ぼくのなつやすみ 〜のんのんと一緒〜   作:Edward

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8月6日の夜

夕食を済ませ、部屋に戻ってきたぼくの手には大きなダンボールの箱一つ、にやりと笑っていた。

 

「ようやく届いたなー・・・、よし!これで」部屋の片隅にあるシーツに包まれた物体に手をかけてバサァ!とお披露目する、まるでアニメに出てくるマッドサイエンティストが好みそうな演出である・・・。

 

楓からこの夏拝借していた釣竿である。しかしそのフォームはすでになく、ロッドは素材から変更されており軽くて折れない物に強化されていた。この夏休みで手に入れた資金を元にネットで資材を購入していた、もはや楓の釣竿は原型をとどめていなかった・・・。

 

「うん!これなら陸に引きずり出せるよ!」箱から勢いよく取り出すのは動力モーターと制御インバータ、早速それらのケーブル組み込みを始めた。取り扱い説明を見ながら電動ドライバーを駆使して接続を始める。

 

「えーと、R.Sに挿して、VCC?なんだこりゃ・・・。」ガチャガチャとマニュアルを片手に作業している時、蛍がノックして入ってきた。

 

「ボクくん、お風呂空いたよー。って!なにこれー!!」タオルで頭を拭きながらその光景に驚く。

 

「あっ、蛍お姉ちゃん!そこ踏まないで。」

 

「うん・・・、ボクくんこれなんなの?」そーっと、床にあるコントローラーを避けると覗き込んだ。

 

「どうしてもこの間逃げられたあの主を釣りたいんだけど、ボクと蛍お姉ちゃんの力を合わせても釣り上げなれないからアシスト君を作ってるんだ。」ボクは圧着端子でケーブルの先端処理をすると作成してスイスイと接続していく・・・。その度にガチャ!ガチャ!と音が響き、電動ドライバーで締めていった。

 

「へえー。って、普通に言ってるけどすごいことしてない!」

 

「単純だよ。このモーターで釣り糸を引っ張らせるんだけど、モーターに繋げるだけだったら一定のトルクで引っ張るだけになるから釣竿が折れちゃうか釣り糸が切れちゃう。でも制御インバータを使えば、高効率でかつトルク制御のプログラムをインプットしておけば、負荷に応じてトルクを調整できるんだ。」

 

「やっぱり私にはちんぷんかんぷんだよ、でもボクくん?これって電気がいるよね、どうするの?」

 

「そこは大丈夫!助っ人をお願いしてるから。」にやりと笑うぼくくんに戦慄すら覚える蛍、目的の為なら手段を選ばない彼に将来を不安視していた。

 

「よく、こんな部材買ってきたね。お金大丈夫?」

 

「新品じゃないよ。このモーターは粗大ゴミであった洗濯機をバラして取り出したモーターで、このインバータは工業用機械の解体で出てきたジャンク品なんだ。価値もわからないのに売り出してる人がいたから丸め込んで2000円で売ってもらったんだ、新品なら3万はするけどね。」

 

「ボクくん、なんか悪いことしてない?」

 

「あんなの売ってても普通の人には買い手がつかないよ。東京の秋葉原とか大阪の日本橋ならともかく、一般人が見ても何に使うかすら知らないだろうからね。」一通りの接続が完了し、端子の見えているところを絶縁テープと結束バンドで固定してヒゲをニッパーで丁寧に落とす。ケーブルはひとまとめにされると蛇腹ホースで保護して完成のようだった。アース落ちのチェックをマルチメーターで確認してコンセントに接続すると、制御インバータにLEDが表示された。

 

「さーて、と。」彼は小さなマニュアルを読みながら制御インバータになにやら数値を入力していった。

 

「まだ、完成じゃないの?」

 

「うん。このプログラム部分にどれくらいのトルクで動かしたりとか、負荷のかかり具合でどうするかを入れていくんだ。」ページをめくりながら必要項目によくわからないデータを淡々と入力するボクくんを相変わらず目を白黒させていた。

 

「あっ、お姉ちゃん。その竿の先についてるボールを引っ張ってみて。」指を指す方に釣り針に付けられたテニスボールを引っ張ると、竿の根元の釣り糸が伸ばされ出す。

すぐに制御インバータが検知すると、モーターがすぐ様動き出して収納ドラムが回転されて引かれた糸を引っ張り出す。

 

「えっ!」すぐ様引っ張った力と拮抗する形になり蛍は驚いた。

 

「お姉ちゃん、もっと強く!全力でもいいよ。」

 

「えっ?じゃあ、えい!!」蛍は精一杯の力で引くと再び制御インバータが検知してトルクを上げだした、途端にまた拮抗する。

 

「えっ!すごい、・・・負けちゃいそう。」蛍は体格からか、女の子にしては力は強かった。それでもすぐ様そのトルクに追従する制御インバータに拮抗される、そしてそこから徐々にトルクを上げられていきとうとう体を持っていかれだした。

 

「やった!完成だ!!」ぼくは機械を止めて、その手応えに満足する。

 

「そっか、釣り糸がきれないように相手の力に合わせてモーターの回る力が変わるんだね。」ようやく蛍は理解して、ボクくんの発明品にすごさを感じた。

 

「うん!電動リールを買えばいいんだけど高いからね。それに自分で作った道具ならズル、じゃないかと思って・・・。」

 

「うーん、ギリギリセーフかな?」蛍は首を傾げながら答える。

 

「よし、このアシスト君を使って釣り上げるぞー!」

「お、おー!」ぼくくんの号令に蛍は同意して同じ所作を取る、一抹の不安をぬぐいきれない蛍を余所に着々と準備をするのであった。

 

「蛍お姉ちゃんも見にくる?明日ラジオ体操が終わったらそのままあの池に行く予定なんだ。」

 

「そうなんだー。行く行く!この機械であの大きな魚を釣りあげるところを見て見たいよ。」蛍はぱあっと明るい表情で頷いた。

 

「ありがとう、お姉ちゃん。モーターとか重いから人手が必要だったんだ。とりあえずこれ用の台車も作ったから移動は大丈夫なんだけど、一人ではちょっときつかったんだ。」側には木板にストッパー付きキャスターがあり、モーターを取り付けるようにナットと手回しビスがある。さらに木箱ですっぽり覆えるようになっており、駆動中に手が入らない安全性の確保がしてあった。木箱の上にインバータをのせて設定変更はその場で出来るように配慮、本格仕様であった。

 

「出来上がりをみると凄いね・・・、ボクくんは将来こういう仕事がしたいの?」

 

「ん〜?わかんない。とりあえず、興味がある事を手当たり次第にしていたら何か見つかるかな?」

 

「・・・手当たり次第やりすぎだよ。」

 

「そうかなー。まあいいじゃない、とりあえず今はあのでっかいあのお魚を釣り上げるアシストくんがどこまで頑張ってくれるか見ものだよ。」

 

「これなら絶対大丈夫だよ。」蛍の大喜びにぼくは首を振った。

 

「絶対なんてないよ。最善策をとっても初めからうまくいく確率は10パーセントを切る、って博士が言っていた。

予想外なんて当然、だから実験は面白い・・・。」ぼくは自分にも言い聞かせるように呟くのであった。


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