ぼくのなつやすみ 〜のんのんと一緒〜   作:Edward

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8月3日の午前

「あーあ・・・、惜しかったなあー。」坊主で引き上げるぼくと蛍はさっきの手応えを感じながらとぼとぼと次の行き先へと向かう・・・。

 

「でもあれ以上は無理だよ・・・、池に引きずり込まれたか竿を持って行かれたかもしれないよ。」

 

「あれを釣るには工夫がいりそうだね、なんか考えてみるよ!・・・それよりも蛍お姉ちゃん力強いね。」

 

「え・・・、そうかな?」蛍は首を傾げて答える。

 

「だって、あの魚にボクが持って行かれかけたのに蛍お姉ちゃんが参加したら少しだけの間だけど互角だったよ。」ぼくの言葉に蛍は手を振って否定する。

 

「きっと咄嗟の力だからだよ、私そんなに強くないから。」

 

「そうかなー、まあいっか!蛍お姉ちゃん、れんげちゃんのお家はこっちなの?」

 

「うん!もう見えてきたよ。」指さしている大きな民家、おそらく農家なんだろう、納屋には農具があって印象的な古民家であった。

 

「ほたるんー!ボク君ー!こっちなんなー。」庭の方から呼ぶ声に、玄関口に荷物を置いて庭に回る。

 

「れんちゃんおはよう、ってこの子は誰?」蛍は挨拶するなりれんげのとなりには同い年くらいの女の子が立っていた。手にはカメラを持ち、控えめな女の子・・・。

 

「さっき知り合ったのん、ほのかちん!」

 

「いしかわほのかです、おはようございます。」丁寧に頭を下げる彼女に、二人は名乗って挨拶を返した。

 

「へえー。夏休みでお父さんの実家に?ボクと似た感じだね、ボクも東京から来たんだ。」

 

「ボクさんも?近かったら何処かで会えますね。」二人の東京会話が面白くないれんげは話に割り込む。

 

「ボク君はもっと遠慮するなん!せっかく同い年の友達ができた所なのに野暮はなしなん!」何故か片手に野菜の入ったバケツ、そしてもう片方の手には大根を振り回してぼくを威嚇する。

 

「あぶないよ、れんげちゃん!それよりその野菜は何?」れんげの手を掴んで大根直撃を防いで質問すると、れんげは大人しくなりくるりと背を向ける。

 

「そうだったのん、ほのかちんに具を見せようと思って準備したのん。」

 

「あ!駄菓子屋さんで言ってた具の事?ぼくも見たい!」

 

「ボク君は駄目なん!!ほのかちんともっと仲良くなるにはボク君は邪魔なんな。」

 

「がっくし・・・。」下を向いて落ち込むぼくに、蛍は頭を撫でて慰める。

 

「まあまあ、今はれんちゃん同い年のお友達ができて邪魔されたくないだけだから・・・。」ほのかちゃんとれんげは楽しそうに庭の隅に行く様子を見送るのであった。

 

 

「おーい!ほたるんー、ボク君ー。」ちょうどいい所でお声がかかる二人、振り返ると夏海と小鞠が大きな籠を持ってきていた。

 

「あ、ボク君来たよ!」

 

「うん!」

 

「おー!ボク君。夏休みは満喫しているみたいだな?しかし、昨日の今日でこの夏海ちゃんに挑んでくるとはいい度胸だ。」

 

「うん!まずは挑んで見ないことにはわからないから!」

 

「少年、よく言った!夏海ちゃんの最強軍団にいきなり勝てると思うなよ、さあ来い!!」夏海は木陰にタンバリンを置いてボク君の前で胡座をかいて座る。

 

「またはしたない格好して・・・、夏海、お母さんに怒られるよ。」

 

「母ちゃんの話はなしだよ、ねーちゃん!それにホットパンツなんだからいいでしょ、ぱんつ見えないんだし!」

 

「はあ・・・。」小鞠はため息をついて後ろに下がる、ホットパンツでも胡座をかけば充分はしたないとなぜ気づかない? そう思って小鞠は妹の今後を考え頭が痛くなった。

 

「さあ、来いボク君!!」夏海は様子見とばかりにノコギリクワガタを出す。彼女の持つコレクションの中で一番大きいのだろう、ぼくが持つノコギリクワガタよりも明らかに大きい・・・。

一つ生唾を飲み込むとぼくは取り出す・・・、唯一自分の手で取ったノコギリクワガタを・・・。

そっと置くとぼくのノコギリクワガタは元気よく手から離れる、夏海先輩は勢いよく置くと背中を押して発破をかけていた。

 

「ふっふーん!ボク君・・・。ノコギリクワガタは体力がある、背中を叩いて興奮させた方が気性が荒くなって攻撃的になるんだよー。」

 

「え?・・・そうなんだ。」

 

「さあ、もう遅いよ!私のストームジェット!!いけー!!」夏海先輩の号令にノコギリクワガタは発信する!!その名の通り羽根を羽ばたかせて、森へと消えていく・・・。

 

「ああー!私のストームジェットー!!・・・カムヒアー!!」叫ぶ夏海を他所に、ストームジェットは、森へと還っていった・・・。

 

「ノー!ストームジェーーーット!!」夏海は還っていったストームジェットを求めて夏海はダッシュする。一堂ポカーンと口を開けて呆然とする中、小鞠だけはいつしかのカナブンの怨みとばかりに爆笑した。

 

「これって・・・、ボクの勝ちでいいのかな?」

 

「うん・・・。ボク君の勝ちだね・・・、夏海が納得するかどうかはわからないけど・・・。」小鞠はボク君の手を上げて勝者宣言をする中、蛍は驚愕の表情を浮かべていた。

 

「じゃあボク君!代わりにこの小鞠お姉さんが受けて上げましょう!!私の優雅なカナブンやカマキリ達の技に翻弄されるがいいわ!!」ビシッとボク君に指差していた。

 

「小鞠先輩・・・、先輩の籠の中にザリガニがいます。」

 

「えっ・・・?ってぎにゃああああ!!」小鞠の籠の中にいたカナブンとカマキリは無残にも夏海のザリガニによってまたしても餌食となっていた。今の世の中ではモザイクがかかってみることはできないが、昭和の時代を代表して言おう・・・。

夏海のザリガニがあるゲームの魔王のように、はらわたを引き裂いて食い尽くしていた。

 

「アホ夏海ーー!!」小鞠の怒りが爆発するのであった。

 

 

 

 

「あっちが騒がしいのん。」れんげが怪しい口笛で呼んだ具が一心不乱に与えられた野菜を食していた。

 

「れんげちゃんのお友達は楽しそうね、あんなに大きな友達もいて羨ましいな。」ほのかは具の頭をそっと撫でながらクスリと笑う、そして具にカメラを向けてその瞬間を収めた。

 

「ウチがいないとグダグダなんな、全く・・・。」水皿を具に差し出すと美味しそうに飲み始める。

 

「そうだ!ほのかちんは明日も用事ないならウチと海にいくの!きっと楽しいのん!!」

 

「え?明日も大丈夫だけど、お家の人に行っていいか聞かないと・・・。」

 

「ウチもたのんであげるん!だから今からいくんな!!」

 

「う、うん!!私も海に行きたい!!お父さんとおばあちゃんに聞いてみるよ!!」二人はすっかり親友になり、明日の海への期待はどんどん膨らんでいく・・・。

今年の夏は一層暑く、深くなっていくのであった。


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