RINEは某SNSのあれです。念の為伏せておきました笑
帰りのホームルームが終わった。このあと何も無ければそのまま家に一直線なのだが、今日は陽乃に放課後は空けておいてと言われているので、大人しく席に座って陽乃を待っている。
ていうか、小町のことすっかり忘れてたな……なんか帰りにスイーツとか買って帰ったら許してくれないかな……。
なんて今日帰ったことのことを考えていると、陽乃ともう1人女子生徒が自分の席の元に来た。髪がピンク色をなのを見るに、朝に陽乃が言っていた由比ヶ浜さんとはこの人だろうか。
「お待たせ八幡。この子が由比ヶ浜さんだよ」
「あのっ……!由比ヶ浜結衣です!えと、その……」
やっぱりこの人が由比ヶ浜さんだった。しかし何やら挙動不審だぞこの人。何か言いたげに口を開いては閉じてを繰り返している。
「あー、比企谷八幡だ。それで陽乃、由比ヶ浜さんがどうかしたのか?」
「まあまあ八幡。今は由比ヶ浜さんが話そうとしてるんだし、ここは最後まで聞くところだよ。」
確かに、思わず口を開いてしまったが、ここは由比ヶ浜さんが話し出すまで待つとこだったな。
「ほら!由比ヶ浜さんもちゃっちゃっと話して!」
「う、うん。えっと、その、この前はお礼も何も言えずにすみませんでした!うちのサブレを助けてくれてほんとにありがとうございます!」
そう言われて頭を下げられた。はん?何の話?と聞き返しそうになったが思い出した。あの時の犬の飼い主が由比ヶ浜さんだったのか。ていうかあの犬サブレって名前なのね。なんか美味しそう。
「あー、あの時のね。気にすんなよ。あれ結局俺がただお前のとこの犬に飛び込んだだけで意味無かったしな」
「そんなことないよ!……それに、ほんとは事故が起こったその時に謝りに行かなくちゃ行けなかったのに、謝りに行けなくてごめんなさい。あの後またサブレが走り出しちゃって、それを追いかけるのに夢中なっちゃって……。」
なるほどね。まあ別に俺としては礼を言われるようなことをしたとは思ってないし、むしろここまで丁寧にお礼を言われてちょっと気分がいいまである。
「まぁ、あれだ。こうやって謝りに来てくれたんだし、俺から特に言うことは無い。強いて言うなら犬が無事でよかったなってとこだな。」
そう答えると由比ヶ浜さんはポケーと口を開けてこっちを見ている。かと思えば、急に目を見開いてなんか喋り始めた。
「比企谷くん……とってもいい人だね!タメで話していい?あ、私はタメでいいから!呼び方も結衣でいいよ!わたしは八幡って呼んでもいいかな!それとRINE交換しようよ!ね!」
怒涛の勢いで話されたため何を言われたか分からなかった。まあ適当に返しとけば問題ないか。
「お、おう、いいぞ」
「やった!じゃあQR出して!あたしから登録するから!」
「お、おう?RINE?まあいいけど……」
いつの間にかRINE交換する流れになっている。まあいいや、別に交換したところで減るもんじゃないし。
「んん、んっんん、えと、八幡?私もRINE交換したいんだけどいい?」
「おう陽乃、折角だからしとくか」
そんな感じで2人とRINE交換した。今までRINEの友達なんて、家族と公式アカウントしかいなかったから一気に新鮮になったな。
「じゃああたし、これから友達と遊ぶ予定あるからこれで!じゃあね八幡!雪ノ下さん!」
いや、なんで名前呼びなんだよ。そうツッこもうとしたが遅かった。
「八幡、これからなんか予定ある?」
そう聞いてきた陽乃は心無しか不機嫌そうに見える。なんだ、自分だけ苗字呼びだったからちょっとムッときたのかね。
「いや、放課後はもう何も無いぞ。これからなんかあんの?」
「なら一緒に帰ろうよ。ていうか、駅まで送って?」
「いいぞ、んじゃ帰るか」
そう言って2人で下駄箱まで向かった。
駅までの道は静かでもなく賑やかでもなく、丁度いい雰囲気だった。俺は自転車を押して、陽乃は歩いて2人で並んで歩いている。特に会話がある訳では無いが、かと言って気まずい訳でもない、というか居心地が良かった。
「八幡は、由比ヶ浜さんのことどう思う?」
陽乃が突然聞いてきた。横からでは陽乃の表情があまり分からない分、どんな意図で聞いてきたのかも分からなかった。
「どうって、良い奴だと思うぞ。ちゃんと礼しに来たし、裏表なさそうなやつだしな。」
「そうだよね、うん。」
陽乃の答えが歯切れが悪いせいか、質問の意図が余計気になる。
「なんだ、由比ヶ浜となんかあったのか?」
「その、ちょっと長くなるけどいい?」
「別に構わん」
「わかった。私ね、最初由比ヶ浜さんが八幡に謝らないんじゃないかって思ってたの」
「別に謝ることの事ではないだろ今回のは。俺も大した怪我じゃなかったし」
「八幡はそう思ってるみたいだけど、私は謝るべきだと思ってた。まぁ、車に乗ってた私が言えることでは無いかもしれないけどね。でね、私は事故の時になんとなく顔覚えてたから、由比ヶ浜さんがクラスに入ってきた時一瞬でわかった」
俺は話に相槌を打つわけでもなく、黙って陽乃の話を聞いていた。
「それで、由比ヶ浜さんが八幡に気づいてバツが悪そうに目を逸らして気まずそうにしてるのを見て、さっきも言ったけど、もしかしたら由比ヶ浜さんは八幡に謝らないまま終わせる気なのかなって思って。だから、1限のクラス委員決めが終わって八幡と話した後に、由比ヶ浜さんのところへ行こうと思ったの」
陽乃は淡々と話している。その声からは、後悔のようなものを感じる。
「そしたら、由比ヶ浜さんの方から『比企谷くんに謝りたいから手伝って欲しい』みたいな事言われたんだ。って言っても、1人じゃ不安だから着いてきてほしいって感じだったから、着いていくだけ行って黙ってただけなんだけどね」
なるほど、多分クラス委員決めの時に俺と陽乃の様子を見て、陽乃の方へアプローチに行ったんだろうな。
「まぁ、ずっと黙ってせいで抜け駆けされそうになったのは危なかったけどね……そう、だからなんていうか、由比ヶ浜さんがいい人で良かったよ。あのまま謝らないつもりだったら、うん。私怒ってたよ」
最初の方は声が小さすぎてなんて言ったか分からなかった。が、そのあとが怖すぎてあまり気にならなかった。陽乃怖いですよその笑顔。戸部にキレた時と同じものを感じたぞ今。
「お、おう。そうならなくて良かったぞ……」
「ていうか八幡、いきなり由比ヶ浜さんに名前で呼ばせるってどういうこと?なに、ちょっと気になってるの?」
「いや、俺も驚いたよ…急に呼ばれたし」
「あれは比企谷くんが適当に返事しちゃうからでしょ」
え、そんな返事したっけ……ていうか陽乃はなんでちょっと不機嫌なんですかねぇ。
「というか、それを言ったら陽乃もいきなり名前呼び強制した気がするんだけど。や、別に嫌じゃなかったけどね?」
そう答えると、陽乃は急に不機嫌な表情から一転、ニヤリと笑っている。
「へー、そうなんだ。嫌じゃないなら……良かったの?」
「まぁ……そうだな。」
いや、その聞き方はずるいでしょ。なんかちょっと照れてしまったぞ……一方陽乃はへぇー、とかほぉー、とか言って小悪魔のような笑いを浮かべてこっちを見ている。正直かわいいし綺麗なんだよなぁ陽乃。今日のクラス委員決めの時も、いきなり指名されてびっくりしたのは確かだが、それ以上に嬉しかったりもする。
「比企谷くんって可愛いとこあるよね」
「うるせえよ、ほっとけばか」
「ばかだって!可愛いー!」
くっそ、何を言ってもダメなやつだこれ。しばらく黙っとこうかな。
しかし陽乃の表情は先程とはまた違う晴れやかな笑顔だった。
「あのね八幡。わたし、八幡と話すの楽しいの」
……急にそういうのはずるいだろ。さっきとのギャップで俺は何も言えずにいる。
「なんで面白いかは分かんないけど、なんか面白いんだよね。いつの間にか知らない自分を見つけてしまった気分。」
「なんだそりゃ」
意味が分からず思わず笑いながら答えた。
「ふふっ、わかんない。でもなんていうか、八幡は初めて見るタイプの人間なんだよね。どこが、とかは上手く言えないけど。」
一呼吸置いてまた陽乃が話し始める。
「だから、これは少し傲慢かもしれないけど」
今まで並んで歩いてずっと前を向いていた陽乃が、初めてこちらを向いた。俺は思わず息を呑む。
「期待してるからね、八幡」
そう言った陽乃の顔に先程の笑顔は無く、少し悲しそうな、どこか諦めた、そしてどこか縋るような、色々な感情が混ざったような表情をしていた。
「あ、もう駅だね。ありがと八幡!じゃあまた明日ね!あ、別にRINE送ってくれてもいいからね?」
「お、おう、暇だったら送るわ。気をつけてな」
「あはは、何よ暇だったらって。まあいいや、それじゃまたね」
会って数日の陽乃に言われたあの言葉。それは、俺と陽乃が共有した数少ない時間以上の重みがあった