駅から電車に乗り主要駅で一度乗り換えて数駅に目的の海水浴までやってきた一行は、着くなり一番に着替えた・・・。のではなく服の中にすでに赤いビキニの水着を着ていた夏海と、椰子の木が描かれた海パンをズボンの下に履いていたぼくが海にダイブする。
「うっひょー、冷たくて気持ちいいな!ボク君!!」クロールで軽く流す夏海に平泳ぎするぼく。沖にゆっくり進むと波が顔を直撃する。
「しょっぱ!海の水は塩っ辛いけど、よく浮くね!」
「はっはっは!ではボク君、早速潜水勝負いってみるか!!」夏海はその場に止まり勝負をふっかける。
「ジェットサイダーの王冠あれから16個も見つけたよ、もう夏海お姉ちゃんに負けないくらい沈んでられるよ。」ぼくは気合いを入れる。
「・・・あ、うん。そうなってるといいな・・・。」
(ボク君信じているんだー、ジェットサイダーの王冠を集めると泳ぎが上手くなる話・・・。)
「うん!じゃあ行くよ!夏海お姉ちゃん!!」二人のテンションはマックスであった。
「あーあー、準備体操もしてないのに・・・。って、まああの二人は一番必要ないかもしれないけどね。」一穂はパラソルを設置すると、みんなの荷物を運び込んでクーラーボックスからジュースを取り出す。
「そうだよ、あの二人ずっと走り回ってたから。」一穂の手伝いをしながら一緒に座る。
「あれ?泳がないのー?」
「水着・・・、忘れました。」
「・・・・・・・・・。」
「じゃあ、ぼくが買ってあげるよ!」ひょっこりでてきたぼく君に驚く。
「な、いきなり・・・。何!」小鞠は驚いて慄く、するとぼくは小鞠に耳打ちする。
(お母さんが、水着買ってくれなかったんでしょ?だからはいっ!)
ぼくは自分の財布を小鞠の手に渡すと、クーラーボックスから炭酸飲料を片手に一気に飲む。
「あーあ、ボク君にまけたー。まさか本当にジェットサイダーの王冠には効力あるのかなー。」同じくクーラーボックスからキュウリを取り出すとかじり出した。
「い、い、い、一万円!!」小鞠は驚く、ぼくのキャラクター入りのビニール財布にそぐわない一万円札が入っていた。
「えらいお大尽だな、ボク君のあの姿は世を忍ぶ姿でIT企業の社長か!」夏海は齧りながら小鞠を焚きつける。
「お待たせしましたー、みんなの水着着替え手伝いましたら遅くなりました。」水色のビキニにパラオ姿の蛍に、ピンクワンピースにリボンがついたれんげ、同じく白いワンピースにピンクのフリルがついたほのかちゃんが現れる。小学生とは思えぬ着こなしの蛍にぼくの財布の話題は吹き飛んだ。
「うわあああーん!!」小鞠は財布を握りしめて走り去って行く・・・、ぼくはそれを追いかけた。
「小鞠先輩、どうされたのですか?」
「自分の胸に聞いてみなよ・・・、君は本当に小学生ですか?」一穂はさすがに驚いて聞き返した。
「ほたるん、ボク君の財布の中に一万円が入っていたんだけど、何者?」夏海の言葉に素直に答えようとしたが、ぼく君に口止めされていたのでぐっと堪えた。
「えっ、と・・・。お父さんとお母さんのお手伝いをするたびにお小遣いをもらっていたから、それが溜まったのかな?」
「こっちきてまだ4日だよ!1日で2000円稼いだことになるよ!」
「・・・先輩、2500円です。」
「・・・数学の宿題ふやそうかー?」蛍と一穂の返答に夏海は頭を掻きむしる。
「だー!!ウチがいいたいのはそこじゃない!どさくさに紛れて宿題増やさない!!ボク君の財布の問題だー!!」
「あー・・・。ボク君、私の家のエアコン直してくれておばあちゃんがお小遣いあげてたよ。」ほのかちゃんの一言で蛍の口封じは早くも瓦解した。
「なぬ!?ボク君エアコン直したの!」
「う、うん・・・。いろんなもの直せるみたいで、走り回ってるボク君を発見したら家に呼ぶことが静かなブームになってるよ。」
「あんびりばぼー、ふぁんたじっくボーイ!!」
「なっつん、ボク君はそんなにすごいんな?」
「れんちょん、ボク君は壊れた電化製品を直したんだよ!普通は業者さんに高い修理費を払ってお願いしないと直してくれないんだよ!」
「ボク君、500円もらって喜んで直していたよ。」ほのかの言葉に夏海は再び驚く。
「ノー!なんてデフレを!!出張修理なんて最低一万円はするのに!!・・・これからは夏海ちゃんを通すように!」
「こりゃあ、頼まなくなるわー。」一穂はキュウリをかじって締まるのである。
「ふっふっふっー!ボク君はすごいんな!ウチはそんなボク君のお嫁さんになれるんだから将来はあんたいなんな!!」
「えー!!」一堂は驚いた。
「こりゃ、驚いた・・・。れんちょんがすでに手をつけていたとは・・・。」
「えー!どうしてれんちゃん!!なんでお嫁さんに?」蛍は混乱して聞いてみる。
「駄菓子屋でボク君と一緒にお風呂に入った時、大事な所を触ったみたいなんな、駄菓子屋に言うには他人が触ってはいけない所だったみたいだから他人でなくなればいいかと思いまして・・・。」
「こりゃあ、ぶったまげたわー。れんちゃん、ボク君と一緒に東京にいくのかい?」
「かずねえー!そこじゃない!!れんちゃんがボク君と一緒にお風呂に入った事!」
「れんちゃんから入ったからしょうがないよー。」
「なんてオープンな・・・。しかし、ボク君帰ってきたら悪事がバレてタジタジでしょうな。」うんうん、一堂は頷いて彼の帰りを待つのである。
「小鞠お姉ちゃん、まだー?」ボクは勢いで小鞠の水着を買うのに同行する事となった。
「まってー!今着替えているから!!」ぼくはひたすら待っていた。小鞠お姉ちゃんが出てくるのを・・・、退屈だなあ。
それからさらに十分程経過し、僕は泣き言を言ってしまう。
「小鞠おねえちゃーん。」ぼくは言うと・・・。
「ぼくくーん。」
「・・・ん、なに・・・?」振り返ると三人の男性がぼくに声をかける。
「どうしたのかな?」
「お母さんとお父さんはどうしたのかな?」
「お名前わかる?」
「・・・えっ?」
「お待たせー♪ボク君は遅くなってごめんねー、・・・って、あれ?」オレンジのワンピースの水着が気に入った小鞠はポーズをとって出てくるが、見せたい相手が居なくなって呆然とする。
「どこ言ったのかな?・・・とりあえず戻ってみよう。」
・・・ ・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・・
「ボク君がいない!!」小鞠は戻った時騒然とする。
その間に夏海とれんげは卓の顔面を砂で覆い、シュノーケルで息をしているのみ・・・、どう見ても不審者に見える。
蛍とほのかは砂崩しをして遊んでいた。
てっきりボク君は退屈になって戻ってきていると思っていた小鞠は一気に血の気が失せた・・・。
「だ、大丈夫だよ。ボク君はしっかりしてる都会っ子だから・・・、そうだ!キッズ携帯持っていたから・・・。」蛍はおろおろしながら提案するも・・・。
「これのことかいー。」一穂はぼくの荷物の一つから拾い上げる・・・。
「ボク君ー!!」蛍はもう涙目になって叫ぶ。
「みんなー。冷静に・・・、ボク君は私の生徒ではないから、責任は私だけにあるわけではなくて・・・。たからね、監督責任は・・・。」一堂は絶望する、なぜこの人を保護者として引率したのだろうか・・・。
一斉に各自走り出す、消えたぼく君の行方は一体・・・。