「そうちゃん、可愛いねぇ…。そう思わない?まりちゃん」
「ん?そうだね。まるで女の子みたい」
アニメや漫画で見た時から思ってたけど、やっぱり総悟は女顔だ。
まだ小さく赤ちゃんなのも理由だろうけど、色素の薄い茶色い髪に
白い肌。くりっとした瞳。このまま育ったら完全に女の子の出来上がりだ。
「あ、でも まりちゃんの赤ちゃんの頃も可愛かったよ?」
「あはは、ありがとう。でも姉さんの赤ちゃんの頃も可愛かったんだろうね」
「そうかなぁ。でもまりちゃんとそうちゃんには負けるよ」
にこっとまるで天使のような笑みを見せた姉さんは、優しく総悟の頰を突いた。
私はふと疑問に思ったことを聞いてみることにする。
「なんで姉さんは私や総悟のことをちゃん付けで呼ぶの?」
「あっ、…ごめんなさい。嫌だった?」
「ううん、嫌じゃない。寧ろ嬉しいよ。でも、どうしてかなぁって。」
一瞬曇った姉さんの顔は、みるみる明るくなって
さっきよりも可愛い女神のような笑みを浮かべて話した。
「私ね、まりちゃんが生まれる前から『私はこれからお姉ちゃんになるんだ』って
ずっと思ってたの。お姉ちゃんらしくしないとって。
その時に、まりちゃんを皆が緋鞠って呼ぶのを聞いて
お姉ちゃんだけの呼び方が欲しいなぁって思って、考え付いたのが『まりちゃん』
そうちゃんも同じ意味。まりちゃんだけちゃん付けはかわいそうでしょう?」
優しく笑ってそう言った姉さん。
まだ幼いその顔が数年後の大人になった時の姉さんの姿に重なって見えた。
可憐で綺麗な私の、私と総悟の姉さんは こんなに幼くても私と総悟の姉さんなんだ。
「そうだわ!まりちゃんもそうちゃんの自分だけの呼び方考えてみたら?きっと喜ぶよ!」
「私だけの呼び方…?」
私だけの呼び方、かぁ。
そー…そー………思いつかない。
「じゃあ無難にそうくんでいいや」
「えー、そんな適当に。」
「だって ずっと総悟って呼んでたから、あんまり思いつかないんだよ」
「……それもそっか」
少し笑って薄く生えた総悟…そうくんの髪を撫でた姉さん。
その表情は母にも姉にも見えて…、そして、姉さんとそうくんが遠くに見えた。
私はこの世界に元々存在しないはずの人間。異質なんだ。
何か、変わったりしないだろうか。いい意味でも、悪い意味でも。
私はずっと拒んでいたその現実を今受け止めた。
私はこの世界に存在してはいけない人間。
これ以上、この主要キャラクターやそれ以外に関わればなにかが
変わってしまう気がしてならないんだ。
ただでさえ、沖田姉弟の“いないはずの姉、妹”になってしまったんだ。
私って…この世界に生まれても良かったんだろうか。
私って…ここに存在していい存在なのだろうか。
「……ちゃ、………ま、ちゃ………まりちゃん!!」
「っっ!……なに?」
「大丈夫?顔が真っ青よ。…体調でも悪い?」
「だ、大丈夫」
「…無理しないで。」
「…うん」
「何かあったら、すぐ言うのよ?」
「……
うん」
ごめん、姉さん。
その約束は、守れる気がしないや。