「おい、勇介。鉄心はお前に気づいていたか?」
翌日、鍛錬所で汗を流しながら試験結果を待っていた勇介にヒュームが声をかけてくる。
「ヒュームさん。どうだろ、特に何かを聞かれたりはしなかったけど。気も抑えてたしばれてないかも?」
「ふん、気づかんとはあいつも耄碌したか」
不機嫌そうにそう呟くヒュームに苦笑いの勇介。
「だが、お前が本気で気を隠していたのなら確かに天膳の血族には思えんな」
「まぁ、これが俺の……鳴神流の強さでもありますしね」
「……それで、俺の技は『盗めた』か?」
ニヤリと挑発するように笑うヒューム。
「一応は。ただ、流石にヒュームさんと全く同じにはならないですね」
「当たり前だ。俺がどれだけの間、この技を磨いてきたと思っている」
「分かってますって。……それで、ヒュームさん」
「何だ」
「今、俺たちの世代で最強と言われている武神・川神百代について教えてください」
「……ほぅ?まさかと思うが川神百代に挑むつもりか?」
「まぁ、すぐにというつもりはないですけどね。ただ、ヒュームさんも鉄心さんも倒すつもりなんですから、きっと戦うことになりますよね」
「ハハハ!流石は天膳の孫ということか。だが、川神百代はマシな赤子だ。今のお前では難しいかも知れんぞ」
「それほどか……」
「あぁ。最近会得したという瞬間回復を攻略しなければまず倒すことは不可能だろう」
「瞬間回復、ね」
そう呟いて何かを考える勇介。
「……対策を思いついたか?」
「まぁ、可能性だけは。ひとつ質問いいです?」
「何だ」
「ヒュームさんなら勝てますよね?」
「当たり前だ。まだまだ赤子どもには負けんよ。お前も含めてな」
「ははは、ありがとうございます。ただ瞬間回復を使える、ですか。アレって実践向きじゃないんですけどね」
「おい、お前まさか」
「出来ますよ。ただ、戦闘中に使うとかは無理です。そんなことが出来れば自爆技とかも使いたい放題じゃないですか」
「ん~?」
「どうしたの、姉さん」
武神・川神百代は何かに違和感を感じたように空を見上げる。そんな彼女に声をかけたのは昨日勇介と知り合った直江大和だ。
「いや、誰かが私の噂をしているような気がしてな。どうだ弟、美人の姉を持って幸せだろ~?」
「はいはい、姉さんは美人ですよー」
「何だ弟。そんな空返事でいいと思ってるのかー?生意気だぞー」
「姉さん重い!」
「誰が重いだ、誰がー」
百代に背中に抱きつかれて重そうに引きずる大和。
「くっそー。う・ら・や・ま・し・い・ぞ!」
力強く叫ぶのはガクトだ。なぜか涙を流してる。
「ガクト、いつものことじゃない」
モロがそう言う。
「羨ましいもんは羨ましいんだよ!だって見てみろよモロ。あのモモ先輩の身体がぴったりとくっついてるんだぜ!?」
「わ、分かったから揺さぶるのやめてよ!」
「……しょーもない」
「どうしたんだ、京。いつもみたいに大和にくっつかないのか?」
「クリス、別に私はいつも大和にくっついてるわけじゃないよ?」
「そうなのか?」
「うん。効果的なタイミングでくっつくの。それは今じゃない」
「???よくわからん」
『まぁ、クリ吉。京姉さんの考えはオラたちにはわかんないから諦めな』
首を傾げるクリスに松風が言う。
「ねーねー、そういえば、かなり前に謎の巨大な気を感じたーって話覚えてる?」
一子が皆に話を振る。
「あぁ、あのときの奴か。でも、すぐに掻き消えたんだよな。そういえばなんだったんだろうな、アレ」
「もしかして、お姉さまと戦いにきたけど誰かに負けちゃったとか?」
「ん~、どうかな。あれだけの気ならうちのジジイレベルじゃないと止められないと思う」
「フハハハ!我、降臨である」
「揚羽さん」
「元気にしておるようだな。ちょうど今しがた鉄心どのから連絡があってな。我直々に合格を伝えに来たのだ」
「合格ですか、よかったです!推薦してくれた九鬼の皆さんに恥をかかせなくてすみました」
「お前であれば余裕であったろう?マープルも余裕だといっておったぞ」
「マープルさんから見たらそうでしょうね」
「あのマープルがここまで評価しているのはお前と桐山くらいのものだ。誇っていいと思うぞ」
笑いながら揚羽は言う。
「ま、そういうことだ。お前の合否については紋も気にしていたからな。我から後で伝えておこう」
「ありがとうございます」
「気にするな。我もお前には興味が沸いてきているからな」
「……え?」
「フハハハハ!また暇があれば我とも遊んでくれよ?」
「ええ、いつでもかまいませんよ」
「約束だぞ?ではな、学園でも楽しくやるのだぞ」
多馬大橋。地元の住人からは変態橋と呼ばれるこの場所を一人の女学生が渡っていた。小笠原千花、直江大和のクラスメイトである。ポチポチと携帯を触りながら歩いていると、目の前を塞ぐように人影が飛び出してくる。
「へへへ……姉ちゃん……スケベしようやぁ……」
舌なめずりをしながら怪しいコートを着た男が千花へと接近していく。あからさまに嫌そうな表情を浮かべる千花。
「うわ……もぅ、これだから変態橋は嫌なのよ……!」
愚痴をこぼしながらもどう逃げるか考える。千花は別に武の心得や護身の心得があるわけではない。だが、そんなことは変質者には何の関係もない。それどころか嬉々として襲ってくるだろう。一瞬の隙をついて変質者は千花の腕をつかむ。
「ちょ、離してよ!」
「へへへ、いいじゃねぇか、ちょっとくらい……」
「ちょっと失礼」
すっと千花の横から伸びてきた腕が男の手を軽くはずす。
「なっ!?」
「嫌がっている女の子に何やっている、おじさん」
「き、き、き、貴様には関係ないだろう!?」
「関係はないけど、そういうの目障りなんだ」
千花を庇うように前に進み出たのは勇介だ。
「邪魔をするっていうなら!」
変質者はポケットからナイフを取り出す。
「向けたな?」
「あ?」
「こういう普通の場で突然武器を出すっていうのは相手に対して殺意を見せるのと同義だ。つまり」
ぞっとするほどの殺気。周囲の温度が数度下がって感じるほどのそれを受けた男はガタガタと震えだす。
「俺と本気で殺し合う気があるって判断するぞ?」
「ひ、ひぃ!?」
さっきまでとは一転、全速力で逃げ出す変質者にため息をつく勇介。
「ま、後は李さんあたりがうまくやってくれるかな」
誰にでもなく呟くと、助けた千花へと向き直る。
「大丈夫だったか?」
「……」
ぽーっと勇介を見ていた千花はその言葉に何も返さない。
「……おーい、大丈夫か?」
顔を覗き込む勇介。一気に距離が近づいたことで千花もはっと気づくと同時に頬を染める。
「だ、大丈夫ですっ!」
叫ぶようにそういった千花はそわそわと髪を撫で始める。
「そうか?それならいいけど。怪我とかしてないか?結構強く腕つかまれてたみたいだけど」
「は、はい!ちょっと痛かったけど、怪我ほどじゃ……」
「良かったよ。ちょうど通りかかって」
少しだけ微笑んだ勇介に染まっていた頬は更に赤みを増す。
「ん、本当に大丈夫?真っ赤だけど」
「ひゃい!?」
声が裏返った千花。
「あ、あの!」
「ん?」
「時間があればよかったらお礼にお茶でも……」
「いや、別にお礼欲しさに助けたわけじゃないから気にしないでいい……」
「いえっ!是非お礼させてください!あ、和菓子とか好きですか?ウチ和菓子屋やってて……」
「和菓子、か……」
和菓子という言葉に反応した勇介に脈ありと感じた千花は全力で誘う。
「うまい!」
そして勇介は結果、和菓子に釣られて千花の実家である和菓子屋に来ていた。そこでは店の前で飲食も出来るスペースが設けられていた。
「ふふ、よかったです」
そう言ったのは先ほどまでの学園制服ではなく、店の制服に着替えた千花だ。
「この
「ありがとうございます!ウチの名物で本当におすすめなんですよ!」
店の商品である久寿餅が褒められたことで嬉しそうな千花。満面の笑みを浮かべているのを、通行中の男子生徒がぽーっと眺めて通り過ぎたりしている。
「でも、本当にご馳走になっていいのか?」
「はい!というより、手伝いをしながらですみません……」
「いいって。こんなにおいしいもの食べさせてもらってるんだから」
「あれ、チカリンじゃん。既に手伝いしてる系?」
声をかけてきたのは
「……」
「ん?」
「ヤバッ!」
「イケメンみっけっ!ポッコ……」
「羽黒だめ!!」
勇介と羽黒の間に入り込む千花。勇介に対して何かをしようとしていた羽黒が動きを止める。
「あれ、もしかしてチカリンのアレ系?」
「ち、違うけど……違うけどダメなの!」
「そういうことなら仕方ない系。他のイケメンでも食ってくる系……おい、そこのイケメン!」
「……」
「アンタだよアンタ!」
「俺?」
「チカリン泣かせたら許さない系でジャーマンすっからな!覚悟しとけ!」
「?よく分からんが分かった」
好き勝手言ってそのまま羽黒はどこかへと立ち去る。
「あ、あの、すみません」
「友達か?」
「はい、一応クラスメイトで」
「いい子じゃないか。内容はよく分からなかったけど君のことをかなり心配してたみたいだし」
「そんな……」
比較的偏見の目で見られやすい千花や羽黒(羽黒の場合は偏見だけではなかったりするのだが)に対しても全くそう言った感じを見せない勇介に千花の好感度は上がっていく。……本人は全くそんなつもりも気もないのだが。
「さて、ご馳走様。おいしかったよ」
「あれ、小笠原さんと……鳴神?」
「ん、おお、直江じゃないか。奇遇だな」
「え!?なおっち知り合い!?」
「うん、この前学園でね。ここにいるってことはもしかして?」
「あぁ、無事合格したよ。直江が案内してくれたおかげだな」
「はは、大げさな。俺が居なかったら別の誰かが案内しただけだよ」
「とはいえ、実際に案内してくれたのはお前だからな。そうそう、ここの久寿餅うまいぞ!」
「知ってるよ。俺地元だし」
「そりゃそうか」
突然雑談に花を咲かせた大和と勇介に驚く千花。
「……」
そんな様子をじーっと見つめてる少女がもう一人いた。椎名京である。
「ん?そっちはデート中?」
「!!」
「違う違う。えっと……」
基本、ファミリー以外とは会話をしない京をどう紹介したものか、と考えてた大和だったが。
「直江京。妻です」
「おお、彼女どころか妻だったか。最近は進んでるんだな」
「違うって!椎名京!直江じゃない!」
あわてて否定する大和に笑う勇介。
「でも、そうなるのも遠くない未来……クククッ」
「椎名京、ね。……椎名?……ん~」
何か引っかかった勇介だったが、思い出せなかったようでスルーする。
「俺は鳴神勇介だ。よろしく頼むよ椎名」
「……ども」
無愛想な感じの挨拶に大和はチラッと勇介を見るが、特に気分を害した様子もなくて安心する。
「こら京。ちゃんと挨拶しないとダメだろ」
「大和が付き合ってくれるなら考える」
「お友達で。しかも考えただけで何もやらないつもりだろ」
「バレてた」
「ははは、仲がいいんだな。……って、そうだった。えーっと」
勇介が千花へと視線を戻す。
「あ、私、小笠原千花っていいます!」
「自己紹介してなかったけど、俺は鳴神勇介。もうすぐ川神学園に入ることが決まったからよろしく頼むよ」
椎名という名前に引っかかったのは、椎名菌という響きが薄らと記憶に残っていたからです。
ただし、勇介は現状で気づけません、豊満ボディに成長しましたからね(ぉぃ
ヒロイン希望ですが、一通り現時点での分は確認して一人ひとり流れを作ってます。
本編的な流れのヒロインと、ゲームのルート分岐のようなヒロインを作っていく予定ですのでヒロイン希望以外にも案などあれば受け付けます!
感想、評価等お待ちしております!