ぼくのなつやすみ 〜のんのんと一緒〜   作:Edward

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8月3日の午後

「あーあ、散々な目にあったー。結局ストームジェットは山に帰ったし・・・。」夏海がとぼとぼと駄菓子屋に向かう中でグダを巻いていた。

 

「私なんて、カマキリもカナブンも・・・。」本気泣きする中二を慰める小五の蛍、ぼくはシュールな光景に言葉も出なかった。

 

「ねーちゃん、ごめんってばー。あたしのカゴに入りきらなかったらお邪魔させたんだけど・・・。」

 

「だからって、勝手にザリガニ入れるなんて・・・。」もう怒りを通り越して悲しみしか出てこない小鞠はさめざめとしていた。

 

「夏海先輩、せめて小鞠先輩が気に入りそうなカナブンかカマキリを見つけましたら代わりにお返ししてあげませんか?あまりにも気の毒すぎます。」蛍の言うことも尤もだ、夏海は再度小鞠に謝り蛍の提案を聞くことにする。

これで一応の決着が着き、四人は駄菓子屋へとむかった。ちなみにれんげとほのかは二人で遊びに行きたいと別行動をとっている。

 

「あ!卓先輩にこのみさん!」蛍は駄菓子屋にいる夏海と小鞠のお兄さんである越谷卓とお隣で高校に通う富士宮このみを見つけた。卓は虫取り網を持ち、このみは籠を持っている。

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「おーい!みんなやっほー!」このみちゃんの言葉で中にいたひかげまでも出てくる。

 

「おー、みんなきたか。」

 

「あれー?みんなどうしたん!」夏海がひかげに近くなり、ひかげは夏海の頭にチョップを落とす。

 

「お前のせいだ、小鞠を泣かすからこのみちゃんに連絡してメガネを連れ出して代わりの虫を探させていた所だ。」

 

「そうだよー、夏海ちゃん。あまりに小鞠ちゃんが不憫だったからメガネくんに説明してすぐに探させたんだよ。」

 

「・・・・・・・・・・。」キランと卓のメガネが光る、このみの持つ虫籠には沢山の虫や甲虫が入っていた。このみは小鞠にその籠を渡す。

 

「わ!すごいや!!大きくて、いろんな種類が入ってる!!」ぼくは籠を覗き込むと夏海よりも大量の虫たちに驚きを隠せない。

 

「おにいちゃん、私のために探してくれたの?」

 

「・・・・・・・・・・。」こくんと頷く。

 

「ありがと、おにいちゃんー。」抱きつく小鞠に卓は優しく頭を撫でてあやしていた。

 

「あー!ずるーい!・・・ねえ、すぐるお兄ちゃん♪私にも何かちょうだーい、ねえーってばー。」

 

「なつみちゃん!ちょっと!」このみちゃんの言葉は穏やかだが迫力を感じる・・・。夏海もすぐ様大人しくなるのである・・・。

 

 

「おー、ぼく君ー。3日ぶりだけどこっちには慣れた?」ひかげがぼくの頭にポンと手を乗せるとにやりと笑った。

 

「うん!凄く楽しいところだね、みんな面白くて毎日あっという間に終わっちゃうよ。」

 

「そっかー、それは良かったねー。・・・そうそう、れんげが君と結婚するーとか言ってたけど・・・。なんかあった?」そっと小さい声でぼくに伝えてきた。

 

「・・・できましたら黙秘でお願いします。」一謝りしてその先を言う事を拒否する。

 

「まあよくわからんが、れんげはしつこいタイプだから絡まれたボク君は大変だと思うよ。まあ頑張んなー。」肩を叩いて発破をかけると駄菓子屋の中へと入って行った。

 

「君が噂のボク君だね?こんにちはー、私は富士宮このみでーす。」

 

「こんにちは!このみお姉さんはみんなと一緒じゃないけど普段遊んでないの?」

 

「高校に通っているからね、部活とかもあって常に一緒に遊んでいるわけではないんだ。」

 

「そうなんだ。じゃあ一緒に遊べる時はレアなんだね。」

 

「おははは!面白い言い方だねー、元気な男の子でよろしい!この辺では男の子が卓君だけなんだけど、あの通り無口だから・・・。喋る男の子は君だけだよ、やっぱり男の子はかわいいなあー。」片膝を落とすとにこやかにぼくの頭を撫でてくれた。

 

「ところでみんななんで駄菓子屋さんに集まってるの?」

 

「私とひかげは携帯電話持ってるんだけど、この辺りは殆ど圏外なんだ。最近この菓子屋が無線LANを導入したから、ここで使わせてもらってるんだ。」

ベンチにはこのみの携帯電話があり、確かにキャリアとして圏外になっている。

 

「ひかげは東京の高校だから、さっきからアプリ電話で宿題を見せ合ってたよ。

でも楓さん、最近商売上手でここで買い物しないと使わせてもらえないんだ。パスワードも1日経つと変わるように設定されてるし、一定時間経つと接続が切れるからまた買い物しないといけないし・・・、誰の入れ知恵なんだか。」

 

「ぎくり・・・。」先日のPC修理の際に楓さんに提言した方法が瞬く間に広がっていた・・・。

 

 

 

・・・先日の回想・・・

 

「じゃあ、お菓子を買ってくれた人に無線LANを提供すれば売り上げが安定しない?」

 

「そんなことができるのか!無線LANはあるが設定がわからんしPCはこれ一台だけだから押入れで眠っているぞ。」

 

「アドバンスモードでL2設定にできるから楓お姉ちゃんのネットワークには入らせずにイーサネット接続できるよ。MACアドレスを検出して接続時間で制限かければ自動的に接続も切れるようにできるし、インスタントパスワードも発行できるよ。」

 

「言ってることがさっぱりわからんが、とりあえず任せた!駄菓子屋の経営改善には君の力が必要だ!ぜひ頼む、上手く行ったら特別待遇を用意しよう!」

 

「うん!任せてよ!!」

 

 

・・・ ・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・・

 

 

僕の脳裏に浮かんできた・・・。

ちらりと店の奥をみると楓が鋭くこちらを見ていたが、表情は穏やかで笑顔を見せている。

(余計な事は言うな・・・、待遇なしにするぞ・・・。)

 

聞かなくても、何を訴えているかよくわかる。ぼくはとぼけるようにこのみの言葉に適当に相槌を打って返すことになった。

 

多分、この接続をぼくがやったとなると富士宮家、越谷家、宮内家にも無線LANが導入されて、ようやく手に入れた収入源が落ちるからだろう。ぼくは一番教えてはいけない人にこの特技を披露してしまった事に少し後悔してしまうのであった。

 

「どうしたの?ボク君、顔色が悪いよ?」蛍が覗き込んで心配した。

 

「蛍お姉ちゃん、ぼくが機械に強い事・・・。周りに言わないでね。」

 

「え・・・?う、うん。わかったよ。」蛍は懸念の表情をするがぼくの顔色の悪さに察して理由は聴かずに承諾してくれた、その優しさに感謝する。

 

「みんな!今日は私からの奢りだ!楓特製のお好み焼き、食って行ってくれ!!」紙皿にのった一人一枚づつのお好み焼きに、オレンジジュースまでついてこの場にいる全員に配っていく・・・。

 

「阿漕な商売の駄菓子屋がサービス!!嬉しいけど、明日みんなで海水浴に行くんだよ・・・。天候が心配になってきた。」

 

「お前は食うな、・・・帰れ。」夏海の言葉に楓は店の外を指差して退場を促す。

 

「楓お姉様のご厚意、みんなも感謝して食すように!」夏海はみんなにそういうと、紙皿を礼儀正しく受け取った。

 

ぼくが受け取る番の時、楓はこう言った。

 

「次もいい案楽しみにしてるぞ。」ぼくの夏休みが凍った一幕であった・・・。


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