Fate/Grand Order in the Build 作:カイナイ
マリー「ふぅ…ここまでくれば大丈夫かしら?」
マシュ「ドクター?」
ロマン「大丈夫だ、反応はないよ。あとそこからすぐ近くの森に霊脈があるみたいだ。」
ロマンの指示で、マシュ達は霊脈へ向かうことになった。霊脈に辿り着くと、周囲を警戒しつつ、人理焼却のことなどお互いの状況について話をした。マリー達の協力を改めて得ることができたことを確認し、ひとまずの方針を他に味方になってくれるサーヴァントがいないか探すこととした。
万丈「戦兎は今どうだ?」
マシュ「今は落ち着いて、眠っているようです。ずっと激痛が続くわけではないようですが…。」
万丈「こいつの毒はあのスタークにしか解除できないんだろ?だったらあいつをぶっ倒して無理矢理解毒させてやったらいい!」
ロマン「それはそうなんだけど…彼の力は未知数だ。レーダーに引っかからないジャミング能力でいつ襲ってくるかも分からない。例え倒せたとしても、僕たちの要求に素直に応じるとは思えないし」
カルデアの職員は、戦兎に打ち込まれた毒を分析していた。
ジャンヌ「…少し、見せてください」
ジャンヌが戦兎に近づいて様子を見た。しばらくして、何かに気づく。
ジャンヌ「これは…毒…?いや、呪いの要素もあります!」
マシュ「呪い?」
ジャンヌ「はい。どうやら毒に呪詛を織り交ぜたような形ですが…」
ロマン「解析結果が出たよ。…うわ、巧妙だな。確かに上手く呪いと毒が融け合ってる。だけど毒そのものは戦兎君の身体には効かないみたいだな…。マシュと契約してるから盾の恩恵を受けているのか?」
マシュ「毒そのものに効果がないなら…呪いを解除できれば!」
ロマン「あぁ、また元気になれるはずだ。」
ロマン(わざわざ呪いまで仕込んでいたのか。…だけどスタークにしか解除できないのなら最初から毒だけ打ち込んでもいいし…彼は戦兎君に毒が効かないことを知っていた…?)
マシュ「ジャンヌさんなら解呪できるのでは?」
ジャンヌ「そうですね…なかなか強力な呪いのようです。私一人では…」
ロマン「なるほど…やっぱり味方になってくれるサーヴァントを探し回るしかないみたいだね。」
その日はそのまま夜を過ごすことになった。
戦兎は苦しげな表情を見せてはいるが、最初の時よりはだいぶ落ち着いているように見えた。歩くことも出来ないが、話をする程度なら可能なようだ。様子を見にきた万丈が戦兎の近くに座った。
万丈「おい、大丈夫か?」
戦兎「ぐ…大丈夫に、見えるかよ…。」
万丈「ハハ、………スタークは俺が倒す。他のサーヴァントなんて見つける前に俺が。」
戦兎「それは…俺の為、か?」
万丈「…どうだろうな。分からない。やっぱり、私怨かもしれない。」
人の為に何かをする、それが万丈には一度だけあった。
昔、香澄の治療費を稼ぐためにボクシングの試合で八百長をした。しかしそれが表沙汰になり、万丈はボクシング界から永久追放され、結局は香澄に大きな迷惑をかけてしまうこととなった。
ーーーー相手の為を思った自分の行動が、相手に迷惑をかける。だったら、他人ではなく自分の為に動けばいい。
そんな経験からか、万丈は自分の行動に「人のため」と理由付けをすることにある種の迷いを感じていた。
戦兎「……お前はさ、なんでレイシフトのメンバー申請をしたんだ?わざわざこんな危険を冒してまで、オルレアンに来た理由は?」
万丈「香澄の仇と…俺の身体を弄ったアイツを直接ぶっ飛ばすためだ。」
戦兎「そうだな。それも、あるだろう。でも…それだけじゃないはずだ。だってスタークが現れるかどうかなんて…分からなかった。それでもお前は志願したんだ。…それはやっぱり、人の為を思って起こした行動なんだよ。紛れも無い正義だ。」
万丈「正、義…」
戦兎が枕元に置いてあったケースを、万丈に手渡す。ずっしりとした重さを感じた。
戦兎「万丈、マシュ達を頼む。俺の正義、お前にしばらく預ける、ぞ…」
ガクリと戦兎がうなだれ、倒れこんだ。
万丈「お、おい!戦兎!?」
ロマン「大丈夫だよ。今は眠っているだけだ。」
万丈「なんだよ…」
ロマン「ハハハ……あのさ、万丈君。」
万丈「ん?」
ロマン「僕はね、最初君がレイシフトするのを反対していたんだ。」
ロマンがゆっくりと口を開いた。万丈はそれを静かに聞き入れる。
ロマン「確かに君は普通の人間よりは強いだろう。だけどサーヴァントには及ばないし、危険なことに変わりはない。いくらレイシフト適性があるからって、マスターなわけじゃないから戦場に赴く必要も本来はない」
厳しい言葉が万丈に刺さる。しかし、ロマンは正しい。サーヴァントとは戦えない今の万丈は元々足手まといにしかならない。万丈もそれはよく分かっていた。
ロマン「だけどね、戦兎君がどうしてもって言って君を推薦したんだよ。何故だかわかるかい?」
万丈「…」
ロマン「信頼していたからだと思うよ、君を」
「信頼すること」
一見簡単なように見えて、これほど難しいことはない。だけど戦兎は信じた。万丈龍我という人間の強さを、彼の戦いの根底にある信念を。
ロマン「君の戦いが人の為になることを信じてたんだ。だからこそ君を連れていった。……まあ、何があっても君とマシュを守れるっていう彼の自負もあったんだろうけどね。」
万丈「………寝ます。」
ロマン「うん、おやすみ。」
夜は更けていく。
ここはどこへ行っても敵地だ。ジャンヌ・オルタのクラススキルによる感知能力、そしてスタークのレーダーにひっかからない謎のジャミング能力がある以上、オルレアンに安息地はない。
それでも、万丈には先程のような不安や迷いはなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
森を抜け、しばらく歩くと街が見えた。同時にロマンのレーダーが小さな反応を捉える。
ロマン「近くにサーヴァント反応がある。一騎だけだし少し弱っているな…ジャンヌ・オルタに従っていない、こちら側のサーヴァントの可能性が高い。警戒を忘れず、接触を試みてくれ。」
マシュ達はロマンが示した建物の地下へ向かった。すると暗がりの中で、胸元を大きく広げた白銀の甲冑に身を覆う男が腰を下ろしていた。
???「ぐ…次から次へと!」
男ーーーサーヴァントと見られるものは深手を負っていた。ジャンヌ・オルタ達複数のサーヴァントを相手取ったのだろう。サーヴァントは警戒心を露わにし、傷ついた体でなお剣を振るってきた。
ジャンヌ「待ってください!私たちは敵ではありません。」
???「……確かに奴らと違って邪悪な気配は感じないが…」
ジャンヌ「私たちに力を貸して欲しいのです。話を聞いてくださいますか?」
???「……いいだろう。」
ジャンヌが事のあらましをサーヴァントに説明した。
???「なるほど…道理でワイバーンがあんなにも湧いていた訳だ。俺が狙われたのもそのためか。」
ジャンヌ「協力してくださいますか…?」
???「…ああ、いいだろう。」
ジャンヌ「良かった…」
マシュ「ひとまず外に出ましょう。あまり長居していては危険です。」
セイバー「あぁ、そうだ。俺はセイバー、真名は…」
ジャンヌがセイバーに肩を貸し、地上へと出た。しかし、通信の受信音が突然鳴り響く。
ロマン「4つのサーヴァント反応だ!こっちへまっすぐ向かってきているから恐らくは黒いジャンヌに与するものと思われる!」
ロマンが撤退を促すが、こちらには手負いが二人いる。とても急速に迫るサーヴァントから逃げ切れるとは思えない。
ジャンヌ(戦兎さんが今頼れない以上力の差は歴然ですが…仕方ありません!)
ジャンヌ「迎撃します!」
マシュ「ええ、それしかありません。」
マシュ、それに続いてマリーとアマデウスが頷く。
そして数秒後に4騎の敵サーヴァントが現れた。1人は前回ジャンヌ・オルタと出会った際に傍にいた白い服の女性、B・ライダーだ。もう1人も前回遭遇したB・ランサー。そして顔に包帯を巻き、長い爪が特徴的なB・アサシン。最後の1人は黒い甲冑に身を包んだバーサーカーだった。
マシュ「ハァ!」
最初にマシュが動いた。
盾を構え、突進を仕掛ける。
B・ランサー「絶叫せよ!」
ランサーが難なくそれを躱し、槍を振り切ろうとする。マシュが槍の追撃を盾で弾く。
B・ライダー「えい!」
ライダーが杖を掲げると、マリーの体が光に包まれ小さな爆発を起こした。
アマデウス「マリア!」
アサシンを相手取っていたアマデウスが声を荒げる。
マリー「…え、えぇ、大丈夫。」
マリーに大きなダメージはない。しかし、
アマデウス「見えなかった…魔術による遠隔攻撃か!」
そう。ライダーの攻撃は杖を掲げて祈りを捧げ、標的を定めるだけで完了する。魔術の衝撃波を飛ばすのではなく、対象がひとりでに爆破する。過程を殆ど省き、結果を発生させているのだ。
故に防御することは不可能。高い対魔力で防ぐか、もしくは
ジャンヌ「そこです!」
B・ライダー「っ!!」
ライダーが攻撃に入る前に叩くしかない。
ジャンヌが強力な膂力を活かした旗の薙ぎ払いでライダーを弾き飛ばす。ジャンヌが勢いに乗りライダーに追撃を加えようとする。
バーサーカー「Arrrrrrrrrrr!!!」
しかし、しばらく動かなかったバーサーカーが突如としてジャンヌに襲いかかった。その苛烈な攻撃を前に、ジャンヌは防戦一方の戦いを強いられる。
ジャンヌ「このサーヴァント…強い!」
ロマン(ビルドの力がない以上、強力なサーヴァントに仕掛けられたらマズイ…ここは撤退をするべきか?…いや、それを向こうが許すわけがない。今背中を見せるわけには…)
バーサーカー「A-urrrrrrrrrrr!」
ジャンヌ「ぐっ…!」
B・ライダー「フン!!」
マリー「きゃっ!?」
B・ランサー「血を捧げよ」
マシュ「させません!」
B・アサシン「ラララララ!」
アマデウス「くそっ…しつこいなコイツ!」
サーヴァントと戦えるほどの能力はない万丈、呪いをかけられ動けない戦兎、戦兎とと同じように傷つき動くことができないセイバー。3人を守りながらでは、マシュ、マリー、アマデウスも思うようには動けない。
ジャンヌはバーサーカーに抑え込まれている。その凶刃がジャンヌに届くのも時間の問題だ。
戦況は完全に向こうの支配下にあった。
万丈「っ……」
万丈は嘆いた。
思い出すのは冬木での悲劇。自分の力の無さ故に香澄を救い出すことができなかった、後悔の出来事。
また大切な人を失うのか。冬木を乗り越え、カルデアで過ごした仲間たちをーーーーー
万丈「させるもんかよ…」
セイバー「ぐっ…下がれ!今のお前では死ぬぞ!」
万丈がドリルクラッシャーを手に取る。セイバーがそれを止めようとするが、万丈は聞く耳を持たない。
万丈「俺は今…できることを、するだけだ!」
万丈がドリルクラッシャーをバーサーカーに叩きつける。
効いた様子はない。しかし、一瞬気が逸れたことでジャンヌが窮地を脱した。
バーサーカー「Au…Aaaaaaaa!!!」
バーサーカーが魔力を周囲に放出し、万丈を吹き飛ばす。
吹き飛んだ万丈に目もくれることなく、バーサーカーは再びジャンヌへ斬りかかった。
万丈「くそっ…!」
吹き飛ばされた万丈が立ち上がろうとすると、手に違和感を感じた。ゴツゴツとした地面でない、滑らかなアルミの感触だ。その感覚に目をやると、ひとつのケースがあった。
万丈「これは…戦兎が渡してきた…」
昨日はロマンと話した後そのまま眠ってしまったため、ケースを開けることはなかった。
ケースに手をかけ、そっと、とは言えないほど勢いよく開く。
そこには戦兎の使う科学の結晶、ビルドドライバーが有った。
万丈「これは…!」
脳裏に戦兎の言葉が浮かぶ。苦痛にまみれる中で戦兎が放った、決意の言葉。
『俺の正義、しばらくお前に預ける、ぞーーーーーー』
ビルドドライバーを握りしめる。戦兎からケースごと受け取った時よりも、それは重いように感じた。
万丈「戦兎、お前の正義、受け取ったぞ!」
ドライバーが万丈の腰に巻きつけられる。
何かを示すように、クローズドラゴンが万丈の頭上を飛び回っていた。
万丈「お前も…力を貸してくれ!」
「ウェイクアップ!」「クローズドラゴン!」
クローズドラゴンがガジェットモードへ変形し、万丈がドラゴンボトルを装填、ビルドドライバーに装着する。
レバーが回り、ビルドと同じ、ハーフボディが形成される。
ロマン「まさか…!」
ドライバー「Are you ready?」
万丈「……変身!」
「Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON!!」「イエーイ!」
敵味方を問わず、そこにいた誰もが目を奪われた。
新たな姿形、新たな力。されどその信念、受け取った正義は変わらず。
戦兎「ぐっ…そうだ万丈。今のお前なら使える。いけ、仮面ライダー…クローズ!」
クローズ「今の俺は…負ける気がしねぇ!!」
ということでクローズ、登場です。
ビルド本編では香澄の手紙によって「人の為に戦うこと」を知りました。
しかし、こちらの世界の万丈は人理焼却という世界存亡をかけた危機の前に、自然と「人の為に戦うこと」に目覚めていきます。これは香澄を軽んじているわけではなく、香澄と過ごす日々があったからこそ胸の内に芽生えたものだと思っております。
そしてそれを戦兎に自覚させられ、ロマンによって戦兎の想いを知らされる。
仲間に危機が迫る中で、クーフーリンに言われた言葉を思い出す。悲嘆するよりも、苦悩するよりも、今出来ることをする。
そういった沢山の仲間があっての万丈の変身です。