翼が二課の人たちのところに帰ってきて、ノイズ警報が鳴り止んだことから事態は終息したと判断した響は帰ろうとその場を離れようとする。
「待ってくれ」
翼にそう声をかけられ、振り向く響。
「やはり二課に入ってはくれないのか?」
「……ええ、話がそれだけならこれで帰らせてもらいますけど?」
何も返事がないので今度こそ帰ろうとするも、また話しかけられる。
「少々よろしいですか?」
声をかけてきたのは、アイドルとしての翼のマネージャーにして二課所属のNINJYA、緒川慎二だ。
「先ずはこちらを」
響に渡されたのは1枚の紙、何かが書かれている。
「簡単に言うと貴女を雇いたい…ということです」
そこに書かれていた内容はというと……
・こちら(二課)は無理矢理そちらの力の詳細及び正体(容姿や名前)を聞かない
・こちらの設備の自由使用許可
・ノイズの出現等の情報の提供(専用端末支給)
・給料については要相談
・必要な資材の支給
簡単に纏めるとこんな感じ。
響にメリットがありすぎて、普通なら何か裏があるのではと疑ってしまう。だが、相手は2課………お人好し過ぎる人たちの集りだ。特に司令、彼は子供を守るOTONAだ。自分から無理無茶は要求や命令はするはずがない。まあ、響がそのことを知るよしもないので当然疑っているが。
「私たちは人手が足りないのです
ノイズと戦えるのは現状翼さんとあなただけ、その為にあなたを雇いたいのですよ、『死神』さん」
「……もし途中で契約を解除したいとなったら?」
「それなら司令に言ってもらえれば
ただし端末の回収と、情報の守秘義務やらの書類へとサインしていただきますが」
「…………」
「どうでしょうか?」
少しの沈黙の後、最悪逃げればいいかと思い、
「……いいよ、この条件をきちんと守ってくれるのなら雇われてあげる
置いてきた荷物回収して拠点に置いてくるから少し待ってて」
「わかりました、お待ちしています」
そう返事を返した緒川は生身の人間とは思えない速度を出して離れていく響を見送った。
「緒川さん、先ほどのは……」
見送った後、翼が先ほどのことについて何も聞かされていなかったのか、緒川に質問していた。
「司令と二人で相談して決めたことです
時折、宝石だと思われる物を投げて足場を作ったり、離脱に使ったりしているので、こういう形ならば二課に来てくれるのではないかと思い……司令は少し不服そうでしたがね」
司令からすると他国の機関などから純粋に保護したいと思っていたのでお金の力で呼び込んだりするのは反対なのだろう。まあ、二課の一員となれば結局は給料としてかなりのお金は入ってくるのだが………それを響が知ったところであまり関係がない。なにより響が協力する一番の決め手は、自身の情報を開示しなくてすむことだったからだ。
ちなみに二課が情報を開示しなくてよいとしたのは、響が使っている技術は確かに気になるが、二課の技術者である櫻井了子がどこかで見たことがあると言い出したので、詳しいことは彼女に任せて、聞かないことにしただけだった。無理に聞くのも良くないと思っていたのもある。
そして響が一旦離れてからおよそ10分後、
「お待たせしました」
「いえ、大丈夫です
それでは本部へと向かいますが……どうします?車に乗られますか?」
「……そうですね、ノイズ警報も解除されましたし、少し疲れたので乗せてもらいます」
「では、こちらへ」
そして、響は緒川の運転する車に翼と共に乗り込み本部へと出発した。
その車内にて、
「いくつか聞きたいのだけどいい?」
翼が響へと話しかけた。
「………どうぞ」
「あなたは女性……でいいの?」
「……ええ、そうですよ」
響は少し悩んだ末、それくらいならいいかと思い答えた。
「それと貴女のことはなんと呼んだらいいかしら?いつまでも『死神』だと呼びにくいし……」
「……そうですね、とりあえず『シキ』とでも呼んでください」
「そう、ではシキ、貴女はなんのために戦っているの?」
「誰も悲しんで欲しくないから、あの地獄を体験する人がでて欲しくないから、この日常を守りたいから、纏めれば単なる私のエゴです」
一つ目は彼女の家族や親友の未来を悲しませたことへの後悔、二つ目は『直死の魔眼』を得たことで経験した恐怖、三つ目は日本人らしく平和を愛する故に。
「………そう」
「それに私は…………」
「私は?」
「はっ!い、いえ、なんでもないです
忘れてください!」
「わ、わかったわ……」
(危なーー、翼さんの真横だからってもっと冷静にならないと………つい魔術師だ、なんて到底信じられないことを口走りそうになっちゃったよ……でもやっぱり緊張するよーー)
響はノイズ狩りをしている『死神』だが、歌手風鳴翼の大ファンでもあるのだ。そんな彼女が本人を横にして冷静でいられるだろうか。当然いれるはずがない。ちなみに戦場で翼と会った時、口数が少ないのは緊張しているからだ。
その後は余り会話も続かず、目的地に近くなったところで緒川が声をかける。
「もう着きますので降りる準備をしてください」
「あ、はい、ってここ……リディアン音楽院?」
内心やっぱりか、と思いながら口にする響。
「ええ、ここから本部に入ります」
車を降り、校舎内のエレベーター前まで歩く。
エレベーターに乗り込むと、
「少々危険ですので手摺りに掴まっていた方がよろしいですよ」
エレベーター内で危険があるのかと思いながら、そう忠告されたので半信半疑になりながらも手摺りを掴む。
そして、響たちが乗ったエレベーターはエレベーターとは思えない猛スピードで下降していく。
「ひゃっ!?」
予想外のスピードについ悲鳴が漏れてしまう。このくらいのスピードには慣れているが、まさかエレベーターで出るとは誰が思っただろうか。
目的地に着いた時に響は少しだけ足が震えていた。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です……ちょっと驚いただけなので」
エレベーターから降りると翼の案内の下、二課の司令が待つという部屋に案内される。
そして自動ドアが開き中に入ると共に、パンパンッ!という派手な音が鳴り響く。
まさか罠!?と警戒し、響は即座に黒鍵を取り出し起動させるも音の正体に気付き、呆然とする。
「ようこそ!特異災害対策起動部二課へ!」
そこにいた職員の持つクラッカーやラッパ、机に並べられた数々の料理……更には【熱烈歓迎!『死神』シキさま】と書かれた横断幕まで……完全にパーティーだ。しかも、さっき声をあげた赤いネクタイの男性の横には、いつの間にか消えていた緒川もいる。横断幕の『シキ』の文字は急遽足したかのように文字のサイズが他のと違うため、十中八九緒川が伝え書き足したものだろう。
「驚かせてすまないな!
というわけで敵対する気はないのでそれをしまってくれないか?」
司令(と思わしき人物)にそう言われた響は一応警戒しつつも黒鍵をしまった。
「さあ!とりあえずは歓迎会だ!難しい話は後にして皆、食え食え!」
それを聞いた響は翼に顔を向け目線で問いかけるも、諦めろと言わんばかりに彼女も呆れながら無言で首を振り、置いてある料理の下へ歩いていく。
響もそれで諦めたのか、料理を手に取り食べていく。
この後の話し合いでどうなるかを思いながら。
『シキ』:響の魔術師として活動するときの偽名。
直死の魔眼持ちの人物の名前の読みが二人ともシキなのでそうした。