「ほらほら、もっと頑張らないとあちらさんの首に届いてしまいますよぉ~」
「チッ、 さっさと沈みやがれ!」
クリスとDの
(こいつ、認めたくねぇが強い)
戦闘しながらクリスは心の中で呟いた。
(一発いれるのさえ難しいが、今纏っているのはネフシュタンの鎧。痛みさえ我慢すれば……上手くやればいけるか?)
ネフシュタンの鎧は強力な再生能力を持つが、再生の際に身体を侵食するため、激しい痛みに襲われる。
(少しならあの融合症例のようにはならないだろうし、後から取り除けるレベルだろうから……)
そしてクリスは覚悟を決め、Dを睨み付ける。
二本の鞭の片一方だけにエネルギーを充填。それを大きく振り回し一直線に上から叩きつける。
隙だらけの一撃の為、Dには避けられ地面に着弾する。そしてクリスの元まで来てハサミで切りつけるD。クリスは避けられるはずもなくそれを受け、鎧にヒビが入る。だが、それがクリスの狙いだ。
Dは一撃与えたので後退しようとするも、もう片方の鞭が身体に纏わりつき、その場に縫い止められた。
「おや?もしかしてわたくし嵌められました?」
「ヘヘッ、肉を切らせて骨を断つってな!」
当然ながら攻撃すれば隙が生まれる。クリスはネフシュタンの鎧の再生能力を利用し、Dの攻撃を敢えて受け鞭で拘束するという手に出たのだ。
本来であれば攻撃を受けた際の痛みや再生能力の反動で激痛が走るので戦闘どころではないのだが、皮肉にもこれまでの戦闘での再生の際に経験しているのと、フィーネからお仕置きと称した電撃ビリビリで痛みに若干の耐性が出来ていた為、戦闘を続けることが出来た。
「さあ、くらいな!」
クリスはDを捕縛した鞭を振り回し、何度も地面に叩きつける。十数回叩きつけられた後、抜け出したD。土煙が酷い為、姿は見えないが恐らく重傷だろう。クリスはそう思っていた。
しかし、土煙が晴れるとそこには素知らぬ顔でDが立っていた。
「なっ!?」
「ふむ、なかなか良かったですよ。わたくしでなければ勝ちは固かったでしょう」
よく見ると、服の一部が破けてはいるが身体から血が出ているなどのケガはない。
「しかし、このままでは仕事を遂行出来ませんねぇ。どうしましょうか」
――――――――――――――――――――――
「はぁ……クリスは一体何をやってるのかしら」
クリスとDの戦闘を覗き見していたフィーネは呟いた。暴走し、街の一部に壊滅的な被害をもたらした響を野望の邪魔になると危険視した為、Dに始末を、クリスにその監視を頼んだのだが、何故かクリスとDが戦っている。
「争いの無い世界を作るのに犠牲無くしては不可能。たかが数人、切り捨てればいいのに……いいわ、ネフシュタンさえあればどうにでもなる」
そう言ったフィーネはDへと念話を繋いだ。
『D、
『よろしいので?』
『ええ、もうクリスも要らないわ。後は好きにしなさい』
『ヒヒ、かしこまりぃ』
――――――――――――――――――――――
「?……ガ、ァ、ァァァァァ!?」
Dが黙ってしばらく。突然クリスにビリビリが、今までにフィーネからお仕置きで受けたのと比べ物にならないレベルで流れ苦しみだした。
クリスはそれがネフシュタンから流れているのはすぐに理解した。このままでは意識を失いさっきの四人が危ないと悟ったクリスは、
「アー、マー……パー、ジ!」
ネフシュタンの鎧をパージして強制解除した。やはり電撃はネフシュタンからだったようで、少し息が乱れたがネフシュタンを解除した今のクリスは何を着ていない裸なので背に腹は変えられず、歌った。彼女の
「Killter Ichaival tron」
クリスは自身に与えられたシンフォギア、第二号聖遺物イチイバルを纏い、再びDへと向き合う。
「てめぇ、何をしやがった」
「契約者に頼まれてネフシュタンにつけたシステムを起動しただけですよぉ。そうすれば勝手にパージしてくれると思ったのですよ。
ああ、それと契約者から伝言です。『貴女、もう要らないわ』だそうで」
その言葉にクリスは呆然とした、してしまった。
「は、そんな……嘘だろ……」
「いいえ、ほんとです……よっと!」
「しまっ……」
その隙を見逃すDではなく、一瞬で近づきクリスを蹴り飛ばす。……その方向が未来たち四人が隠れる為、逃げ込んだビルであるのは、偶然か、それとも意図的なのか。
――――――――――――――――――――――
「ゲホッ、ゲホッ……」
「ちょ、ちょっと!?あんた大丈夫!?」
「しっかりしてください!」
未来たちは突然壁を何かが突き破ってきたので何事かと思い、こっそり見ると赤い鎧を纏った少女が倒れていた。さっきのはこの子が飛ばされてきたのだと理解した。
「さっさと、逃げろ、バカ、やろう……ゲホッ」
「え?」
「まさか、さっきの銀色の人?」
ネフシュタンの時は目元を隠すバイザーが付いていたので顔が分からなかったが、イチイバルにはそれは付いていない為、初めて素顔を見た未来たちには声を聞くまで誰だか分からなかった。
先ほど逃げろと言われたが、少女は口から血を溢している上、身体中傷だらけである。それを見捨てて逃げられる四人ではない。それに気付いたかは分からないがその少女、クリスは口を開いた。
「アタシはどうやら捨てられたみたいだからさ、気にせず逃げろ。どうせ生き延びても行き先はないんだ、そこで餓死するくらいだったらここで囮をやってやるよ」
その声は少し弱々しかった。
「……ふざけないで!」
すると未来が叫んだ。
「捨てられたなら拾ってあげる、行き先がないなら私たちのところに来たらいい、響にも反対させない!やりたいことがあるんでしょ!だから……
生きることから逃げないで!」
クリスはその言葉にキョトンとした。
「そうだよ!私たちを助けてくれたヒーローが知らないところで死んじゃうなんてアニメでも……ほとんどないんだから!」
「ま、多少の恩返しはしたいからね」
「それもここを生き延びれたらの話ですが……」
「お前ら……そうだよな」
次々と発せられた言葉にクリスは徐々に元気を取り戻していった。
「弱気になるなんてアタシらしくもないな。せいぜい足掻いてやるよ。どうしようもなくなるその時までな!」
「お話は終わりましたかぁ?」
足音と共にDがビルに入ってくる。
「ああ、まずはてめぇを倒して生き延びてやる」
クリスは弓に変化させたアームドギアを両手に構え後ろに未来たち四人を庇うように立つ。
「そうですか、そんなボロボロでなにが出来るかはわかりませんが……」
Dはハサミを振りかぶり、突っ込んでくる。
「せいぜい楽しませてくださいねぇ!」
クリスは近づけさせない為に矢を乱射する。それは時に避けられ、時にハサミで弾かれ、足止めにもならない。
そして、Dはクリスの前に到達し、ハサミを振り下ろした。
「それでは、サヨウナラ!」
(ハハッ、悪いな、お前ら……パパ、ママ、アタシ今からそっちに……)
クリスはその刹那に後ろの四人に心の中で謝り、幼い頃に亡くした両親を想った。そして刃を受け入れる為、目を瞑る。
だが突如、ガシャーンとガラスが割れた音がし、声が聞こえた。
「
そしてクリスは全く痛みが来ないのでゆっくりと目を開けると、目の前に黒いローブを纏った人が背中を向けて立っていた。Dはというと、少し離れたところにいた。
「お前は……」
「未来たちを守ってくれてありがとう」
クリスの前に立っているローブの人物、響はそうクリスに声をかけた。そしてDの方を向き、
「未来たちが狙われて、ちょっと頭にきてるから……覚悟はいい?」
眼を青く光らせそう告げた。
んー……これでいいのか?