帝とその妻である局に少しだけ驚く勇介。

 

「ははは!相変わらず父上と母上は仲が良いな」

 

 そう言って笑うのは九鬼揚羽。帝の子の一人で、まだまだ若いが九鬼軍需鉄鋼部門の統括をしている才女だ。かつては川神百代などと並び四天王の一人として数えられていたらしい。そして、ヒュームに武を教わった数少ない人の一人でもある。

 

「しかし、ヒュームのライバルであった鳴神天膳殿の孫とは……話には聞いていたがよく気を隠しているようだな?」

「はは、隠す……というのとは別モノだったりするんですけどね。それにしても……ヒュームさんと同じで攻撃的な気ですね?」

「そうか?鍛錬は続けているとはいえ、どうしても腕が落ちている気がしてな。よかったら後で少し相手をしてもらえると嬉しいのだが」

「こちらこそ喜んで」

「ふははははは!姉上とも仲良くなっているようだな!」

 

 九鬼英雄。勇介とは同年代で学生をしながらも何れは九鬼の商業部門全てを統括して動く予定らしい。

 

「まだこれからだよ。それより、英雄は何か好きなこととかあるのか?」

「む、好きなものか?それは勿論九鬼財閥である!ふはははは!」

「ふはははは!兄上は相変わらずですな!」

 

 他の二人とは違い、まだ少し幼さの残る少女……九鬼紋白が笑いながら言う。

 

「紋白にとっては自慢の兄と姉ってところか?」

「うむ!自慢の兄上と姉上であるぞ!」

「ふはははは!我にとっても自慢の妹である!」

「それは我も同じである。ふはははは!」

 

 高笑いが響く。知らないものが見ればとても混沌とした場所であるが勇介は何処吹く風だ。あ、これおいしい、などと余裕の反応である。

 

「で、ヒューム。具体的に勇介をどうしたいか考えてるのか?」

「本人が望むのであれば従者部隊で働くことも可能かと。恐らくは現時点でも一桁は間違いありません」

「ほぉ、ヒュームがそこまで言うか。いつかは零番交代か?」

「ふっ……そう簡単に譲るつもりはありませんがね」

「従者部隊かぁ。面白そうだけど今は有名な武人と戦いたいかな」

「ふむ、そういうことならクラウ。何人か見繕ってやればいい」

「よろしいので?」

「勇介が嫌だってんなら無理にとは言わんがな。多分もらえるものは貰う派だろ」

 

 

「九鬼雷神金剛拳!」

 

 雷を纏った強烈な一撃。ヒュームの蹴りほどの鋭さはないが、匹敵する威力だ。

 

「鳴神流・明鏡(めいきょう)

 

 その一撃を勇介は片手で受け止める。受け止められた揚羽は目を見開き驚く。

 

「ほぅ……ヒュームから話は聞いていたが……想像以上であるな!」

 

 揚羽は笑みを浮かべると激しい拳のラッシュを繰り出す。

 

「ちょっ!?ヒュームさんと同じで加減のない……っ!」

 

 雨のように放たれる無数の拳を全て受け流していく勇介に揚羽の気が更に上昇していく。

 

「攻めてこないのであれば我が終わりまで攻め続けるぞ!?」

「攻めさせる気ないですよね!?」

 

 そんな言葉を勇介は言いながらも合間合間に鋭い一撃を放っている。ただし数は十に対して一といったところだろう。

 

「ふはは!そうはいいながらもいい一撃を当ててくるではないか!」

 

 実は、勇介がほぼ防戦なのには理由がある。揚羽のストレス解消である。とはいえ、武人として手加減をしているわけではないのだが。

 

「ふはは、本当にお前は強いな。我も全盛期に戦いたかったぞ」

「揚羽さんはまだまだ現役ですよ!」

「そういってもらえるのは嬉しいがな。どうしても以前のように鍛錬に時間を取れなくてな」

 

 会話しながらも互いの動きが止まることはない。むしろ先ほどまでよりも揚羽の攻撃が鋭くなっていく。

 

「ヒュームさんから教えを受けてるっていうのがよく分かりますよ。それじゃ、もう少しで時間ですね」

「少しは本気を出してみないのか?」

「ん~」

 

 チラッと視線をヒュームに向ける。軽くひとつ頷くのを見て揚羽に向き直る。

 

「最悪の場合はヒュームさんが止めてくれると思いますけど……耐えてくださいね」

「っ!?」

 

 その言葉と共に揚羽の身体に衝撃が走る。

 

「(一撃でこれほどの体力を削られ……いや、これは気をごっそりと持っていかれたのか!?)」

「かぁっ!!」

 

 先ほどまでとは打って変わって勇介の圧倒的な力に防戦一方になる。

 

「鳴神流龍技(りゅうぎ)

 

 普段の静の気とは違い、今は明らかな暴の気。荒れ狂う竜巻のような気を纏っている勇介の拳に気が集結する。

 

星喰(ほしばみ)!!」

 

 下から抉りあげるように突き出された掌を何とか避けた揚羽だったが、身体に違和感を感じると同時に崩れ落ちる。

 

「ぐっ!?」

「っと、すみません、揚羽さん!」

 

 暴力的なオーラは消え、いつもの静かな雰囲気に戻った勇介が倒れかけた揚羽を抱きとめる。

 

「今のが鳴神の真の技……というやつか?」

「まぁ、近いといえば近いです。詳しいことは秘密ですけど」

「はは、しかし完膚なきまでに負けたわ」

「揚羽さまぁっ!!」

 

 大声で揚羽を呼び、一人の従者がタオルを差し出してくる。

 

「鳴神さんもどうぞ!」

「あ、ありがとうございます。小十郎さん」

 

 揚羽の直属として仕えている従者、武田小十郎。正直なところ、武の才能もなく従者としてのスキルがあるわけでもないらしい。幼い頃から揚羽に仕えているというのは聞いているし、全員の直属は紹介されていたので知っている程度の関係だ。

 

「ふむ……小十郎。勇介に少し師事してみてはどうだ?」

「私が、ですか?」

「勇介が構わんのであれば、だが」

「俺は別に構いませんよ」

「小十郎は頑丈だから思い切りやって構わんぞ」

 

 

「ぐはぁっ!!」

「……」

 

 勇介は少し戸惑っていた。言われたとおり確かにかなり頑丈だ。一般的な人と比べれば強い。だが、それだけだ。小十郎の才能では壁どころかそれが見える位置にもたどり着けないだろう。

 

「ま、まだまだぁっ!!」

 

 この気迫。単純にこのやる気と気迫だけを見れば明らかにもっと強くなっていてもおかしくない。それができる環境にいるのだから。

 

「ふむ」

 

 本当の達人であるマスタークラスに到達するには常人では超えられない壁を突破しなくてはならない。そして、才能がなければそこを抜けることはできない。通常のやり方では。

 

「(でも、小十郎さんにアレを試すのはなぁ……ただアドバイスでもう少しは強くなれる……か?)」

「流石に師匠はお強い!」

「……は?」

「?お強い、と」

「いや、今俺のこと、師匠とか呼んでませんでした?」

「はい!教えを受ける以上師匠であると思ったのですが」

「いやいや、俺より年上ですよね?普通に名前でいいですって」

 

 ……そんな掛け合いがあり、師匠から勇介くんへと呼び方は変わったのだった。

 

 

 勇介は一応、九鬼帝とヒュームの客ということで賓客扱いにされている。そういうこともあって、従者部隊の中から付き人が選ばれていた。

 

「おーい、勇介。もう起きてるか~?」

「ステイシー、勇介は客人であると何度伝えれば理解するんですか」

 

 ヒュームの部下、というよりは拾ってきて従者にしたステイシー・コナー。クラウディオの部下である李 静初(ジンチュー)。共に問題児でもあるが、若手の中では評価の高い二人が勇介についていた。これはヒュームとクラウディオが推薦したようだが。

 

「いや、李さんいいんですって。俺が気軽にしてほしいってお願いしたんですし」

「ははは、ロックなやつは好きだぜ!しっかし、こんな雰囲気でヒュームのじじいの弟子とは思えないぜ」

「そうですか?クラウさまからも師事していると聞いているので逆に違和感はありませんが」

 

 雰囲気としては正反対の二人であるが、とても仲が良い。

 

「それで、今日は何処にいくんだ?」

「そうそう、李さんに聞いてみたくて。このあたりでおいしい中華とか食べられる場所ありません?」




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