だから、ただの念能力者だって! 作:ぽっぽぽるる
陰獣。
そう呼ばれている彼らは、それはそれは相当な手練であり、並の念能力者じゃ絶対に勝てないと言われている存在だ。
そんな彼らの内の四人が、今僕の目の前で蹂躙されている。
病犬さん。蛭さん。蚯蚓さん。豪猪さん。
名前しか知らない程度の関係だが、やはり目の前で無残に殺されていかれるのを見るのは辛い。
「陰獣って言っても大したことねえなぁ」
目の前にいる何処かで聞いたことがあるような渋い声でそんなことを言ってのける巨漢。
その光景を見て、思わず恐怖で笑ってしまう。
こんなやつと闘えってのか。死にに行けって言ってるようなものだろう…!
「あん?まだ残ってたのかぁ?」
巨漢は笑い声に反応し、ニヤリと笑いながらこちらの方を向いてきた。
瞬間、尋常じゃないほどの威圧感が身を凍らかせた。圧倒的な存在。どう足掻いても勝てない。正に蛇に睨まれた蛙のような気分だった。
「どうしたぁ?かかってこいよ」
挑発するように言葉を続ける巨漢。
そんなことを言われても、こちらとしては巻き込まれてここにいるだけ、自ら死にに行くなんて出来るわけが無かった。
「だったらこっちから行くぞォ!」
こっちに来れるはずがない。病犬さんの毒で、まだ身体は動かないはずだ。そう思っていた。
だが、そんな期待はいとも容易く破られる。
猛スピードでこちらに向かってくる巨大な壁が見えた。
あ、これ死———
グチャりと何かが潰れる音がした。
****
誰がどう見ても一方的だった。巨体の男、ウヴォーギンは陰獣たちを文字通り蹂躙していき、あっという間にその場にいた陰獣たちを全員殺してみせた。
ウヴォーギンは思う。つまらない。ウヴォーギンの思っていた以上に陰獣たちは弱かった。あまりの手応えの無さに、ウヴォーギンはがっかりしていた。
これで終わりか。そう思い、後ろで待機している仲間たちの方へ顔を向けると、仲間たちのいる方じゃない方向から気味の悪い笑い声が聞こえた。
くつくつと笑う、その気色の悪い声。
思わずウヴォーギンはそちらの方を見てしまう。
そこにいたのは、フードを深く被った青年だった。ローブのように分厚い服を来て、上から下まで全身黒色の青年。
ウヴォーギンは彼を見て、思わず口を歪めてしまう。こいつは強い。こいつと闘いたい。
ウヴォーギンは青年を挑発する。けれど青年は薄気味悪く笑うだけ。
ウヴォーギンは自らの身体の状態を確認する。今ならある程度は動ける。
「だったらこっちから行くぞォ!」
もう我慢出来ない。早く、早くお前と闘わせろ。そんな思いを込めたウヴォーギンの右ストレートは青年の顔をグチャりと破壊した。
「……は?」
ウヴォーギンは困惑した。
先程の陰獣たちよりもっとあっけなかった。さっきまで自分が感じていたあの強さは何だったのだろうか。
「キヒ」
誰かが笑った。
ウヴォーギンは周りを見渡す。
けれど、周りにいるのは先程の青年だけ。
「キヒ」
また誰かが笑った。
確かに青年の方から聞こえてきた。ウヴォーギンは先程まで感じていた強さを、また感じ始めていた。
「キヒ」
青年は笑う。
笑いながら、その場に立ち上がる。
「お返しだ」
ウヴォーギンは悪寒を感じた。ピリピリと肌を焦がすように感じるプレッシャーと共に。
そしてその直後、
———ウヴォーギンの顔を、真っ黒で巨大な腕が打ち抜いた。
****
気づいたら顔が血だらけで、さっきの巨漢が倒れてました。
しかもよく見ると巨漢の顔も僕と同じように血だらけになっている。更にはぐちゃぐちゃにも。え…僕もこんな感じでぐちゃぐちゃになってるの?
うおおお……
顔を押さえながらその場に蹲っていると、数人の男女が僕の近くで、僕のことを凝視していた。えぇ…なんすか。
「君、何者?」
金髪の青年が口を開く。
いや、何者って言われても…念能力者ですけど…
なんて答えようか頭を悩ませていると、金髪の青年はこちらを凝視するのをやめ、ため息をついた。
「はぁ…答える気はない、か」
違うんです!なんて答えようか悩んでただけなんです!
「帰るよみんな」
金髪の青年は未だに僕を見ている数人の男女たちと倒れている巨漢を連れて、何処かへ去っていく。
何だったの、あの人たち。何かすごい僕の方見てたけど。
まあ、生きてるし何でもいいや。
さあて、家に帰ってお風呂入って寝よー。
その時の僕は巨漢を倒したということの重大さを気づいてなかった。
そこから徐々に、僕の運命は狂っていく。
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