文字数は……今くらいで許してください(ぉぃ
七浜にある中華街にある黄楼閣。知る人ぞ知る名店ではるが、その場所はかなり裏手に位置している為なかなか探しても見つからないという。
「うぉ……高そう」
「ハハハ!確かにちょーっといい値段はするけど今日は私たちが出してやるよ」
「勇介のおかげで今日貴方を案内するということで非番になりましたので」
既に私服になったステイシーと李が勇介にそういう。
「とはいえ、俺もちゃんと持ち合わせあるんですけど」
「気にすんなって」
「そうです。お姉さんたちに任せておけばいいんですよ」
なれた感じで店内へと足を踏み入れると、そのまま二階へあがり個室へと入る。
「しかも個室!」
「私と李が来るときは基本いつも個室だよな。李の知り合いの店だから色々と融通が利くんだよ」
「勇介は川神水で構いませんよね?」
「あ、はい。基本何でも食べるのでおススメでお願いします」
次々に出される料理はそのどれもが絶品で勇介の箸が進む。他愛もない雑談や従者になった経緯などを話しながらステイシーと李は酒を、勇介は川神水を飲む。
どれくらい時間が経っただろうか。ステイシーも李も酒が進みいい具合に出来上がってきている。
「しっかし、勇介の強さってどれくらいなんだ?ヒュームの弟子って聞いたけどいまいち見えてこねーんだよなぁ」
「それは私も思いました。気を隠す能力が高いことも強い証明なのでしょうが」
「俺はまだヒュームさんに勝てるほどは強くないですよ。あらゆる状況が整った状態で後のことを考えなくていいのであれば五分まで持ち込める可能性はありますけど」
「いやいやいや!ヒュームの野郎に五分まで持っていけるって自信があるのがまず異常だろ!」
「そうですね。あの方は九鬼最強ですからね」
「いえいえ、こちらは明日以降一切合切を賭けてようやくですからね?」
「普通は可能性すら感じねぇって!」
がばっと勇介の肩を抱くステイシー。
「勇介が従者部隊に入ってヒュームのじじいをぶっとばしてくれればスカッとするのによぉ!」
「はは、無茶振りでしょ。何れは俺が勝ちますけど」
「ハハハ!そのビッグマウスはロックだぜ!」
「そういえば、クラウディオさんも強そうなんだよなぁ。あの人は本当に完璧そうだ」
「そうですね。私の襲撃を抑えたのはクラウ様ですし、従者部隊No3は伊達じゃないということです」
「クラウディオさんは糸使いだっけ?珍しいよなぁ。あまり戦ったことがないから今度手合わせをお願いしてみるかな」
「あまりってまさか戦ったことあんのかよ、糸使いとか!」
「まぁ、数度は。たぶんクラウディオさんほどの腕前はないですけど」
「それはそうでしょう。クラウ様はお強いですから」
「ご馳走様でした、お姉さま方」
「おう!いやー、今日は楽しい酒が飲めたぜ!」
「私も楽しませてもらいました」
三人で少し日の沈み始めた中華街を歩く。並んで歩く美女二人というのはどうしても人の目を惹く。そして人の目を惹くということはある種の人間が集まってくるということだ。
「おう、姉ちゃんたち。暇してるならいい店知ってるぜ?どうだ?」
そう声をかけてきたのはちゃらい感じの男たちだ。五人ほどでその中の一人は格闘技の経験があるのが勇介たちには一目で分かった。そして、明らかに視界に入っているにも関わらず見ぬ振りをしている。
「う~ん……確かにお二人は綺麗だからこういう輩が沸くかもと思ってはいたけど」
「お、私が綺麗だって?ロックな奴だな」
「ふふ、勇介に言われるのであれば嫌ではありませんね」
周囲の男を完全に無視して勇介と話をするステイシーと李に周囲の男たちが少しいらだった様子を見せる。
「おいおい、調子乗ってくれちゃってるんじゃねぇよ?このガキ」
「俺か」
睨まれてもまったく動じない勇介に対して更に怒りのボルテージを上げていく男たち。
「おい、こいつはボクシングで人を壊したことがあるんだぜ?早めに謝っておいたほうがいいと思うぜ?」
身長は190cmくらいだろうか、なかなかの巨体で目の前に立たれるとかなりの威圧感を感じる。だが、それだけだ。対する勇介の身長は170cm程度。相手からすれば簡単に捻りつぶせる、そう考えているだろう。
「ボクシング、か。俺も格闘技してるんだ」
「あぁ!?喧嘩売ってるのか?」
「喧嘩っていうのは喧嘩になり得るからするものなんですよ?俺とじゃ喧嘩にならないでしょ」
「ははは!違いない!」
周囲の男たちが笑う。……だが、一人だけ違う反応をするものがいた。勇介の眼前に立つ、巨体の男である。だらだらと汗をかき、がちがちと歯を鳴らす。身体も震え始めているが周囲の男たちは気付いていない。次にその様子に気付いたのはステイシーと李だ。何が起こっているのかに気付いて苦笑いを浮かべている。
「さ、早く帰りましょうステイシーさん、李さん」
「おい、てめぇ何……」
勇介に手を伸ばしかけた男がびくりと固まる。見てしまった、いや見えてしまったのだ。見えるはずのない気が龍の形で渦巻いているのを。
そして気付いてしまったのだ。自分が喧嘩を売ろうと思っていた相手が自分たちとは次元の違う存在であると。
「さっきのアレはマジで凄かったな、おい」
「さっきの殺気ですか」
「ファック、李それはわざとならひどい出来だぜ?」
「はは、俺は嫌いじゃないですけど」
思いついても口には出さないだろうが、というのはご愛嬌だ。
「あいつらが見た光景がどんなものなのか見てみたいもんだけどな」
「やめておいたほうがいいでしょう。素人であれほどの恐怖を感じるということは……」
「ヒュームさんなら即座に必殺の蹴りが飛んでくるね」
「ふはははは!どうだ、鳴神!九鬼での生活は慣れたか?」
そう声をかけてきたのは紋白である。そばにはヒュームが控えているようだ。
「ゆっくり楽しくさせてもらってるよ、紋白」
「ふはははは!そうかそうか!それならよかったぞ!」
嬉しそうに笑う紋白に勇介も釣られて笑顔になっている。
「勇介の話もじっくりと聞きたい。我の用事が終わった後に少し時間をもらえるか?」
「勿論。修行以外は比較的暇してますので」
「若手の従者たちとも訓練をしていると聞いているぞ。礼を言う」
「いえいえ。俺にとってもいい経験になってますので気にしないでください」
「そうか。ではまた後で誰かに呼びに行かせるぞ」
そんな紋白から再度呼ばれたのは夕方頃。本日の鍛錬や勉強を終わらせた後のようだった。通されたのは紋白たちが休憩するのに利用しているスペースで、一般家庭であればリビングやそういった雰囲気の場所だった。大きめのソファや大型のテレビなどもあり、勇介からすると親しみやすい雰囲気だった。
「さて、わざわざ時間を割いてもらってすまんな」
「気にしなくていいよ。俺も紋白のこと知りたいし」
「おぉ?我のことをか?ふはははは、我の魅力か?」
「ふふ、そうだな。紋白、何か飲むか?」
「む、淹れてくれるのか?誰か従者を呼んでも構わんのだぞ?」
「いいよ、これくらい。友人として話をしたいってことならわざわざそういうことをしなくても」
そういいながらクラウディオ直伝のお茶を淹れる。
「……おお!クラウ爺の淹れるお茶と同じくらいおいしいぞ!」
「そういわれるとは光栄だな。実際クラウディオさんに習ったことだしね」
「ふふ、勇介は良い従者にもなれるな!なることがあれば是非とも我の専属を任せたいものだな!」
「光栄だな。でもそうなると今みたいな感じじゃ話せなくなるな」
「むぅ、それは困るな。今は友人であるから問題はないな!」
「だな」
勇介は紋白の隣に腰をかける。
「で、どういうことが知りたいんだ?」
「うむ、勇介はこれまでどのような生活をしてきたのかなどだな。あのヒュームが認めるほどの腕と、クラウ爺が認める作法、マープルが認める知力を持つなど並大抵のことではないと思ってな」
「これまで、か。ん~、そこまで聞いても楽しくはないと思うけど」
「……そうか、では勇介には親が……」
「あぁ。でも物心ついたときからいなかったから、そこに関しては特になんとも思ってないよ。長い期間じゃなかったけど祖父さんはいたし、それに父のように優しい人と、姉のような人も妹のような子もいたしね」
「であるか。でも、これまでずっと頑張ってきたのだな、偉い偉い」
そう言いながら紋白は勇介の頭を撫でる。一瞬驚いた勇介だったが、おとなしくそれを受け入れる。
「……ふむ、撫でる経験はあったけど撫でられたのはいつ振りだろう」
「嫌だったか?」
「悪くない、かな」
少し照れるけど、といいながら勇介はお返しとばかりに紋白の頭を撫でる。
「おぉ!?な、何で我を撫でるのだ?」
「俺のこと、心配してくれたんだろ?ありがとな」
「うう、我は人の上に立つものだから、このようなことは……」
「さっきの俺と同じだよ。頑張ったり、いい子は撫でて問題ないだろ?」
「うう……」
「それに俺たちは友達だろ?対等なんだから、誰もいないところでなら問題ないよな?」
「そう、か?」
「そうだ。天下の九鬼に特別なところのない俺が対等っていうのもおかしいかもしれないけどな」
「お前も十分特別だとは思うが……そうだな、少しだけ甘えるとしよう」
一度立ち上がった紋白が勇介の膝へとダイブする。
「おお、思い切りがいいな」
「ふはは!一度決めたからにはな!」
なにやら楽しそうに足をぶらぶらさせる紋白に微笑む勇介。
「困ったことがあったら俺に相談してくれていいからな?まぁ、ヒュームさんを倒せ!とかじゃなければ出来る限り受けるから」
「ふふ、何かあれば頼らせてもらうぞ?とはいえ、何れはヒュームを超えるのだろう?それも楽しみであるなー!」
まったりとした紋白との時間は過ぎていく……。
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